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中村簡易裁判所 平成23年(ハ)52号 判決

主文

1  被告ニューヨークメロン信託銀行株式会社は,原告に対し,55万5730円及びうち52万4365円に対する平成20年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告エヌシーキャピタル株式会社は,原告に対し,23万0761円及びうち22万2000円に対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,原告に生じたものの20分の11,被告ニューヨークメロン信託銀行株式会社に生じたものの10分の3及び被告エヌシーキャピタル株式会社に生じたものの5分の4を原告の負担とし,原告に生じたものの20分の7及び被告ニューヨークメロン信託銀行株式会社に生じたものの10分の7を被告ニューヨークメロン信託銀行株式会社の負担とし,原告に生じたものの20分の2及び被告エヌシーキャピタル株式会社に生じたものの5分の1を被告エヌシーキャピタル株式会社の負担とする。

5  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

1  被告ニューヨークメロン信託銀行株式会社(以下,「被告ニューヨークメロン」という。)は,原告に対し,81万2301円及びうち60万5000円に対する平成20年3月5日から,うち6万5000円に対する平成20年3月4日から,うち10万円に対する平成23年3月31日から,各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告エヌシーキャピタル株式会社(以下,「被告エヌシーキャピタル」という。)は,原告に対し,109万1123円及びうち82万7000円に対する平成22年2月16日から,うち9万4000円に対する平成22年2月15日から,うち6万円に対する平成23年3月31日から,各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2  当事者の主張

1  被告ニューヨークメロンに対する請求原因

(1)訴外アエル株式会社(以下,「アエル」という。)は,原告との間の平成6年12月15日に20万円を借り受けて開始した金銭消費貸借取引(以下,「本件取引」という。)にかかる貸金債権(以下,「本件債権」という。)を,平成17年6月28日,被告ニューヨークメロンに信託譲渡(以下,「本件信託譲渡」という。)し,被告ニューヨークメロンは,平成20年6月25日,同債権を被告エヌシーキャピタルに譲渡(以下,「本件債権譲渡」という。)した。

(2)本件取引の概要

ア 取引開始日 平成6年12月15日

イ 取引終了日 平成22年2月15日

ウ 取引の経過 訴外アエル株式会社との間で別

紙計算書1の番号1ないし155,被告ニューヨークメロンとの間で同番号156ないし190,被告エヌシーキャピタルとの間で同番号191ないし208の各「年月日」,「借入金額」,「返済額」欄記載のとおり(以下,被告ニューヨークメロンとの間の取引経過を「メロン取引部分」といい,被告エヌシーキャピタルとの間の取引経過を「エヌシー取引部分」という。)

(4)引直し計算及び不当利得

利息制限法所定の法定利率を適用して計算すると,本件取引は,被告ニューヨークメロンが本件信託譲渡を受けた時点で過払いとなっていたが,被告ニューヨークメロンが原告との取引を継続したため,メロン取引部分における過払金元金は60万5000円となり,被告ニューヨークメロンは,同金額を法律上の原因なく取得している。

(5)悪意の受益者

被告ニューヨークメロンは,金融業を営む企業であるから,本件取引により利息制限法所定の制限利率を超える利息を収受していたことにつき悪意であったといえるので,それぞれ過払金発生時から年5分の割合による利息を支払うべき義務を負う。

(6)弁護士費用

民法704条後段は,悪意の受益者に対して加重した責任を負わせるという特別の責任を定めた規定であるから,被告ニューヨークメロンは,民法704条後段の規定に基づき,原告の弁護士費用として,6万5000円及びこれに対する最終取引日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(7)不法行為に基づく損害賠償

被告ニューヨークメロンは,原告の無知に乗じて,過払金が発生しているにもかかわらず,あえて約定利率に基づく支払を請求してきたものであるところ,このような行為は,架空請求に類似する社会的に許容される限度を超えた違法なものであって,不法行為を構成する。そして,被告ニューヨークメロンの上記不法行為による財産的,精神的損害及び弁護士費用を合計すると,10万円を下ることはないから,同金員及びこれに対する被告ニューヨークメロンに対しての訴訟提起日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(8)よって,原告は,被告ニューヨークメロンに対し,不当利得返還請求権に基づく過払金元金及びこれに対する利息,弁護士費用及びこれに対する遅延損害金並びに不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の各支払を求める。

2  被告エヌシーキャピタルに対する請求原因

(1)上記1(1)のとおり

(2)上記1(2)のとおり

(3)本件債権譲渡により,被告エヌシーキャピタルは,本件取引にかかる被告ニューヨークメロンの債務を重畳的に引き受けたものであるから,本件取引にかかる債務は,被告らの不真正連帯債務となる。

(4)引直し計算及び不当利得

利息制限法所定の法定利率を適用して計算すると,本件取引は,被告ニューヨークメロンが本件信託譲渡を受けた時点において既に過払いとなっていたが,原告との取引を継続したため,本件信託譲渡後のメロン取引部分及びエヌシー取引部分にかかる過払金元金は82万7000円となり,被告エヌシーキャピタルは,同金額を法律上の原因なく取得している。

(5)悪意の受益者

被告エヌシーキャピタルは,金融業を営む企業であるから,本件取引により利息制限法所定の制限利率を超える利息を収受していたことにつき悪意であったといえるので,それぞれ過払金発生時から年5分の割合による利息を支払うべき義務を負う。

(6)弁護士費用

民法704条後段は,悪意の受益者に対して加重した責任を負わせるという特別の責任を定めた規定であるから,被告エヌシーキャピタルは,民法704条後段の規定に基づき,原告の弁護士費用として,9万4000円及びこれに対する最終取引日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(7)不法行為に基づく損害賠償

被告エヌシーキャピタルは,原告の無知に乗じて,過払金が発生しているにもかかわらず,あえて約定利率に基づく支払を請求してきたものであるところ,このような行為は,架空請求に類似する社会的に許容される限度を超えた違法なものであって,不法行為を構成する。そして,被告エヌシーキャピタルの上記不法行為による財産的,精神的損害及び弁護士費用を合計すると,6万円を下ることはないから,同金員及びこれに対する被告エヌシーキャピタルに対しての訴訟提起日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(8)よって,原告は,被告エヌシーキャピタルに対し,不当利得返還請求権に基づく過払金元金及びこれに対する利息,弁護士費用及びこれに対する遅延損害金並びに不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の各支払を求める。

3  請求原因に対する認否

(1)被告ニューヨークメロン

請求原因のうち,(1)については認め,その余についてはいずれも不知ないし否認もしくは争う。

(2)被告エヌシーキャピタル

請求原因のうち,(1),(2)及び平成20年6月25日以降に本件債権の弁済金として原告から過払いとなる金員を受領したことについてはいずれも認め,その余についてはいずれも否認もしくは争う。

第3  当裁判所の判断

1  被告ニューヨークメロンに対する請求について

(1)請求原因1(1)については,当事者間に争いがなく,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,同1(2)を認めることができる。

(2)上記(1)において認めた請求原因1(2)を前提とすれば,本件信託譲渡時,利息制限法所定の法定利率を適用して計算すると,本件取引は既に過払いを生じていたことが認められ,その後も原告と被告ニューヨークメロンとの間で本件取引を継続したことにより,メロン取引部分における過払金元金が,別紙計算書2のとおり,52万4365円となると認められる。

なお,原告は,メロン取引部分における過払金元金を,借入金を除外するなどの独自の計算方法に従って算出した金額であると主張するようであるが,その根拠が明らかでないから採用しない。

これに対し,被告ニューヨークメロンは,本件債権がアエルから被告ニューヨークメロンへ信託譲渡された後も,被告ニューヨークメロンが原告と直接取引をすることはなく,原告とはアエルを介しての関係しかなかったこと,本件信託譲渡の原告に対する対抗要件である債権譲渡通知をメロン取引部分の期間中にはあえてしなかったこと,及び信託譲渡における受託者の「道管性」という性質から,メロン取引部分における過払金返還義務を被告ニューヨークメロンが負うことはないと主張する。確かに,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,被告ニューヨークメロンは,本件信託譲渡にあたり,譲渡人であるアエルとの間でサービシング契約を締結していたこと,メロン取引部分における貸付,弁済金受領等の業務をアエルが行ってきたこと,原告に対する本件信託譲渡の通知がされたのは被告ニューヨークメロンから被告エヌシーキャピタルに譲渡をした後であること,原告はメロン取引部分においても被告ニューヨークメロンと直接の取引行為がなかったことを認めることができる。

しかしながら,被告ニューヨークメロンが,本件信託譲渡契約と同時に,本件信託譲渡の譲渡人であるアエルとの間でサービシング契約を締結し,本件債権にかかる貸付,弁済金受領等の事務を委任しても,これにより直ちに本件信託譲渡によって取得した債権者としての地位を本件信託譲渡の譲渡人であるアエルに留保する効果を生ずるとは認められないし,本件信託譲渡について債務者である原告に通知していなくても,譲渡当事者である被告ニューヨークメロンとアエルとの間の信託譲渡の効力に影響を及ぼすものではないから,被譲渡債権の権利義務の主体の帰属に影響を及ぼすものではなく,これらの事情をもって,被告ニューヨークメロンが本件信託譲渡後に発生した過払金の返還義務を免れるものとはいえない。

さらに,被告ニューヨークメロンは,債権譲渡の通知又は承諾がない場合にも,債務者が譲渡人を債権者と認識して譲渡人に対する弁済をしたことによって当該債権が消滅するのは,弁済による利得は譲渡人に帰属するからであり,このような場合には譲受人に利得はないと主張する。

確かに,債権譲渡の通知又は承諾を受けていない債務者による債権譲渡後の譲渡人に対する善意弁済は,当該債権に対する有効な弁済とされ,債務者による譲渡人に対する弁済によって当該債権が消滅した後に,債務者が弁済金として支払った金員を譲渡人が受領すれば,譲渡人は同金員を法律上の原因なく利得したものというべきである。しかしながら,債権譲渡と同時に譲渡当事者間において譲渡人をサービサーとするサービシング契約を締結して弁済金の受領業務を委託している場合においては,譲渡人がサービサーという地位をも有するところ,譲渡人がサービサーとして債務者との取引を継続している状況の下で譲渡人兼サービサーが受領した債務者からの弁済金は,サービシング契約の性質からすると,特別な事情がない限り,サービサーとして受領したものと評価するのが相当である。そして,サービサーが弁済金として受領した金員は,サービサー自身の利得となるものではなく,サービシング契約の委託者である譲受人に帰属するのであって,委託者である譲受人の利得となるものというべきである。これを本件についてみると,上記のとおり,アエルは,本件信託譲渡と同時に被告ニューヨークメロンとの間でサービシング契約を締結し,本件信託譲渡後もサービサーとして弁済金の受領業務等を行ってきたことが認められるところ,サービシング契約締結後にアエルがサービサーとしてではなく本件債権に関与したなどの事情は認められず,アエルが原告から受領した本件債権の弁済金としての金員がサービサーとしての受領ではないことをうかがわせる事情も認められないから,本件債権が弁済により消滅した後に原告からの弁済金としてアエルが受領した金員は,アエルがサービサーとして受領したものであり,委託者である被告ニューヨークメロンの利得であると認められる。

また,経済的側面からすると,信託譲渡の受託者が,課税において一般的に用いられる評価であるいわゆる「道管体」の役割を担うに過ぎないとしても,受託者が信託譲渡によって具体的な営業利益を得られなかったとしても,あるいは,信託契約上の受益者が他に存在していたとしても,信託譲渡の受託者は,信託譲渡により信託譲渡された債権の譲受人として法律上の帰属主体となる以上,当然には信託譲渡された債権にかかる権利義務の帰属を免れず,現実の利益の有無などの経済的事情や課税における評価が直ちに法律上の権利義務の帰属主体に影響を及ぼさないというべきである。

よって,被告ニューヨークメロンの上記主張はいずれも採用できず,本件信託譲渡により,被告ニューヨークメロンは,信託譲渡後の本件債権における債権者である以上,本件債権に基づく法律上の帰属主体であると認めるべきであり,信託譲渡後の本件債権にかかる過払金返還義務を負うというべきである。

(3)弁論の全趣旨によれば,被告ニューヨークメロンが銀行業務等を業とする法人であることが認められるから,同被告は,債権譲渡を受けるに際し,業務として当該債権の内容について十分調査,理解していたとするのが自然である。そうすると,本件信託譲渡においても,被告ニューヨークメロンは,本件債権の契約内容について利息制限法所定の利息を超過する約定であることを知りながら信託譲渡を受けたものであり,本件債権が完済により消滅した後には過払いであることを知りながら原告からの弁済金を受領してきたものと認めるべきであって,この認定を左右する証拠はない。

したがって,被告ニューヨークメロンは,民法704条の「悪意の受益者」としてメロン取引部分における過払金発生時から利息の支払義務を負い,その利率は年5分と解するのが相当である。

(4)原告は,民法704条後段の規定は不当利得制度を支える公平の原理から悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めるものであるとし,同規定に基づく損害賠償請求として,弁護士費用を請求する。

確かに,不当利得制度は,公平の観念に基づいて受益者にその返還義務を負担させるものであるが,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とする不法行為に基づく損害賠償制度とはその趣旨を異にするものであって,不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは,不当利得制度の趣旨とするところとは解しがたいというべきである。したがって,民法704条後段は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものに過ぎず,悪意の受益者に対して不法行為とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。

そうすると,弁護士強制主義を採用せず,弁護士費用を訴訟費用として償還することを認めない我が国の民事訴訟制度の下においては,応訴自体が不法行為を構成する場合や不法行為に基づく損害賠償請求などに限られるものであり,この理は民法704条後段の損害についても妥当するものというべきである。

これを本件についてみると,原告は,本件にかかる応訴自体が不法行為にあたるとして弁護士費用の賠償を求めるものではなく,下記(5)のとおり,被告ニューヨークメロンないし同被告のサービサーであるアエルが残元金の存在を前提とする支払いの請求をし,過払金の受領を続けた行為は,いずれも不法行為にはあたらないのであるから,原告の民法704条後段に基づく損害賠償請求には理由がない。

(5)原告は,被告ニューヨークメロンが利息制限法の制限超過部分を含む弁済を受け,貸付元本が存在しなくなってからも,原告に対し,貸金の支払を請求し続けたことが不法行為を構成すると主張する。

しかしながら,一般に,貸金業者が,借主に対し貸金の支払を請求し,借主から弁済を受ける行為それ自体は,当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや,長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額になったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできず,これが不法行為を構成するのは,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであること知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解される。この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき,民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合においても異なるところはない。

これを本件についてみると,弁論の全趣旨によれば,アエルが貸金業者であり,貸金業者として本件債権にかかる契約をし,本件取引を継続してきたことが認められるところ,本件信託譲渡を受けて本件取引をアエルに引き続きおこなった被告ニューヨークメロンないし同被告のサービサーであるアエルによる貸金の請求ないし受領が,暴行,脅迫等を伴うものであったことを認めるに足りる証拠はない。また,原告に貸金業法や充当計算などに関する知見,法的知識が不十分であったことが被告ニューヨークメロンないし同被告のサービサーであるアエルの不当な態様によって生じたものとまではいえず,原告が主張するように,同被告らよる貸金の請求ないし受領が,原告の無知に乗じるものであって架空請求に類似した行為であるなど,その態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くと評価するに足りる事情も認められない。

したがって,被告ニューヨークメロンないし同被告のサービサーであるアエルによる貸金の請求又はその受領は,いずれも不法行為にはあたらないから,その余について判断するまでもなく,原告の上記不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

(6)以上によれば,被告ニューヨークメロンに対する原告の請求は,メロン取引部分にかかる過払金及びこれに対する利息についての支払を求める限度でのみ理由がある。

2  被告エヌシーキャピタルに対する請求について

(1)請求原因2(1)及び(2)については,いずれも当事者間に争いがない。

(2)原告は,本件債権譲渡により,被告エヌシーキャピタルは,本件取引にかかる被告ニューヨークメロンの債務を重畳的に引き受けた旨主張する。

しかしながら,債権譲渡は当然に契約上の地位の移転を伴うものではないから,債権譲渡の事実から直ちに被譲渡債権にかかる契約上の地位を承継したとは認められないところ,本件債権譲渡に伴う契約等により被告らの間で,被告エヌシーキャピタルが本件取引にかかる被告ニューヨークメロンの過払金等返還債務を重畳的に引き受ける旨の合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。

原告は,本件と同様の事案である,アエルから被告ニューヨークメロンへの信託譲渡後に被告エヌシーキャピタルに債権譲渡された貸金債権にかかる過払金請求事件の多数において,被告エヌシーキャピタルが過払金債権者との間で,被告ニューヨークメロンの債務を被告エヌシーキャピタルが引き受ける内容の和解を成立させていることが顕著な事実であり,この事実からすると,被告らの間に被告ニューヨークメロンの過払金等返還債務を重畳的に引き受ける旨の合意が存在するものと推認できると主張する。しかしながら,同様の事案の多数の事件において上記のような和解が成立していることが裁判所に顕著な事実とはいえず,ほかに被告らにおいて被告ニューヨークメロンの過払金等返還債務を重畳的に引き受ける旨の合意が存在すること推認すべき事情も認められない。

なお,原告は,被告らの間の重畳的債務引受について受益の意思表示をしたことについての主張,立証をせず,本訴提起以前に被告エヌシーキャピタルに対し,同被告が本件取引にかかる債務につき重畳的に債務引受をしたことを前提とする請求をするなど重畳的債務引受を承認したと評価しうる事実も認められないことからすると,仮に本件債権譲渡に伴う契約等により被告らの間で,被告エヌシーキャピタルが本件取引にかかる被告ニューヨークメロンの過払金等返還債務を重畳的に引き受ける旨の合意をしていたとしても,原告から被告エヌシーキャピタルに対し,重畳的債務引受を前提とする請求をすることはできない。

以上のとおり,被告エヌシーキャピタルが本件取引にかかる被告ニューヨークメロンの債務を重畳的に引き受けたことを認めることはできないから,原告の上記主張を採用することはできず,被告エヌシーキャピタルは,本件債権譲渡以前の取引において発生した過払金の返還義務を負うことはないものというべきである。

(3)上記(1)において認めた請求原因2(2)を前提とすれば,本件信託譲渡時,利息制限法所定の法定利率を適用して計算すると,本件取引は既に過払いを生じていたことが認められ,その後も原告と被告ニューヨークメロンないし被告エヌシーキャピタルとの間で本件取引を継続したことにより,エヌシー取引部分における過払金元金が,別紙計算書3のとおり,22万2000円となると認められる。

なお,原告は,エヌシー取引部分における過払金元金を,借入金を除外するなどの独自の計算方法に従って算出した金額であると主張するようであるが,その根拠が明らかでないから採用しない。

(4)被告エヌシーキャピタルは,本件債権譲渡後に原告から受領した弁済金が過払金であることを認めているところ,同被告は金銭債権の取得及び処分を業とする法人であるから,債権譲渡を受けるに際しては,業務として当該債権の内容について十分調査,理解していたとするのが自然である。そうすると,本件債権譲渡にあたっても,被告エヌシーキャピタルは,本件債権の契約内容について利息制限法所定の利息を超過する約定であることを知りながら債権譲渡を受けたものであり,同債権が完済により消滅した後には過払いであることを知りながら原告からの弁済金を受領してきたものと認めるべきであって,この認定を左右する証拠はない。

したがって,被告エヌシーキャピタルは,民法704条の「悪意の受益者」として,エヌシー取引部分にかかる過払金発生時から利息の支払義務を負い,その利率は年5分と解するのが相当である。

(5)原告は,民法704条後段の規定は不当利得制度を支える公平の原理から悪意の受益者に対する責任を加重した特別の責任を定めるものであるとし,同規定に基づく損害賠償請求として,弁護士費用を請求する。

しかしながら,上記1(4)において説示したとおりであるところ,本件において,原告は,応訴自体が不法行為にあたるとして弁護士費用の賠償を求めるものではなく,下記(6)のとおり,被告エヌシーキャピタルが残元金の存在を前提とする支払いの請求をし,過払金の受領を続けた行為は,いずれも不法行為にはあたらないのであるから,原告の民法704条後段に基づく損害賠償請求には理由がない。

(6)原告は,被告エヌシーキャピタルが利息制限法の制限超過部分を含む弁済を受け,貸付元本が存在しなくなってからも,原告に対し,貸金の支払を請求し続けたことが不法行為を構成すると主張する。

しかしながら,上記1(5)において説示したとおりであるところ,本件においては,弁論の全趣旨によれば,アエルが貸金業者であり,貸金業者として本件債権にかかる契約をし,本件取引を継続してきたことが認められ,本件信託譲渡を受けた被告ニューヨークメロンから本件債権譲渡を受けて本件取引をアエルに引き続きおこなった被告エヌシーキャピタルによる貸金の請求ないし受領が,暴行,脅迫等を伴うものであったことを認めるに足りる証拠はない。また,原告に貸金業法や充当計算などに関する知見,法的知識が不十分であったことが被告エヌシーキャピタルの不当な態様によって生じたものとまではいえず,原告が主張するように,同被告による貸金の請求ないし受領が,原告の無知に乗じるものであって架空請求に類似した行為であるなど,その態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くと評価するに足りる事情も認められない。

したがって,被告エヌシーキャピタルによる貸金の請求又はその受領は,いずれも不法行為にはあたらないから,その余について判断するまでもなく,原告の上記不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

(7)以上によれば,被告エヌシーキャピタルに対する原告の請求は,エヌシー取引部分にかかる過払金及びこれに対する利息についての支払を求める限度でのみ理由がある。

第4  結論

よって,原告の請求は主文記載の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 遠藤鈴枝)

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