大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成24年(行ウ)34号 判決

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  原告適格の判断枠組み

行政事件訴訟法9条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分の相手方に限られるものではない。

そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たるというのが相当である(最高裁昭和52年(行ツ)第56号昭和57年9月9日第一小法廷判決・民集36巻9号1679頁、同平成16年(行ヒ)第114号平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁)。

(2)  道路法の定める道路区域の変更処分の取消しを求める原告適格について

ア  道路法では、「道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もって交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進すること」が目的として掲げられており(同法1条)、道路沿線土地に権利を有する住民(以下「沿線住民」という。)の個別の道路利用利益の保護は同法の目的として明示的には掲げられていない。道路法には、そのほか道路の構造、管理及び保全方法について具体的な規定が定められているが(同法29条、32条1項、42条1項)、このうち、同法29条は、道路の構造に関する一般的、抽象的な原則を掲げた規定にすぎず、同法32条1項は、本来的には一般交通の用に供され、一般の自由な通行が認められている道路について、電気、ガス、水道等の公益事業のため一般交通以外の用に供する場合との調整を図る趣旨のものであり、同法42条1項は、道路管理者が道路の管理主体として、道路を常に良好な状態に保持して一般交通の用に供する義務を明定したものにすぎないから、いずれの規定も、不特定多数人が道路を利用できる旨の利益を保護しようとするものであり、沿線住民の道路利用に関する個別の具体的利益を保護する趣旨のものとは解し難い。

また、道路法は、市町村道の道路の路線の認定、廃止及び変更について議会の議決を要求するが(道路法8条2項、10条3項)、これは、市町村道が市町村の営造物であり、その管理、費用負担の主体が市町村であることから議会の議決を必要としたものにすぎず、沿線住民の道路利用に関する個別の利益を保護する趣旨は含まないものと解されるし、処分行政庁がこれを怠った場合に直ちに沿線住民の個別の利益が害されるとも認め難い。そのほか、道路法には、上記認定、廃止及び変更に際して、沿線住民の意見聴取や同意を要求するなど沿線住民の道路利用利益を保護する趣旨の規定もない。

さらに、道路管理者が道路区域の変更処分を行う場合には、遅滞なく公示し、変更を表示した図面を公衆の縦覧に供することを要するが(道路法18条1項)、ここでの公示や縦覧は、法律上、道路区域変更処分の効力発生要件と位置付けられているものではなく、単に区域変更の事実を一般に知らしめるという意味を有するにすぎず、沿線住民の道路利用に関する個別の利益を保護する趣旨は含まないものと解されるし、そのほか道路区域の変更処分に際しても、沿線住民の意見聴取や同意を要求するなど沿線住民の個々の道路利用利益を保護する趣旨の規定もない。

以上に検討したところによれば、道路法が、道路の設置及び整備によって不特定多数人が道路を利用できる公益を超えて、沿線住民の道路利用に関する個別的具体的な利益を保護することも目的としていると解すべき根拠は見出し難い。

イ  この点、原告は、道路法において都市計画法と異なる解釈をする理由はない旨主張するが、この主張は独自の見解というべきであって、採用できない。

ウ  以上によれば、沿線住民は、原則として、道路区域変更処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しない。

もっとも、当該道路が、特定個人の日常生活に個別性の強い具体的利益をもたらしていて、当該道路区域の変更によって、生活上又は業務上著しい支障が生ずるというような特別の事情がある場合には、その者が当該道路を利用する利益は一般公衆の公益に解消させることは相当でないから、例外的に原告適格を肯定するのが相当である(最高裁昭和62年(行ツ)第49号昭和62年11月24日第三小法廷判決・集民152号247頁参照)。

(3)  原告について

ア  前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(ア) 原告の利用状況(甲4、7ないし9、13、14、乙1、2)

原告は、大正14年○月○日生まれの現在88歳の高齢者であり、本件住宅に一人で暮らし、従前から長期間にわたって本件通路を買い物等の日常生活に利用してきた。(甲8、14)

原告は、平成23年2月18日、脊椎圧迫骨折、腰椎椎間板症、腰痛のため歩行困難がある旨の診断を受けた。(甲9)

(イ) 本件通路及び原告所有地の状況等(甲3の1、甲4、7、8、乙1ないし4)

本件通路の現況幅員は、Aが平成20年4月頃、別紙図面のNO.46点とNO.602点を結ぶ直線上にブロック塀を設置したことにより0.56ないし0.62メートルになった。

原告所有地の南側からは、本件通路を通行して、西側公道に至ることができる。

原告所有地の北側は、東西に走る幅員約1.7メートルの公道(北側通路、番地〈省略〉)に接しており、原告所有地の北側に設置されたブロック塀には北側通路に出るための勝手口が設置されており、この勝手口から北側通路に出ることができ、さらに北側通路を西方向に進行することにより、本件通路を通った場合とさほど変わらない距離で西側公道に至ることができる。(乙2)

原告所有地の東側は、原告が原告所有地から分筆して公衆用道路とした番地〈省略〉の土地を挟んで、南北に走る幅員1.8メートルから4メートルのアスファルト塗装された公道(東側水路、番地〈省略〉)に接しており、原告所有地からは東側水路を南側に進行することにより幅員3メートルの東西に延びる公道に至ることができる。原告は、平成15年頃に原告所有地に住宅を新築する際の建築確認申請に当たっては、接する道路として東側水路を記載している。(甲3の1、乙1ないし4)

(ウ) 本件水道管の位置関係等(甲2、13、18、19)

本件水道管の口径は、直径0.025メートルである。

本件水道管は、A所有地の南側境界線付近に東西に延びる形で設置されている。

別紙図面のNO.45点とNO.16点とを結ぶ直線(以下「本件通路南端線」という。)から北側垂直方向に距離を測った場合、本件水道管の管径を含めると、NO.46点を経由する場合には、本件通路南端線からNO.46点までの距離が0.61メートル(甲18)、NO.46点から本件水道管の北端線までの距離が0.34メートルであるから(甲13)、本件水道管の北端線は本件通路南端線から0.95メートルの距離に位置し、同じくNO.602点を経由する場合には、本件通路南端線からNO.602点までの距離が0.53メートル(甲18)、NO.602点から本件水道管の北端線までの距離が0.51メートル(甲13)であるから、本件水道管の北端線は本件通路南端線から1.04メートルの距離に位置することが認められる。

イ  以上の認定事実及び前記前提事実を踏まえて検討する。

(ア) 本件通路の現況幅員が狭くなったため、傘を差したり、買い物袋を持ったりした状態では本件通路を通行できなくなり、また、原告の年齢、病状も併せ考慮すると、狭くなった現況幅員に沿うような本件区域変更処分によって、本件通路を買い物等の日常生活に利用することができないなどの種々の日常生活上の不都合が生じるものともいい得る。

しかしながら、本件通路の幅員が0.6メートルであるとしても、本件通路を単なる通行のために利用することは引き続き可能であるし、原告所有地が北側通路や東側水路に接しており、これらを通行することで幅員3メートル以上の公道に至ることが可能であるから、本件通路の幅員が狭くなったとしても、原告の日常生活上に著しい不都合が生じるともいい難い。

さらに、原告も、前記ア(イ)のとおり認められる平成15年頃の本件住宅の建築確認申請の態様からして、東側水路を主要な生活道路として認識していたものと認められる。

したがって、原告に生じ得る日常生活上の不都合を勘案しても、本件区域変更処分により原告の日常生活に著しい支障が生じるとはいえないというのが相当である。

(イ) 本件水道管の位置については、仮に配管保護テープが巻かれているとして、その厚さ(甲15によれば、0.15ミリメートルである。)を考慮したとしても、水道管全体の幅は0.0253メートルに過ぎず、本件通路南端線からNO.46を経由する場合には垂直距離で0.9247メートルから0.95メートルの距離の間に存在することになり、NO.602を経由する場合には垂直距離で1.0147メートルから1.04メートルの距離の間に存在することになる。

そうすると、本件水道管は、本件路線の幅員が0.9メートルと認定されていた本件区域変更処分前の状況においても、本件路線を超えてA所有地内に敷設されていたことになるから、本件区域変更処分によって本件路線の幅員が0.6メートルに変更されても、A所有地内に敷設されているという状況に何ら変更はないといえる。

(ウ) 原告は、本件水道管には保護テープのみならず、ポリウレタンフォームが巻かれており、本件水道管全体の幅は6.5センチメートルから7センチメートルになる旨主張する。

しかしながら、本件水道管の写真からは本件水道管にポリウレタンフォームが巻かれているか否かは判然としないし(甲13)、ポリウレタンフォームは水道管の断熱材であり、厚生労働省給水装置データベースにおいて、「屋外で気温が著しく低下しやすい場所その他凍結のおそれがある場所」では、ポリウレタンフォーム等の断熱材で水道管の凍結防止の措置を講じる必要があるとされているが(甲17、20)、埼玉県川口市は寒冷地ではないし、本件証拠上も、本件水道管の敷設場所が凍結のおそれがある場所であることをうかがわせるものはない。これらの事情に照らせば、本件水道管にポリウレタンフォームが巻かれていると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、本件水道管全体の幅が上記認定の2.53センチメートルを超えて、6.5センチメートルや7センチメートルであるとは認められず、原告の上記主張は採用できない。

(エ) また、原告は、原告が川口市に給水装置新設工事の申込みを行った際に、川口市がA所有地の当時の所有者であったBの承諾書の提出を求めなかったのは、本件水道管が本件通路内に設置されていたからである旨主張する。

証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、原告が川口市に給水装置新設工事の申込みを行った際に、川口市にBの承諾書を提出していないことが認められるものの、他方で、原告は、上記工事の申込書の土地所有者承諾書欄に「本人」と記載していることが認められ、この事情に照らせば、川口市が、原告が自己所有地に本件水道管を敷設するものと考え、Bの承諾書面を要求せずに受付をしたという事態も考えられないではなく、原告がBの承諾書を提出していないことから直ちに本件水道管が本件通路に敷設されていたと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(オ) 以上検討したところを総合すると、本件通路が原告の日常生活に個別性の強い具体的利益をもたらしていて、本件区域変更処分によって、生活上又は業務上著しい支障が生ずるというような特別の事情があるとはいえない。

ウ  したがって、原告に本件区域変更処分の取消しを求める原告適格を認めることはできない。

2  以上によれば、原告の訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法ということになる。

第4結論

以上の次第で、本件訴えを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 鈴木拓児 髙橋幸大)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例