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京都地方裁判所 平成10年(わ)467号

本店所在地

京都市南区吉祥院長田町五五番地

明成車輛株式会社

(右代表者代表取締役 木下明代)

本籍

京都市南区鳥羽南中ノ坪町一一九番地

住居

右同

会社役員

木下仁之輔

昭和一七年七月一五日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小林昌彦、私選弁護人豊島時夫各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人明成車輛株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人木下仁之輔を懲役一〇月に処する。

被告人木下仁之輔に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人明成車輛株式会社(以下「被告人会社」という。)は、京都市南区吉祥院長田町五五番地に本店を置き、建設機械の販売、修理及びリース業を目的とする資本金一〇五〇万円の株式会社であり、被告人木下仁之輔(以下「被告人木下」という。)は被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者(平成一〇年五月二六日辞任、同年六月五日その旨の登記)であるが、被告人木下は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入れを計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成五年四月一日から同六年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二七五九万三六八〇円であったにもかかわらず、平成六年五月三〇日、京都市下京区間之町通五条下ル大津町八番地所在の所轄下京税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が六三五万四三四八円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九二八万一一〇〇円を免れ、

第二  平成六年四月一日から同七年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五三九二万九八三四円であったにもかかわらず、平成七年五月三〇日、前記下京税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一五六一万〇五四六円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一八九六万六七〇〇円を免れ、

第三  平成七年四月一日から同八年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が八三一七万一七五四円であったにもかかわらず、平成八年五月二九日、前記下京税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が二〇四六万五五七二円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三〇〇九万七七〇〇円を免れた

ものである。

(証拠)なお、括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人木下及び被告人会社代表取締役木下明代の各公判供述

一  被告人木下の検察官調書(49~52)

一  査察官調査書(4~6、12~43)

一  商業登記簿謄本(44、職権証拠番号1)

判示第一の事実について

一  査察官調査書(1、7、8)

一  「証明書」と題する書面(56)

一  脱税額計算署(53)

判示第二の事実について

一  査察官調査書(2、9、10)

一  「証明書」と題する書面(57)

一  脱税額計算署(54)

判示第三の事実について

一  査察官調査書(3、11)

一  「証明書」と題する書面(58)

一  脱税額計算書(55)

(法令の適用)

被告人木下の判示各所為は、いずれも平成一〇年法律第二四号(法人税法等の一部を改正する法律)附則二条により同法による改正前の法人税法(以下「改正前の法人税法」と略称する。)一五九条一項に該当するところ、判示各罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段(なお、平成七年法律第九一号附則二条二項)の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人木下を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人木下の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社については判示各罪についていずれも法人税法一六四条一項により改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により判示各罪についていずれも法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段(なお、平成七年法律第九号附則二条二項)の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算した額の範囲内で被告人会社を罰金一〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役であった被告人木下において、被告人会社の架空仕入の計上、現金売上げの一部除外、架空人件費の計上、架空の減価償却費計上、架空の貸倒損失や債権償却特別勘定繰入損の計上等の方法により所得を秘匿して、三事業年度にわたって被告人会社の支払うべき法人税額の全額合計五八三四万五五〇〇円をほ脱した事案である。被告人木下は、被告人会社の本社ビル新築のため購入した土地が不運な経緯で使用も処分もかなわない状態となり、専ら銀行借入金の金利を支払うばかりとなってその負担に耐えかね、被告人会社の事業資金を留保する目的で本件各犯行に至ったもので、秘匿した所得は架空の貸付け返済を計上する等会社の損益に反映しない貸借科目を用いて処理し、全て会社の資金に充てていた。前記のとおり、ほ脱金額は多額、ほ脱率は一〇〇パーセントであって、被告人両名の刑事責任は軽視できない。

しかしながら、被告人会社は、本件で隠匿した各年度所得について修正申告をし、各年度のいずれも正規の法人税額を支払ったほか、所定の重加算税合計二五八〇万九〇〇〇円、延滞税合計一一三九万七五〇〇円を既に支払い済みであること、被告人木下は、本件を深く反省し、被告人会社の右修正申告に基く各納税原資として、私財を整理して資金を調達し貸付金の形で同社に供出したこと、けじめを付けるため被告人会社代表から身を引き、同社事業規模を縮小して一から出直そうとしていること、再犯防止のため従前の会計処理態勢を改めたこと、いかなる動機によるものであれ、脱税を図ることが正当化されることはあり得ないが、しかし、被告人会社が事業上の困難に出会うについては必ずしも同社の責任とはいえない不運な面があったところ、被告人木下としては専ら被告人会社の事業資金を留保し事業を継続するため本件に及んだもので、個人的蓄財に充てる等私利私欲を図ったものではないことなどの情状も認められるので、これらを総合考慮して、被告人両名には主文掲記の刑を科した上、被告人木下についてはその執行を猶予するのが相当と判断した。

(求刑 被告人会社・罰金一五〇〇万円、被告人木下・懲役一〇月)

(裁判官 木山暢郎)

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