大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成8年(行ウ)7号 判決

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の申立て

1  原告ら

(1)  被告らは,坂戸・鶴ヶ島下水道組合に対し,連帯して金2億5501万5640円及びこれに対する,被告日立製作所,被告株式会社東芝,被告三菱電機株式会社,被告富士電機株式会社,被告株式会社明電舎,被告神鋼電機株式会社,被告株式会社高岳製作所及び被告日本下水道事業団においては平成8年4月27日から,被告日新電機株式会社においては同月28日から,被告株式会社安川電機においては同年5月7日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は,被告らの負担とする。

(3)  仮執行宣言

2  被告ら

(1)  本案前の答弁

主文同旨

(2)  本案の答弁

請求棄却

(3)  訴訟費用は,原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  坂戸・鶴ヶ島下水道組合(以下「本件組合」という。)は,被告日本下水道事業団(以下「被告事業団」又は,単に「事業団」という。)との間で,坂戸・鶴ヶ島下水道組合公共下水道根幹的施設(石井水処理センター)の建設工事に関する委託協定を締結し,被告事業団は,これに基づき,3回にわたり,被告株式会社明電舎(以下「被告明電舎」という。)に同設備の一部である電気設備工事を発注した。

(2)  埼玉県鶴ヶ島市の住民である原告らは,前記電気設備工事に係る請負代金が,被告らによる談合(談合に荷担した被告事業団を含む共同不法行為)により不当につり上げられ,本件組合がこの請負代金に被告事業団の管理費を加算した金額の支払をしたことによって,本件組合は,談合がなければ形成されたであろう請負代金額と実際に支払った請負代金額の差額相当分の損害(受託者となった被告明電舎の受注価格合計11億5916万2000円の20%に相当する2億3183万2400円)を被ったものであり,被告らに対し同額の損害賠償請求権を有するところ,本件組合は,その行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,本件組合に代位して,当該怠る事実の相手方である被告らに対し,本件組合が将来原告らに対して支払うべき弁護士報酬額(前記損害主張額の10%に相当する2318万3240円)を含め,合計2億5501万5640円の損害賠償(前記遅延損害金の起算日は,各被告に対する訴状送達の日の翌日である。)を求めた。

(3)  これに対し,被告らは,原告ら主張の談合の事実を争うが,本案前の主張として,ア 本訴に係る監査請求(以下「本件監査請求」という。)は,「怠る事実」を対象としたものとされているが,その原因となる損害賠償請求権の実質からみて,法242条2項本文所定の監査請求期間制限規定の適用がある(監査請求期間制限規定の適用の有無),イ そして,本件監査請求は,法定の監査請求期間を経過した後にされたものであり(監査請求期間の遵守の有無),ウ かつ,本件監査請求が監査請求期間を経過したことについては,同項ただし書所定の「正当な理由」はない(「正当な理由」の有無),と主張するほか,エ 本件組合による損害賠償請求権の不行使について違法性がないので,住民訴訟による代位行使は許されない(「違法な怠る事実」の有無と住民訴訟の許容性),オ 本件組合は一部事務組合であり,住民なる観念を入れる余地はないから,これについての住民訴訟は許されない(一部事務組合と住民訴訟の可否),カ 本訴の対象と本件監査請求の対象は,同一性を欠く(監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性),と主張する。

(4)  被告らの本案前の主張に対し,原告らは,ア 本件監査請求は「怠る事実」を対象とするものであって監査請求期間に制限はない,イ 仮に,監査請求期間に制限があるとしても,本件監査請求は法定の監査請求期間内にされたものである,ウ 本件監査請求が,監査請求期間を経過したとしても,正当な理由がある等と主張する。

これらの論点が本件の争点であり,特に,アないしウが基本的争点である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いがないか,下記に摘示した証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実並びに顕著な事実)

(1)  当事者等

ア 原告らは,いずれも埼玉県鶴ヶ島市の住民であり,本件組合は,埼玉県坂戸市,鶴ヶ島市で組織された一部事務組合(法286条)である。

イ 被告事業団は,日本下水道事業団法(以下「事業団法」という。)に基づいて政府及び地方公共団体の出資により設立された法人で,地方公共団体等の要請に基づき,下水道の根幹的施設の建設及び維持管理を行い,下水道に関する技術的援助を行うこと等を目的とし,この目的を達成するため,地方公共団体の委託に基づき,終末処理場等の建設,下水道の設置等の設計,下水道の工事の監督管理等の業務を行うものである(事業団法1条,4条,26条)。

ウ 被告明電舎,被告株式会社日立製作所(以下「被告日立製作所」という。),同株式会社東芝(以下「被告東芝」という。),同富士電機株式会社(以下「被告富士電機」という。),同神鋼電機株式会社(以下「被告神鋼電機」という。),同三菱電機株式会社(以下「被告三菱電機」という),同株式会社安川電機(以下「被告安川電機」という。),同日新電機株式会社(以下「被告日新電機」という。)及び同株式会社高岳製作所は,いずれも被告事業団発注に係る電機設備工事の請負等の事業を営む会社である(以下,被告事業団を除く被告らを総称して「被告9社」という。)。

(2)  事業団における業務方法等

ア 事業団は,事業団法及びこれに基づく命令のほか,旧建設大臣の認可を受けて定められた日本下水道事業団業務方法書(昭和50年8月28日規程43号,乙J20号証,以下「業務方法書」という。)に従って,以下のとおり,業務を行う(業務方法書1条)。

イ 事業団が地方公共団体から下水道施設の建設を委託された場合には,まず,委託要請を行った地方公共団体との間で委託協定を締結する(業務方法書5条1項)。

委託協定は,目的,委託業務の内容及び範囲,業務の開始及び完了の時期,費用の額及び受領の方法,業務完了後の措置,委託地方公共団体で行うべき措置等を定めるもので(業務方法書5条2項),基本協定と年度実施協定とによって構成される。

基本協定は,数年次にわたる建設工事の全体について委託する趣旨を明らかにし,予定概算事業費,完成予定年度,委託の範囲その他施行に係る基本的事項を定める。

年度実施協定は,基本協定に基づいて,各年度の予算の範囲内において,当該年度に発注する工事の内容,費用の額,支払方法等実施細目を定める。

ウ 事業団は,下水道施設の建設を行うときは,これに要する費用を委託地方公共団体に負担させるものとされ(業務方法書6条1項),その費用の範囲は,(ア)工事の施行に直接必要な工事請負費,原材料費その他の工事費(同条2項1号),(イ) 工事の監督,検査その他工事の施行のため必要とする人件費,旅費及び庁費(同項2号),(ウ) 建設業務の処理上必要とする一般管理費(同項3号),(エ) その他建設業務の処理に伴い必要を生じた費用(同項4号)とされている。

エ 受託業務費用負担細則(昭和51年2月12日達6号,乙J27号証)は,業務方法書に定める受託業務の費用負担につき,以下のとおり定めている。

「(受託費の構成等)

2条 受託業務に要する費用(以下「受託費」という。)は,直接費及び間接費に大別するものとし,直接費は,受託業務に直接必要な工事費,設計費その他の費用をもって構成し,間接費は,受託業務のため又はその処理上必要とする人件費,旅費,庁費及び一般管理費(以下これらを「管理諸費」と総称する。)をもって構成する。

2  〔省略〕

3  受託費の算定は,原則として次によるものとする。

一  直接費の費目に係る経費については,積上計算により得た額とする。

二  管理諸費に係る経費については,一括して直接費の総額に基づき,業務ごとに定める一定率(以下「管理諸費率」という。)を用いて算定した額とする。ただし,これによりがたい場合は,主要経費について積上計算し,管理諸費率に準じて経費率を定めて算定するものとする。

〔以下,計算式省略〕

4  〔省略〕

(下水道施設建設の経費)

3条 下水道施設の建設に係る受託費は,次に掲げるところにより算定した額の合計額とする。

一 業務方法書第6条第2項第1号に掲げる経費の合計額

二 受託費を次に掲げる額に区分して,それぞれの率を乗じて得た額の合計額

区分                   率(%)

5億円以下の金額に対して         5.3

5億円を超え,10億円以下の金額に対して 4.3

10億円を超える金額に対して       3.3

2 前項第1号の経費の算定については,建設省所管補助金等交付規則(昭和33年建設省令第16号)に基づく補助金事業の設計積算基準によるほか,これに準拠して理事長が定める基準により行うものとする。」

(3) 本件における被告事業団と本件組合との関係等

ア 被告事業団に対する建設工事委託要請

本件組合は,平成2年5月17日,被告事業団に対し,下記の内容の「下水道施設建設工事委託要請書」(坂下発第616号,乙J21号証)を提出して,建設工事委託を要請した。

「1 終末処理場

名称 (仮称)石井水処理センター

位置 埼玉県坂戸市α,β

2 幹線管渠

名称 中央幹線

位置 埼玉県坂戸市γ,δ」

イ 業務委託契約締結に関する議決

本件組合議会は,平成2年6月29日,前記要請に係る基本協定の締結につき議決した(乙J30号証)。

ウ 基本協定の締結

(ア) 本件組合は,平成2年6月29日,被告事業団との間で,「坂戸・鶴ヶ島下水道組合公共下水道根幹的施設の建設工事委託に関する基本協定」(乙J1号証,以下「本件基本協定」という。)を締結し,下水道施設(終末処理場)の建設を委託した(建設工事の委託の対象及びその範囲は,別紙第1記載のとおりであり,以下,これを「本件委託工事」という。)。その概要は,次のとおりである。

a 平成2年度に建設工事に着手し,その完成予定は平成6年度とする(3条1項)。

b 予定概算事業費は,88億7800万円とし,設計内容の変更,賃金又は物価の変動等により,予定概算事業費を変更する必要が生じた場合は,両者の協議によりこの協定を変更できる(4条)。

c 被告事業団は,本件組合が毎年度予算に計上する範囲内において,年度実施協定で定めるところにより,建設工事を行う(5条1項)。

d 建設工事に要する費用は,本件組合が負担し,本件組合は,この費用を年度実施協定で定めるところにより,被告事業団に支払う(8条)。

e 被告事業団は,建設工事に関し建設業者と工事請負契約を締結したときは,速やかに本件組合にその概要を通知し,本件組合は,建設工事の施行に関し必要があると認めるときは,被告事業団に報告を求めることができる(10条)。

f 予定概算事業費の範囲内において各年度に行う建設工事の内容及びその範囲,費用,施設の引渡しその他必要な事項について年度実施協定を毎年度締結する(12条)。

(イ) 本件組合と被告事業団は,平成4年6月26日,本件基本協定所定の予定概算事業費88億7800万円を108億5800万円に変更する旨の本件基本協定の一部変更協定(乙J2号証)を締結した(同日本件組合議決)。

エ 年度実施協定の締結

(ア) 平成4年度実施協定

a 本件組合と被告事業団は,平成4年6月26日,本件基本協定に基づき,平成4年度の年度実施協定(乙J3号証,以下「平成4年度実施協定」という。)を締結した。その概要は,次のとおりである。

ⅰ 本件基本協定5条1項に基づき,平成4年度において被告事業団が施行する建設工事の内容及びその範囲を別紙第2記載のとおり定める(1条)。

ⅱ 上記建設工事の完成期限は,同6年3月31日とする(ただし,平成4年度国庫補助対象額については,同5年3月31日とする。2条)。

ⅲ 建設工事の施行に要する費用は,15億3920万円とする(内訳,平成4年度国庫補助対象額・6億4120万円,債務負担行為額・8億9800万円,3条)。

b その後,本件組合と被告事業団は,平成4年度実施協定につき,次のとおり,一部変更協定を締結した(乙J4ないし6号証)。

ⅰ 平成4年12月14日

① 建設工事の施行に要する費用を,15億3920万円から35億2120万円(平成4年度国庫補助対象額・11億6320万円,債務負担行為額・23億5800万円)に増額する。

② 建設工事の内容及びその範囲を別紙第3記載のとおりに改める。

ⅱ 平成5年3月26日

平成4年度国庫補助対象額に係る建設工事のうち,平成4年度内に終了しなかったものについては,期限を平成5年5月31日とする。

ⅲ 同年7月28日

債務負担行為額・23億5800万円の内訳として,組合単独債務負担行為額を500万円とする旨を表記した。

(イ) 平成5年度実施協定

a 本件組合と被告事業団は,平成5年7月28日,本件基本協定に基づき,平成5年度の年度実施協定(乙J9号証,以下「平成5年度実施協定」といい,平成4年度実施協定と併せて「本件各年度実施協定」という。)を締結した。その概要は,次のとおりである。

ⅰ 本件基本協定5条1項に基づき,平成5年度において被告事業団が施行する建設工事の内容及びその範囲を別紙第4記載のとおり定める(1条)。

ⅱ 上記建設工事の完成期限は,同7年3月31日とする(ただし,平成5年度国庫補助対象額及び同年度組合単独事業費に係るものについては,同6年3月31日とする。2条)。

ⅲ 建設工事の施行に要する費用は,21億4560万円とする(内訳,平成5年度国庫補助対象額・11億3100万円,同年度組合単独事業費・200万円,債務負担行為額・10億1260万円,3条)。

b その後,本件組合と被告事業団は,平成5年度実施協定につき,次のとおり,一部変更協定を締結した(乙J10ないし12号証)。

ⅰ 平成6年2月10日

建設工事の施行に要する費用を21億4560万円から21億2560万円(平成5年度国庫補助対象額・11億1100万円,同年度組合単独事業費・200万円,債務負担行為額・10億1260万円)に減額する。

ⅱ 同年3月10日

① 平成5年度国庫補助対象額に係る建設工事のうち,平成5年度内に終了しなかったものについては,期限を平成6年7月31日とする。

② 建設工事の施行に要する費用の内訳を,平成5年度国庫補助対象額・17億0100万円,同年度組合単独事業費・200万円,債務負担行為額・4億2260万円と変更する。

ⅲ 同年7月28日

① 平成5年度国庫補助対象額に係る建設工事のうち,平成5年度内に終了しなかったものについては,期限を平成6年12月31日とする。

② 建設工事の施行に要する費用を21億2560万円から21億3400万円(内訳,平成5年度国庫補助対象額・17億0100万円,同年度組合単独事業費・200万円,債務負担行為額・4億3100万円)と増額する。

(ウ) 本件各年度実施協定における費用の支払と精算

a 本件各年度実施協定には,費用の支払,精算につき,次のとおり定めている(各4条,7条)。

ⅰ 建設工事の施行に要する費用の支払につき,平成4年度国庫補助対象額に係る資金計画並びに平成5年度国庫補助対象額及び同年度組合単独事業費に係る資金計画については,両者が協議してこれを定め,所要金額を決定する。

ⅱ 本件組合は,上記資金計画に基づき,被告事業団の請求により,所要金額を被告事業団に前金払(法232条の5第2項参照,前金払とは,金額の確定した債務について,履行期前に支出するものをいい,後日不履行その他の事由によって客観的に金額の異動を生ずる場合のほかは,その本質上精算を伴わないものである。)する。

ⅲ 債務負担行為額に係る資金計画及び支払方法等については,別に両者が協議して定める。

ⅳ 被告事業団は,建設工事が完成したときは,費用の精算を行うものとし,精算の結果生じた納入済額と精算額との差額は,本件組合に還付する。

b 日本下水道事業団受託業務精算事務処理要領(昭和50年総企発9号,乙J25号証)は,委託者に対する精算報告につき,次のとおり定めている。

ⅰ 年度協定による建設事業等が完成したときは,すみやかに「年度完了精算報告書」により,委託者に対し費用の精算を行うものとする。この場合において,委託者に対する精算の報告は,原則として,施設等の引渡しの日に行うよう努めるものとするが,やむを得ない理由がある場合には,施設等の引渡しの日の属する会計年度の翌年度の4月15日までに行うものとする。

ⅱ 年度協定による工期が2年度にわたる建設事業等の中間年度が終了したときは,当該終了の日の属する会計年度の翌年度の4月15日までに「年度終了報告書」により,委託者に対し,年度内遂行実績を報告するものとする。

ⅲ 工事費及び管理諸費の精算取扱いについて,① 工事費等の精算額は,施設の建設に係る業務については請負額([項]受託工事業務費[目]事務所維持費を負担した委託者の施設の建設に係る業務については請負額及び協定に際し算定した事務所維持費),施設の建設に係る業務以外の業務については外部への委託額とする。② 管理諸費の精算額は,協定に際し算定した管理諸費とし,その業務内容に変更がない限り,これを変更しないものとする。

c 本件組合から被告事業団に対する本件委託工事の施行に要する費用の支払

本件組合は,被告事業団に対し,本件基本協定8条,本件各年度実施協定4条に基づき,同3条所定の本件委託工事の施行に要する費用を,次のとおり支払った(以下「本件支払」という。)。

ⅰ 平成4年度実施協定

平成4年10月26日    8719万5000円

同年11月 5日    1057万5300円

同年12月 7日    8703万円

平成5年 1月18日    4314万円

同年 2月 5日    5205万3000円

同年 3月10日    8016万円

同年 3月30日  7億4304万6700円

同年 6月 7日  6億5365万8110円

同年 7月 5日    6000万円

同年10月 5日    6817万3380円

同年11月 5日    4639万7400円

平成6年 1月17日  1億4974万5680円

同年 3月31日 14億4002万5430円

合計         35億2120万円

ⅱ 平成5年度実施協定

平成5年10月 5日    5626万3400円

同年11月 5日    4616万9700円

同年12月 6日  2億7950万5830円

平成6年 3月31日  7億5106万1070円

平成7年 2月 6日  5億7000万円

同年 3月 1日    8498万4120円

同年 3月31日  1億4371万1500円

同日  2億0230万4380円

合計         21億3400万円

d 費用の精算

本件組合から被告事業団に対する本件委託工事の施行に関する費用の支払(納入済額)は,前記のとおりであるところ,本件各年度実施協定7条所定の精算額は,平成4年度実施協定に係る金額は,35億2120万円(内訳,工事契約額合計・33億8059万3900円,管理諸費・1億4060万6100円),平成5年度実施協定に係る金額は,21億3400万円(内訳,工事契約額合計・20億4773万2700円,管理諸費・8626万7300円)であり,納入済額と精算額との差額は0円であり,本件組合に還付すべき金員はないものとされた。

オ 被告事業団による施設の引渡し等

被告事業団は,本件組合に対し,本件各年度実施協定に係る工事を建設完成した上,平成4年度実施協定に係るものについては平成6年3月25日までに,平成5年度実施協定に係るものについては平成7年3月7日までに,それぞれ引き渡した。

(4) 被告事業団の締結した電気設備に関する請負工事

ア 本件委託工事は,各種の諸設備からなる下水道施設(石井水処理センター)の建設工事であり,その施行は,土木工事,建設工事,機械設備工事及び電気設備工事等に区分される。

被告事業団は,通常,その委託に係る工事につき,建設業者と請負契約を締結する外注方式によって処理しており,本訴において問題とされている本件委託工事に係る電気設備工事についても,次のとおり外注方式により処理した。

イ 当初契約

(ア) 契約の締結等

a 被告事業団は,本件委託工事のうち平成4年度実施協定に係る電気設備工事について,旧建設省都市局下水道部制定の下水道用機械・電気設備工事費積算要領並びに同積算基準及び工事費積算基準の運用に基づき作成した機械・電気設備工事の「工事費積算基準」により設計金額の積算を行い,被告神鋼電機,同東芝,同日新電機,同富士電機,同三菱電機,同明電舎,同安川電機の7社による指名競争入札を実施した結果(甲1号証),最低価額で入札した被告明電舎(工事完成保証人被告富士電機)との間で,次のとおり,工事請負契約を締結した(乙J7号証,以下「本件第一契約」という。)。

b 契約内容

契約締結日 平成4年12月14日

工事名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備工事

目的 電気設備工事(受変電設備)

工期 平成4年12月15日から同6年3月18日まで

請負代金額 3億6431万1000円(各事業年度における請負代金の支払の限度額は,平成4年度・1億2935万7700円,平成5年度・2億3495万3300円,これに対応する各事業年度の出来高予定額は,平成4年度・1億4380万円,平成5年度2億2051万1000円)

(イ) 本件第一契約の変更

被告事業団と被告明電舎及び同富士電機は,平成5年3月26日,本件第一契約につき,支払限度額を,平成4年度は1億3855万5600円,平成5年度は2億2575万5400円とし,これに対応する出来高予定額を,平成4年度は1億5400万円,平成5年度は2億1031万1000円と変更する旨の工事請負変更契約(乙J8号証)を締結した。

(ウ) 本件第一契約に基づく支払

被告事業団は,被告明電舎に対し,本件第一契約に基づく請負代金として,平成6年6月10日を最終の支払日として4回に区分し,合計3億6431万1000円を支払った。

ウ 第二契約

(ア) 契約の締結等

a 被告事業団は,本件委託工事のうち平成4年度実施協定に係る電気設備工事について,前記方式により設計金額の積算を行った上,随意契約の形式で被告明電舎(工事完成保証人被告富士電機)との間で,次のとおり,工事請負契約を締結した(乙J13号証,以下「本件第二契約」という。)。

なお,本件第二契約が随意契約の形式によったのは,本件第二契約に係る工事が本件第一契約に係る工事の継続工事であって,機能上一体不可分であるため,被告事業団において,随意契約によるべきことを定めた事業団会計規程(乙J26号証)55条4項3号(競争に付することが不利と認められるとき。)及び同実施細則(乙J70号証)47条2項1号(現に契約を履行中の工事,製造又は物品の買い入れに直接関連する契約を,現に契約を履行中の契約者以外の者に行わせることが不利と認められたとき。)の規定に該当すると判断したためである(甲1号証,乙J87号証の1)。

b 契約内容

契約締結日 平成5年1月29日

工事名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備工事その2

目的 電気設備工事(水処理運転操作設備)

工期 平成5年1月30日から同6年3月18日まで

請負代金額 4億9409万1000円(各事業年度における請負代金の支払の限度額は,平成4年度・5700万0200円,平成5年度・4億3709万0800円,これに対応する各事業年度の出来高予定額は,平成4年度・6340万円,平成5年度・4億3069万1000円)

(イ) 本件第二契約の変更

a 被告事業団と被告明電舎及び同富士電機は,平成5年3月26日,本件第二契約につき,支払限度額を,平成4年度は5974万円,平成5年度は4億3435万1000円,これに対応する出来高予定額を,平成4年度は6640万円,平成5年度は4億2769万1000円と変更する旨の工事請負変更契約(乙J14号証)を締結した。

b 更に,被告事業団と被告明電舎及び同富士電機は,平成6年3月9日,本件第二契約につき,請負代金を8755万円増額(請負代金額5億8164万1000円)し,支払限度額を平成5年度は5億2190万1000円,出来高予定額を平成5年度は5億1524万1000円と変更する旨の工事請負変更契約(乙J15号証)を締結した。

(ウ) 本件第二契約に基づく支払

被告事業団は,被告明電舎に対し,本件第二契約に基づく請負代金として,平成6年5月25日を最終の支払日として4回に区分して,合計5億8164万1000円を支払った。

エ 第三契約

(ア) 契約の締結等

a 被告事業団は,本件委託工事のうち平成5年度実施協定に係る電気設備工事について,前記の方式により設計金額の積算を行った上,本件第二契約同様,随意契約の形式で被告明電舎(工事完成保証人被告富士電機)との間で,次のとおり,工事請負契約を締結した(乙J16号証,以下「本件第三契約」といい,本件第一契約及び第二契約と併せて「本件各請負契約」という。また,本件各請負契約に係る工事を「本件工事」ないし「本件各工事」という。)。

b 契約内容

契約締結日 平成5年9月29日

工事名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備工事その3

目的 電気設備工事(汚泥処理運転操作設備)

工期 平成5年9月30日から同7年1月31日まで

請負代金額 2億1321万円(各事業年度における請負代金の支払の限度額は,平成5年度・8240万円,平成6年度1億3081万円,これに対応する各事業年度の出来高予定額は,平成5年度・9160万円,平成6年度・1億2161万円)

(イ) 本件第三契約の変更

a 被告事業団と被告明電舎及び被告富士電機は,平成6年3月29日,本件第三契約につき,支払限度額を,平成5年度は1億6663万3400円,平成6年度は4657万6600円,出来高予定額を,平成5年度は1億8520万円,平成6年度は2801万円と変更する旨の工事請負変更契約(乙J17号証)を締結した。

b 更に,被告事業団と被告明電舎及び同富士電機は,平成7年1月19日,本件第三契約の工期の終期を平成7年1月31日から平成7年2月28日に変更する旨の工事請負変更契約(乙J18号証)を締結した。

(ウ) 本件第三契約に基づく支払

被告事業団は,被告明電舎に対し,本件第三契約に基づく請負代金として,平成7年5月23日を最終の支払日として5回に区分して,合計2億1321万円を支払った。

(5) 事業団発注に係る下水道施設電気設備工事の入札における談合疑惑を巡る一連の経緯

ア 平成6年9月2日付けの毎日新聞朝刊第1面において,被告事業団が,下水道関係の電気設備工事の発注に絡み,電機メーカー(なお,記事には,被告日立製作所,同東芝,同三菱電機,同富士電機,同明電舎の大手メーカー5社と,同安川電機など4社と記載され,全ての被告は記載されていない。)などに受注シェアを指示し,実質的に談合を指導していた疑いが強まり,公正取引委員会は,独占禁止法違反容疑で,同日にも被告事業団の立入検査に踏み切る方針を固めた等の報道がされた(乙E1号証)。

同日付けの毎日新聞夕刊第1面には,被告事業団の下水道電気設備工事の発注に絡む談合疑惑で,公正取引委員会は,同日までに,電機メーカー側関係者から,被告事業団指導の談合の事実を大筋で認める供述を得ていたことがわかった等の記事が掲載された(乙E2号証)。

イ 平成6年10月6日付けの朝日新聞朝刊第1面において,被告事業団発注の電気設備工事の入札を巡って,受注者の大手,中堅電機メーカー9社(被告明電舎を含む被告9社の社名が記載されている。以下「被告9社」とあるのは,この趣旨である。)が「九社会」と呼ばれる親睦団体を作り,数年間にわたって談合を繰り返していた疑いがあることが,公正取引委員会の調べなどでわかった等の報道がされた(乙E3号証)。

ウ 平成6年12月26日付けの読売新聞朝刊第1面において,被告事業団発注の電気設備工事を巡る入札談合事件で,公正取引委員会は,同月25日までに,談合に加わっていた大手,中堅電機会社(被告9社)の営業担当幹部と法人について,独占禁止法3条違反の疑いで検事総長に告発する方針を決め,検察当局も受理の方向で検討している等の報道がされた(乙E4号証)。

同月27日,埼玉新聞には,被告事業団発注の電気設備工事の入札を巡る大手,中堅電機メーカー9社(被告9社)の談合事件で,公正取引委員会は同月26日までに,9社を独占禁止法違反で来年1月にも検察当局に告発する方針を固めた等の記事が掲載された(乙E19号証)。

エ 平成7年3月6日付けの埼玉新聞には,被告事業団発注の電気設備工事を巡る大手,中堅電機メーカー9社の談合事件で,大手5社と中堅4社の受注割合が当初の80%対20%から,中堅4社の意向を被告事業団が後押しする形で,75%対25%に変更されていたことが,同月5日までの関係者の話でわかった等の報道がされた(乙E20号証)。

オ 平成7年3月6日,公正取引委員会は,検事総長に対し,平成5年度被告事業団発注の電気設備工事の入札に関し,被告9社が談合を行ったとして刑事告発をした(なお,公正取引委員会は,同年6月7日,被告9社の従業員17名及び被告事業団の前職員1名をも告発した,甲1号証,乙E21,31号証)。

前記告発は,同月7日付けの新聞各紙で大きく取り上げられた。例えば,毎日新聞朝刊第1面においては,被告事業団発注の電気設備工事に絡む談合事件で,公正取引委員会が,平成7年3月6日,電機メーカー9社(被告9社)を独占禁止法3条違反の疑いで検事総長に刑事告発した等の記載がされた(乙E5号証)。読売新聞(乙E6号証),朝日新聞(乙E7号証),日本経済新聞(乙E8号証)においても同趣旨の報道がされた。

また,同日付け埼玉新聞においては,同趣旨の記事に加え,埼玉県が,被告9社を,同月6日から4か月間の指名停止とした等の報道がされた(乙E21号証)。

カ 平成7年3月8日付けの朝日新聞夕刊において,被告事業団発注工事の入札談合事件で,刑事告発された電機メーカー9社が,同一施設での工事を連続して受注できるように取り決めていた疑いがあることが公正取引委員会の調べで明らかになったこと等の報道がされた(乙E9号証)。

同日付け埼玉新聞において,被告事業団発注の電気設備工事を巡る大手,中堅電機メーカー9社が談合の事実を隠す目的で,一部の工事で,わざと1回目の入札を不調に終わらせ2回目の入札に持ち込むなどの偽装工作をしていたこと,刑事告発の対象たる平成5年度には,被告事業団の東京支社で東日本地域の計50件の新規工事の指名競争入札が行われたが,うち18件が,1回目の入札では最低入札額が被告事業団の契約予定額に達せず,2回目の入札で落札メーカーが決まった等の報道がされた(乙E22号証)。

キ 平成7年6月15日,東京高等検察庁は,被告9社及びその担当者を独占禁止法3条違反の罪で,被告事業団の元工務部次長を同幇助の罪で,それぞれ,東京高等裁判所に起訴した(同裁判所平成7年(の)第1号)。

同月16日,前記起訴は,新聞各紙で大きく取り上げられ,朝日新聞第1面においては,被告事業団が発注した電気設備工事を巡る談合事件で,東京高検は,同月15日,平成5年度の新規発注工事49件につき,被告9社と各社の営業部門,調査部門の部課長級などの担当者17人を独占禁止法3条違反の罪で,更に,被告事業団で電気工事発注を担当した元工務部次長を同幇助の罪で,それぞれ東京高裁に在宅のまま起訴した等の報道をした(乙E10号証)。同日,読売新聞第1面(乙E11号証),埼玉新聞(乙E24号証)にも同趣旨の記事が掲載された。

ク 平成7年6月24日,日本経済新聞は,被告事業団発注の電気設備工事を巡る入札談合事件で,公正取引委員会は,平成4年度及び5年度の新規工事を対象として,独占禁止法3条違反で重電メーカー9社(被告9社)に合計約10億円の課徴納付を命じる行政処分を行う方針を決め,同月23日までに各社に文書で通知した等の報道をした(乙E12号証)。

ケ 平成7年7月12日,公正取引委員会は,被告9社に対し,被告事業団が平成4年度,5年度に発注した電気設備工事の新規工事に関連して,被告9社は,共同して受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたとし,この行為は,公共の利益に反して,被告事業団が発注する平成4年度・5年度特定電気設備工事の各取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当し,同法3条の規定に違反するとして,課徴金納付命令を発した(課徴金額合計10億3636万円,なお,本件第一契約に係る工事は課徴金納付の対象とされたが,同二,三に係る工事は新規工事に該当しないことから,対象とされていない,甲1号証,乙E31号証)。

同月13日,前記発令は,新聞各紙で取り上げられ,例えば,毎日新聞朝刊第1面においては,被告事業団の電気設備工事発注に絡む談合事件で,公正取引委員会は,同月12日,重電メーカー9社(被告9社)に対し,平成4年度及び5年度の工事を対象として,総額約10億3000万余円の課徴金納付命令を発した等の記事を掲載した(乙E14号証)。同日,朝日新聞朝刊(乙E13号証),読売新聞朝刊(乙E15号証),産経新聞朝刊(乙E16号証),東京新聞朝刊(乙E17号証),日本経済新聞(乙E18号証),日経産業新聞(前同),日本工業新聞(前同),日刊工業新聞(前同)にも,同趣旨の記事が掲載された。

コ 平成7年7月28日付け毎日新聞朝刊において,被告事業団の電気設備工事発注に絡む談合事件で,談合によりつり上げられた工事価格の返還を求める住民訴訟を行う方針の全国市民オンブズマン連絡会議が,公正取引委員会が談合があったと認定し,課徴金納付命令の対象とした工事名の全リストを入手し,その全容が同月27日に明らかになった等の報道がされた(乙E29号証)。

サ 平成8年5月31日,東京高等裁判所は,前記の独占禁止法違反被告事件につき,被告9社のうち,被告日立製作所,同東芝,同三菱電機,同富士電機及び同明電舎をいずれも罰金6000万円,その余の被告各社をいずれも罰金4000万円,被告9社の担当者らをいずれも懲役10月・執行猶予2年,独占禁止法違反幇助事件につき,被告事業団の元工務部次長を懲役8月・執行猶予2年とする判決を宣告した(甲2号証)。

(6) 監査請求及び本訴の提起

原告らは,平成8年1月11日付けで,本件組合の監査委員に対し,本件組合は,被告らの談合行為(共同不法行為)によって被った損害につき,被告らに対する損害賠償請求権の行使を怠っているとして監査請求(本件監査請求)を行ったが,監査委員は,平成8年3月11日付けで,原告らが主張する怠る事実に該当する事実につき確認できないとして,本件監査請求を棄却する旨の監査結果を得,その旨原告らに通知した。

そこで,原告らは,平成8年4月9日,本件監査結果を不服として,本訴を提起した。

(7) 原告らが主張する本件組合の被告らに対する損害賠償請求権の発生原因事実

ア 被告らによる談合行為

被告9社は,平成2年度以降,同一年度内に被告事業団が発注を予定している電気設備工事の受注予定者を毎年6月に開かれる,いわゆる「ドラフト会議」において一括して決定していた。

その方法は,まず,談合ルールの確認を行い,被告事業団の担当者から当該年度において被告事業団が発注する電気設備工事について,工事件名,予算金額等の情報を得て,「九社の談合ルール」に基づいて決定されている各社のシェア割合に従って各電気設備工事の受注業者を決定するというものであった。

そして,そのようにして決定された受注予定会社を被告事業団の担当者に伝えて,被告事業団の担当者において,当該受注予定会社を指名業者に選定するとともに,入札ないし見積合わせに際し,予定価格を受注予定者の担当者に教示するという方法がとられるのが原則であった。

なお,この談合ルールにおいては,継続工事については,そのまま当初工事を受注した業者が継続受注することとされ,被告事業団もこのことを認識し,随意契約の方式により,当初の受注業者と契約を継続していた。

イ 被告事業団は,本件基本協定及び本件各年度実施協定により本件組合から委託を受けた本件委託工事の受注業務の遂行に当たり,建設工事の請負の有資格業者を選定した上,それらの業者によって競争入札を行い,最低価格落札者を決定して,その業者と工事請負契約を締結し,本件組合に対し,適正価格を超える費用負担をさせない義務を負っているのにもかかわらず,この義務に違反して本件組合の設定する工事予定価格を教示した上,被告9社の通謀により受注予定者とされた被告明電舎との間で本件第一ないし第三契約を締結し,これら水増しされた請負代金を前提として,本件組合に費用の支払をさせることで,本件組合による被告事業団に対する納入済額と請負業者への支払額の差額を生じさせないこととし,少なくとも,本件各請負契約代金の合計額の2割相当額の損害(被告明電舎の受注価格合計11億5916万2000円の20%相当額である2億3183万2400円)を本件組合に被らせた。

ウ 上記の損害は,被告らの談合という共同不法行為によって発生したものであるから,被告らは,本件組合に対し,連帯して,本件組合の被った前記損害(これに伴う10%の弁護士報酬相当額を含む。)を賠償すべき責任を負担しているところ,本件組合は,その権利行使を怠っている。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(監査請求期間の制限規定の適用の有無)について

ア 被告ら

(ア) 地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとし,法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,その監査請求が,当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるとき(以下,この場合の怠る事実を「不真正怠る事実」という。)は,当該監査請求については,その怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解される。けだし,同条2項の規定により,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ,当該行為の違法是正等の措置を請求することができないものとされているにもかかわらず,監査請求の対象を当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより,同項の定める監査請求期限の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば,法が同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものといわざるを得ないからである(最高裁判所第二小法廷昭和62年2月20日判決・民集41巻1号122頁)。

(イ) これを本件についてみると,本件監査請求は,これを実質的にみれば,本件組合による本件各年度実施協定の締結及び本件支払という財務会計上の行為の違法を原因とする損害賠償請求権の不行使をもって怠る事実と構成し,その相手方に対し,本件組合に代位して損害賠償請求をするもの,すなわち,不真正怠る事実があるとしているものにほかならないものというべきである。

すなわち,原告らの主張によれば,被告事業団は,被告らの共同不法行為である違法な談合行為に基づいて形成された不当に高額な請負代金の支払を内容とする本件各請負契約を締結し,これとの関連で,本件組合と被告事業団との間の本件各年度実施協定に基づく支払金額も不当に高額になったという関係になるから,本件各年度実施協定の締結及び本件支払は,客観的に,地方財政法4条1項にいう「目的を達成するための必要かつ最小の限度」を超えた支出として,あるいは,公序良俗に反するものとして,いずれにせよ違法というべきことになるし,また,原告らの主張するような談合行為があったというのであれば,被告事業団は,本件組合と委託協定を締結する段階で,既に本件組合に対する詐欺を行ったということになるからである。

要するに,原告らの主張する談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求権の発生を前提とすれば,本件組合と被告事業団との間で締結した本件各年度実施協定及びこれに基づく支出は違法なものとならざるを得ないのであり,このように解さないと,本件組合が,原告らの主張する被告らの談合という共同不法行為によって,損害を被ったことを基礎付けることはできないのである。

そして,地方財政法4条1項の規定からも明らかなとおり,ここにいう財務会計行為の違法とは,当該行為が是正されるべき客観的な違法性を有することをいうのであって,当該地方公共団体の長その他の担当職員の職務義務違背に基づく違法に限定されるものではなく,もとより,これら職員が違法性を認識しているか否かという主観的な事情は,財務会計行為の違法性とは関係がない。

(ウ) 原告らは,本件の訴訟物は,談合という不法行為に基づいて発生する損害賠償請求権であり,本件各年度実施協定の締結及び本件支払という財務会計上の行為自体の違法,無効に基づいて発生する損害賠償請求権ではないと主張する。

しかし,談合行為,本件基本協定,本件各年度実施協定の締結及び本件支払は,切り離すことのできない一連の事実であるから,談合行為と本件支払のみが違法であって,その間にある本件基本協定,本件各年度実施協定に違法な点はないということはあり得ないものというべきである。

(エ) また,前記のとおり,ある財務会計行為自体を対象とすると1年間の監査請求期間の制限を受けるのに,その財務会計行為から生じた損害賠償請求権の管理を怠っているとしてその請求権を代位行使するという法律構成をとれば監査請求の期間制限を受けなくなるというのでは不合理であるというのが不真正怠る事実について監査請求の期間制限規定を適用すべきと解する実質的根拠なのであるから,法242条2項の適用の有無は,原告らの主張の法律構成いかんに左右されるべきではなく,違法な財務会計行為が存在し,その是正等を求めて監査請求ができるのであれば,それを原因とする損害賠償請求に係る怠る事実についての監査請求においても,当該財務会計行為時を基準として同条項の適用を肯定すべきである。

そうすると,原告らの主張する損害賠償請求権は,本件基本協定,本件各年度実施協定の締結及び本件支払という財務会計行為の違法,無効に基づき発生するものである以上,法242条2項に規定する監査請求の期間制限に服するものと解すべきである。

イ 原告ら

(ア) 本件監査請求は,「怠る事実」を対象とする請求であるところ,「怠る事実」を対象とする監査請求については,一般的に法242条2項の適用はない(最高裁判所第三小法廷昭和53年6月23日判決・裁判集民事124号145頁)。

したがって,本件監査請求には,法242条2項の適用はない。

(イ) 被告は,財務会計行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実と構成する監査請求については,法242条2項の適用があると主張するが,怠る事実に係る監査請求について,同項が適用されるには,監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとしていること,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであることを要件とするものであるところ,本件は,以下のとおり,そのいずれも満たしていない。

a 財務会計行為の違法性の意義

違法な財務会計上の行為とは,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の当該地方公共団体に対する職務義務違反,すなわち,内部関係における違法を意味するものであるところ,本件基本協定及びこれに基づく委託料の支出に際して,本件組合の管理者その他の財務会計職員には,そのような職務義務違反は認められない。

したがって,原告らの主張する談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求権は,契約が違法,無効であることに基づいて発生する請求権ではなく,契約自体の有効性を維持した上でなお行使することのできる別個の請求権である。

b 談合という共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠る事実と財務会計行為の違法性

i 原告らの主張する談合という共同不法行為(被告9社の談合担当者と被告事業団の担当者という具体的な共同不法行為者それぞれの使用者としての責任を含む。)に基づく損害賠償請求権とは,次のようなものをいう。すなわち,① 前記のとおり,被告ら9社と被告事業団は,通謀して,平成2年度以降,同一年度内に被告事業団が発注を予定する全ての電気設備工事の受注予定者を,シェア枠による受注調整に従い,一括して決定する趣旨の談合(毎年の談合ルールの確認,「ドラフト会議」における新規工事受注予定者の決定,その後の各工事の発注までの間に行われる予定価格の教示等各種の措置)を行っていた。② そして,平成4年の談合に基づいて被告明電舎が受注予定者となることが合意され,その後入札に際してこれを実現させるよう行動した結果,本件第一契約,ひいては第二,第三契約が締結された。③ この談合行為によって本件各請負契約の代金が不当に引き上げられたため,本件組合は,被告事業団から受けられたはずの本件各工事の契約価格の20%相当額の精算金の還付を受けることができなくなり,同額の損害を被った。

ⅱ このように,原告らは,本件組合が被告事業団との間で締結した本件基本協定,本件各年度実施協定等の行為自体を違法であると主張しているわけではなく,談合という共同不法行為によって,本件各工事の請負代金額が引き上げられたことのみを問題にしているに過ぎない。

すなわち,本件基本協定,本件各年度実施協定の締結段階において,各協定が違法の評価を受けることはおよそあり得ないのであるから,本件監査請求,ひいては本件の訴えは,本件基本協定,本件各年度実施協定の締結という財務会計上の行為自体が違法,無効であることに基づいて発生する損害賠償請求権に関するものではなく,談合という共同不法行為に基づき,本件組合が還付を受けるべき本件支払(納入済額)につき,精算額との差額が発生しないという損害についての損害賠償請求権に関するものなのである。

(ウ) 以上によれば,本件には,通常の怠る事実に対する監査請求であるから,法242条2項の期間制限規定の適用はないと解すべきである。

(2)  争点2(監査請求期間の遵守)について

ア 被告ら

(ア) 本件監査請求に法242条2項の適用があると解すべきことは前記のとおりである。そして,当該行為が,違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実と構成する場合の監査請求期間の起算点については,前記のとおり,怠る事実に係る請求権の発生原因である当該行為のあった日又は終わった日を基準とすべきであり,本件監査請求の場合には,

a 本件組合における本件各年度実施協定の締結日が監査請求期間の起算点となるものと解すべきである。

仮に,これが監査請求期間の起算点であると認められないとしても,b 本件各年度実施協定に基づく所要金額の確定時,c 委託費用額に関する一部変更協定締結時,d 本件各年度実施協定に基づく支払時,e 本件各請負契約締結時が順次起算点となると解すべきである(aを主位とし,順次bないしeを予備的な起算点として主張する。)。

そうすると,いずれの時点を起算点とするにせよ,本件監査請求のされた平成8年1月11日は,1年の監査請求期間を経過した後であるから,本件訴えは,適法な監査請求を経由していない点において,不適法というべきである。

(イ) なお,原告らは,最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決(民集51巻1号287頁)を根拠として,本件監査請求は法定の監査請求期間内にされたものであると主張している。同判決は,「財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求において,右請求権が右財務会計上の行為のされた時点においては,いまだ発生しておらず,又はこれを行使することができない場合には,右実体法上の請求権が発生し,これを行使することができることになった日を基準として法242条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。」と判示しているところ,同判決にいう「請求権が右財務会計上の行為のされた時点においては,いまだ発生しておらず,又はこれを行使することができない場合」とは,財務会計上の行為がされた時点で請求権自体が法律上発生していない場合,又は請求権を行使するについて法律上の障害若しくはこれと同視し得るような客観的な障害がある場合をいうものと解され,地方公共団体の財務会計担当者が当該財務会計上の行為が違法であることを知らなかったため,事実上請求権の行使ができなかったに過ぎない場合は含まれないものと解すべきである。

これを本件についてみると,本件組合が,被告事業団と本件各年度実施協定を締結したことにより,本件組合の債務負担は確定しているのであるから,その時点で,本件組合の損害賠償請求権は,既に発生しているのである。仮に,そうでないとしても,本件各年度実施協定に基づく支払時点には,本件組合の損害賠償請求権は,確定的に発生しているのであって,公正取引委員会による課徴金納付命令が確定する以前でも,本件組合が被告らに対して損害賠償請求権を行使することについては,法律上の障害若しくはこれと同視し得るような客観的な障害は一切存在しないものというべきである。

原告らがこの損害賠償請求権を行使することができなかった理由として挙げるところは,財務会計上の行為である本件各年度実施協定が違法であることを知らなかったという事実上の障害に過ぎないから,本件は,前記判決とは事案を異にするというべきであり,したがって,本件における監査請求期間の起算点は,前記のとおり,その原因である財務会計上の行為,すなわち,前記(ア)のaないしeのいずれかの時点というべきである。

イ 原告ら

(ア) 仮に,本件において,法242条2項の監査請求期間の制限の適用がある解すべきであるとしても,その起算点は,被告ら主張の本件各年度実施協定の締結された日等ではなく,早くとも,被告9社に対する課徴金納付命令が発せられた平成7年7月12日であると解すべきである。

(イ) すなわち,財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実とする住民監査請求において,法242条2項の監査請求期間の制限の適用があるとしても,その期間の起算点は,実体法上の請求権が行使できた時点とすべきである(最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決・民集51巻1号287頁参照)。

これを本件についてみると,本件各年度実施協定の締結等財務会計上の行為が行われた時点では,被告らの組織的談合の事実は当然のことながら公にはされておらず,本件組合は不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができない立場に置かれていたのであり,これが解消されて,本件組合が損害賠償請求権を行使することができるようになったのは,早くとも,被告9社に対する課徴金納付命令が発せられた日(平成7年7月12日)からである。

(ウ) したがって,本件における監査請求期間は,平成7年7月12日から起算されるべきところ,原告らは,それから1年を経過しない平成7年11月27日付けで本件監査請求を行ったのであるから,本件監査請求は法242条2項本文の期間内にされた適法なものというべきである。

(3)  争点3(「正当な理由」の有無)について

ア 原告ら

(ア) 仮に,本件監査請求に法242条2項の適用があり,かつ,本件監査請求が1年間の監査請求期間を経過した後にされたものであるとしても,原告らには,「当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した」ことにつき,同項ただし書にいう「正当な理由」があるので,本件監査請求は,適法というべきである。

(イ) すなわち,公正取引委員会は,平成7年7月12日,被告9社に対し,課徴金納付命令を発し,この事実は,同月13日にマスコミ各紙によって報道されたが,その内容は,下水道事業団と電機メーカー各社において談合が行われていた事実,課徴金納付命令が発せられた会社名,課徴金納付命令の対象が平成5年度工事分である事実だけであり,鶴ヶ島市等の住民は,本件監査請求に係る工事が談合の対象となっているかどうかについては,これらの報道によって知ることはできなかった。

住民監査請求が適法であるといえるためには,その対象とする財務会計上の行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的に特定することが必要である(最高裁判所第三小法廷平成2年6月5日判決・民集44巻4号719頁)。

そうすると,平成7年7月13日の前記報道では,財務会計上の行為を特定するに必要な工事名,時期,金額等が明らかにされていないから,これらの報道をもって,相当の注意力をもって調査したときに,客観的にみて本件における当該行為を知ることができたということはできないものである。

(ウ) 坂戸市,鶴ヶ島市には情報公開条例が存在しないことから,原告らが,監査請求が可能な程度に本件事実関係を知ったのは,「全国市民オンブズマン連絡会議」に参加して情報を得た市民オンブズマンのメンバーである佐々木及び新穂の両弁護士から,原告らに説明がされた平成7年11月20日頃である。

そうすると,本件監査請求は,原告らが監査請求が可能な程度に事実関係を知ってから僅か1か月半程度しか経過していない平成8年1月11日にされているのであるから,本件監査請求は「相当な期間」内にされたものと評価すべきである。

(エ) 仮に,原告らが,相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて,平成7年7月13日の報道の時点で当該行為を知ることができたとしても,法242条2項ただし書は「相当な期間」の期間を明示していないのであるから,この期間は,当該財務会計上の行為の大小,資料入手の難易,監査請求の必要性,当該監査請求を認めなければ社会正義に反するか否か等をも考慮して,事案ごとに判断すべきであって,一律に期間を限定することになじまないものであるから,3か月を超えることは許されないと解すべきものではない。

本件は,大手電機メーカー9社による公共工事における談合という重大な事件であり,本件監査請求の適法性を認めなければ,社会正義に反する度合も大きいといわなければならず,鶴ヶ島市には情報公開条例も存在しないのである。したがって,このような場合においては,原告らが相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができた時点から,本件監査請求を行うまでに6か月弱の期間が経過したとしても,なお「相当な期間」内にされたものと評価すべきである。

(オ) したがって,原告らには,本件監査請求が監査請求の対象となる財務会計上の行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされたことにつき,「正当な理由」があるものというべきである。

イ 被告ら

(ア) 法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情がない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時点から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和63年4月22日判決・判例時報1280号63頁)。

そして,当該行為を知ることができたと解される時点から監査請求をすべき「相当な期間」は,3か月を超えることはないというべきである。

(イ) これを本件についてみると,平成6年9月頃以降,下水道処理場の電気設備工事の入札に係る談合の存在を報ずる新聞報道が繰り返しされていたのであるから,鶴ヶ島市等の住民は,早くて,この平成6年9月頃,遅くとも,公正取引委員会が,被告9社に対し,本件工事を含む下水道処理場の電気設備工事を対象としてした独占禁止法違反による課徴金納付命令についての報道がなされた平成7年7月13日には,客観的にみて相当の注意力をもって調査すれば,本件組合における本件基本協定の締結及びその違法を知ることができたものと認めるべきである。

(ウ) そうすると,本件監査請求がされたのは,それから6か月近く経過した平成8年1月11日であるから,本件監査請求は「相当な期間」内に行われておらず,本件監査請求について「正当な理由」が認められる余地はない。

(4)  争点4(「違法な怠る事実」の有無と住民訴訟の許容性)について

ア 被告東芝を除く被告ら

(ア) 損害賠償請求権の行使を「違法に怠る事実」を対象事項とした住民訴訟においては,当該地方公共団体による不行使について,違法性の存することが要件とされる。

そして,損害賠償請求権の存否,同請求権の行使の可否の結論は,常に容易に得られるものではなく,むしろ慎重困難な判断作業を要する場合が多いから,第三者の行為により地方公共団体に損害が発生している可能性が認められる場合でも,当該損害賠償請求権を行使するか否かは,一定の範囲で地方公共団体の裁量に委ねられていると解されるから,当該地方公共団体が損害賠償請求権を行使しないからといって,直ちにそれが違法となるわけではなく,その不行使が裁量の範囲を超えて違法となる場合に,初めて住民訴訟による代位請求が認められるべきことになる。

(イ) これを本件についてみると,本件組合が発注した本件委託工事の価格は,本来適正な手続を経て積算された金額を基準とし,客観的にも相当なものであったから,本件組合が被告らの談合行為の存否,談合と本件委託工事との関連性の有無,損害発生の有無等の困難な判断事項を含む本件に関し,敢えて損害賠償請求権を行使しなかったとしても,それは本件組合に委ねられた裁量の範囲内における妥当な判断の結果であって,違法性はない。

よって,本件訴えは,不適法なものである。

イ 原告ら

(ア) 地方公共団体の有する不法行為に基づく損害賠償請求権は,法237条1項及び同法240条1項にいう地方公共団体の財産ないし債権に当たるところ,債権の管理について,法240条2項が地方公共団体の長が必要な措置をとるべきこと,法96条1項10号がその放棄については議会の議決を要すること,法施行令171条以下がその猶予や免除の要件を規定していることに照らせば,地方公共団体の長は,これを行使する義務を負い,行使するか否かの裁量権を有しないものというべきである。

したがって,客観的に損害賠償請求権が存在する場合に,地方公共団体の長がこれを行使しないのは,当然に違法である。

(イ) 本件においては,公正取引委員会によって,原告らの主張する被告らの談合が認定され,被告9社は,課徴金納付命令を受けこれを納付しており,本件組合の被告らに対する損害賠償請求権が発生していることは明らかである。

(5)  争点5(一部事務組合と住民訴訟の可否)について

ア 被告明電舎,同富士電気,同安川電機,同神鋼電機及び同事業団

本件組合は,法284条に基づいて設置された特別地方公共団体(一部事務組合)であるところ,一部事務組合の構成員は,普通地方公共団体ないし特別区であって,そこに住民なる概念を入れる余地はない。しかも,一部事務組合の費用は,構成員たる自治体が負担するものであって,当該自治体の住民は一部事務組合に対して納税義務を負担していないのであるから,納税者訴訟に起源を有する住民訴訟,住民監査請求の制度とは相容れない。

そうすると,一部事務組合に関する限り,普通地方公共団体に関する規定の準用を定める法292条の解釈として,法242条及び法242条の2は準用されないと解するのが相当であり,したがって,一部事務組合の財務会計行為につき,一部事務組合の構成員たる自治体の住民は,住民監査請求及び住民訴訟を行うことはできないものというべきである。

イ 原告ら

上記主張は争う。

(6)  争点6(監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性)について

ア 被告事業団,同富士電気,同安川電機及び同神鋼電機

本件監査請求の対象とする不法行為者は,被告らであるところ,本件訴状によれば,被告らには使用者責任を主張し,不法行為者は,被告9社の談合担当者と被告事業団工務部次長とされているから,本件監査請求の対象とした財務会計上の怠る事実と本件訴えの対象たる財務会計上の怠る事実との間には,同一性がない。

イ 原告ら

上記主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  争点1(監査請求期間制限規定の適用の有無)について

(1)  怠る事実と法242条2項

ア 法242条1項は,普通地方公共団体の住民は,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員について,違法若しくは不当な公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担(「当該行為」)があると認めるとき,又は,違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(「怠る事実」)があると認めるときは,これを証する書面を添え,監査委員に対し監査を求めることができるとし,同条2項本文は,「当該行為」のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができない,と規定している(この規定の反面として,「怠る事実」については,監査請求期限に制約はないと解される。)。

法がこのように当該行為について監査請求期間の制限を定めたのは,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が違法,不当である場合においても,それをいつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは,法的安定性を損なうこととなり,好ましくないからである。

しかしながら,地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして住民監査請求があった場合に,これが,当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解すべきである。けだし,法242条2項の規定により,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ,当該行為の違法是正等の措置を請求することができないものとしているにもかかわらず,監査請求の対象を当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば,法が同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものといわざるを得ないからである(最高裁判所第二小法廷昭和62年2月20日判決・民集41巻1号122頁参照)。

イ そして,このように,本来,「当該行為」としても構成できる監査請求を,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という「怠る事実」に法律構成を変えることによって,監査請求期間の制限規定の適用を免れることができることになるのでは,監査請求期間の期間制限を設けた法の趣旨が失われるというのが上記解釈の実質的根拠とするところであることからすれば,「当該行為」としての法律構成が可能である場合,すなわち,「怠る事実」としての法律構成を主張すると,必然的に「当該行為」の違法を主張することになる場合,更に,換言すれば,怠る事実として構成する前提となる実体法上の請求権の成立原因事実を主張することが,財務会計行為の違法を主張することになる場合には,いわゆる不真正怠る事実として,監査請求期間の制限規定が適用されるものと解するのが相当である。

(2)  本件監査請求の対象事項

ア 甲1号証によれば,原告らがした本件監査請求の内容は,次のとおりである。

「本件組合は,被告事業団との基本協定に基づき,平成4年度及び平成5年度に石井水処理センター建設工事を委託したが,同工事のうち,被告事業団の発注する電気設備工事の入札に関し,被告ら9社及び被告事業団は,談合という共同不法行為を通じて受注予定者及び受注金額を調整して金額を不当につり上げた。

もしも,受注予定者間で公正な競争が確保されていたとすれば,落札価格したがって契約金額は,現実の契約価格よりも20%以上低くなったはずであり,最終的に契約代金を負担した組合に対し,上記金額に相当する損害を与えた。

しかも,この工事については,公正取引委員会による課徴金納付命令の対象にもなっている。

したがって,本件組合の管理者には,上記不法行為者に対して有する損害賠償請求権を行使して,本件組合の被った損害を填補するために必要な措置を講ずる責任があるのに,これを怠っていることは,法242条1項に規定する「財産の管理を怠る事実」に該当する。」

イ このように,本件監査請求において,行使を怠っているとされた損害賠償請求権とは,本件組合が,被告事業団に対し,本件基本協定,本件各年度実施協定に基づき,本件委託工事の施行を委託したところ,被告事業団の発注する電気設備工事の入札に関し,被告ら9社及び被告事業団は,談合という共同不法行為を通じて公正な競争による価格形成を阻害し,契約金額を不当につり上げたことにより,最終的に契約代金を負担した組合に対し,上記金額に相当する損害を与えたことによって発生したとされているものである。

そして,原告らの主張によれば,被告ら9社と被告事業団は,通謀して,平成2年度以降,同一年度内に被告事業団が発注を予定する全ての電気設備工事の受注予定者を,シェア枠による受注調整に従い,一括して決定する趣旨の談合(毎年の談合ルールの確認,「ドラフト会議」における新規工事受注予定者の決定,その後の各工事の発注までの間に行われる予定価格の教示等各種の措置)を行ったものであり,本件工事は,被告明電舎が受注予定者となることが合意され,その後入札に際してこれを実現させるべく行動した結果,本件第一契約ひいては第二,第三契約が締結された,更に,このような談合行為の結果,本件各請負契約の代金が不当に引き上げられたため,本件組合に,自由競争を排除していなければ被告事業団から受けられたはずの本件各工事の契約価格の20%相当額の精算金の還付を受けることができなくなり,同額の損害を被ったというのである。

(3)  本件監査請求の対象事項と財務会計上の行為との関連性

ア 被告事業団の業務及び本件組合と被告事業団との関係は,前記基本的事実関係のとおりであるところ,これらの事実関係に照らすと,仮に,本件各請負契約の契約金額が引き上げられたという事実があったとしても,その契約金額と想定される公正な競争によって成立する契約金額との差額が直ちに本件組合の損害になるという関係が成立するかについては疑問の余地がある。

ただし,この問題は本案の判断に関わることであるから,暫く措くとして,本件監査請求に係る談合行為と本件組合に生じた損害の発生という問題を考えると,本件組合が本件各工事の施行に係る費用を被告事業団に対して支払うのは,本件各年度実施協定又は変更協定(以下,両者を含む意味で単に「実施協定」という。)によって,各実施協定の対象工事(すなわち,本件各工事)の施行に要する費用を支払うことを被告事業団との間で合意した支出の原因行為(法232条の3にいう支出負担行為)があるからである。そして,実施協定に基づいて合意した費用を支払うことは,当該実施協定が有効に存在している限り,本件組合として当然の義務であるから,実施協定に違法又は無効の瑕疵が存在しない限り,これに基づく上記費用の支払を違法ということはできず,当該支出によって本件組合に損害が生じたということはできない。

イ そうすると,その反面として,原告らが,その主張する共同不法行為(談合行為)によって本件組合に損害が生じたというからには,当該談合行為によって,本来なら支払う義務のない(又は支払うべきでない)金員を支払う内容の実施協定が締結されたこと,換言すれば,談合行為のゆえに客観的には違法又は無効な支出負担行為がされたという法律関係が前提になるはずである。すなわち,本件組合が被告事業団に対し,本件工事に関し,いくらの費用を支払うか,言い換えれば,実施協定の内容をどのように定めるかは,本件組合の財務会計上の判断に基づくものであって,本件組合の財務会計職員が客観的見地からみた場合,この判断を誤って被告事業団との間で,より低額の工事費用を定めて締結できるはずの実施協定を,実際には,より高額の工事費用を合意して締結した場合には,当該財務会計職員に故意,過失がなくても,上記実施協定は,地方財政法4条1項に違反する支出負担行為として客観的に違法になり,これに基づく支出も違法となるから,本件組合にはこの支出に対応する損害が発生するという関係になる。談合行為は,上記判断の過程に作用して,財務会計職員の判断を誤らせ,客観的には違法な支出をさせ,これによって本件組合に損害を与えることになるのである。

ウ 以上のように考えると,原告らの本件監査請求が談合行為の存在を理由として法242条1項に基づきされたものである以上,本件組合が被告らに対し損害賠償請求権を有するというその主張の中には,本件組合と被告事業団の間で締結された実施協定は違法である旨の主張が,その論理的前提として含まれているものと解さざるを得ず,これら実施協定(支出負担行為)が違法であるからこそ,これに基づいて行われた支出の一部が本件組合の損害に当たると主張されていることになるものというべきである。

これを更に具体的にみると,原告らが本件組合の被告らに対する損害賠償請求権の不行使を本件における「怠る事実」として構成する以上,本件組合の被った損害発生の事実を主張しなければならないが,その損害は,談合行為によって引き上げられた価格と公正な競争により形成されるべき適正な価格との差額であって,この場合における競争によって形成されるべき適正な価格とは,地方財政法4条1項が規定する目的達成のための必要最小限度の価格であるから,原告らが損害の発生を主張すると,必然的に,地方財政法4条1項に違反した違法な価格で各実施協定を締結したという事実を主張するという関係にならざるを得ないのである。

(4)  法242条2項の適用の有無

以上検討したところによると,本件においては,本件監査請求で行使を怠っているとされた損害賠償請求権の成立原因事実を主張することが,財務会計行為としての実施協定(支出負担行為)の違法を主張することになっているということができるから,前記説示に照らし,本件監査請求の対象は,いわゆる不真正怠る事実として,法242条2項所定の監査請求期間の制限規定の適用があると解するのが相当というべきである。

(5)  原告らの主張について

ア 原告らは,違法な財務会計上の行為における違法とは,いわゆる内部関係における違法を意味するところ,本件基本協定,本件各年度実施協定及びこれに基づく本件支払に際して,かかる内部関係における違法はないと主張するが,監査請求制度の趣旨に照らし,財務会計上の行為の違法をそのような内部関係の違法に限定する理由はなく,採用できないし,かえって,原告らの主張は,各実施協定が違法であることを前提としていると解さざるを得ないことは,前記説示のとおりである。

イ また,原告らは,本件組合が被告事業団との間で本件基本協定,本件各年度実施協定を締結した行為自体を違法であると主張しているわけではなく,談合という共同不法行為によって,本件各工事の請負代金額が引き上げられたことを問題にしているに過ぎず,本件基本協定,本件各年度実施協定締結段階において,同協定が違法の評価を受けることはおよそあり得ないとも主張するが,このような主張が採用できないことは,前記説示のとおりである。

本件監査請求が期間制限に服さないとする原告らの主張は,採用することができない。

2  争点2(監査請求期間の遵守)について

(1)  次に,監査請求期間の起算点について検討する。

本件監査請求における対象事項である「怠る事実」は,その基本的部分において,本件各年度実施協定の締結及びこれに基づく本件支払という「公金の支出」ないし「契約の締結」を包含しているところ,本件支払は,支出負担行為としての本件各年度実施協定に基づいてされたものであり,このような支出自体が違法ということではない。

そして,本件各年度実施協定は,その後,一部変更協定によって変更されているから,本件支払の支出負担行為の内容に変更が生じたものというべきである。

そうすると,前記の事実関係のもとにおいて,「当該行為のあった日又は終わった日」として,本件監査請求の請求期間の起算日となるのは,本件各工事の施行を委託した年度の年度実施協定の締結日(本件各年度実施協定は,一部変更協定が締結されているから,その最後の変更協定の締結日)と解するのが相当である。

(2)  これに対し,原告らは,当該地方公共団体において,実体法上の請求権たる損害賠償請求権を行使することができるようになったときから,監査請求期間が起算されるべきであるとし,具体的には,早くとも,公正取引委員会による課徴金納付命令が発せられた日(平成7年7月12日)であると主張するが,その実体は,被告らの談合行為は秘密裡にされたから,本件組合ないし住民において,その事実を知り得なかったというものであって,これらの事由は,後記の「正当な理由」の有無の問題として考慮されるべきものではあるが,監査請求期間の起算点の主張としては,失当というべきである。

(3)  そこで,以上の説示に沿って,本件についてみるに,前記認定のとおり,平成4年度実施協定については,その締結日は平成4年6月26日であるところ,その最後の一部変更協定の締結日は平成5年7月28日である。また,平成5年度実施協定は,平成5年7月28日に締結されているところ,その最後の一部変更協定の締結日は平成6年7月28日である。

そうすると,本件監査請求がされたのは,前記のとおり,平成8年1月11日であるから,本件監査請求は,法242条2項所定の監査請求期間を経過してされたものであることが明らかである。

3  争点3(「正当な理由」の有無)について

(1)  そこで,本件監査請求につき,法242条2項ただし書所定の「正当な理由」の有無を検討する。

法242条2項の監査請求期間の制限規定が置かれた趣旨からすると,同項ただし書に定める「正当な理由」の有無は,ア 法242条2項の適用に当たり基準とされる財務会計行為又はその違法性,不当性を基礎付ける事実が秘密裡にされたかどうか,イ 住民が相当の注意力をもって調査したときに,客観的にみて,いつ,当該行為又はその違法性,不当性を疑わせる事実を知ることができたか,ウ 住民が当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうか,によって判断されるべきものと解するのが相当というべきである(最高裁判所第二小法廷昭和63年4月22日判決・裁判集民事154号57頁参照)

(2)  本件監査請求において,法242条2項の適用に当たり基準とされる財務会計上の行為は,本件各年度実施協定(変更協定を含む。)の締結であるところ,本件各実施協定の締結が秘密裡にされたと認めることはできないけれど,その違法性,不当性を基礎付ける事実は,原告主張に係る被告らの談合行為であるので,これは,その性質上秘密裡にされたものであって,本件各実施協定とこの談合行為との関連性については,住民が相当の注意力をもって調査しても知ることができなかったものと推認すべきである。

(3)  そこで,本件組合の構成員たる鶴ヶ島市の住民である原告らが,相当な注意をもって調査すれば,その違法性,不当性を基礎付ける事実を知り得た時期がいつかが問題となる。

ア 前記基本的事実関係(特に,談合を巡る新聞報道,公取委による行政処分,刑事事件の動向等)のほか,以下の摘示証拠及び弁論の全趣旨によれば,更に次の事実が認められる。

(ア) 坂戸市の発行する広報誌である平成6年1月1日付け「広報さかど」には,生活環境の整備として,(仮称)石井水処理センターの建設及び下水道事業の促進が記載され,同年9月1日付け「広報さかど」には,石井水処理センターの建設工事を進めていることが記載され,建設中の同センターの写真が掲載されており,平成7年1月1日付け「広報さかど」において,生活環境の整備として,石井水処理センターの建設及び下水道事業の促進が掲載され,同年3月1日付け「広報さかど」においては,同年2月20日,石井水処理センターの通水式が行われたことが記載されている(乙E25ないし28号証)。

(イ) 下水道業界の業界紙である「週刊下水道情報」には,以下のとおりの記事が掲載されている(乙E33ないし35号証)。

a 平成4年12月22日発行

入札日 平成4年12月14日

工事・案件名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備

受注者 被告明電舎

契約金額 3億5370万円

工期 平成6年3月18日

b 平成5年2月2日発行

入札日 平成5年1月29日

工事・案件名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備-2

受注者 被告明電舎

契約金額 4億7970万円

工期 平成6年3月18日

c 平成5年10月5日発行

入札日 平成5年9月29日

工事・案件名 坂戸・鶴ヶ島下水道組合(仮称)石井水処理センター電気設備-3

受注者 被告明電舎

契約金額 2億0700万円

工期 平成7年1月31日

イ 以上の事実関係によると,(ア) 平成6年1月以降,一般住民に対し,本件委託工事に係る施設の建設が進められていることが広報されていること,(イ)業界紙において,本件各請負契約につき,契約金額,工期及び受注者が被告明電舎であること等が報じられていること,(ウ) 全国紙のほか埼玉新聞の新聞報道においても,下水道関係の電気設備工事の発注に絡み,被告事業団と大手電機メーカーが談合を行っていた疑いがあるとの平成6年9月2日における報道に始まり,平成7年3月7日には,被告明電舎を含む被告9社が,公正取引委員会により,被告事業団発注に係る電気設備工事談合事件として,独占禁止法3条違反の疑いで検事総長に刑事告発されたこと,埼玉県が被告9社を指名停止としたことが報道され,また,同年6月16日には,平成5年度の新規発注工事49件につき,被告明電舎を含む被告9社及びその担当者が独占禁止法3条違反の罪で,被告事業団の元工務部次長が同幇助の罪で,東京高検によって前15日起訴されたことが報道され,更に,同年7月13日には,公正取引委員会が,被告明電舎を含む被告9社に対し,平成4年度及び5年度の工事を対象として課徴金納付命令を同月12日に発した等の報道が広くされていたものである。

これらの事実関係によれば,本件組合の構成員たる自治体の住民が相当の注意力をもって調査したものとすれば,遅くとも,前記課徴金納付命令の発令に関する報道がされた平成7年7月13日までには,一連の新聞報道等をもとにして,本件組合の本件委託工事に係る支出負担行為の存在とこれが被告らの談合に影響を受けてされたものとの疑いを抱くに足りる事実を知ることができたものと認めるのが相当というべきである。

(4)  そうすると,課徴金納付命令発令の報道がなされた時点から約6か月を経過した平成8年1月11日にされた本件監査請求は,相当な期間内にされたものということはできないものと評価するのが相当というべきである。その他,監査請求期間を経過したことにつき「正当な理由」があったものと認めるに足りる証拠はない。

(5)  原告らは,住民監査請求が適法であるといえるためには,その対象とする財務会計上の行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的に特定することが必要であるところ,平成7年7月13日された報道では,財務会計上の行為を特定する工事名,時期,金額等が明らかにされていないから,これをもって,相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたということはできないと主張する。

しかし,監査請求対象の特定の程度としては,全ての場合において,必ずしも原告らの主張するような厳格なものが求められるものではなく,一地方公共団体のする一つの事業においては,当該事業に関する財務会計上の行為又は怠る事実として特定できるものである限り,その事業を特定すれば,監査請求の対象を特定できることが通常であるし(実際,(仮称)石井水処理センターに係る本件組合による本件各年度実施協定及びこれに基づく本件支払を特定することに,特段の支障があったものとは考えられない。),しかも,前記認定のとおり,本件においては,本件各請負契約につき業界紙によって契約金額,工期及び受注者が談合に関わったとされる被告明電舎であることが報じられているのであるから,平成7年7月13日までには,一連の新聞報道をもとにして,本件委託工事の一部をなす本件各工事に特定して,原告らの主張に係る談合による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実(本件監査請求の対象事項)を監査対象事項とすることにつき支障となることはなかったものというべきである。

これに反する原告らの主張は,採用できない。

4  結論

以上の次第で,本件訴えは,その余の点を判断するまでもなく,不適法な訴えであるから,却下することとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 裁判官 渡邉健司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例