さいたま地方裁判所熊谷支部 平成22年(ワ)123号 判決
原告
X1
原告
X2
上記両名訴訟代理人弁護士
南雲芳夫
同
笠原徳之
同
白石加代子
同
猪股正
同
野本夏生
同
佐渡島啓
同
小林哲彦
同
長田淳
同
青木努
同
久保田和志
同
金子直樹
同
竪十萌子
同
川井理砂子
同
高倉光俊
同
杉本隼与
被告
Y社
上記代表者代表取締役
A
上記訴訟代理人弁護士
外井浩志
同
藤原宇基
上記訴訟復代理人弁護士
浦辺英明
同
草開文緒
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 原告X1が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告X1に対し、平成21年6月から毎月20日限り金19万2982円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 原告X2が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
4 被告は、原告X2に対し、平成21年6月から毎月20日限り金16万9444円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、a株式会社(以下「a社」という。)に雇用され、当初、請負契約又は労働者派遣契約に基づき被告に勤務していた原告X1(旧姓B、以下「原告X1」という。)及び原告X2(以下「原告X2」という。)が、被告との間で、期間の定めのある労働契約を締結したが、その後、契約更新がされず、その期間を満了したところ、原告らは、黙示の労働契約が成立していたこと(主位的主張)又は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を前提としても、それは実質的に期間の定めのない契約と異ならない状態であったこと(予備的主張)を理由に、被告が原告らに対する雇止め(以下「本件雇止め」という。)を行ったことが無効であると主張し、被告に対し、労働契約上の地位の確認及びそれを前提とした賃金の支払を求めた事案である。
第3前提事実(項の末尾に証拠を掲記した外の事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者等
(1) 被告は、自動車時計、自動車計器類等の各種自動車部品の開発・製造等を業とする株式会社である。
(2) a社は、人材派遣、業務請負、人材紹介を業とする株式会社である。また、a社は、平成11年10月に労働者派遣事業の許可を取得し、人材派遣事業を開始した。なお、a社は、被告と人的関係も資本関係もない独立した別個の会社である。(書証〈省略〉、弁論の全趣旨)
2 被告とa社との契約関係等
被告は、a社との間で、平成13年2月1日ころ、被告の製造する製品のうちマルチクロック、エアコンパネル、電子スロットルモータ、コンビネーションメーター、ABSモータの組立て、検査等及びこれに付随する関連業務の請負契約を締結した。
また、同日、被告は、a社との間で、上記各業務の遂行に必要となる被告行田工場(以下「本件工場」という。)内の製造部フロア300平方メートル(事務管理のスペースである12.98平方メートルを含む。)及び組立装置一式20基を、月額2万円でa社に賃貸する旨の賃貸借契約を締結した。(書証〈省略〉)
3 原告らの就労状況等
(1) 原告X1の就労状況等
ア 原告X1は、平成14年5月下旬ころ、a社との間で労働契約を締結して、宇都宮市内の会社の工場に約3か月間就労し、同年9月から千葉県木更津市内の会社の工場で約3か月間就労し、同年12月ころから同市内にある会社で就労したが、間もなく、a社を退職した。
原告X1は、平成15年1月、再びa社と労働契約を締結し、群馬県伊勢崎市内の会社の工場で約3か月間就労し、同年4月ころ、茨城県五霞町にある会社で約1か月間就労した後、同年5月から本件工場での業務に従事した。
なお、原告X1は、本件工場で就労するに際し、a社担当者との間で、雇用者をa社とし、被雇用者を原告X1とし、就業場所を本件工場とする旨記載された雇用契約書を作成した。(証拠〈省略〉)
イ その後、被告は、後記5の埼玉労働局からの指摘等を受けたことから、平成18年3月1日から請負労働者を派遣労働者に切り替えることにし、原告X1らa社の労働者は、同年8月26日までに、労働者派遣契約に基づいて派遣労働者として本件工場において就労した(書証〈省略〉)。
ウ 原告X1は、本件工場において、平成18年1月ないし同年2月及び同年7月ないし8月ころは回路実装組立ラインにおいて、その余の期間は電子スロットルモータの組立ラインにおいて、それぞれ業務に従事した(証拠〈省略〉)。
(2) 原告X2の就労状況等
原告X2は、平成18年12月14日、a社との間で労働契約を締結し、以後、労働者派遣契約に基づき、本件工場での業務に従事した(書証〈省略〉、弁論の全趣旨)。
4 原告らの労働組合への加入
原告X1は、平成18年1月ころ、b労働組合(以下「本件組合」という。)に加入した。また、原告X2は、平成21年3月ころ、本件組合に加入した。(証拠〈省略〉)。
5 埼玉労働局による臨検及び指導
原告X1及びC(旧姓C1)は、埼玉労働局に対し、平成19年6月29日、被告とa社との間の業務請負の実態が労働者派遣であり、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(平成24年法律第27号による改正前のもの。なお、同改正に伴い題名が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と改められた。以下、改正の前後を通じ、「労働者派遣法」という。)40条の2の定める派遣労働者の派遣可能期間の制限を超えて、派遣労働者を受け入れており、労働者派遣法に抵触するとの申告(以下「本件申告」という。)をした。
同年8月9日、本件申告に係る調査として、埼玉労働局の指導官により、被告総務部人事部長D(以下「D」という。)及び同部次長E(以下「E」という。)から聴取り調査が行われた。そして、同指導官は、Dらに対し、後記9の旧労働省告示「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)の事項のいずれにも該当している場合を除き、適法な業務請負となるものではないとの説明を行うとともに、Dらに対し、被告に宛てた同日付け是正指導書を交付した。(証拠〈省略〉)
6 原告らと被告との間における労働契約の締結
(1) 被告は、原告らとの間で、平成19年9月26日、職種を期間工、期間を同日から平成20年1月25日までの4か月間とする有期労働契約をそれぞれ締結した(以下「本件契約1」という。)。その後、被告は、原告らとの間で、期間を同年4月25日までとして労働契約をそれぞれ更新した。
原告X1は、平成19年9月26日から、プラスチック部品の成形ラインにおいて、ゴミ捨てやスピードメーターのプラスチックに不織布を貼ったり、成形機から排出される廃材を指定のごみ置き場まで捨てたりする業務に従事した。(証拠〈省略〉、弁論の全趣旨)
(2) 被告は、原告らとの間で、平成20年4月26日、職種を期間従業員、期間を同日から同年10月25日までの6か月間とする労働契約をそれぞれ締結した(以下「本件契約2」という。)。その後、被告は、原告らとの間で、期間を平成21年4月25日までとして労働契約をそれぞれ更新した。(書証〈省略〉、弁論の全趣旨)
(3) 原告らの各平均賃金月額は、原告X1が19万2982円、原告X2が16万9444円である(賃金は、いずれも時給制であり、毎月末日締めで、翌月20日払いである。)。
7 被告の期間従業員就業規則
(1) 平成19年3月1日制定の被告の期間従業員就業規則(以下「旧就業規則」という。)には、以下のとおりの定めがある(書証〈省略〉)。
7条 労働条件の明示
契約期間は、原則として初回の契約は3か月とし、その後1年の範囲で本人の希望を考慮の上、能力、勤務成績並びに健康状態を勘案し各人別に決定する。その他主要な労働条件とともに、別紙「雇入通知書」〈省略〉に示し、入社時に本人に明示する。
8条 異動
会社は、業務の必要により職場及び職種の変更を命ずることがある。
36条 社員への登用
① 期間従業員で社員への登用を希望する者については、別に定める「期間従業員の社員登用基準」に基づき判定し、選考試験によってこれを行う。
② 勤続年数の通算は、永年勤続表彰を除き行わない。
(2) 平成20年9月1日改定の被告の就業規則(以下「新就業規則」という。)には、以下のとおりの定めがある(書証〈省略〉。なお、上記(1)において旧就業規則の内容として取り上げたもののうち、旧就業規則の36条が37条に変更されたほか、以下の部分以外は変更がない。)
7条 労働条件の明示
契約期間は、原則として6か月とし、最長で3年までとする。契約更新については、本人が希望する場合、生産状況、勤務成績並びに健康状態等を勘案して決定する。主要な労働条件は、別紙「雇入通知書」〈省略〉に示し、入社時に本人に明示する。
31条 協力金
協力金は、契約期間を終了した者について、契約期間中の出勤日数に応じて契約満了後の給与支払日に支給する。
32条 満了報奨金
満了報奨金は、契約期間満了により退職した場合、契約期間(通算在籍期間)の出勤日数に応じ、契約満了後の給与支払日に支給する。
35条 諸活動・被服貸与等
会社が行う諸活動への参加及び作業服貸与等の扱いについては、社員に準ずる。
8 原告らに係る労働契約の終了等
被告は、平成21年2月27日、原告らに対し、同年4月25日の契約期間満了後は、労働契約を更新しないと通告した。
9 労働者派遣事業と請負との区分についての告示
旧労働省告示「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)では、以下のとおり、定められている(当裁判所に顕著な事実)。
2条
請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
1 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
① 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
② 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
① 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
② 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
① 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
② 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
2 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ 次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
① 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
② 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
第4争点及び争点についての当事者の主張
1 被告・原告X1間の期間の定めのない黙示の労働契約の成否(争点1)
【原告X1の主張】
(1) 原告X1とa社との契約は、形式的には労働契約であるものの、実質的には被告に労務を提供することを内容とする契約であった。また、a社と被告の間の契約も、形式的には業務請負契約であるが、実質的にはa社が原告X1をして被告に労務を提供させ、その対価としてa社が被告から報酬を得ることを内容とするものであり、労働者供給契約に該当する。そうすると、被告が原告X1から労務の提供を受けることは、労働基準法6条及び職業安定法44条が禁止する労働者供給事業に該当する。
そして、本件においては、原告X1が本件工場において稼働を始めた時点で製造業における労働者派遣は認められていなかったことや、被告が埼玉労働局からの是正指導を受けた後に、請負契約に基づく労働者を派遣労働契約に切り替え、さらに「期間工」という新たな職種を創出することによって、再度労働者派遣に戻す意図をもってクーリング期間を設定したこと、これが困難となるや期間従業員とした上で、上記経緯から期間従業員となった労働者ほぼすべてを雇止めしたことからすると、被告は、常用雇用の代替防止という労働者派遣の根幹を否定する施策を組織的かつ大々的に行っていたものであり、このような強度の悪質性にかんがみれば、原告X1とa社との間で締結された労働契約は、公序良俗に反して無効である。
(2) そして、黙示の労働契約の成否は、事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の実態から推認される黙示の意思の合致の有無によって判断されるところ、以下の事実によれば、原告X1と被告との間には平成15年5月9日の時点において、期間の定めのない黙示の労働契約が成立していた。
すなわち、被告は、原告X1が本件工場で業務を開始するのに先立って、人事担当者で採用権限を持つ被告の社員が原告X1の事前面接を行い、業務内容の適性や長期勤務の可否等の具体的な事項に関する質問をした上で、原告X1の採用を決定した。また、被告は、本件工場における原告X1の業務の遂行方法やライン上の配置、別の部署への配置転換、昼勤から夜勤へのシフト変更等、残業・休日出勤等の指示を行った。さらに、原告X1の勤怠管理は、被告のタイムレコーダー等によってされており、原告X1が休暇を取得する際には、a社のみならず被告にも連絡してその許可を得ることが必要とされていた。加えて、時間外、休日労働を被告が決定していたこと、業務量の増減をa社は把握していなかったこと及び原告X1に残業が生じたときに単価が異なっていることからすれば、労働時間がどれくらいかによって請負代金が変動しており、かつ被告も請負代金を「派遣費」として計上していることからすれば、原告X1の賃金額は実質的には被告が決定していたと評価すべきである。
以上のことからすれば、本件工場就労開始時において原告X1と被告との間で黙示の労働契約が成立していたことが明らかである。
(3) そして、民法や労働法の規定、継続勤務の実態及び常用代替防止の目的にかんがみ、労働契約においては期間の定めのない労働契約が原則であり、特に期間の定めがない限り労働契約は期間の定めのないものになることからして、上記の被告・原告X1間の労働契約は、期間の定めのないものとなる。
【被告の主張】
(1) 被告は、原告X1に対し、直接指揮命令をしたことはなく、被告、a社及び原告X1の三者の関係は、いわゆる偽装請負(形式的には請負契約に基づき行われているが、注文主が労働者に対し直接指揮命令をしているため、実質的には派遣形態である場合をいう。)に当たらない。
仮に、上記三者の関係が偽装請負に当たるとしても、この関係は、労働者派遣法2条1号に規定する「労働者派遣」に該当し、職業安定法4条6項の「労働者供給」には該当しないから、同法44条及び労働基準法6条には違反しない。
そして、a社は、全国に数十か所の事業所等を有し、被告に限らず多数の取引先を有する相当規模の会社であり、その営業や請負社員等の労務管理等を自らの意思で独立して行っていたものであるところ、このように独立性を有するa社と原告らとの間に有効な労働契約が存在している以上、同一の労働について同時に被告との間で労働契約が成立することはない。
(2) また、使用者と労働者の間に、黙示の労働契約が認められるためには、採用面接、就労条件の決定、人員配置及び具体的指揮命令等により認められる使用従属関係、独立した法人としての意思決定の欠如等により認められる請負・派遣業者の独立性の欠如並びに賃金額の決定及び賃金の実質的支払等により認められる賃金支払関係のすべてが存在し、使用者と労働者の意思の合致が認められることが必要である。
しかし、本件においては、原告X1と被告との間に、黙示の労働契約が成立していなかったことは明らかである。
すなわち、原告X1が本件工場で就労する際、独立した請負業者であるa社を雇用者、原告X1を被用者、就業場所を本件工場内のa社の作業所とする内容の雇用契約書がa社の担当者と原告X1との間で取り交わされていた。また、原告X1が本件工場で就労するに先立って、原告X1と被告の社員との間で面談が行われたことはあったが、これは工場内の安全管理等の必要から、入構する請負・派遣社員の人物や請負作業の遂行に問題がないかを確認するための顔合わせにすぎず、採用面接とは全く異なる。さらに、被告は、自社の業務中どの部分を請負・派遣業者に発注するかについては決定していたが、請負・派遣社員の配置には全くかかわっておらず、本件工場における原告X1らの配置やシフトの決定・変更は、すべてa社が行っていたし、被告の社員が、原告X1に対し、業務内容の確認や安全衛生上の指示等を超えて、社員間で通常行われるような業務ごとの指揮命令をしたことも残業や休日出勤等の指示をしたこともない。また、被告は、a社が原告X1ら請負・派遣社員の労働時間を記録するに当たって、被告が本件工場に設置した機械を使用することを認めていたため、原告X1らは、被告のタイムレコーダー等を使用していたが、原告X1らの労働時間に関する記録の回収・管理、給与計算等はすべてa社が自ら行っており、被告は一切関与していなかった。原告X1らa社の請負・派遣社員の賃金額は、a社が独自に決定し、請負・派遣社員に直接支払っていたのであって、賃金額の決定・支払に被告が関与したことはない。さらに、原告X1の加入する本件組合がa社に対して労働条件の改善要求を行っていたことも考慮すれば、原告X1において、a社を使用者と認識していたことは明らかである。
したがって、原告X1と被告との間に黙示の労働契約は成立していない。
2 労働者派遣法40条の4を媒介とした黙示の労働契約の成否(争点2)
【原告らの主張】
(1) 労働者派遣法は、直接雇用原則及び常用代替の禁止を担保するため、適法な労働者派遣の場合であっても、派遣先が派遣可能期間(同法35条の2、40条の2)を超えて派遣労働者を受け入れて就労させる場合には、派遣労働者に対する労働契約申込義務を課している(同法40条の4)。
そして、このこととの均衡上、直接雇用原則及び常用代替の禁止に違反するような偽装請負や派遣受入期間の制限を徒過するなどの違法な労働者派遣が行われた場合には、同法40条の4を適用又は類推適用し、派遣先は労働契約申込義務を負うものと解すべきである。
また、偽装請負の場合、その実態は労働者派遣であるから、派遣可能期間の始期について、偽装請負の期間も含めて考えるべきである。
(2) 原告X1については、遅くとも被告での業務を開始した平成15年5月9日から1年を経過した平成16年5月9日時点において、また、原告X2については、同原告が作業に従事していたラインは、既に1年以上前から派遣社員を受け入れていたため、勤務を開始した平成18年12月14日時点において、それぞれ労働者派遣法上の派遣可能期間を徒過していた。
したがって、被告は、上記各時点において、原告らに対する労働契約申込義務を負っていたのであり、このような義務を負担する被告が原告らから労務の提供を受けてきたことは、被告が原告らに対して黙示的に労働契約の申込みをしたといえ、原告らが被告に対する労務提供を継続したことは上記申込みに対する承諾であると評価できる。
そして、上記1【原告X1の主張】欄(3)のとおり、上記黙示の労働契約は、期間の定めのないものとみるべきである。
(3) したがって、原告X1は平成16年5月9日に、原告X2は平成18年12月14日に、被告との間で、それぞれ黙示的に期間の定めのない労働契約が成立していた。
【被告の主張】
(1) 被告は、派遣元であるa社から派遣先に対する労働者派遣を行わない旨の通知(労働者派遣法35条の2第2項)を受けていないから、労働契約申込義務は発生しない。また、労働者派遣法40条の4は、派遣先による直接雇用の申込みが実際にはない場合にこれがあるものと擬制する規定ではないから、被告が原告らに対して直接雇用の申込みをしたということもできない。原告らの主張は失当である。
(2) 仮に、主張自体失当ではないとしても、被告が、原告X1に対しては平成16年5月9日の時点で、原告X2については平成18年12月14日の時点で、それぞれ黙示的に労働契約の申込みを行ったとか、これに対し、原告らが承諾したということはできない。
3 原告らが被告との間で締結した有期労働契約が、期間の定めのない労働契約と同視できるか、少なくとも、原告らには雇用継続に対する合理的期待が存在しており、本件雇止めが客観的に合理的理由を欠いたものであるか(争点3)
【原告らの主張】
(1) 仮に、上記争点1及び争点2において原告らの主張が認められないとしても、本件契約1及び本件契約2は、労働契約上それぞれ期間の定めがあるが、以下の事情によれば、原告らと被告との間の有期労働契約は、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならないか、又は、原告らにおいて、被告から継続的に雇用されることについて合理的な期待があったといえる。
すなわち、原告らは、業務請負契約又は労働者派遣契約に基づいて本件工場に就労していた際、上記各契約の期間の満了についてほとんど知らされることがないまま、就労を継続してきた。また、被告が、原告X1との間で本件契約1を締結した際には、被告の直接雇用を希望した派遣労働者全員を採用し、本件契約1を更新した際も、説明会や個別面接等が行われることもなく、更新を希望した期間工全員が更新された。さらに、本件契約2を締結する際にも、試験や個別面接が行われたものの、期間従業員になることを希望した期間工全員が採用され、本件契約2を更新した際も、ほぼ全員が契約を更新され、期間従業員から正社員に登用された者も7名いた。また、原告らは、業務請負契約又は労働者派遣契約に基づいて本件工場で就労し始めた時から本件雇止めに至るまで、ほぼ常勤として、被告の正社員からの指示を受けて直接被告の指揮監督を受け、工場生産という、被告における恒常的、基幹的な業務を行ってきた。加えて、新就業規則においては期間従業員の契約期間が延長され、更新についても明示の規定が設けられるなど、期間従業員の長期雇用を前提とする規定が設けられていた。
(2) そうすると、原告らと被告との間の期間の定めのある労働契約は、実質的にみて期間の定めのない労働契約と同視でき、少なくとも原告らにおいて継続的に雇用される合理的な期待を有していたものといえる。
【被告の主張】
(1) 原告らと被告との間の雇用継続期間は約1年7か月であり、更新の回数は2回にすぎない。また、被告が、本件契約1及び本件契約2を締結する際に作成された雇用契約書や労働条件通知書等には、契約期間や雇用延長に係る要件、手続が明記されていたほか、職種の名称からしても期間の定めがある契約であることは明らかである。さらに、被告は、本件契約1を更新する際には面談を実施するなどし、本件契約2を更新する際には、勤務実績や勤務状況を勘案して、更新しなかった期間従業員もいた。なお、被告の就業規則上、期間従業員の雇用期間は最長で3年とされており、実際に3年を超えて雇用されている期間従業員はいない。
被告では、正社員については、有期雇用労働者である期間従業員とは異なり、目標管理、フィードバックシートによって勤務成績を管理するなどしており、他方、原告らについては、品質改善・生産性向上活動等の長期雇用を前提とした育成が行われていない。また、原告X1の業務内容は、ライン外でプラスチック片を回収するなどの単純作業であり、また、原告X2の業務内容には、ライン内での組立作業も含まれるが、それも正社員の補助として一工程の作業を担当するものであって、原告らの業務は補助的業務であった。このように、被告では、有期雇用労働者と正社員とは明確に区別されており、原告らもそれを認識していた。
加えて、原告X1については、D及びEが、本件契約2に先立って実施された選考の結果が悪かった原告X1との間で、個別に面談を行い、その際、原告X1に対し、改善すべき事項を指摘するとともに、それが改善されなければ今後の雇用の継続は難しくなるであろうことを告げた。
(2) 以上の事実からすれば、原告らと被告との間の有期労働契約が実質的に期間の定めのない労働契約に転化していたとは評価できず、また、原告らの雇用継続に対する期待が合理的なものであるとも評価できない。
4 本件雇止めが解雇権濫用法理の適用又は類推適用に基づき認められるか(争点4)
【原告らの主張】
(1) 本件雇止めは、被告の減産を理由とした整理解雇又は雇止めに当たり、解雇権濫用法理が適用又は類推適用され、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたこと、③人選の合理性、④説明・協議義務を尽くしたことが必要である。
しかし、被告は、人員整理が必要となった事情、整理すべき人員数、解雇回避措置の内容、再就職のあっせん等について説明等を行ってこなかった。したがって、本件雇止めは合理的な理由なくされたものであり、無効である。
(2) なお、被告は、キャッシュフローのみを整理解雇の必要性判断のための基準とすべきあると主張するが、被告は、メインバンク等からの借入れによる資金調達がなく、新規借入れにおける信用リスクや短期での返済リスク等を考慮する必要が全くないのであるから、短期間に多額のキャッシュが必要になることを前提として、キャッシュフローによる財務状況をもって、整理解雇の必要性を検討すべきではなく、財務諸表に基づく経営指標を判断の基礎とすべきである。
その上で、被告の平成19年度から平成21年度の財務諸表による経営指標をみると、被告の自己資本比率は、単独でも連結でも優良企業とされる50パーセントを超えており、極めて高い調達資金の安定性を示していること、被告の流動化比率についても、及第点とされている120パーセントを超えていること、それらに加えて、当座比率、固定比率、固定長期適合率等も特に問題がないことにかんがみれば、被告が企業存亡の危機と呼べるような状態になかったことが明らかであり、整理解雇の必要性は存在しなかった。
また、被告は、平成21年4月25日時点において、エコカー減税等の実施による自動車生産量の増加を経営判断の基礎とすべきであったにもかかわらず、これを行っていない。現に、本件雇止めの2か月後の同年6月末には、25名もの期間従業員の雇止めを撤回する必要が生じる程度まで、生産量が増加した。
【被告の主張】
本件雇止めに解雇権濫用法理の類推適用があるとしても、平成19年からのサブプライムローン、円高、原油、原料の高騰に加えて、平成20年末からのリーマンショック等の金融危機により、被告の主要顧客である自動車メーカー等における生産数が急激に減少し、その結果、被告への発注量も激減し、急激な事業環境の悪化により、被告の財政状況が急激に悪化するとともに、大量の余剰人員が生じたことから、被告の経営上の危機を回避するためには、原告ら期間従業員の雇止めする必要性があった。この点、具体的には、被告におけるキャッシュフローが特に重要になるところ、平成20年3月期期末時点における被告の現金及び現金同等物期末残高は、41億8700万円であったのに対し、1年後の平成21年3月期期末には、29億1000万円となっていた。平成20年9月ころから売上げが落ち込み、同年11月ころからは、それが急激に落ち込んでいることからも明らかなとおり、減じた12億7000万円の大半が、わずか半年余りで被告グループから流出した。また、被告は、平成21年1月27日、主要顧客からの平成20年12月における内示をもとにして、キャッシュポジション等の予測を立てた。それによれば、同年9月に27億1100万円あった現金等が、平成21年3月には14億5500万円、同年6月には7億7000万円、同年9月にはマイナス3億200万円、同年12月にはマイナス14億3400万円、平成22年3月にはマイナス22億8900万円になることが予測された。そのため、被告は、平成20年6月以降、経費削減や残業時間の削減、同年12月以降には労働者派遣契約の終了や会社休業の実施、役員報酬等の減額等の措置を行ってきたが、これによっても平成21年度事業計画上業績回復の見通しがまったく立たなかったために、原告ら期間従業員の雇止めを決定した。そして、被告は、余剰人員の削減に当たり、まず被告と雇用関係がない派遣労働者に係る労働者派遣契約を解除し、次に人員整理においては正規従業員に劣後した地位にあるとされる期間の定めのある期間従業員の雇止めを行うと同時に、正社員に対する希望退職の募集を行うなどしている。さらに、被告は、本件雇止めを行うに際し、対象となった期間従業員らへの説明及び原告らが所属する本件組合との団体交渉を誠実に行ってきた。
そもそも有期雇用労働者の雇止めについては、正社員に関する整理解雇の4要件は緩和され、人員整理の必要性及び雇止め回避努力義務ともに緩やかに解されることに加え、上記事情からすれば、本件雇止めは、合理的な理由による相当な雇止めである。
5 本件雇止めの不当労働行為該当性(争点5)
【原告らの主張】
本件組合は、被告との間において、別紙〈省略〉「期間従業員雇止めの不当労働行為」原告の主張欄記載のとおり、多数の摩擦や軋轢が生じていた。原告らは、本件組合の組合員であり、また、原告X1が被告の偽装請負を告発する本件申告をするなどしたところ、被告は、原告らが本件組合の組合員であることや上記活動を行ったことから、原告らを不利益に取り扱うことを意図して、本件雇止めを行った。
したがって、本件雇止めは不当労働行為に該当し、無効である。
【被告の主張】
原告X2は、本件雇止めを通告された後に、本件組合の組合員になった。また、本件雇止めの対象となったのは、平成21年4月25日に契約期間満了を迎えた者全員であり、その中に本件組合の組合員は原告らを含めてわずか数名にすぎない。他方、本件組合の組合員の中には、本件雇止めの対象にならなかった者もいることからすれば、本件雇止めが、原告らにおいて本件組合の組合員であることを理由としたものではないことが明らかである。
6 原告X2につき、合意退職の成否(争点6)
【被告の主張】
原告X2は、平成21年2月27日付けの被告からの提案に賛同し、本件契約2の期間満了の約1か月前である同年3月23日付けで、上記提案に同意する旨の同意書を提出し、増額された協力金及び満了報奨金を受領した。
なお、上記同意書が退職の申出を意味することは、被告が原告ら期間従業員に対して配布した同年2月27日付けの「契約期間満了にあたって」と題する文書に明確に記載されている。
したがって、原告X2は、同年4月25日に被告を退職した。
【原告X2の主張】
原告X2は、被告から一方的に本件雇止めを通告されたものであり、退職申出の意思はない。
原告X2は、上記同意書提出の翌日である平成21年3月24日、「期間従業員92名の雇い止め(解雇)撤回」を求める本件組合の全日ストライキ、さらに、同年4月17日、期間満了の白紙撤回を柱とする本件組合の時限ストライキにも参加して、被告に対し、雇止めの白紙撤回を求めていた。また、原告X2は、同月22日の団体交渉にも同席して白紙撤回を求めている。このように原告X2は、上記同意書を提出した直後から退職意思がないことを積極的に表明した。
さらに、被告は、同年2月27日に雇止めに伴う支給案を提案した後、同年4月22日の団体交渉を受けて、翌23日に同意書を提出した者に対し、協力金と満了報奨金の支給基準の変更を提案した。したがって、上記同意書には金額の支給基準に対する同意としての意味しかない。
第5当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実、各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) a社の労働者の採用手続等
ア a社の労働者が本件工場において就労する際には、被告の総務人事グループの担当者及びa社の社員が、本件工場の応接間において、10分程度、本件工場で働こうとするa社の労働者と面談した上で、立ち作業が可能かどうか、化学物質のアレルギーがないかどうかなどを確認した。この面談において、a社の労働者と被告担当者とが賃金の定めや具体的な仕事内容等について話すことはなかった。(証拠〈省略〉)
イ なお、被告において、労働者との間で直接に労働契約を締結する際には、被告の役員会において採用枠を決定した上、求人募集や会社説明会等を行った後、応募者に対し、筆記及び面接からなる採用試験を行い、選考会議と社内における決裁を経るという手順が踏まれていた(証拠〈省略〉)。
(2) 本件工場における原告らの就労状況
ア 本件工場の製造ライン作業工程における業務分担
被告は、本件工場において、1つの製造ラインの中の工程が当該工程限りで完結するものであるという考え方に基づき、a社に業務を請け負わせていた。そのため、1つの製造ラインの中で、a社の労働者が担当する工程と被告の社員が担当する工程が存在していた。そして、1つのライン内で作業が遅れるといった事情によっては、特定の工程を受け持つ者が当該工程以外の工程についても担当するなど、流動的にライン内での業務が行われることもあった。(証拠〈省略〉、弁論の全趣旨)
イ 被告の原告らに対する業務に関する教育、指示
(ア) 被告の社員は、外部の労働者が初めて当該業務を行う際や新たな設備を用いて業務を行う際には、業務内容の確認を行ったり、安全衛生上の指示を行ったり、設備に関する説明を行っていた。
原告X1は、電子スロットルモータ組立ラインにおいて、被告の社員らから流れ作業を見せてもらいながら業務内容の説明を受け、数ミリメートルのばねを決められた場所に入れるという業務に従事した。また、原告X1は、回路実装組立ラインにおいては、ライン掃除、部品の補充及びゴミ捨て等を担当したが、これについても被告の社員からやり方を教わるなどした。(証拠〈省略〉、弁論の全趣旨)
(イ) 被告は、請負社員の担当する工程が含まれるラインについて、生産計画表を作成し、当月に生産すべき数量等を指示しており、a社が請け負っていた工程を含むラインについても、生産管理板を設け、これに、当該ラインで製造する部品の数量、これから製造すべき部品の数量を掲示していた。
a社の労働者を含め、当該ラインで業務に従事する労働者は、被告が管理する上記の生産管理板を見て、被告の指示に基づき残業を行っていた。(証拠〈省略〉)
(ウ) 原告X1は、本件工場において業務を行った当初から、QC(クオリティ・コントロール)サークル活動と呼ばれる、職場内での自主的な品質管理活動に正社員とともに参加していた(証拠〈省略〉)。
ウ 本件工場におけるa社の労働者の勤怠管理
(ア) 本件工場におけるa社の労働者の勤怠管理は、被告の社員についての勤怠管理と同様に、被告が設置したタイムレコーダーを使用して行われており、平成14年ころから、被告の社員の勤怠管理がカードリーダー方式によって行われるようになったのに合わせて、a社も被告からカードリーダーの機械を借り受け、a社の労働者の勤怠管理をカードリーダー方式で行うようになった。
a社の労働者が打刻したタイムカードについては、a社の社員が締日に合わせてこれを回収しデータをa社の本社に送信するなどして管理しており、また、カードリーダー方式に変更された後も、a社が詰所にコンピュータを設置して、a社の労働者の勤怠状況を把握し、給料計算用のデータを作成した上で、a社の本社に送付していた。(証拠〈省略〉)
(イ) a社の労働者は、休暇を取得する場合、a社に連絡をした後、被告に対してもその旨を連絡していた(証拠〈省略〉、弁論の全趣旨)。
エ 被告・a社間の請負代金額及びa社の原告らに対する賃金の支払
被告からa社に対して支払われる請負代金額は、生産された部品の個数に単価を乗じた金額を基本として算出するとされていたが、生産数に変動がないにもかかわらず、a社の労働者が作業に従事する時間のみが著しく増えた場合には、双方で協議して請負代金が決められることもあった。
他方、a社からa社の労働者に支払われる賃金額は、日給額に出勤日を乗じた金額を基本として(時間外割増賃金や夜間割増賃金はその時間数に応じて加算されている。)算出されていた。(書証〈省略〉、弁論の全趣旨)
(3) 被告及びa社と本件組合との団体交渉等の経緯
本件組合は、平成18年6月7日、同年7月7日、同年8月9日ころ、被告に対し、原告X1らの正社員化を要求した。また、本件組合は、平成19年4月14日ころ、a社に対し、休暇取得に当たってa社に電話連絡をするのみの手続にすること等の有給休暇に関する事項や昇給等を要求した。(書証〈省略〉)
(4) 期間工の採用の経緯
ア 被告は、平成19年8月9日に行われた埼玉労働局による臨検の際、派遣可能期間が徒過していることを指摘され、労働者派遣の役務の提供を速やかに終了するように指導されたため、同労働局が指摘したラインについて、派遣労働者を直接雇用することを決めた。そして、顧客に支障がないよう、短期間のうちに雇用する必要があったことから、従来から被告に存在した期間従業員とは異なる簡易な手続によって雇用する「期間工」という職種を新たに設け、本件工場で就労していた派遣労働者の約50パーセントに当たる85名程度を期間工として採用した。(証拠〈省略〉、弁論の全趣旨)
イ a社は、有料職業紹介事業主として、原告X1らに対し、被告の直接雇用について説明した上、雇用条件通知書を交付した。さらに、被告は、平成19年9月ころ、原告ら派遣労働者に対し、説明会を行い、有期雇用であることを説明して、入社案内や雇入通知書を交付した。そして、被告において業務を行っていた150人の派遣労働者の約半数が被告の直接雇用を希望し、これに応募した。被告は、応募した派遣労働者全員を期間工として採用し、雇用契約書を交わした。
上記雇用条件通知書には、「雇用契約期間」として「有期雇用(雇用期間:19年9月26日~20年1月25日)」と明記されていた。また、被告と期間工が交わした上記雇用契約書には、「契約期間」として「2007年9月26日より2008年1月25日まで」と明記されていた。特記事項として、「③労働契約の更新に関しては、乙(注:期間工)の能力、勤務成績、健康状態等を勘案し判断する。」と記載された。(証拠〈省略〉)
ウ 被告は、本件契約1の更新に際し、期間工に対し、平成19年12月25日付けで「契約期間満了について」と題する書面を配布して、契約を更新する希望の有無を確認するアンケートを行った。上記書面には、「更新に当たっては、現契約期間における能力、勤務成績並びに健康状態を勘案し判断する。」「なお、更新の割合は、全体の概ね70%とする。」との記載がある。
そして、被告は、すべての期間工との間で、期間を平成20年1月26日から同年4月25日までとして労働契約を更新することとし、雇入通知書を交付し、雇用契約書を交わした。雇用契約書には、「契約期間」として「2008年1月26日より2008年4月25日まで」、「特記事項」として「③本契約をもって『期間工』としての契約は終了とする。」と記載された。(書証〈省略〉)
(5) 期間従業員の採用の経緯
ア 被告は、その後、期間工が臨時の制度であったことから、期間工を期間従業員に一本化するという計画に基づき、期間従業員の募集を行い、平成20年3月ころ、説明会を開催した上で、「期間工の皆さんへ」と題する書面を配付し、募集要項や雇用延長の要件等を読み上げて説明した。上記資料には、「採用にあたっては、当社所定の選考を受けていただくことになります。」、「雇用契約期間」欄には「6か月間(2008年4月26日から2008年10月25日まで)」、「雇用延長」欄には「契約期間の勤務成績が良好であり、かつ延長を希望する期間従業員については、原則6か月毎の契約で最長3年までの延長を可能とする。」「1)延長期間:原則6か月毎の契約で、最長3年まで延長可能」「2)手続方法:契約満了前に、対象者全員に意思確認後、総務人事部にて延長可否の最終確認を行う」「3)可否判断基準:生産状況及び職場評価により判断」、また、「退職」欄には「次のいずれかに該当する場合は、各々に定める日から期間従業員としての資格を失う ①上記契約期間に定める雇用契約期間が満了した時→該当日の翌日」と記載された。(書証〈省略〉)
イ 被告は、期間従業員に応募した期間工に対して適性試験及び面接を実施し、これに期間工としての勤務実績を踏まえた上で、人事総務部のDやEの他、製造部の部長や製造部の各課長らが出席した上で、選考会議を行い、原告らの採否を検討した。この中で、原告X1を含む10名については、個別に面談を行って、今後改善すべき事項を伝えた。すなわち、原告X1については、平成20年4月21日に行われた面接において、Dらは、原告X1に対し、ウレタン剥がれの品質問題を発生させ、指導後3回にわたって同様の不良を発生させており、集中力、注意力に欠けるので、品質に関わる仕事は任せられないこと、正確さとスピードを向上させる努力が必要であること、決められていることをしっかり守り、決められたことをきちんと実行し、廃プラ廃棄の経路等について自分で判断しないこと、休暇はできるだけ計画的に取得すること等を指摘した上、上記が契約の条件ではないが、今の状態では次回の契約は更新されない旨伝えた。(書証〈省略〉)
ウ 被告は、上記経緯を経て、原告X1を含め、期間工から期間従業員になることを希望した労働者全員との間で期間従業員として雇用することとし、原告らとの間で、本件契約2を締結して雇用契約書を交わした。上記雇用契約書には、契約期間として「2008年4月26日より2008年10月25日まで」と、特記事項として「雇用契約の更新に関しては、生産状況及び乙(注:期間従業員)の能力、勤務成績、健康状態等を勘案して判断する。」と記載されており、原告らに交付された労働条件通知書にも同様の記載があった。(書証〈省略〉)
エ 被告は、本件契約2を更新するに先立ち、更新するか否かを検討するため、勤務状況や考課等をまとめた資料を作成した。これによれば、原告X1は、「器用さがなく、速さも期待できない。品質レベルが維持できず現状以外の作業を与えることができない。」との所属長所見があるほか、上司判定欄には「×」とあるが、見解欄には「○」がある。また、原告X2については、「突発の欠勤、遅刻が多い。仕事の力量も低い。」との所属長所見があるほか、上司判定欄には「×」とあるが、見解欄には「○」がある。
原告X1は、上記のとおり考課面での成績は悪かったが、欠勤等、客観的な理由がなかったことから、被告は、原告X1との契約を更新することにした。また、被告は、原告X2についても、労働契約を更新することとした。
被告は、平成20年10月24日、期間従業員との間で、期間を同月26日から平成21年4月25日までとして労働契約を更新することとし、雇用契約書を交わした。雇用契約書には、契約期間として「2008年10月26日より2009年4月25日まで」、特記事項として「労働契約の更新に関しては、生産状況及び乙(注:期間従業員)の能力、勤務成績、健康状態等を勘案し判断する。」と記載されていた。
なお、被告は、上記更新の際、4名について労働契約の更新をしなかった。(証拠〈省略〉)
(6) 本件雇止めに至る経緯
ア 被告は、その主要顧客であるc株式会社及び株式会社d等発注元からの注文に特化して自動車部品を製造しているため、発注元が発表する生産計画に基づいて、事業計画を策定していた。
上記c社をはじめとする自動車メーカーは、平成20年初旬ころから、北米でのサブプライムローン問題による自動車販売数の減少や円高等の影響を受けて、相次いで生産縮小を決定したため、被告においても生産を縮小することにした結果、平成20年度の被告の連結・単独業績はともに減益となる見通しとなった。その後も、自動車業界の事業環境は悪化し続け、c社は生産計画を下方修正するなどしたことから、被告も平成20年度の計画を大幅に下方修正した。これに伴い、被告は、経費や労務費の削減等の施策を実施していたところ、同年9月のリーマンショックに端を発した世界金融危機により、さらに自動車業界は急激に売上げが減少して収益が悪化し続け、被告における同年度下期の売上げはさらに大幅に下方修正された。
このような急激な事業環境の悪化により、被告の財政状況も急激に悪化するとともに、被告には大量の余剰人員が生じた。この大量の余剰人員について、派遣社員の契約を解除するだけでは対処できなかったことから、被告は、やむを得ず、期間従業員の契約を契約期間満了とともに順次終了させることとし、同年12月3日に開催された役員会打合せにおいて、下期売上大幅減少に伴う緊急施策として、派遣社員及び期間従業員の削減や休業、工場勤務体系の変更、残業ゼロの徹底、課長以上の幹部職員の手当のカット、水道光熱費等の経費の削減等を行うことが検討されることになった。
その後、平成21年1月7日に開催された臨時役員会において、人員調整について、「期間従業員については、基本は契約期間満了で契約解除する」ことが決定された。これを受けて、D及びEは、本件雇止めを行うために必要な手続やスケジュール調整等を行った。(証拠〈省略〉)
イ 被告は、平成21年2月27日午前11時ころ、本件組合の坂戸事業所において、本件組合の委員長であるFらと話合いを行い、期間従業員について、期間満了で契約を更新しない旨説明した。
さらに、同日午後4時ころから、被告は、2度に分けて、期間従業員全員に対し、「期間満了にあたって」と題された資料を配布するとともに、およそ30分間にわたって、スライドを使用しながら業績推移等を説明した上、同年4月以降契約期間が満了する期間従業員は更新しないこと、同年3月までに契約期間が満了する期間従業員は6か月間のみ更新し、次回以降の更新はしないことを通告した。
その上で、被告は、契約満了1か月前までに退職を申し出た者に対しては、契約期間に応じ、協力金及び満了報奨金の増額を提案した。そして、上記増額を希望する場合には、契約満了1か月前までに「退職の申出」をするよう説明した。(証拠〈省略〉)
ウ その後、被告は、本件組合等との団体交渉の結果、上記協力金及び満了報奨金の算定に当たって、契約期間に有給休暇日数を含めることや被告が借り上げている寮の入居可能期間を最大9か月とし、その間の家賃等については被告が負担すること、有給休暇の買上げを行うことを決定した(書証〈省略〉)。
(7) 原告X2の同意書の提出
ア 雇止めの対象者が、上記(6)イ記載の増額した協力金及び満了報奨金を受け取るためには、退職の申出が必要とされたところ、退職の申出は、所属の課長から「同意書」という書面を受け取り、課長に提出することとされていた(書証〈省略〉)。
イ 原告X2は、所属していた製造課長であるGから同意書を受け取り、平成21年3月23日付で、同意書を提出した。同意書には、「私は、今回期間従業員の契約期間満了に際して、会社提案(2009年2月27日付)に同意致します。」と記載された。(証拠〈省略〉)
ウ 被告は、原告X2に対し、同年5月20日付けで、上記(6)ウにより増額された協力金及び満了報奨金を支払い、原告X2はこれを受領した(証拠〈省略〉)。
2 争点1(被告・原告X1間の期間の定めのない黙示の労働契約の成否)について
(1) 原告X1とa社間の労働契約の有効性
ア 上記1認定事実(2)イのとおり、被告は、a社の労働者が本件工場で就労するに当たり、業務内容の確認及び教育、指示や安全衛生上の指示をしたほか、残業の指示等を行っていたことが認められ、これらの事情からすれば、a社が被告から独立して請負業務を処理していたと評価することはできない。
そして、上記の本件工場における被告とa社の労働者との関わり方は、前記第3前提事実9の旧労働省告示2条の1イ①、ロ②に抵触する。したがって、被告とa社との間の請負契約は、実質的な労働者派遣と評価される。
イ 前記第3前提事実3のとおり、原告らは、a社との間で労働契約を締結しており、これに従ってa社から被告に派遣され、上記のとおり、本件工場において被告から残業や業務の指示等を受け、業務に従事していたものであって、a社と被告との間で、原告らを被告に雇用させることを合意していたといった事情も窺われないから、結局、a社、被告、a社の労働者という三者の関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当するというべきである。そして、同号の労働者派遣に該当する以上、職業安定法4条6項の労働者供給には該当せず、これを禁止する同法44条にも抵触しない(最高裁平成20年(受)第1240号同21年12月18日第二小法廷判決民集63巻10号2754頁参照)。そして、労働者派遣が労働者派遣法に違反するものであっても、特段の事情がない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないと解すべきところ、本件では証拠上このような特段の事情も認められない。したがって、a社と原告X1との間の労働契約が無効であったということはできない。
ウ 原告X1は、被告が、派遣労働者に再度戻す意図の下にクーリング期間として期間工という職種を新設して直接雇用したことや、被告がa社との請負契約に基づいてa社の労働者を受け入れた平成13年当時労働者派遣自体認められておらず、原告X1が本件工場で就労し始めた平成15年5月当時は製造業における派遣が禁止されていたことなどからして、被告は常用雇用の代替防止という労働者派遣の根幹を否定する施策を組織的かつ大々的に行っていたものであり、このような強度の悪質性にかんがみれば、本件においては上記特段の事情が認められ、原告X1とa社との間で締結された労働契約は公序良俗に反して無効であると主張する。
しかし、仮に、被告において、クーリング期間とする意図をもって期間工という職種を新設したとしても、現に派遣労働者に戻った者は本件証拠上H1名が明らかになっているにすぎず(証拠〈省略〉)、その余の者は直接雇用を継続していること、被告において派遣労働者を正社員と同様に育成管理しようとしていたとはいえないこと(証拠〈省略〉)からすれば、被告において、常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定するような施策を実施していたとは認め難い。また、労働者派遣法に関しては、平成11年に大幅な規制緩和の要請に応じて、労働者派遣が原則自由化され、このとき物の製造の業務については平成11年改正附則第4項において当分の間禁止されたものの、平成15年改正によって解禁されたという労働者派遣法の改正の時期及び経緯等にもかんがみると、原告X1とa社との労働契約に公序良俗に反するような強度の違法性があったとまでは認められないから、原告X1の上記主張は採用できない。
(2) 原告X1と被告との間の黙示の労働契約の成否
ア 労働契約の本質は使用者が労働者を指揮監督し、労働者が賃金の支払を受けて労務を提供することにあるから、黙示の労働契約が成立するためには、使用従属関係の有無や勤務・雇用管理の実態、賃金の決定・支払方法、採用形態等を総合的に考慮して、社外労働者と派遣先との間で労働契約を黙示に合意したものと客観的に評価し得る事情があるか否かを検討して判断すべきである。
イ そこで、本件の使用従属関係についてみるに、上記1認定事実(2)イのとおり、本件工場で就労していた原告X1らa社の労働者は、被告社員らとともに、被告社員から業務に当たって必要な指示を受け、被告の指示に基づいて、残業を行っていたことが認められる。他方、本件工場には、a社の詰所があったが、そこに勤めるa社の社員は、タイムカードの管理や給与計算をしていたにすぎず、原告X1らa社の労働者に対して業務についての指揮命令をすることはなかった。そうしてみれば、a社の労働者は、業務遂行に係る指揮命令を被告から直接受けていたと認められる。
しかし、上記(1)ア、イのとおり、被告はa社から原告X1の派遣を受けていたのであるから、被告と原告X1との間に指揮命令関係があるのは当然である。原告X1らa社の労働者は、休暇取得を被告にも伝えることが要求されていたこと、被告のタイムレコーダーを使用して入退場の時間を管理されていたこと、正社員とともにQCサークル活動を行っていたことも認められるものの、他方で、休暇届をa社に提出し(人証〈省略〉)、タイムカードは被告に直接雇用されている正社員とは区別されていたこと(人証〈省略〉、弁論の全趣旨)、QCサークル活動は派遣・請負社員に参加が義務付けられているものではないことからすれば、上記の事実をもって正社員と同様の労務管理がされていたとも指揮命令を受けていたとも認めることはできない。
ウ 次に、原告X1らa社の労働者の採用手続についてみるに、上記1認定事実(1)アによれば、原告X1が本件工場に就労する際に被告が面談を行って採用に関与したことがあることは認められるものの、その質問内容や所要時間等からみて、被告において直接雇用する際の採用手続に比して極めて簡便な手続であったことに加え、被告においてa社の労働者と面談をした結果本件工場での就労を拒否した例がないこと等からすれば、被告が事実上a社の労働者の採用を決定していたとは認め難い。
エ さらに、原告X1らa社の労働者に対する賃金支払についてみるに、上記1認定事実(2)エのとおり、被告からa社に対して支払われる対価がa社の労働者の労働時間により左右されていたという事実は認められるものの、a社の労働者に対する賃金は、a社がその労働者との間の労働契約に従って支払っていたものであり、被告に賃金決定権限があったとはいい難い。
オ 以上の事情に加え、被告とa社に事実上一体性があるというような事情もないこと等からすると、原告X1と被告との間に、客観的に見て推認される黙示の意思の合致があったと評価することはできない。
カ 以上によれば、被告と原告X1との間に黙示の労働契約が成立していたものとは認められない。
3 争点2(労働者派遣法40条の4を媒介とした黙示の労働契約の成否)について
原告らは、被告は派遣可能期間を超えて原告らを本件工場で就業させていたのであるから、被告には労働者派遣法40条の4に基づいて労働契約締結を申し込む義務が発生しており、それでもなお就業を継続させたことにより、被告は黙示的に労働契約締結の申込みを行い、原告らはこれを承諾したものと推認され、これにより、黙示的に期間の定めのない労働契約が成立していると主張する。
しかしながら、労働者派遣法40条の4は、「派遣先は、第35条の2第2項の規定による通知を受けた場合において、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第40条の2第1項の規定に抵触することとなる最初の日以降継続して第35条の2第2項の規定による通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣労働者であつて当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し、労働契約の申込みをしなければならない。」と規定し、派遣元から同法40条の2第1項に抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知を受けた場合に、派遣先に対し派遣労働者に直接雇用を申し込むべき義務を課している。そのような通知がされたことを認めるに足りる証拠がない本件の場合には、上記の直接雇用の申込義務が発生する要件を欠いている。また、被告が原告らの労務提供を受けてきたことをもって黙示的に労働契約の申込みをしたと評価することもできない。さらに、派遣先が同法40条の4による直接雇用の申込義務を履行しない場合に、厚生労働大臣による指導及び助言(同法48条)、雇用契約申込みの勧告(同法49条の2第1項)、企業名の公表(同法49条の2第3項)等の措置がされることがあるとしても、それ以上に、実際に労働契約の申込みをしていないにもかかわらず、申込みをしたものと擬制ないし推認されることまで定めた規定は存在しないし、同法全体を見ても、そのように擬制ないし推認されるものと解することはできない。
以上によれば、労働者派遣法40条の4を介して黙示的に期間の定めのない労働契約が成立したとする原告らの主張は、採用することはできない。
4 争点3(原告らが被告との間で締結した有期労働契約が、期間の定めのない労働契約と同視できるか、少なくとも、原告らには雇用継続に対する合理的期待が存在しており、本件雇止めが客観的に合理的理由を欠いたものであるか)について
(1) 前記第3前提事実6のとおり、被告と原告らは、平成19年9月26日に期間工としての労働契約を締結し、これが平成20年4月25日まで更新され、その後、期間従業員としての労働契約を締結し、これが平成21年4月25日まで更新されており、被告と原告らの各労働契約の契約期間は原則として同日をもって満了するとの合意が被告と原告らとの間で成立していた。
(2) ところで、期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は、労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、その労働契約に関する雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには許されないと解される(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決民集28巻5号927頁、最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決判タ629号117頁参照)。
(3) そこで、これを本件についてみるに、まず、原告らに係る契約期間及びその更新回数についてみると、原告らは、前記第3前提事実6のとおり、被告の直接雇用期間は1年7か月、更新の回数は2回にとどまっている。
なお、原告らは、a社との労働契約又は労働者派遣契約に基づいて業務に従事していた期間も通算すると、原告X1は平成15年5月から平成21年4月まで約6年間、原告X2は平成18年12月から平成21年4月まで2年5か月にわたり就労していたことになると主張する。しかし、前記2のとおり、本件契約1までの原告らと被告との関係はいずれも労働者派遣と評価されるにとどまり、雇用関係があったものとは認められないし、被告が直接使用従属関係を認め、これを追認する意思で期間工として直接雇用したものともみることはできないから、これを雇用関係があったものと同様に評価することはできないというべきである。
(4) 次に、他の労働者の契約状況やその手続等についてみると、平成19年9月26日には当時本件工場で就労していた派遣労働者で直接雇用を希望した者の全員が、面談等をすることなく期間工として雇用され、平成20年1月26日の契約更新においても希望者全員が更新され、同年4月26日に従来の期間工を期間従業員として雇用した際も、希望者全員が雇用されたことが認められる(書証〈省略〉、弁論の全趣旨)。
しかし、他方、前記1認定事実(4)及び(5)のとおり、上記の雇用及び契約更新の際に交付された雇用条件通知書や雇入通知書、雇用契約書のいずれにも、有期労働契約であることが明記されており、平成20年1月24日の更新前に意思確認を行い、同年4月26日に期間従業員として雇用した際の配布資料には契約更新についての条件が記載されており、また平成19年9月26日の期間工としての採用に当たっては説明会が開催され、平成20年4月26日の期間従業員の採用に当たっても、説明会が開催されて、期間の定めや雇用延長条件等が記載された書面が読み上げられ、前記のような適性試験及び個別面接が実施されて、その面接においては、原告らに対し、集中力、注意力に欠けること等の問題点が改善されない場合には雇用継続は難しいと告げられていたものである。そうすると、原告らの労働契約は、期間の定めがあることが明確になっており、また更新手続も形式なものであったとはいえない。
この点に関して、原告らは、新就業規則において契約期間が原則6か月とされ、契約更新についても規定されたことや「永年誠実に勤務した者」が表彰の対象となっていること等から、期間従業員も長期雇用を前提とされていたと主張するが、このような規定で直ちに長期雇用を前提にした就業規則に変化したということはできない。
また、原告らは、本件雇止めを通知した平成21年2月27日までに、原告らに対して雇止めを示唆するような言動がなかったことから、原告らには雇用継続に対する合理的な期待があったと主張する。しかし、平成20年9月18日に行われた団体交渉においても、被告が原告らに対して雇止めをしないことを示唆するような応答はしておらず、むしろ「会社の生産動向によって(雇用継続)は変わる。注文が来なければ、慈善事業ではないので、何らかの手を打っていかなければならない」旨述べているし(書証〈省略〉)、上記団体交渉後である同年12月11日に行われた本件組合と被告との団体交渉においては、被告の減収について説明が行われた上、期間従業員の契約について問われたのに対し、Eは、「今の契約はしっかり守るつもりである。しかし、終了する方も出てくることはやむを得ないと考える。」旨の回答をしていること(証拠〈省略〉)が認められることからすれば、被告が原告らに対し、雇用の継続を期待させたものと評価することはできない。
(5) そうすると、原告らの期間の定めのある労働契約が期間の定めのない契約と実質的に同視できるとは認められない。また、原告らは、職種や契約内容、更新経緯等からして、自らの労働契約に期間の定めがあることは十分に認識していたというべきであり、被告において直接雇用された期間や更新回数等、さらに原告X1に関しては更新経緯や業務内容等からしても、原告らにおいて、期間満了後も被告において雇用を継続されることに合理的な期待を有していたと認めることもできない。
したがって、被告と原告らとの間の労働契約は、平成21年4月25日の期間満了により終了したものと認められる。
5 争点5(本件雇止めの不当労働行為該当性)について
原告らは、本件組合に加入した原告X1が本件申告をして、直接雇用への転換のきっかけをつくったものであること等から、本件雇止めが、このような組合活動を行ってきた本件組合の活動を嫌悪し妨害するためにした不当労働行為であると主張する。
しかし、本件雇止めが行われた理由は、上記1認定事実(6)アのとおりであることに加え、被告は、本件雇止めを通告した平成21年2月27日の時点で、同年4月25日に契約期間が満了するすべての期間従業員について契約を更新していないこと、雇止めを受けた期間従業員52名のうち、同年4月当時、労働組合が被告に通知をしていた(すなわち、被告において組合員であると認識していたと認められる)期間従業員たる本件組合の組合員は6名であり(人証〈省略〉)、そのうち原告X2は、本件雇止め通告当時は組合員ではなかったこと、本件雇止めは原告X1らが埼玉労働局に対して本件申告をした時から約1年10か月を経過した後に行われたものであること等からすれば、本件雇止めが本件組合の組合員である原告らを差別的に取り扱ったとは認め難い。
よって、本件雇止めが不当労働行為に当たるとは認められない。
第6結論
以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池本壽美子 裁判官 飯塚宏 裁判官 竹内知佳)
別紙〈省略〉