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さいたま地方裁判所川越支部 平成24年(ワ)152号 判決

埼玉県〈以下省略〉

第1事件原告

X1(以下「原告X1」という。)

埼玉県〈以下省略〉

第1事件原告

X2(以下「原告X2」という。)

埼玉県〈以下省略〉

第1事件原告

X3(以下「原告X3」という。)

埼玉県〈以下省略〉

第2事件原告

X4(以下「原告X4」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

長田淳

若狹美道

中村弘毅

宮西陽子

東京都千代田区〈以下省略〉

第1事件・第2事件被告

Y1株式会社承継人 Y2株式会社(以下「被告」という。)

同代表者代表取締役

被告訴訟代理人弁護士

新保義隆

土田一裕

同復代理人弁護士

尾島絵美

主文

1  被告は,原告X1に対し,661万1769円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告X2に対し,1606万5713円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告X3に対し,1095万5536円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告X4に対し,467万8293円及びこれに対する平成24年7月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

5  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,これを10分し,その1を原告X1の負担とし,その1を原告X2の負担とし,その2を原告X3の負担とし,その余を被告の負担とする。

7  この判決は,1項から4項までに限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件請求の趣旨

(1)  被告は,原告X1に対し,826万4924円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(2)  被告は,原告X2に対し,2345万1582円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告X3に対し,2110万7685円及びこれに対する平成24年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は被告の負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  第2事件請求の趣旨

(1)  被告は,原告X4に対し,473万8293円及びこれに対する平成24年7月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,原告らが,被告との投資信託等の取引において,適合性に反し,かつ,説明義務を懈怠した投資勧誘によって取引損害を被り,又は,被告の当時の従業員から上記取引とは別途に金員を詐取されたとして,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,取引損害又は詐取金等の原告ら各自が被った請求の趣旨記載の各金員及びこれらに対する請求の後の日又は不法行為の後の日である各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提事実

以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  当事者等

ア Y1株式会社は,証券取引業等を営む株式会社であり,被告は,平成25年1月4日,Y1株式会社を吸収合併し,同社の権利義務を承継した(以下,特段の事情のない限り,吸収合併の前後を問わず,Y1株式会社及び被告が行為主体となる行為については,「被告」が行為主体として摘示する。)。

B(以下「B」という。)は,昭和16年○月○日生まれの女性であり,昭和60年12月16日から平成23年6月15日までの間,被告の従業員(外務員)であった(ただし,被告が,Bの使用者責任を負う範囲等については当事者間に争いがある。)。

イ 原告X1は,昭和21年○月○日生まれの女性であり,被告との間で,別紙1の取引を行っていた者である。

ウ 原告X2は,昭和26年○月○日生まれの女性であり,被告との間で,別紙2の取引を行っていた者である。

エ 原告X3は,昭和24年○月○日生まれの女性であり,被告との間で別紙3の取引を行っていた者である。

オ 原告X4は,昭和13年○月○日生まれの女性である。

(上記アないしオについて,弁論の全趣旨)

(2)  原告X1原告X2及び原告X3の取引の概要

ア 原告X1は,平成17年12月13日,被告に対する総合取引申込書(乙1:ただし,記載の内容の正確性及び記載者については,一部争いがある。)を提出し,同月15日から平成23年4月1日までの間,被告との間で別紙1の各投資信託を行った(以下「本件X1取引」という。)。

(乙1,乙41,乙80:なお,別紙1の取引経過は争いがない。)

イ 原告X2は,平成17年12月5日,被告に対する総合取引申込書(乙6:ただし,記載の内容の正確性及び記載者については一部争いがある。)を提出し,同月7日から平成23年4月11日までの間,被告との間で別紙2の各投資信託及び外国債券取引を行った(以下「本件X2取引」という。)。

(乙6,乙42,乙81:なお,別紙2の取引経過は争いがない。)

ウ 原告X3は,平成18年6月13日,被告に対する総合取引申込書(乙14:ただし,記載の内容の正確性及び記載者については一部争いがある。)を提出し,同日から平成23年4月19日までの間,被告との間で別紙3の各株取引,投資信託及び外国債券取引を行った(以下「本件X3取引」という。)。

(乙14,乙43:なお,別紙3の取引経過は争いがない。)

エ 上記アないしウの各取引における各投資信託商品のリスククラス(RC)は,別紙4のとおりであった(なお,一部RCが不明な商品がある。)。

リスククラス(RC)とは,R&I(株式会社格付投資情報センター)が,中立・公正な立場から投資信託(ファンド)のリスクの大きさを格付けしたもので,リスクの小さい順にRC1からRC5までの5段階に分け,下記に示す過去の基準価額の変動リスク(基準価額の標準偏差:R&I定量評価では「安定性」と呼称)を基に運用方針等を加味して,R&Iのアナリストが最終的に個別ファンドごとに分類の判断を行ったものである。

RC1:安定した利回りを目標として運用するファンド(基準価額の変動が極めて小さいファンド)

RC2:価格変動リスクが5%以下(基準価額の変動が小さいファンド)

RC3:価格変動リスクが5%超15%以下(基準価額の変動が中程度のファンド)

RC4:価格変動リスクが15%超30%以下(基準価額の変動が大きいファンド)

RC5:価格変動リスクが30%超(基準価額の変動が極めて大きいファンド)

(注1)価格変動リスク…月間収益率の標準偏差を年率換算した数値

(注2)MMF及びMRF,中期国債ファンドはいずれもRC1に分類される。

(甲共33,共34の1ないし9)

(3)  Bの破産申立て

Bは,平成23年12月28日付けで,当裁判所に対し,破産手続開始及び免責許可を申し立て,同手続中において,「不正発覚」により被告を退職した旨陳述し,また,不正の概要につき,要旨,夫の収入が低かったため,被告の証券外務員としての顧客から「個人的に投資資金を預かって生活費に充て」るようになり,その後,「すべての取引客から『社内限定の投資口』がある」と虚偽を述べて資金を預かったり,顧客に返却すべき売却代金を返さなかったりして,総額8000万円程度の資金流用・横領を行い,自宅のリフォーム等に費消していたところ,平成22年末に一部顧客が被告を訪れて不正が発覚した旨陳述した(甲共1)。

同手続において,破産管財人は,平成24年4月18日受付の書面をもって,免責不許可事由の調査の結果,Bが12名の顧客に対し「社員と上客向けの儲かる商品がある」などの虚偽の事実を申し述べて顧客から金銭を預かり自己の用に供した旨を認定し,裁量免責が相当でない旨の意見を述べていた(甲共2)。

(甲共1,2)

2  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  第1事件原告らに係る投資取引損害

(原告らの主張)

ア 被告社員Bの知識・能力の欠缺

本件は,いわゆる通常の投資被害事案ではなく,当時被告社員(外務員)であったBが,自らの歩合給獲得のため顧客の属性又は意向を全く考慮しない商品について利益のみを強調して契約を取りつけて,原告らに金銭を拠出させたものである。

(ア) 総合取引申込書の記載

Bは,第1事件原告らに対し,総合取引申込書をそれぞれ交付しており(乙1,乙6,乙14),同申込書は被告との取引開始に当たって最初に作成される書面であるにもかかわらず,同申込書の作成意義についてすら理解していなかった。すなわち,Bは,同申込書の「投資経験」,「資金の性格」,「投資意向」,「年収」及び「金融資産」の各欄について,「資産」の欄について「余り気にしていなかった」(証人B・70頁)とか,「投資経験」の記載を必要とする理由について,「理由とかって,それはわかりません」(証人B・83頁)と述べるなど,記載の必要性を認識していなかった。加えて,「投資意向」について,Bは,上記原告らはいずれも「安定志向」であったと供述する一方で,原告X1については「値上がり益重視」,原告X2については「安定重視」,原告X3については「利回り重視」といった意向と異なる欄にチェックを付しており,総合取引申込書の契約者の属性確認機能が全く果たされない帰結を招いた。

(イ) 目論見書等の説明

Bは,第1事件原告らに対する目論見書の説明について,「自分はしませんけど,組み入れのものぐらいですかね。あと読んでくださいと言って」(証人B・65頁)などと,ほぼ説明をせずに目論見書を交付したことや,「全部なんてわからないです」(証人B・86頁)などとB自身が目論見書を理解できていないことを自認している。

(ウ) 商品・投資の仕組み自体についての無理解

Bは,第1事件原告らに対し,投資商品を説明するに当たり,諸々のリスクについて説明した旨述べるが,「カントリー」,「為替」,「流動性」,「信用」等の名称は尋問中で挙げるものの,その内容を問われると明確な説明をすることができず,リスクについて十分な理解ができていない。なお,Bは,原告X1に対しては,為替リスクとか流動性リスクという言葉を出しただけであることを自認しており(証人B・77頁),リスクの内容について説明していないことは争いようがない。

その他,Bは,尋問中で,「大型株」と「小型株」の区別が付いておらず,「インフラ」の意味や「天然資源株」についてイメージが浮かばないとか,RC5といった非常にリスクの高い「フィデリティ・日本小型株・ファンド」について,「ミドル・リスク」であるとの認識を有していた(証人B・121頁)など,個々の商品がどの程度のリスクであるのか理解できていなかったことは明白である。

(エ) 被告の会社としての教育体制の不存在等

Bは,上述のとおり,外務員として備えるべき能力を何一つ有していなかったにもかかわらず,被告の社内に数十年もの長きにわたって在籍し,顧客に対する勧誘を行っていた。

かかる事情に照らせば,被告には,外務員に対し全く教育を行っておらず,仮に教育を行っていたとしても何の効も奏していなかったこと,さらには,知識のない外務員を営業から外すチェック体制が存在しなかったなどの問題がある。

また,Bは,顧客に提供する商品の選定は,Bの上司が主として行い,個々の顧客の属性を大して見ずに,そのときのテーマ(会社として売りたい商品)により商品を顧客に勧めていた旨証言しているのであり(証人B・64頁,66頁),被告が外務員に対する教育を怠っていたことの表れといえる。

(オ) 書面の不交付

被告は,Bが第1事件原告らに対し,パンフレットや目論見書等の書類を交付した旨主張しているが,原告X4を含む全ての原告らが,一貫して書面の交付を受けていない旨述べており,原告らの供述こそ真実である。

なお,目論見書受領書は,押印を不要とするものであり,単に署名のみを求められているものであって,原告らの筆跡を真似て署名することは極めて容易である。殊に,原告X1が署名したとされる乙2の3の筆跡は乙1の筆跡と対照すると,大きさや形が写し取ったかのように同一となっており,極めて不自然であって,書類の偽造歴のあるB(甲共3の4)が偽造することは造作もないことであったといえる。

イ 原告X1について

(ア) 原告X1は,本件X1取引当時,●●●店でパートとして年収200万円未満程度であった59歳の女性であり,同取引開始以前,現物株をはじめとした投資取引の経験を全く有していなかった。

(イ) 原告X1とBは,原告X1が勤務していた●●●店をBが利用していたことから知り合い,平成17年12月頃,Bは,原告X1に対し,「毎月何万も配当もあるし,満期にはちゃんと元本が返ってくる。」などと投資を勧誘した。

原告X1は,具体的に何に投資するかは認識しないまま,Bに対し200万円を預けることとしたが,その際,Bからは,パンフレットや目論見書等は交付されなかった(なお,乙2の3の原告X1名下の署名の筆跡は,乙1の原告X1の自署をなぞって,Bが記載した可能性が極めて高い。)。

また,リスクの説明等がなかったことは上述のとおりである。

(ウ) その後,Bは,平成21年8月30日付けの元本保証書(甲A1)を,原告X1に交付したことを自認しているが,かかる書面を交付したのは,本件X1取引開始当時にBが元本保証の勧誘を行っていたからに他ならない。

(エ) 原告X1の拠出金原資は夫の退職金等の必要資金であり,かつ,最初に購入した商品は超ハイリスク商品といえるRC5の「フィデリティ・日本小型株・ファンド」であり,投資経験の全くない者が手始めに購入するような商品では決してない。その後も,RC4,5の高リスク商品を勧めるなど(別紙1,4),Bは,原告X1の実際の投資意向が「安定志向」であったことを認めながら,自ら乙1にはこれと異なる記載をした(その他の乙1下段の記載も同様)ことを認めており,適合性原則に反した勧誘であったことは明らかである。

(オ) 以上によれば,Bは,原告X1に対し,適合性原則に反し,又は,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X1取引を行わせ,もって,原告X1に,取引損害751万3924円を負わせたものである。

ウ 原告X2について

(ア) 原告X2は,本件X2取引当時,●●●においてパート販売員の仕事をして収入を得ていた55歳の女性であり,同取引開始以前,現物株をはじめとした投資取引の経験を全く有していなかった。

(イ) 原告X2とBは,平成17年6月頃,原告X2の勤務していた●●●にBが客として訪れたことから知り合い,同年12月,Bは,原告X2に対し,「預けたのはみんなちゃんと戻ってくるんだから,配当が良いだけ銀行なんかよりましじゃない。元本は保証されてるんだから。」などと,繰り返し投資を勧誘した。

原告X2は,元本が戻ってくるのであれば問題ないと思うに至り,総合取引申込書(乙6)に署名・押印して,同月7日,1000万円を,同月12日に1000万円を,平成18年1月27日に500万円を,平成20年9月29日に100万円を,平成22年3月25日に692万円を,それぞれ商品購入代金として,被告に支払った。その際,原告X2は,Bから平成22年3月25日に購入した「ラサール・グローバルREITファンド(毎月分配型)」について毎月配当があるなどの不十分な説明を受けたほかは,具体的な商品の説明はなく,パンフレットや目論見書等の交付も受けなかった(なお,乙7の2,乙8の3,乙9の3,乙10の4,乙11の3,乙12の3,乙13の5の目論見書受領書について,原告X2は見たことがない。)。

また,リスクの説明等がなかったことは上述のとおりであり,Bの証言を前提としても,投資信託の説明として,「小口から買い付けられるということ」,「運用会社が運用するというもの」及び「上がったり下がったりがあるので,元本は保証はされていません」(証人B・10,17,22,82頁)といった程度の説明しかしていないことを自認している。個別の商品についても,収益率が1期に30%程度下がることもある「JF小型株オープン」(乙7の1・19頁:なおRC5)についてその点を説明しておらず(証人B・88頁),「DKAライジング日本株ファンド」(RC4)について「龍のごとく株価が上がる」,「分配金も出ますよ」などと(証人B・22,93頁),断定的判断を提供したことを,B自身が認めている。

(ウ) その後,被告から,原告X2に対し,取引報告書(乙50の1ないし28)が送付されたが,原告X2は,詳細な内容は分からず,金額が減っていることをBに質したが,Bは「満期になれば元本は返ってくるから大丈夫よ。」などと回答したため,原告X2も安心し,それ以上の問い合わせや確認をしなかった。

また,被告は,Bが原告X2に対し説明を果たしていた証拠として電話記録(乙77の2,乙79の2,乙81)を提出するが,前後の脈絡が不明である上,却って説明不足若しくは誤教示又は断定的判断の提供が含まれており,Bの義務違反を基礎付けるものとなっている。

(エ) 原告X2は,投資経験もなく,亡夫の死亡保険金や亡夫から相続した預貯金を使いながら生活しており,リスクの高い取引を好んでいなかったにもかかわらず(乙6の「安定重視」),被告外務員であるBは,RC4,RC5の高リスク商品や危険性の高いノックイン仕組債など(別紙2,4),顧客の適合性に配慮せずに,被告の会社のテーマにあった商品を買わせるなど,適合性原則に反する勧誘を行っていたことは明らかである。

(オ) 以上によれば,Bは,原告X2に対し,適合性原則に反し,又は,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X2取引を行わせ,もって,原告X2に,別紙2のとおり483万8306円の取引損害を負わせたものである。

エ 原告X3について

(ア) 原告X3は,本件X3取引当時,●●●においてパートとして収入を得ていた当時58歳の女性であり,同取引開始の22,3年前くらいに●●●に勤務していた際に,店長に300万円程度を預けて店長に投資商品を決めてもらう方法により株取引を経験したほかは,投資取引の経験を全く有していなかった。なお,上記唯一の株取引の際に投資金が約半分になってしまった。

(イ) 原告X3とBは,平成17年6月頃,Bが原告X3の勤務していた●●●にBが客として訪れたことから知り合い,平成18年3月頃,Bは,株取引を断る原告X3に対し,「100万円預けとけば,1ヶ月で1万円くらいの配当がつく。」,「最初にお金を出したって,最後には全部戻ってくるんだからいいじゃない。」などと,繰り返し投資を勧誘した。

原告X3は,元本が戻ってくるのであれば問題ないと思うに至り,具体的な購入商品の説明はなかったもののBを信用し,総合取引申込書(乙14)に署名・押印して,別紙3の本件X3取引を開始した。

その際,原告X3は,Bから「投資信託」との言葉を聞いたこともなく,パンフレット等の交付も受けなかった(なお,乙15の4の目論見書受領書について,原告X3は見たことがない。)。

また,リスクの説明等がなかったことは上述のとおりであり,かつ,B自身,原告X3に対し過大な取引を勧めたこと(証人B・126頁)を認め,電話録音においても,平成19年6月22日には商品名を言わないまま買い付けを行い(乙78の2の1),同年10月11日には値段が上がるなどの断定的判断の提供をし(乙78の2の2),同月29日の電話において買えるだけ,買える範囲で買っておく旨述べるなど(乙78の2の3),危険性の高い商品にもかかわらず取引量の制限に全く配慮しておらず,●●●

(ウ) その後,被告から,原告X3に対し,取引報告書(乙51の1ないし48)が送付されたが,原告X3は,詳細な内容は分からず,金額が減っていることをBに質したが,Bは「途中で解約するとマイナスのままだけど,ずっと持っておけば最後,入れたお金は全部戻ってくるから平気。」などと述べた。

(エ) 原告X3は,パート収入のみで(乙14の「年収」欄に「300万円から700万円」の欄にチェックがあるが虚偽である。),投資原資は保険解約返戻金や親から贈与された金銭であった。

そして,上記(ア)の唯一の投資経験において,原告X3自身は,株の購入方法・売却方法も知らないまま金銭を拠出していたというものであって,元本割れするような金融商品には全く興味がなかった。

原告X3は,かように安定志向であったにもかかわらず,当時被告外務員であったBは,RC4,RC5の高リスク商品や仕組債など(別紙3,4),顧客の適合性に配慮せずに,被告の会社のテーマにあった商品を買わせるなど,適合性原則に反する勧誘を行っていたことは明らかである。

(オ) 以上によれば,Bは,原告X3に対し,適合性原則に反し,又は,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X3取引を行わせ,もって,原告X3に,別紙3のとおり1168万8805円の取引損害を負わせたものである。

(被告の主張)

ア 総論(適合性原則違反及び説明義務違反の不存在)

(ア) 説明義務

Bは,第1事件原告らに対し,各商品の買付けの勧誘に当たり,必ずパンフレット及び目論見書を交付した上で,元本保証されないことを含め,各商品の内容・特性,リスク等を十分に説明し,第1事件原告らもこれらを十分に理解していた(勧誘面談時に販売用資料及び目論見書の交付と併せ,商品の内容・特性,リスク等を説明し,その後,別日に架電して買付けの申込みを受けることが多かった。)。なお,第1事件原告らが購入した商品のほとんどは,投資顧問会社などが運用する初心者向けの商品といえる株式投資信託(投資信託約款で定める投資対象に株式を含むものをいう。)であり,主要な投資信託の基準価額はインターネット上などで誰でもいつでも確認することができるものである。

Bは,第1事件原告らに対し,投資対象資産,価格変動リスク及び手数料等のコストの説明も行っており,原告らが主張するような断定的判断の提供も行っていない(乙71,76ないし79〈枝番含む。〉)。また,目論見書受領書の存在及び被告からの取引残高報告書の送付の事実によっても,第1事件原告らが,購入した商品名及び損益の発生を認識していたことは明らかである。なお,第1事件原告らが目論見書を交付されたことが一度もなく,署名したことがない旨供述していることは目論見書受領書以外の証拠(乙53,乙65ないし70,乙71の2,乙76の2の4,乙80ないし82)に照らせば完全な虚偽であり,第1事件原告らの態度は極めて不誠実である。

(イ) 適合性原則

原告らは,投資信託のリスク分類としてRC分類をあげている。同分類は,投資信託の中においても変動幅の大小があることを示すものであるが,金融商品全体の中におけるリスク分類ではなく,株式投資信託は,金融商品の中では比較的安定的な商品であり,決して複雑な仕組みではない。

第1事件原告らは,いずれも●●●や●●●店の店員をするなどの社会経験を有し,また,株式や投資に関しても一定の知識を有していた。さらに,第1事件原告らは,いずれも自らの収入と相応の資産を保有し,利益を得るべく余裕資金をもって運用する目的を有し,複数回にわたり投資信託を買い付けることにより投資信託に関する知識を増やし経験を重ねていった(乙1,6,14)。

(ウ) 小括

被告は,各商品取引の後には,必ず取引報告書を第1事件原告らに宛てて送付しているのであり,Bも,取引途中において第1事件原告らと相場状況や保有商品の価格等につき会話していた。

第1事件原告らが各取引によって損失を被ったとしても自己責任によるものであり,その過失を十分斟酌すれば,損害は発生していないというべきである。

なお,被告の調査の結果,Bが顧客に対し不適切な行為を行い顧客に損失を与えたケースが複数件に及ぶことが判明しているが,顧客に対する行為の態様及び結果はそれぞれ異なっており,同様の被害に遭った者が10名を超えるとの事実はない。Bが第1事件原告らに行った行為により被告が損害賠償責任を負うことはない。

イ 本件X1取引について

Bは,原告X1に対し,平成21年8月30日付け書面(甲A1)を交付したとされ,同書面には,元本保証をする旨の記載があるが,商品買付けの勧誘に当たって交付されたものではない。同書面は,事後的に,原告X1から迫られて,Bがやむなく元本保証をする書面を交付したものであって,何ら証拠価値はない(なお,元本保証自体公序良俗に反し無効である。)。

原告X1が買い付けた商品はいずれも株式投資信託であり,決して複雑な商品ではない。そして,原告X1は,本件X1取引時に収入を得て相応の社会経験を有し,日経平均株価が上下するものであることを知識として有し,社会経験豊富な夫と相談して同取引を行っていた(原告X1・8,13,14,15,23,25,27及び34頁)。

また,同取引開始当時,約1000万円から2000万円程度の余裕資金(夫との合算)を有し,取引中定期的に被告から取引残高報告書(乙49の1ないし25)が送付されて,損益の発生を確認し,その上で損失挽回のため損切りして別の投資信託を購入していたのであるから(原告X1・25,27及び39頁),各商品の買付けに当たり十分な収入・資産を保有していた。

ウ 本件X2取引について

原告X2が買い付けた商品のほとんどは株式投資信託であり,決して複雑な商品ではない。1回だけ日経平均株価連動債を購入しているが,100万円にすぎず,かつ,十分に投資経験をした後に買い付けていることからすれば,適合性原則違反には当たらない。

そして,原告X2は,本件X2取引時に収入を得て相応の社会経験を有し,日経平均株価が上下するものであることを知識として有し(原告X2・10及び20頁),同取引開始当時,約6300万円程度と推認される余裕資金(乙6,原告X2・17頁)を有し,取引中定期的に被告から取引残高報告書(乙50の1ないし28)が送付されて,損益の発生を確認し,その上で損失挽回のため損切りして取引を継続していたのであるから(原告X2・35ないし37頁),各商品の買付けに当たり十分な収入・資産を保有していた。

エ 本件X3取引について

原告X3は極めて多数の商品を買い付けているが,そのほとんどは株式投資信託であり,決して複雑な商品ではない。ほかに,株式,外国債券,日経平均株価連動債を購入しているが,原告X3は本件X3取引開始前に,元本保証のない株式取引経験を有して損失も経験していた上,株式投資信託以外の商品は十分に投資経験をした後に買い付けていることからすれば,適合性原則違反には当たらない。

そして,原告X3は,本件X3取引時に収入を得て相応の社会経験を有する上,過去には不動産売買等を通じた経済取引に接する●●●事務に従事していたこともある。加えて,原告X3は,上記の過去の株式取引経験において投下資金が約半分に下がった経験をしており(原告X3・14及び15頁),同取引開始当時,約2000万円ないし3000万円程度の余裕資金(乙14,原告X3・23頁)を有し,取引中定期的に被告から取引残高報告書(乙51の1ないし48)が送付されて,損益の発生を確認し,平成21年11月10日にも投資信託に損失が発生している旨述べた上で(乙76の2の1),なお取引を継続していたのであるから,各商品の買付けに当たり十分な収入・資産を保有していた。

さらに,上記アのとおり,Bは,本件X3取引において商品の内容・特性,リスク等を説明しているが,加えて,被告従業員であるC(以下「C」という。)は,原告X3が平成21年1月29日に被告池袋支店に来店してノルウェー地方金融公社2011年2月3日満期南アフリカランド建債券に興味を示した後,Bに代わって販売用資料及び目論見書を交付し,同債券の内容・特性,リスク等を説明し,成約した(乙31の1ないし3,乙43,乙74)。

また,Cは,平成22年12月28日に原告X3が被告池袋支店を来訪した際も対応し,豪ドル建ての商品を紹介してほしいとの原告X3の意向を踏まえ,販売用資料及び目論見書を交付し,DWS欧州ハイ・イールド債券ファンド(豪ドルコース)の内容・特性,リスク等を説明し,成約した(乙43,乙53,乙54の1・2,乙73の1・2,乙74)。

(2)  原告X2原告X3及び原告X4からの金銭詐取

(原告らの主張)

ア 原告X2からの1836万5545円の詐取

Bは,平成18年10月頃,原告X2に対し,別紙2の本件X2取引が値下がりしているとして解約を勧め,Bは被告に対する退職金がない代わりに利率の高い社内預金制度があり,そこに金銭を預け入れればBが定年となる平成23年6月には高利息とともに元本が返還されるとして,Bに資金を預けるよう持ち掛けた。

原告X2は,Bの言を信じ,平成18年10月に,2回に分けて合計1376万5545円を,被告の「社内預金」(以下「架空社内預金」という。)に預けるべくBに交付した。

Bは,上記金銭交付を受け,原告X2に対し,「一,投資代金13765545円お預かり致しました」と記載した領収書(甲B1)を交付した。

さらに,原告X2は,平成22年2月,Bから本件X2取引を解約して架空社内預金に預けるよう勧められたため,Bの言うままに本件X2取引を解約してその金銭のうち460万円をBに交付した。

Bは,上記金銭交付を受け,原告X2に対し,「四百六十万円お預かり致しました」と記載した領収書(甲B2)を交付した。

イ 原告X3からの750万円の詐取

Bは,平成18年6月下旬頃,原告X3に対し,Bは被告からボーナスが出ない代わりに,利率の高い社内預金制度があり,そこに金銭を預け入れればBの退職時に高利息とともに元本が返還されるとして,Bに資金を預けるよう持ち掛けた。

原告X3は,Bの言を信じ,平成18年7月4日に300万円を交付した。

Bは,上記金銭交付を受け,原告X3に対し,領収書(甲C4)を交付した。

原告X3は,その後も追加の架空社内預金を勧められたことから,平成19年4月5日に100万円を,同年7月24日に100万円を,同年10月26日に100万円を,平成20年4月28日に50万円を,平成21年4月20日に100万円を,架空社内預金に預けるべく,順次Bに交付した(甲C2の3,甲C5,甲C7,原告X3)。

ウ 原告X4からの500万円の詐取

原告X4とBは,平成22年7月7日,原告X4の知人宅で知り合った。

Bは,同月9日,投資勧誘のため原告X4宅を訪問し,原告X4に対し,同人が別会社に掛けていた年金保険を中途解約するよう勧め,中途解約による損失の穴埋めとして,「補填の意味で,会社の私の割当分を使ってよ。とても利率のいいもので,500万円の出資で,3ヶ月で50万円くらい利息が付く」などとして,被告の投資商品を購入するよう持ち掛けた(「社内預金」という文言は用いていない。)。

原告X4は,Bを介して被告の投資商品を購入するつもりで,同月15月,500万円をBに交付し,被告宛の総合取引申込書(甲D2)を作成した。

Bは,上記金銭交付を受け,原告X4に対し,預り証(甲D3)及びBの名刺(甲D1)を交付した。

エ 上記各金銭詐取の業務執行性(被告の使用者責任)

Bが行った上記アないしウの各詐取行為は,架空社内預金又は被告との投資商品購入金名下に行われたものであるが,Bが大手証券会社である被告の外務員として,大手証券会社の信用を奇貨として,外形上職務権限内と認められる態様で行われたものである。

そして,原告X2,原告X3及び原告X4は,いずれも,故意に準ずる程度の注意の欠陥(悪意又は重過失)はなく,証券会社の従業員としての立場を信用して金銭を預けたのであるから,被告は,Bの上記金銭詐取につき,使用者責任を負うというべきである。

被告は,上記原告らに悪意又は重過失があった旨主張するが,被告の社内預金制度の有無は社外の者が容易に知ることができるものではなく,殊に,被告(ただし,吸収合併前のY1株式会社)は資本金約800億円・本支店56を有し,取扱業務も多種多様な日本有数の証券会社であったから,社外の者が業務範囲内か範囲外かを判別することは極めて困難といえる。また,Bは少なくとも13名の顧客等から金銭を詐取しているところ,かかる多人数が被告の業務執行の範囲外と認識して金員を預けることはあり得ない。なお,被告は,上記原告ら以外の詐取被害者には,詐取金の8割を和解金として支払っている(甲共3の1,甲共3の3,甲共3の4)。

(被告の主張)

ア 事実経過

(ア) 原告X2は,平成18年10月頃,Bに対し,B名義の被告「社内預金」(架空)に預けるつもりで,被告に内密で現金約1376万円をBに交付した(甲B1)。また,原告X2は,Bから詳細な説明を受けなかったものの,前同様に平成22年2月頃,被告に内密で現金約460万円をBに交付した(甲B2)。

なお,原告X2は,被告に対し,「社内預金」の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,「社内預金」制度の裏付資料や交付金の利息や残金を問い合わせたこともない。

(イ) 原告X3は,Bから被告に「社内預金」(架空)の制度がある旨説明され,Bに対し,B名義の被告「社内預金」に預けるつもりで,被告に内密で現金をBに交付した(なお,現金預け入れの時期及び総額について,原告X3は甲C4,6を提出するが,事後的にまとめて記載された可能性の高い不自然なものであり,信用性を欠く。また,甲C2の1の通帳の書込みも同様である。)。

なお,原告X3は,被告に対し,「社内預金」の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,「社内預金」制度の裏付資料や交付金の利息や残金を問い合わせたこともない。

(ウ) 原告X4は,平成22年7月15日頃,Bから,従業員に特別な「積立て」がある旨説明を受け,B名義の「積立て」(架空)に預けるつもりで,被告に内密で現金500万円をBに交付した(乙72の2の4,甲D1)。

なお,原告X4は,被告に対し,「積立て」の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,「積立て」制度の裏付資料を求めたこともない。

イ 「社内預金」及び「積立て」名目での金銭詐取が被告の事業の執行と関連がないこと

(ア) 民法715条1項本文の「事業」とは,判例上,本来の事業に対して付随的な業務を含み,本来の事業と密接に関連する行為を含むと解されているが,使用者の本来業務と関連性のない行為まで含むものではなく,使用者の本来の事業(対外的業務)との関連性が必要であり,いわゆる外形理論を用いる場合でも同様に解釈すべきである。

しかるに,証券会社において「預金」業務は本来業務とならないことから,「社内預金」又は「積立て」を「預金」と誤信した場合でも上記要件を欠くこととなる。

次に,従業員のための「社内預金」又は「積立て」としての現金受入行為は,仮にかかる制度が被告に存するとしても,それは従業員の福利厚生のための貯蓄という性質を有し,かつ,従業員だけに利用が認められるという対内的制度であって,本来の事業(対外的業務)には当たらない。

(イ) Bが被告において扱う業務は,金融商品取引の勧誘行為である。

Bが,原告X2,原告X3及び原告X4から「社内預金」又は「積立て」と称して金銭の交付を受けた行為は,証券会社従業員として不適切な行為であるが,これらの行為は被告の従業員の地位とは無関係であり,かつ,被告の書類や施設を一切使用していないものである。

被告には,「社内預金」又は「積立て」制度は存在せず,Bが,「保証金へ入れる」とか「追い証が発生する」などの言辞を用いたなどの事実もなく,あたかも証券業務に付随する行為であるかのように仮装したということもない。

原告X2,原告X3及び原告X4は,利息を得る目的で,個人的にBとの間で返還約束をしていたのであって,かかる同原告らの認識は,本件発覚直後の原告X2や原告X4と,被告従業員Cとの会話における言動から明らかである。

加えて,Bが原告X2,原告X3及び原告X4に交付した書面(甲B1,2,甲C4,甲D3)は,いずれもB個人名義で現金を預かる形式となっており,かつ,原告らが本件発覚の事後にも被告に対し確認・調査をしておらず,原告X4は個人的にBから弁済を受けていたなどの事情に照らせば,上記原告らとBは,個人的に返還約束の下に金銭を交付していたのであって,使用者たる被告の本来の事業と相容れないし,外見上も被用者の職務の範囲内に属さない。

ウ 原告らの悪意又は重過失

(ア) また,百歩譲ってBの行為が被告の事業の執行についてなされていたとみられるとしても,原告X2,原告X3及び原告X4は,事業の執行についてなされたものでないことについて,悪意又は重過失がある。なお,ここでいう悪意又は重過失の対象は,上記イで述べた「事業」と同様に,使用者の本来の事業(対外的業務)と関連性のない行為は含まれないというべきである。

上述のとおり,「社内預金」又は「積立て」は,被告の本来の事業(対外的業務)には含まれない。

(イ) そして,原告X2,原告X3及び原告X4は,被告を欺いて,被告の「社内預金」又は「積立て」なる制度のBの名義を借名して利益を上げようとしたというのである。そうすると,原告X2,原告X3及び原告X4の認識は,被告の対内的制度であり従業員しか利用できないものであり,第三者が従業員名義で預け入れることができないことを前提として,これが正規の取引ではないことを十分認識した上で,Bとの従来の誼から,便宜及び利益を図ってもらえるものと誤信して,B個人に金銭を交付したものである。

殊に,原告X2及び原告X3は,被告との投資信託取引を経験して目論見書あるいは取引報告書などの受領・送付を受けて被告との証券取引の手続を知っていたのであるから,「社内預金」名目での金銭の授受が被告の本来の業務と関連性がないことを十分に認識していた。

さらに,原告X3は,50万円につき20万円,100万円につき40万円という通常では考えられない高利回りの約束があったと供述しており(原告X3・37頁),かかる説明を安易に信じたこともBの職務権限内に含まれない個人的取引との認識があったこと(少なくとも重過失があったこと)を裏付けるものである。

エ 結論

以上によれば,被告は,Bの金銭詐取について,使用者責任を負わない。

(3)  過失相殺の相当性及び原告らの損害額(上記(1),(2)共通)

(原告らの主張)

ア 原告X1の損害額

原告X1は,上記(1)における被告の債務不履行により,上記(1)イの取引損害751万3924円を被り,これを請求するための弁護士費用相当損害金は75万1000円を下ることはない。

よって,被告は,原告X1に対し,債務不履行に基づく損害賠償として,上記合計826万4924円及びこれに対する請求の日の翌日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

イ 原告X2の損害額

原告X2は,上記(1)の被告の債務不履行により,上記(1)ウの取引損害483万8306円を,上記(2)アの詐取金のうち1629万2891円(詐取金1836万5545円からBの破産手続で配当を受けた207万2654円を控除した残額),それぞれ損害として被り,これらを請求するための弁護士費用相当損害金は232万0385円を下ることはない。

よって,被告は,原告X2に対し,債務不履行及び不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,2345万1582円及びこれに対する請求の日の翌日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

ウ 原告X3の損害額

原告X3は,上記(1)の被告の債務不履行により,上記(1)エの取引損害1168万8805円を,上記(2)イの詐取金750万円を,それぞれ損害として被り,これらを請求するための弁護士費用相当損害金は191万8880円を下ることはない。

よって,被告は,原告X3に対し,債務不履行及び不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,2110万7685円及びこれに対する請求の日の翌日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

エ 原告X4の損害額

原告X4は,上記(2)ウの詐取金500万円から,Bから平成22年10月29日及び平成23年1月12日に返金を受けた20万円及びBの破産手続で配当を受けた54万1707円を控除した425万8293円を損害として被り,これを請求するための弁護士費用相当損害金は48万円を下ることはない。

よって,被告は,原告X4に対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として,473万8293円及びこれに対する請求の日の翌日である平成24年7月25日(第2事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

オ 過失相殺について

本件は,被告の外務員であるBが,自身の家のリフォーム費用等に充てるため金銭を詐取したという事案であり悪質性に鑑みると過失相殺をすることは却って公平に反する。

(被告の主張)

第1事件原告らと被告の取引経過及び損益は別紙1ないし3のとおりである。

しかしながら,被告は,上記(1),(2)で主張したとおり,原告らに対し賠償する責めを負わない。

なお,仮に何らかの損害が発生した場合でも,上記(1),(2)で主張した原告らの事情については,過失相殺として十分に斟酌されるべきである。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(第1事件原告らに係る投資取引損害)

(1)  原告X1について

ア 事実認定

前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件X1取引に関し,以下の事実が認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない(なお,必要に応じて事実認定の補足説明を付す。)。

(ア) 本件X1取引について

a 原告X1の属性

原告X1は,前記前提事実(1)イのとおり,昭和21年○月○日生まれの女性であり,本件X1取引を開始した平成17年12月当時,59歳であった。

原告X1は,平成13年9月頃から現在まで●●●店でパートとして勤務しており,平成17年12月当時の年収は300万円未満であり,金融資産は夫(D)の資産を含め1000万円以上2000万円未満を有していた(甲A2,乙1,原告X1)。

なお,原告X1は,夫を含め,本件X1取引開始前には投資経験を有していなかった(原告X1,証人B)。

b 本件X1取引

(a) 原告X1は,上記●●●店に客として訪れていたBと知り合い世間話等をするようになり,平成17年12月,Bは,原告X1に対し,株を含む投資を勧誘した。

Bは,同月13日,被告との間の総合取引申込書(乙1)を持参して上記●●●店を来訪し,同日,原告X1は,同申込書の氏名,住所,連絡先,勤務先,世帯主の欄に自ら記載した上で,右上の「お届出印」欄に同人名下の印章を押印した(原告X1,証人B)。その上で,Bは,同申込書の「ご投資経験について」欄について「なし」に,「主たるご資金の性格」欄について「余裕資金」に,「当初のご投資意向」欄について「値上がり益重視」に,「当初のご投資期間」欄について「短期」に,「ご年収および金融資産」欄について「年収300万円未満」及び「金融資産1000万円以上2000万円未満」に,それぞれチェックを付した(乙1,証人B:以下,総合取引申込書の上記各欄につき,それぞれ,「投資経験欄」,「資金性格欄」,「投資意向欄」,「投資期間欄」,「年収欄」及び「金融資産欄」とそれぞれ略称する。)。

(b) Bは,上記申込書の記載の際,原告X1に対し,投資信託商品である「フィデリティ・日本小型株・ファンド」を勧め,目論見書を交付し(乙2の3),原告X1は,別紙1のとおり,平成17年12月15日,200万円で同商品を買い付けた。

その後,原告X1は,Bの勧誘に基づき,その都度目論見書の交付を受け(乙3の2,乙4の5,乙5の4),さらに,取引経過につき被告から定期的に取引残高報告書の送付を受け損失の発生を認識した上で(乙49の1ないし25,乙65,原告X1),別紙1記載のとおり,平成18年1月11日に投資信託商品である「JF小型株オープン」を991万9295円で買い増すなど投資信託取引を継続し,平成23年4月1日の取引終了までの間に,751万4806円(別紙1)から取引期間中の分配金94円(乙59)を控除した751万4712円の取引損失が発生した。

〔上記(b)の補足説明〕

原告X1は,上記(b)につき,各買付商品の目論見書を見たことがなく,交付を受けたこともない旨主張又は供述する。しかしながら,原告X1が自署であると認める乙1の自署の筆跡と,乙2の3,乙3の2,乙4の5及び乙5の4の各目論見書受領書における原告X1署名の筆跡とを対照すれば,同人の自署であることは優に認められ(Bの偽造と解すべきような不自然な点は認められない。),さらに,乙65によれば被告から目論見書が直送されたこともあることから,何ら交付を受けたことがない旨の原告X1の供述はそもそも信用できない。

以上によれば,原告X1が各目論見書を商品買付けの都度交付されていたことが推認される。

(イ) Bの元本保証書面交付

Bは,平成21年8月末頃,原告X1からその頃までの本件X1取引の損失について責任を追及され(原告X1,証人B),同月30日付けで,「預り投資信託代金二千万円平成二十三年六月まで運用させていただきます。途中で値上りした時は解約します。最終的には元本保証することを約束致します。」と記載した書面(甲A1:以下「本件元本保証書面」という。)を原告X1に交付した。

なお,上記「二千万円」と記載されていたものが,1200万円に訂正されたような記載があるが,同部分の記載者は不明である(B証言16頁,原告X1・7,8頁)。

イ 検討(原告X1に係る投資取引損害)

原告X1は,上記のとおり投資経験のない50代女性であって,本件X1取引開始当時保有していた金融資産も2000万円未満であったところ,かかる顧客に対し,取引開始1か月以内に,投資信託という比較的分かり易い商品であるとはいえ,RC4又は5といった高リスク(別紙4)な金融商品を1000万円以上購入させていることは適合性原則に反する取引であったというほかない。

加えて,Bが,本件X1取引時に,パンフレットや目論見書を交付したことは上記認定のとおりであるが,交付資料のほか原告X1にいかなる説明をしたかは必ずしも明らかではない(原告X1の投資知識が欠如していることや上記事実認定の補足説明で述べた同人の供述の信用性の疑わしさも加味すると,原告X1の供述を前提とすることは相当ではない。)。しかしながら,後記(3)ア(イ)c(原告X3と被告側との電話での遣り取り)で認定した客観的な電話記録という証拠においても,Bは,顧客に対し,商品のリスクについて,一応リスクがある旨を形式的に伝えるものの,最終的には「お客さんにはちょっとわかんないですよ。」などとして詳細な説明を省いているケースが看取される上,証人Bの証言においても,形式的に「為替変動」,「カントリー」,「信用」,「流動性」などの文言を用いてリスクがある旨を抽象的に説明するものの,具体的にどの商品にはどの程度どのリスクがあるかという点に立ち入って説明できておらず,格付会社の商品格付についてすらいわゆるダブルAとトリプルAについて正解していなかったことが窺われ,およそ適正な説明義務を履行できていたとは解し難い。

その上,原告X1に対しては,上記ア(イ)で認定したとおり,公序良俗違反となる本件元本保証書面を安易に交付するなど,遵法していたとはおよそ解し難く,さらにいえば,同書面を交付しているということは従前から元本保証に近い言辞を弄し,値下がりすることはないとか損失が発生しないなどの断定的判断の提供をしていたと推認されるというべきである。なお,同書面の交付については,被告が主張するとおり,公序良俗に反するものであって,原告X1も一定の責任はあり,過失相殺等においてこれを考慮することは別論としても,より責任の大きいのは証券会社外務員であるBであることはいうまでもなく,かつ,本件が同書面に基づく請求でないこともまた明らかであるから,同書面を上記のごとき推認に供することは当然に許容される。

以上によれば,Bは,原告X1に対し,適合性原則に反し,又は,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X1取引を行わせたものとして,被告は,債務不履行又は不法行為(使用者責任:なお,争点(1)の第1事件原告らに係る投資取引損害につき,被告がBの使用者として責任を負うことは詳細に論ずるまでもない。)に基づき原告X1に発生した損害を賠償する責めを負う。

(2)  原告X2について

ア 事実認定

前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件X2取引に関し,以下の事実が認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない(なお,必要に応じて事実認定の補足説明を付す。)。

(ア) 本件X2取引について

a 原告X2の属性

原告X2は,前記前提事実(1)ウのとおり,昭和26年○月○日生まれの女性であり,本件X2取引を開始した平成17年12月当時,54歳であった。

原告X2は,平成9年に夫が亡くなった後,●●●で販売員として勤務するようになり,平成17年12月当時の年収は300万円未満であり,金融資産は3000万円以上5000万円未満程度有していた(甲B3,4,乙6,原告X2:平成25年1月17日当時3000万円程度の金融資産を保持している旨供述しており,これと別紙2の経過を併せると,当時の金融資産は概ね上記のとおりであったと認められる。)。

なお,原告X2は,本件X2取引開始前には投資経験を有していなかった(原告X2,証人B)。

b 本件X2取引

(a) 原告X2は,上記●●●に客として訪れていたBと知り合い,平成17年12月,Bは,原告X2に対し,投資を勧誘した。

Bは,同月5日,被告との間の総合取引申込書(乙6)を持参して上記●●●を来訪し,同日,原告X2は,同申込書の氏名,住所,連絡先,勤務先の欄を自ら記載した上で,右上の「お届出印」欄に同人名下の印章を押印した(証人B,弁論の全趣旨)。その上で,Bは,同申込書の投資経験欄について「なし」に,資金性格欄について「余裕資金」に,投資意向欄について「安定重視」に,投資期間欄について「中・長期」に,年収欄について「年収300万円未満」及び金融資産欄について「3000万円以上5000万円未満」に,それぞれチェックを付した(乙6,証人B)。

(b) Bは,上記申込書の記載の際,原告X2に対し,当時の被告のテーマ(当時被告として勧めていた商品)として,投資信託商品である「JF小型株オープン」を勧め,目論見書を交付し(乙7の2),原告X2は,別紙2のとおり,平成17年12月7日,1000万2926円で同商品を買い付けた(なお,同商品は平成18年1月5の売付決済までの間に172万4622円値上がりしている。)。

その後,原告X2は,Bの勧誘に基づき,その都度目論見書の交付を受け(乙8の3,乙9の3,乙10の4,乙11の4,乙12の4,乙13の5),さらに,取引経過につき被告から定期的に取引残高報告書の送付を受け損失の発生を認識した上で(乙50の1ないし48,乙66,原告X2),別紙2記載のとおり,平成17年12月12日に投資信託商品である「DKAライジング日本株ファンド」を1026万2500円で買い増すなど投資信託及び外国債券取引を継続し,平成23年4月11日の取引終了までの間に,606万6618円(別紙2)から取引期間中の分配金128万8510円(乙60)を控除した477万8108円の取引損失が発生した。

〔上記(b)の補足説明〕

原告X2は,上記(b)につき,各目論見書受領書の自署については概ね認める供述をしているものの,目論見書については交付を受けたことがない旨主張又は供述する。しかしながら,上記各目論見書受領書(乙7の2,乙8の3,乙9の3,乙10の4,乙11の4,乙12の4,乙13の5)の存在に加え,乙66によれば被告から目論見書が直送されたこともあることから,何ら交付を受けたことがない旨の原告X2の供述は信用性を欠く。

以上によれば,原告X2が各目論見書を商品買付けの都度交付されていたことが推認される。

(イ) 原告X2と被告側との電話での遣り取り

a Bは,平成19年12月26日午前10時06分及び午前10時16分頃,原告X2に架電し,別紙2のとおり同月27日に900万円で買い付けた「PCAインド株式ファンド」について,「900万くらい買えるのね。」などと買付けをすることと金額の最終確認を行い,原告X2も「はい。」と答えた。

Bは,その際,「(持参予定の書類を)書いて,また,配当が出るように戻しますので」などと原告X2に告げた(乙79の2の1・2)。

b Bは,平成22年4月15日午前9時39分頃,原告X2の携帯電話に架電し,同年3月25日に692万7285円(単価4902円の1370口)で買い付けた「ラサール・グローバルREITファンド」について説明し,「買ったときの単価より,利息の判定日が,基準価格が上がっていたんで,ちょっと1%取られているんですよ。で,その代わりもう5136円今日あがっているので(元金が)10万円ぐらい増えているんですよ。」(括弧書きは引用者が付加)などと説明し,原告X2は,同説明に対し,「はい」,「ええ」,「わかりました」などと相槌を打った(乙77の2の1)。

c 原告X2は,平成22年9月9日,被告池袋支店に架電し,コンサルタントマネージャーをしていたC(乙74)が対応した。

Cは,原告X2に対し,Bが長期入院し,平成23年6月で定年退職の予定であるがそれまでに復帰する見通しがないことを告げ,本件X2取引の残高に疑問点がないか等を尋ねた。これに対し,原告X2は,「あれに送られてきている残債については,全然大丈夫です。」と,同取引そのものについては特段の問題がない旨を回答した。他方で,B個人と連絡が取れないと困った事態が生じる旨を仄めかしたが,後記認定の詐取金のことはCに告げなかった(乙77の2の2)。

イ 検討(原告X2に係る投資取引損害)

原告X2は,上記のとおり投資経験のない50代女性であって,本件X2取引開始当時保有していた金融資産が高額であったことを考慮しても,かかる顧客に対し,取引開始1か月以内に,投資信託という比較的分かり易い商品であるとはいえ,RC4又は5といった高リスク(別紙4)な金融商品を2000万円以上購入させていることは適合性原則に反する取引であったというほかない。

加えて,Bが,本件X2取引時に,パンフレットや目論見書を交付したことは上記認定のとおりであるが,説明義務を懈怠し又は断定的判断を提供していたことが強く推認されることは,上記(1)イで原告X1に関し,説示したのと同様である。さらに,上記ア(イ)a,bにおけるBと原告X2の電話での遣り取りを具にみても,原告X2は,Bの勧めのままに相槌を打って了承していることが多く,かかる遣り取りを踏まえてもパンフレットや目論見書を形式的に交付していたほかは概ねBが被告の売り出したい商品を勧め,原告X2がBを信用してそれに応ずるという取引が常態化していたことを裏付けるものといえる。

以上によれば,Bは,原告X2に対し,適合性原則に反し,又は,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X2取引を行わせたものとして,被告は,債務不履行又は不法行為に基づき原告X2に発生した損害を賠償する責めを負う。

(3)  原告X3について

ア 事実認定

前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件X3取引に関し,以下の事実が認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない(なお,必要に応じて事実認定の補足説明を付す。)。

(ア) 本件X3取引について

a 原告X3の属性

原告X3は,前記前提事実(1)エのとおり,昭和24年○月○日生まれの女性であり,本件X3取引を開始した平成18年6月当時,57歳であった。

原告X3は,昭和50年代後半から平成10年頃までの間●●●で勤務していたが,平成17年頃は●●●で雇われ店長をするようになり,平成18年6月当時の年収は300万円以上700万円未満であり,金融資産は2000万円以上3000万円未満程度有していた(甲C3,乙14,原告X3,弁論の全趣旨)。

原告X3は,本件X3取引開始前,平成10年まで●●●勤めをしていた際(平成の始め頃),同社の店長に300万円ほど預けて株取引を行い,半額ほどの損失を出したことがあったが,その余の投資経験はない(甲C3,原告X3)。

b 本件X3取引

(a) 原告X3は,上記●●●に客として訪れていたBと知り合い,平成18年3月頃,Bは,原告X3に対し,投資を勧誘した。

Bは,平成18年6月13日,被告との間の総合取引申込書(乙14)を持参して上記●●●を来訪し,同日,原告X3は,同申込書の氏名,住所,連絡先,勤務先等の欄に自ら記載した上で,右上の「お届出印」欄に同人名下の印章を押印した(原告X3,証人B)。その上で,Bは,同申込書の投資経験欄について「投資信託」に,資金性格欄について「余裕資金」に,投資意向欄について「利回り重視」に,投資期間欄について「短期」に,年収欄について「年収300万円以上700万円未満」及び金融資産欄について「2000万円以上3000万円未満」に,それぞれチェックを付した(乙14,証人B)。

(b) Bは,上記申込書の記載の際,原告X3に対し,当時の被告のテーマ(当時被告として勧めていた商品)として,投資信託商品である「JF日本株・アクティブ・オープン」を勧め,目論見書を交付し(乙15の4),原告X3は,別紙3のとおり,平成18年6月13日,100万円で同商品を買い付けた。

その後,原告X3は,Bの勧誘に基づき,その都度目論見書の交付を受け(乙16の4,乙17の2,乙19の3,乙20の3,乙21の4,乙22の5,乙23の4,乙24の3,乙25の3,乙26の4,乙27の4,乙28の4,乙29の3,乙30の3,乙31の3,乙32の5,乙33の4,乙34の3,乙35の5,乙36の3,乙37の5,乙39の3,乙40の4,乙53),さらに,取引経過につき被告から定期的に取引残高報告書の送付を受け損失の発生を認識した上で(乙51の1ないし48,乙66,原告X3),別紙3記載のとおり,同じ月である平成18年6月26日に投資信託商品である「DKA豪ドル債券ファンド」を102万1831円で,同年7月28日に投資信託商品である「JF日本株・アクティブ・オープン」をさらに100万円買い増すなどして,投資信託,株式及び外国債券取引を継続し,平成23年4月19日の取引終了までの間に,1656万3154円(別紙3:ただし,担当がBからCに代わった後の取引は利益47万5271円が出ており被告に有利になるため,これも一連取引の一部として損益に含める。)から,取引期間中の分配金832万6674円(乙61,なお甲C1も参照)を控除した823万6480円の取引損失が発生した。

〔上記(b)の補足説明〕

原告X3は,上記(b)につき,各目論見書受領書の自署部分が自己の筆跡に似ていること及び乙15の4に似た書面に署名した記憶はあるなどと供述する一方で,各買付商品の目論見書を見たことがなく,交付を受けたこともない旨主張する。しかしながら,原告X3が自署であると認める乙14の自署の筆跡と,各目論見書受領書(乙15の4,乙16の4,乙17の2,乙19の3,乙20の3,乙21の4,乙22の5,乙23の4,乙24の3,乙25の3,乙26の4,乙27の4,乙28の4,乙29の3,乙30の3,乙31の3,乙32の5,乙33の4,乙34の3,乙35の5,乙36の3,乙37の5,乙39の3,乙40の4,乙53:殊に,後記(c)で認定するとおり,乙31の3及び乙53はB以外の者であるCが受領したものであって,偽造等信用性に疑いを差し挟む余地は極めて乏しい。)における原告X3署名の筆跡を対照すれば,同人の自署であることは優に認められ(Bの偽造と解すべきような不自然な点は認められない。),さらに,乙67によれば被告から目論見書が直送されたこともあり,さらに,後記(イ)で認定したBと原告X3との電話においても目論見書の送付等が前提となっていることから,何ら交付を受けたことがない旨の原告X3の供述は全く信用できない。

以上によれば,原告X3が各目論見書を買付けの都度交付されていたことが推認される。

(c) 原告X3は,平成21年1月29日,被告池袋支店を訪れたが,その際,Bに代わりCが対応し,Cが外国債券商品である「7.10%ノルウェー地方金融公社2011年2月3日償還南アフリカランド建債券」につき,パンフレット及び目論見書(乙31の1・2)を交付して,価格変動,為替,信用,流動性,カントリーの各リスク及び手数料等を説明した上で,目論見書受領書の原告X3欄に自署をしてもらった(乙31の3,乙67,乙74,弁論の全趣旨)。

また,Bの不正が発覚し,担当がCに替わった後の平成22年12月28日,原告X3は被告池袋支店を訪れ,B担当時に購入した投資信託商品である「ラサール・グローバルREITファンド」(最終売付けは同年12月30日で845万2334円の損失が生じた。)について懸念を伝えるとともに,Cに豪ドル関連の商品の説明を求め,Cは,投資信託商品である「DWS欧州ハイ・イールド債券ファンド(豪ドルコース)」を提案し,パンフレット(乙73の1・2)及び目論見書(乙54の1・2)を交付して,金利変動,信用,為替,流動性,カントリーの各リスク及び手数料・信託報酬等を説明した上で,目論見書受領書の原告X3欄に自署をしてもらった(乙53,乙67,乙74,弁論の全趣旨)。

その上で,Cは,原告X3の意向を踏まえ,平成22年12月30日,上記「ラサール・グローバルREITファンド」を1943万4800円で売却し,「DWS欧州ハイ・イールド債券ファンド(豪ドルコース)」を2036万7689円で買い付ける処理を行った。

(イ) 原告X3と被告側との電話での遣り取り

a Bは,平成19年6月22日午後1時55分頃,原告X3に架電し,別紙3のとおり同月25日に1111万4287円で買い付けた投資信託商品である「ドイチェ・ロシア東欧株式ファンド」の残余資金で別の商品を購入すべきことを伝え,これに対し,原告X3は,「そうですか。」,「お任せします。」などと答え,了承した(乙78の2の1)。

b Bは,平成19年10月11日午前10時17分頃,原告X3に架電し,上記aの商品が若干値上がりしたが,今後一時的に値下がりする可能性がある旨を告げ,売却を勧め「同じところでやるね,環境とか水とか資源とか。」などと伝え,原告X3は「うん。」などと相槌を打つのみで具体的な質問等はしないまま,最終的には「ああ,そうですか。」などとBのいうままに商品を買い替えることを了承し,Bは,同月12日,上記aの商品を1183万5000円で売却した(乙78の2の2)。

c Bは,平成19年10月29日午前12時15分頃,原告X3に架電し,別紙3の同月30日に1096万5121円で買い付けた投資信託商品である「DWS新資源テクノロジー・ファンド」につき,「ちょっとこの前売却したので(上記bの売却を指すと解される。),買わせていただく,グローバル」などと告げ,海外のものであるため「為替リスクとかいろんなリスクがあるんですけど。それと信託報酬金っていう」などとリスク等を前置きした上で「お客さんにはちょっとわかんないですよ。」などと言って原告X3から何らの質問もないままに買い替えを勧める旨を告げた(乙78の2の3)。

d Bは,平成21年11月10日午前10時04分及び午前10時41分頃,原告X3に架電し,別紙3のとおり同月17日に8万5000円(1株850円を100株)で買い付けた株式商品である「株式会社エフオーアイ」について,新規上場予定の半導体会社であり低廉に買うことができる旨説明して同株式の短期売買を勧め,原告X3は自分が企業の業績を見極めることができないことや売り時の判断も困難であり,かつ,これまでの本件X3取引で損失が発生していることなどから消極的である旨を伝えたが,最終的にはBの勧めに応じ,100株分8万5000円を買い付けることを了承し,その後,雑談等をした(乙76の2の1・2:この際,Bは,「まあ期待はしているんですけど,上がるのをね。」とは述べているが断定的判断までは述べていない。)。

また,Bは,同月12日午前10時32分頃にも原告X3に架電し,先の株式買付けの振込方法等につき確認し,原告X3も振込送金することを了承した(乙76の2の3)。

しかしながら,Bは,平成22年7月1日午後4時19分及び同月5日午後1時36分頃,原告X3に架電し,同株式に係る会社が破産し,破産管財人等からの通知が原告X3に届いているか等を確認し,今後被告においても後押しして損害賠償等をする旨を伝えた(乙76の2の12・13:ただし,B自身も手続や書類について「わかんないんだ,私も」などと述べていた。)。

e Bは,平成22年1月22日午前10時36分頃,原告X3に架電し,別紙3のとおり同月22日に32万1600円で買い付けた外国債券商品である「5.25%スウェーデン」について,円建てで受け取ると損失が発生するためとりあえずドル建てで受け取る形にすることを勧めるとともに,目論見書を送付したことを伝えて買付けの承諾を求め,原告X3も「はい。」などと答え買付けを了承した(乙71の2)。

イ 検討(原告X3に係る投資取引損害)

原告X3は,上記のとおり,相当前とはいえ一度株式投資で損失を経験していることに加え,平成17年当時●●●の雇われ店長として相応の社会的経験を有し過去にも長期に亘り●●●に携わっていたこと,及び,本件X3取引開始当時保有していた金融資産が2000万円以上3000万円未満であったのに対し,取引開始1か月以内に,投資信託という比較的分かり易い商品であるとはいえ,RC3ないし5といった高リスク(別紙4)な金融商品ではあったものの,購入金額は約300万円と比較的少額であったことも踏まえれば,勧誘自体が適合性原則に反したものとまでは認められない。

そして,Bが,本件X3取引時に,パンフレットや目論見書を交付したことは上記認定のとおりであるが,説明義務を懈怠し又は断定的判断を提供していたことが強く推認されることは,上記の原告X3の一応の投資経験を踏まえても,上記(1)イ,(2)イで原告X1及び原告X2について説示したのと別段変わりはないというべきである。何より,上記ア(イ)におけるBと原告X3の電話での遣り取りを具にみても,原告X3は,Bの勧めのままに相槌を打って了承していることが多く,B自身も「お客さんにはちょっとわかんないですよ。」などと詳細なリスク説明を省略していたことなども併せ鑑みれば,原告X3が原告X1及び原告X2に比して知識があったこと(証人B)を前提としても,なお説明義務の懈怠及び断定的判断の提供があったと認められるというべきである(もっとも,前記の一応の投資経験及び原告X3取引にはRC3の商品も含まれ,RC5の商品が少ないことなどは,過失相殺において考慮すべきものとなる。)。

なお,別紙3のうち,「7.10%ノルウェー地方金融公社2011年2月3日償還南アフリカランド建債券」及び「DWS欧州ハイ・イールド債券ファンド(豪ドルコース)」の各商品については,Bに替ってCが説明していたことは上記認定のとおりであるが,前者はBとの一連取引の中のことであるから違法性は断絶されないし,後者は利益が生じていることからこれを含めて損益を計算することが被告にとって有利であるため,同部分のみを切り離して考慮する必要もない。

以上によれば,Bは,原告X3に対し,説明義務を懈怠するか若しくは断定的判断を提供するなどして,本件X3取引を行わせたものとして,被告は,債務不履行又は不法行為に基づき原告X3に発生した損害を賠償する責めを負う。

2  争点(2)(原告X2,原告X3及び原告X4からの金銭詐取)について

(1)  事実認定

前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,Bの金銭詐取に関し,以下の事実が認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない(なお,必要に応じて事実認定の補足説明を付す。)。

ア 原告X2からの金銭詐取

原告X2は,平成18年10月頃,Bから,そのとき所持していた投資信託商品(別紙3のとおり「DKAライジング日本株ファンド」を主として指すものと解される。)が値下がりしているため,実際には存在しないB名義の被告「社内預金」に預けることで高利率とともに元本が保証される旨の説明を受け,上記商品を売り付けた代金など1376万5545円をBに交付した(原告X2)。Bは,同金銭交付につき,平成18年10月11日付けで,「一,投資代金1376万5545円お預り致しました」との手書きの自己名義の領収書(甲B1)を原告X2に交付した。

さらに,原告X2は,Bから詳細な説明を受けなかったものの,同様の趣旨で平成22年2月頃,460万円をBに交付した(原告X2)。Bは,同金銭交付につき,平成22年2月19日付けで,「四百六十万お預り致しました」との手書きの自己名義の領収書(甲B2)を原告X2に交付した。

なお,原告X2は,上記各交付の前後に,被告に対し,「社内預金」の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,「社内預金」制度の裏付資料や交付金の利息や残金を問い合わせたこともない(原告X2)。

また,原告X2は,前記前提事実(3)のBの破産手続において,207万2654円の配当を受けた(弁論の全趣旨)。

イ 原告X3からの金銭詐取

原告X3は,平成18年6月下旬頃,Bから実際には存在しないB名義の被告「社内預金」に預けることで高利率とともに元本が保証される旨の説明を受け,Bに対し,B名義の被告「社内預金」に預けるつもりで,現金合計600万円を下記のとおりBに交付した(甲C3,原告X3)。

なお,原告X3は,下記各交付の前後に,被告に対し,「社内預金」の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,「社内預金」制度の裏付資料や交付金の利息や残金を問い合わせたこともない(原告X3)。

(ア) 平成18年7月4日に300万円(甲C4)

(イ) 平成19年4月5日に100万円(甲C2の3)

(ウ) 同年7月24日に100万円(甲C2の3)

(エ) 平成21年4月20日に100万円(甲C5)

〔事実認定の補足説明〕

① はじめに

被告は,上記現金預け入れの時期及び総額について,原告X3は甲C2の1,甲C4,甲C6等は,事後的にまとめて記載された可能性の高い不自然なものであり,信用性を欠く旨主張する。

② 甲C4について(上記(ア)の300万円の交付)

そこで,まず,甲C4(「平18年7月4日300万お預り致しました」とのB記載と解される部分)の信用性について検討するに,Bが自署であることを認めている甲A1,甲B1,甲B2及び甲D4の筆致・筆跡と対照するに,似通っている。殊に,甲B1の「お預り致しました」との部分とは言い回し及び筆致が極めて酷似しており,甲C4は甲B1と同一人物が記載したものと認めるのが相当である。

そうすると,Bが平成18年7月4日に原告X3から300万円の交付を受けたことは,甲C4により優に認められる。

③ 甲C6(上記(ア)以外の金銭交付)

次に,甲C6のメモの信用性について検討するに,原告X3が,日付の都度記載したものか,事後的にまとめて記載したものか判然としない。

その上,平成21年8月24日の200万円の交付金の性質については,B個人に交付したという当初の主張が,被告に交付したと変遷しているにもかかわらず(第1事件訴状及び原告第5準備書面〈最終〉),同金員の交付についても甲C6の交付金に含まれていたことに照らすと,原告X3が被告とB個人とを明確に峻別していたとは解されない。

したがって,甲C6については,そのまま採用するのは相当でなく,一定程度の裏付証拠がない部分は,にわかに信用できない。

これを前提に甲C6の記載の裏付けの有無を検討するに,甲C2の3,甲C5に記載された平成19年4月5日の100万円,同年7月23日の100万円及び平成21年4月20日の100万円の各出金については,一応「B」又は「B」との添書きがあり,かつ,別紙3においてその前後に本件X3取引に係る買付けがないことから,Bに交付されたものとの最低限の立証はなされていると解すべきである。

他方で,その余の交付金の主張については,前記のとおり信用性の乏しい甲C6又は原告X3本人のみしか裏付けがなく,採用できない。

④ 上記認定は,B証言とも一応整合すること

Bも,2,3回は原告X3から個人的に金銭を授受し,金額は覚えていないものの1000万円には及ばない旨証言し,かつ,破産手続において総額8000万円程度の資金流用・横領をした旨陳述していたこと(前記前提事実(3))に照らしても,Bが原告X3から600万円を詐取していたとしても一応整合するから,上記の限度で交付を認めるのが相当である。

ウ 原告X4からの金銭詐取

(ア) 原告X4とBの来歴

前記前提事実(1)エのとおり,原告X4は,昭和13年○月○日生まれの女性である。原告X4は,平成22年7月7日,知人(E)宅でBと初めて知り合い,その際,同知人が被告の投資信託商品である「ラサール・グローバルREITファンド」を購入し配当を得ているなどの話になった(甲D4,原告X4)。

(イ) 金銭詐取

その後,Bは,原告X4宅を訪れて被告の「エリアコンサルタント」との肩書の名刺(甲D1)を交付するとともに,従前加入していた年金保険が良くない商品である旨を原告X4に説明し,「被告会社のBの割当分」などの名目で500万円をBに預ければ,3か月で50万円を付して返還することができる旨説明した(甲D1,甲D4,原告X4)。

Bは,平成22年7月15日,被告の総合取引申込書(甲D2)を持参して原告X4宅を訪問し,同申込書の必要事項を記載させた。

その上で,原告X4は,Bに対し,現金500万円を交付した(甲D3)。Bは,同金銭交付につき,平成22年7月15日付けで,「預り金 金額5000000円 平成22年10月末日満期 金額5500000円」との手書きの自己名義の書面(甲D3)を原告X4に交付した。

なお,原告X4は,被告に対し,「被告会社のBの割当分」なる制度の存否等を問い合わせたことはなく,Bに対し,同制度の裏付資料を求めたこともない(弁論の全趣旨)。上記金銭交付の後の同月27日以降,原告X4は,被告の商品である「ラサール・グローバルREITファンド」を購入して取引を開始し,同取引に関し原告X4に損失は発生していない(乙46,乙52の1ないし3,乙55,乙63,乙68,原告X4,弁論の全趣旨)。

また,原告X4は,Bから20万円の弁済を受けたこと及びBの破産手続において54万1707円の配当を受けたことを自認している(弁論の全趣旨)。

(ウ) 原告X4と被告側の電話での遣り取り(金銭詐取に関する部分のみ抜粋)

Cは,被告においてBの不正が発覚した後の平成22年9月14日,原告X4に架電し,Bが出社しておらず緊急の用件がある旨を告げたところ,原告X4は,投下資金について「保証はあるんでしょうね」などと述べた上,上記(イ)の500万円についても,Bが「社員がボーナス代わりに,なんかね1割くれるから,私〔Bの意〕があればしたいんだけど,それだけお金があったらじゃあ出してくれれば,それだけね」,「500万円。それはね,社員だけに特別にね(中略)だから500万渡してくれれば50万つけるってわけで」などと原告X4に述べた旨を,Cに申告した(乙72の2の4)。

(2)  検討

ア はじめに

被告には,顧客が用いることができる「社内預金」及び「被告会社のBの割当分」の各制度は存しないから(弁論の全趣旨),上記(1)で認定した事実について,Bは,原告X2原告X3及び原告X4を欺罔して金銭を詐取したものとして,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

しかるに,被告は,上記のBの不法行為につき,①使用者責任の不存在(民法715条1項本文の「事業の執行について」に該当しないこと)及び②原告X2,原告X3及び原告X4の悪意又は重過失を主張して,被告の責任を否定するので,この点につき検討する。

イ 上記①使用者責任の不存在(民法715条1項本文の「事業の執行について」に該当しないこと)について

上記(1)で認定した金銭詐取が,被告の「事業の執行について」なされたものと評価できるかを検討するに,被告が主張するとおり,上記金銭詐取は,いずれも,被告名義の書面又は被告の施設(支店等)を使用したものではなく,さらに,一般に証券会社の対外的業務に,証券会社内部の社内預金制度又は社員優遇措置を顧客に利用させて利益を図ることが含まれないことは明らかである。

しかしながら,原告X2及び原告X3については,既に被告の外務員であるBの勧誘に基づき,本件X2取引及び本件X3取引が開始され,しかも損失が発生していた(別紙2,3参照)最中の行為である上,Bは,外務員としての勧誘・説明に際し,上記1(1)ア,(2)ア,(3)アでそれぞれ認定したとおり,概ね買付け・売付けを原告ら宅に赴くか電話で行っておりそもそも被告の施設を用いることが少なかったといえる。また,原告X1に本件元本保証書面を交付していたことなどに照らすと,Bは,B個人と被告の信用性を混同した振る舞いを行っており,しかも,認定事実中の電話記録の遣り取り並びに原告X2及び原告X3の本人尋問の結果における同原告らの応答に照らせば,同原告らの知識・経験不足を殊更に利用して,かかるB個人と被告の信用性の混同を利用していた可能性が高い。そうすると,Bが金銭詐取時に交付した書面(甲B1,2,甲C4)が被告名義でないとの点を,過失相殺において考慮することは別論としても,上記金銭詐取は,行為の外形からみて使用者の事業と密接関連する事業の範囲内に属するものと認めるのが相当である。

なお,原告X4については,上記(1)ウで認定した事実によれば,Bが甲D2の総合取引申込書の記載に併せ,被告の投資信託商品である「ラサール・グローバルREITファンド」の買付資金であるか否かを曖昧にして,500万円の交付を受けたものと推認される(上記(1)ウ(ウ)のとおり,不正発覚後,有り体にCに報告しており,投資資金か否かの峻別ができていなかったことが推認される。)から,優に被告の「事業の執行について」なされたものと認められる。

ウ 上記②原告X2,原告X3及び原告X4の悪意又は重過失

上述のとおり,原告X2,原告X3及び原告X4は,いずれも,詐取された金員につきB個人名義の書面を受け取っているにとどまり,殊に原告X2は,上記1(2)ア(イ)cにおいて,Bとの個人的な関係で金銭を交付したことを薄々認識しながらCにこれを報告していないが(乙71の2),過失相殺においてこれを考慮することは別論としても,上記イで説示した経過に照らせば,悪意又は故意に比肩する重過失があったとまでは解することはできない。そして,原告X3及び原告X4についても,上記イの説示に照らせば,悪意又は故意に比肩する重過失を認めるに足りる事情はない。

(3)  小括

以上によれば,被告は,Bが行った金銭詐取について,民法715条1項本文に基づき,原告X2原告X3及び原告X4に生じた損害を賠償する責めを負う。

3  争点(3)(過失相殺の相当性及び原告らの損害額〈争点(1),(2)共通〉)

(1)  原告X1

ア 原告X1には,上記1(1)ア(ア)b(b)で認定したとおり,751万4712円の取引損失が生じている。

原告X1が,上記説示のとおり,本件X1取引開始前に取引経験がなく,不適切なBの行動があったことを加味しても,投資取引に参加するものには自己責任原則に則った行動が期待されるところ,目論見書の交付を受け,かつ,被告から取引残高報告書の送付を受けており,夫を含め損失の発生を容易に理解できたにもかかわらず,公序良俗違反となる本件元本保証書面等を盲信し安易に取引を継続して損失を拡大させた点を考慮すれば,被害者側の過失として2割を過失相殺するのが相当である。

751万4712円×80%=601万1769円(円未満切捨て:以下同じ)

イ 同損害を請求するに必要な弁護士費用相当額は,60万円を下ることはない。

601万1769円+60万円=661万1769円

ウ よって,被告は,原告X1に対し,661万1769円及びこれに対する請求の後の日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

(2)  原告X2

ア 原告X2には,上記1(2)アb(b)で認定したとおり477万8108円の取引損失が生じている。

原告X2が,上記説示のとおり,本件X2取引開始前に取引経験がなく,不適切なBの行動があったことを加味しても,投資取引に参加するものには自己責任原則に則った行動が期待されるところ,目論見書の交付を受け,かつ,被告から取引残高報告書の送付を受けており,損失の発生を容易に理解できたにもかかわらず,Bを盲信し安易に取引を継続して損失を拡大させた点を考慮すれば,被害者側の過失として2割を過失相殺するのが相当である。

477万8108円×80%=382万2486円

イ 原告X2には,上記2(1)アで認定したとおり,1376万5545円と460万円の小計1836万5545円の詐取損害が生じている(後にBの破産配当として207万2654円を受領)。

同詐取については,証券会社外務員Bが,自宅のリフォーム等に流用する目的で犯した高度の違法性のある行為であり,Bとの関係で過失相殺に供することは一般的には相当でない。

しかしながら,本訴は,使用者たる被告との関係での請求であり,上記2で認定説示した各事情を考慮すれば,原告X2は,交付書面(甲B1,2)が被告名義でなくB個人であることや「社内預金」名目での金銭の交付という不自然な事情に照らし,被告との関係においては金銭交付後に被告に照会するなどして,損害拡大を防ぐべきであったのに,これを怠ったといえるから,被告との関係では被害者の過失として3割を過失相殺するのが相当であり,さらに過失相殺した金額から,Bから弁済(配当)を受けた207万2654円を控除すべきである。

(1836万5545円×70%)-207万2654円=1078万3227円

ウ 上記ア,イの損害小計1460万5713円を請求するに必要な弁護士費用相当額は,146万円を下ることはない。

(382万2486円+1078万3227円)+146万円=1606万5713円

エ よって,被告は,原告X2に対し,1606万5713円及びこれに対する請求の後の日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

(3)  原告X3

ア 原告X3には,上記1(3)アb(b)で認定したとおり823万6480円の取引損失が生じている。

原告X3は,上記説示のとおり,本件X3取引開始前に一応の投資取引経験があり,目論見書の交付を受け,かつ,被告から取引残高報告書の送付を受けており,損失の発生を容易に理解でき,かつ,上記1(3)アb(c)で認定したとおり,一時期CがBに代わり適切な説明を行ったにもかかわらず,その後もBを盲信し安易に取引を継続して損失を拡大させた点を考慮すれば,原告X1及び原告X3に比べても被害者側の過失は大きいというべきであり,3割を過失相殺するのが相当である。

823万6480円×70%=576万5536円

イ 原告X3には,上記2(1)イで認定したとおり,少なくとも600万円の詐取損害が生じている。

同詐取については,証券会社外務員Bが,自宅のリフォーム等に流用する目的で犯した高度の違法性のある行為であり,Bとの関係で過失相殺に供することは一般的には相当でない。

しかしながら,本訴は,使用者たる被告との関係での請求であり,上記2で認定説示した各事情を考慮すれば,原告X3は,交付書面(甲C4)が被告名義でなくB個人であることや「社内預金」名目での金銭の交付という不自然な事情に照らし,被告との関係においては金銭交付後に被告に照会するなどして,損害拡大を防ぐべきであったのに,これを怠ったといえるから,被告との関係では被害者の過失として3割を過失相殺するのが相当である。

600万円×70%=420万円

ウ 上記ア,イの損害小計996万5536円を請求するに必要な弁護士費用相当額は,99万円を下ることはない。

(576万5536円+420万円)+99万円=1095万5536円

エ よって,被告は,原告X3に対し,1095万5536円及びこれに対する請求の後の日である平成24年3月1日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

(4)  原告X4

ア 原告X4には,上記2(1)ウ(イ)で認定したとおり,500万円の詐取損害が生じている。

同詐取については,証券会社外務員Bが,自宅のリフォーム等に流用する目的で犯した高度の違法性のある行為であり,Bとの関係で過失相殺に供することは一般的には相当でなく,かつ,原告X2及び原告X3と異なり,詐取後発覚までの期間が短いこと及び既に説示したとおり被告との取引開始前で商品買付金と交付金を混同していた可能性が高いことなどを考慮すれば,被告との関係での過失相殺についても原告X2及び原告X3に比べ原告X4の過失は小さく,被告との関係においても過失相殺することは相当でない。

そうすると,原告X4の損害は,Bから弁済及び配当を受けた自認額74万1707円を控除するのが相当である。

500万円-74万1707円=425万8293円

イ 上記の損害425万8293円を請求するに必要な弁護士費用相当額は,42万円を下ることはない。

425万8293円+42万円=467万8293円

ウ よって,被告は,原告X4に対し,467万8293円及びこれに対する請求の後の日である平成24年7月25日(第2事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

第4結論

以上によれば,本件における原告らの各請求は,主文1項から4項までに限り理由があるからその限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文(ただし,原告X4については同条但書),65条を適用し,仮執行宣言については民訴法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本隆一)

〈以下省略〉

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