さいたま家庭裁判所 平成21年(少)30182号 決定
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は,
1 平成21年2月7日午前10時55分ころ,普通貨物自動車を運転して,東京都a区b丁目c番先の一方通行路を逆行し,△△通り方向から□□通り方面に向かい時速10ないし15キロメートルで後退するにあたり,道路両側の歩行者や後方から進行してくる車両の有無を確認することはもとより,後方の安全を確認しつつ後退すべき自動車運転上の注意義務があるのに,これを怠り,道路両側の歩行者等に気を取られ,後方の安全確認不十分のまま後退した過失により,折から自車の後方道路上で清掃していたB(当時39歳)を認識せずに,自車後部を同人に衝突させて路上に転倒させ,よって,同人に加療約52日間を要する左股関節臼蓋部はく離骨折の傷害を負わせ,
2 同年6月15日午後4時37分ころ,公安委員会の運転免許を受けないで,千葉県d市e丁目f番地の×付近道路において,普通貨物自動車を運転し,
3 前記2の日時ころ,前記2の普通貨物自動車を運転して,前記2の場所付近道路を,同県d市e丁目から同市○○方面へ通称△△交差点に向けて進行していたが,同交差点の直前に至る時点で対面する信号機が赤色の灯火を表示していたのに,この灯火信号に従わず,同交差点の直前で停止せずに停止位置を越えて同自動車を運転して通行し
たものである。
(法令の適用)
1 前記1について 刑法211条2項
2 前記2について 道路交通法117条の4第2号,64条
3 前記3について 同法119条1項1号の2,7条
(処遇の理由)
1 本件は,少年が,①平成21年2月7日,東京都内の一方通行道路を貨物自動車を運転して逆行して後退中,後方の安全確認を怠り進行した過失により,後方進路にいた被害者に自車を衝突させて負傷させ,②同年6月15日,公安委員会の運転免許を受けないで,千葉県d市内の道路で貨物自動車を運転した,③前記②の日時,場所で,交差点の対面する信号表示が赤色であるのに,これに従わず貨物自動車を運転して進行した,という自動車運転過失傷害,道路交通法違反の事案である。
前記(罪となるべき事実)1の非行は,少年が,貨物自動車を運転して焼き肉店舗用の金網配送等の仕事に従事中,配達経路である道路が工事のため,走行経路を変えて,一方通行道路を逆行して配達先に向かうべく貨物自動車を後退進行させていた際,進路後方で路上を清掃していた被害者に自車を衝突させたものである。辺りは,道路両脇に店舗が密集する飲食商店街であり,当時通行人等も多かったところ,被害者に衝突するまでその存在に気付かなかったものであって,過失は一方的で重大であり,被害者の負傷も軽くはない。同2の非行は,少年において,上記事故やそれまでの交通違反により,自動車運転免許を取り消されたにもかかわらず,それを秘して,上記の配達業務に従事して,貨物自動車を運転したものであり,その無免許運転は常習的である。同3の非行は,同2の非行のとおり貨物自動車を運転していた際,差し掛かった交差点の直前において,対面信号機が赤色の灯火を表示していたのに,これに従わず停止位置で停止せず交差点内を進行したものである(少年は,当審判廷において,同交差点に進入する際,対面する信号機が赤色の灯火を表示していることを認識していなかった旨供述するが,審判の結果及び一件記録から認められるところの,その際の少年の運転態度やその他の関係証拠によれば,同3のとおりの信号無視の非行事実を認めることができ,当該非行の要件に欠けるところはない。)。少年において,安全運転に配慮し,道路交通法規を遵守して自動車を運転しようとする意識,態度は,著しく希薄である。
2 少年は,平成18年4月に,関心のあった自動車に関係する学科で勉強しようと高校の自動車科に進学したが,同年12月に自主退学し,平成19年3月に原動機付自転車の運転免許を取得して,同年4月から新聞販売店に就職し,原動機付自転車を運転して新聞配達の業務に従事していた。少年は,同年4月から5月にかけて,交差点右折左折方法違反等の道路交通法に違反する6回の反則行為をし,同年7月中に運転免許停止の処分を受けた。少年は,同年11月に自動二輪車の運転免許を取得したが,平成20年4月にヘルメット着用義務違反の反則行為をして検挙された。少年は,同年10月中に普通自動車の運転免許を取得し,同年11月から,都内の焼き肉店で使う焼き肉用の金網を自動車で配送等をするアルバイトをするようになり稼働していたが,同月から12月にかけて,ベルト装着義務違反,進路変更禁止違反,指定速度違反の3件の反則行為をし,平成21年1月27日には,2度目の運転免許停止処分(停止期間30日[短縮29日])を受けた。少年は,同年2月7日に,前記(罪となるべき事実)1のとおりの自動車運転過失傷害を惹起していたところ,その後の同年2月から4月にかけて,携帯電話(保持)違反,通行禁止違反,指定速度違反の道路交通法違反による3回の反則行為をし,同年5月に,それら道路交通法違反が累積したことにより自動車運転免許の取消処分を受けた。しかしながら,少年は,両親や勤務先に上記運転免許取消しの事実を知らせず,従前同様に貨物自動車を運転しての配送等に従事しており,同年6月3日には上記の自動車運転過失傷害保護事件により,当庁で家庭裁判所調査官の調査を受け,併せ法規遵守の指導もされていながら,自動車の運転を継続して上記非行事実2,3の違反に及んだものである。
3 鑑別結果通知書によると,少年は,知的な制約があるなどするところ,唯一自己効力感を得られた自動車の運転に熱中し,自動車に強い関心を有するものであり,交通違反を頻発させ,人身事故を起こして運転免許が取消しになりながら,自分勝手な思いから無免許で運転業務を続けていることからすると,規範意識はもとより,そうした行動への危機感があまりにも不足しており,交通非行は常習化しつつあり,規範意識の定着化や,就労に向けた能力の底上げを図るためには,少年の能力を考慮し時間をかけた系統だった矯正教育が必要である,というのである。
4 少年の父母は,少年のこれまでの生活態度等について,折に触れてその問題と意識するところを指摘して,指導,監督してきており,特に父親は,自動車運転を職業とする専門的立場から,少年の自動車の運転態度,その適性に留意し,道路交通法関係の遵守等につき指導してきたが,指導の実効を得られないままに推移してきたものである。
5 そうすると,少年については,これまでの少年の道路交通法関係の違反歴,本件各非行に至る経緯,本件各非行の内容,その資質等を併せみると,交通要保護性は高く,その矯正のために,道路交通法関係の規範意識を定着化させ,自動車運転における安全確認のパターンを体得させるとともに,規則違反が周囲に及ぼす迷惑を実感させるなどして,社会適応を確実にしてゆくべきところ,これには系統的で時間をかけた指導教育が必要であり,前記のとおりの保護環境やこれまでの少年の生活状況等をみるに,社会内での処遇は困難と考えられるので,これまで保護処分歴のないことや,観護措置,調査及び審判等の過程を通じ,少年なりに反省の情を深め,自己の問題点を認識するなど少年に有利というべき事情のあることを考慮しても,少年を矯正施設に収容し,その更生を図ってゆくのが相当である。
よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項により少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。