大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま家庭裁判所 平成25年(家)30359号 審判

主文

一  被相続人Aの別紙祭祀財産目録記載の祭祀財産の承継者を申立人と定める。

二  手続費用は各自の負担とする。

理由

第一申立の要旨

一  被相続人A(以下「被相続人」という。)は、平成二三年○月○日に死亡し、相続人は、被相続人の子である申立人及び相手方である。

二  ところで、被相続人の祭祀財産を承継すべきものについては、被相続人の指定がない。

三  申立人は、本籍となっている○○において、申立人の両親である被相続人及び被相続人の夫のB(以下「B」という。)と長年ともに暮らし、○○家に関係する親族並びに被相続人及びBの知人からの連絡は、すべて申立人が受けるなど、被相続人及びBを支えた。親族など関係者らは、申立人宅が○○家の実家であると認識している。

被相続人は、長年ともに暮らしてきた申立人に祭祀承継を含め○○家を任せるつもりであったというべきである。

四  しかし、相手方は、祭祀財産の承継を主張し、○○聖地霊園永代使用権の使用者名義を勝手に相手方名義に変更した。また、相手方は、被相続人が死亡した事実さえも申立人をはじめ他の親族らに一切知らせず、通夜、葬儀等を行っており、祭祀開催能力が欠如している。

五  したがって、祭祀財産の承継者の指定を求める。

第二当裁判所の判断

一  本件記録の各資料によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  被相続人の相続人は、被相続人の子である申立人(昭和二三年○月○日生)及び相手方(昭和一九年○月○日生)である。

被相続人が平成二三年○月○日に死亡し、相続が開始した。

相手方は、東京家庭裁判所において、遺産分割の調停(東京家庭裁判所平成二三年(家イ)第○号)を申し立て、同調停は、平成二五年○月○日、成立した。祭祀承継については、被相続人の指定がないので、同調停において、被相続人の祭祀承継者の指定についても話し合いが行われたが、調停条項第五条において、「当事者双方は、被相続人に関する祭祀承継については、別途協議等をして解決する。」とされ、結論が持ち越された。

(2)  経緯

ア 申立人及び相手方は、申立人の両親である被相続人及びBとともに暮らし、昭和四三年○月○日、相手方は、Cと婚姻し、昭和四四年ころ、独立して○○に転居した。

昭和五四年○月○日、Bが死亡した。被相続人は、仏壇を購入し、位牌を安置し、○○聖地霊園に墓地を建立するなどして、祭祀を主宰した。

イ 申立人は、昭和五六年○月○日、Dと婚姻し、その間に三人の子供をもうけたが、婚姻後も、被相続人と同居した。

ウ Bの法事は、昭和六〇年○月○日、七回忌が、平成三年○月○日、十三回忌が、平成七年○月○日、十七回忌が執り行われたが、いずれも被相続人が主宰し、同居していた申立人がこれを補助した。

エ 平成一八年ころ、申立人及び相手方は、Bの遺産である不動産につき、名義がBのままであったため、被相続人、申立人及びその家族が居住している○○及び同○○の各土地は、申立人名義に、○○の土地は、相手方の名義に変更した。

相手方は、相手方の名義とした土地を売却し、売却代金の一部は、被相続人に送金した。

なお、申立人の名義とした前記各土地は、間口の狭いいわゆる旗竿地であったため、建物の立替えをするためには、隣接地の購入が必要であった。

オ 申立人は、隣接地を購入し、被相続人から合計五一〇〇万円の援助を受けて、平成二一年、申立人の肩書き住所地である前記○○所在の自宅を建て替えることとした。新しい建物には、被相続人の部屋も設けた。

新築工事の期間の一時期である同年○月○日から六日間ほど、被相続人は、相手方宅で過ごすこととなり、申立人は、被相続人を相手方に預けた。

同月○日、申立人が、相手方宅に被相続人を迎えに行ったが、相手方から拒否され、被相続人を連れて帰ることはできなかった。

被相続人の住民票を移すか否か、被相続人の通帳を引き渡すか否か等を巡って、申立人と相手方との間の対立が激化した。

平成二一年○月○日、申立人の自宅建物が完成し、申立人及びその家族は新居に引っ越した。申立人は、何度か、相手方宅に出向いたが、被相続人を連れて帰ることはできなかった。

カ 平成二二年○月、被相続人は、相手方宅において、脳梗塞を発症し、入院した。被相続人は、一時、病院から介護老人保健施設に移った時期もあったが、病気が再発し、平成二三年○月○日、危篤状態となり、同月○日、死亡した。

キ 相手方は、被相続人の葬儀を密葬にて行い、仏壇を購入して相手方宅に設け、○○聖地霊園の承継申請者を相手方として永代使用承諾証紛失届を提出し、使用者を被相続人から相手方に承継変更した。

ク 平成二三年○月○日、相手方は、被相続人の実妹E宅に赴き、同人に対し、被相続人の死亡を報告した。同日、Eは、申立人に対し、被相続人が死亡したことを確認する電話を入れ、この電話により、申立人は、被相続人の死亡を知った。

ケ 平成二三年○月○日、相手方は、○○聖地霊園に被相続人を埋葬した。

二  判断

(1)  前記認定事実によれば、被相続人は、祭祀財産として仏壇、位牌、○○聖地霊園の永代使用権を有していたこと、被相続人は、祖先の祭祀を主宰すべき者について、格別、指定しなかったことが認められる。

(2)  被相続人及び当事者らが居住する地域において、祭祀を主宰すべき者についての慣習が存在することを認めるに足りる証拠はない。そうすると、祭祀財産の承継者を決めるに当たっては、被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、被相続人の意思、祭祀承継の意思及び能力など、その他一切の事情を斟酌して決定することとなる。

これを本件につきみるに、申立人は、被相続人と平成二一年○月まで同居して生活を共にし、また、被相続人が主宰するBの葬儀及び法事等を補助していたことに鑑みると、被相続人も祭祀の承継者として、同居していた申立人と考えていたと推測されること、被相続人が相手方と同居したのは、申立人宅の建替工事期間のごく短期間につき高齢の母親を預かるということが契機となっており、被相続人と申立人との関係が悪化したことによるものではないことがうかがえること、一方、相手方は、申立人との関係が悪化していたとはいえ、被相続人の子である申立人をはじめ、被相続人の実妹らに対し、被相続人が危篤状態となった際にも、その後死亡した事実も伝えず、密葬を済ませたことは、親族など関係者らの意思を踏まえ末永くその祭祀を主宰していくに相応しい行為ではなかったことなどが認められる。

(3)  これらの諸事情を勘案すると、申立人を被相続人の祭祀財産の承継者と定めることが相当である。

三  よって、主文のとおり審判する。

(裁判官 齋藤紀子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例