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さいたま地方裁判所 平成21年(ワ)2203号 判決

原告

同訴訟代理人弁護士

山崎徹

伊須慎一郎

金子直樹

竪十萌子

林大悟

渡邉裕也

同訴訟復代理人弁護士

宮西陽子

被告

株式会社Y1

同代表者代表取締役

A1

被告

Y2

被告

Y3

上記3名訴訟代理人弁護士

牛嶋勉

寺前隆

被告

Y4株式会社

同代表者代表取締役

Y5

被告

Y5

上記両名訴訟代理人弁護士

菅谷公彦

饗庭享一

中村穂積

片岡友香

堀木康弘

船橋存

玉本倫子

同訴訟復代理人弁護士

加藤丈晴

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  原告が、被告株式会社Y1との間で、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告株式会社Y1は、原告に対し、平成21年2月から判決確定まで毎月25日限り38万6000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告らは、原告に対し、連帯して1286万1500円及びこれに対する平成21年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要等

本件は、被告Y4株式会社(以下「被告Y4社」という。)との間で雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し、被告Y4社と株式会社a(以下、商号変更の前後を問わず、「a社」という。)との間の業務委託契約(以下「本件a社・Y4社業務委託契約」という。)及びa社と被告株式会社Y1(以下、商号変更及び合併の前後を問わず、「被告Y1社」という。)との間の業務委託契約(以下、「本件Y1社・a社業務委託契約」といい、本件a社・Y4社業務委託契約と併せて「本件各業務委託契約」という。)に基づき、被告Y1社の久喜工場(以下「本件久喜工場」という。)に派遣されて勤務していた原告が、本件雇用契約及び本件各業務委託契約はいわゆる偽装請負であるから公序良俗に反し無効であり、原告と被告Y1社との間では黙示の雇用契約が成立しているとして、原告が被告Y1社との間で雇用契約(労働契約)上の権利を有する地位にあることの確認を求め(請求1)、被告Y1社に対し、当該雇用契約に係る賃金支払請求権に基づき、平成21年2月から本判決が確定するまでの間、毎月25日限り38万6000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求2)とともに、被告らは共同して二重偽装請負の状態を作出するなどして原告に損害を与えたとして、被告らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき(被告Y1社の代表取締役であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)、a社の代表取締役であった被告Y3(以下「被告Y3」という。)及び被告Y4社の代表取締役であった被告Y5(以下「被告Y5」という。)について、選択的に、会社法429条1項による損害賠償請求権に基づき)、1286万1500円及びこれに対する本訴提起日の翌日である平成21年7月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

1  前提となる事実(括弧内に証拠等を掲記した事実以外は、当事者間に争いがないか、争うことを明らかにしない事実である。)

(1)  当事者等

ア 原告原告は、被告Y4社との間で本件雇用契約を締結し、平成17年2月4日から平成21年1月31日までの間、埼玉県久喜市に所在する本件久喜工場内で勤務していた者である。

イ 被告Y1社(書証〈省略〉)

被告Y1社は、b株式会社(以下「b社」という。)を中心とする企業集団である○○グループのエレクトロニクス部門のうち電子デバイス事業グループに属し、コンピューター等の半導体製造用部品の製造販売、プリント基板及び混成機能回路の設計・製造及び販売等を目的とする株式会社である。被告Y1社は、b社の完全子会社である。

被告Y1社は、昭和60年10月にc株式会社として設立され、その後、数度の商号変更を経て、平成26年10月1日には、a社及び株式会社dとの間において、被告Y1社を存続会社とする経営統合(合併)を行い、同時に、商号を従前の株式会社eから株式会社Y1に変更した。

被告Y1社は、本件久喜工場の土地及び建物をb社から賃借して管理していたほか、埼玉県ふじみ野市所在の上福岡工場(以下「本件上福岡工場」という。)も管理していた。

被告Y1社の製造部門は、フォトマスクを製造するフォトマスク部門(以下「PM部門」という。)、リードフレーム及びサスペンションを製造するケミカルエッチング部門(以下「CE部門」という。)及びプリント基板を製造するプリント基板製造部門(以下「DTCT部門」という。)の3つの部門から構成されている。PM部門は本件上福岡工場に、CE部門は本件上福岡工場及び本件久喜工場に、DTCT部門は本件久喜工場にそれぞれ設けられている。

ウ 被告Y2

被告Y2は、平成17年5月21日に被告Y1社の代表取締役に就任し、それ以降平成24年5月25日に退任するまでの間、被告Y1社の代表取締役の地位にあった者であり、その一方で、平成17年5月21日以降、a社の取締役にも就任していた者である。

エ a社(書証〈省略〉)

a社は、被告Y1社と同様に、○○グループのエレクトロニクス部門のうち電子デバイス事業グループに属し、コンピューター等の半導体製造用部品の製造及び検査受託業務等を目的とする株式会社であり、b社の完全子会社であった。

a社は、平成7年6月にf株式会社として設立され、当初は、○○グループのディスプレイ製品事業グループに属していたが、平成15年4月、○○グループのエレクトロニクス部門の組織再編が行われたことに伴い、○○グループ電子デバイス事業グループの連結会社となり、これ以降、a社の業務は、被告Y1社から受託するフォトマスク及びケミカルエッチング製品に関する業務のみとなった。

その後、上記イのとおり、a社、被告Y1社及び株式会社dの間で、被告Y1社を存続会社とする経営統合(合併)が行われた。

オ 被告Y3

被告Y3は、平成15年4月21日以降、a社の代表取締役の地位にあった者であり、その一方で、平成19年2月1日から平成21年4月1日までの間、被告Y1社の取締役にも就任していた者である。

カ 被告Y4社

被告Y4社は、半導体及び電子機器用部品の製造、労働者派遣事業等を目的とする株式会社であり、平成15年5月6日に設立された。

キ 被告Y5

被告Y5は、被告Y4社の設立以来、代表取締役に就任している者である。

(2)  原告が本件久喜工場で勤務するに至った経緯

ア 本件各業務委託契約

(ア) 本件Y1社・a社業務委託契約

被告Y1社及びa社は、平成16年9月1日付けで、被告Y1社がa社に対しプリント基板製造工程の一部について業務を委託する旨の業務委託契約を締結した。

(イ) 本件a社・Y4社業務委託契約

a社及び被告Y4社は、平成16年9月末頃、a社が被告Y4社に対しプリント基板製造工程の一部について業務を委託する旨の業務委託契約を締結した。

イ 本件雇用契約(書証〈省略〉)

原告は、平成17年1月ないし2月頃、被告Y4社との間で、本件久喜工場を就業場所とし、電子部品製造に伴う付帯作業を仕事内容とする本件雇用契約を締結した。

ウ 原告の勤務開始原告は、本件各業務委託契約及び本件雇用契約に基づき、平成17年2月4日から、本件久喜工場での勤務を開始し、プリント基板製造工程の一部であるバンプ工程作業等の業務に従事した。

(3)  本件久喜工場におけるプリント基板製造業務の概要(書証〈省略〉)

ア プリント基板の概要

プリント基板は、樹脂でできた絶縁性基板の上に配線回路を配列した部材であり、当該配線上に半導体などの電子部品を載せて通電させるものである。

プリント基板は、4層から12層の構造(厚さは4層品で0.4mm、12層品で1.2mm)になっており、それぞれの層と層の間はバンプ(底辺が直径130μmから220μm、高さ90μmから180μmで頂点が平らな形状をした銀ペーストの円錐)で接続されている。

本件久喜工場では、主に、携帯電話、携帯電話内臓カメラ及びデジタルビデオカメラ等に組み込まれるプリント基板を製造していた。

イ プリント基板の製造工程の概要

プリント基板の製造工程は、主としてバンプ工程(それぞれの基板上にバンプを形成する工程)、積層工程(バンプ形成された基板同士を圧着する工程)及び回路工程(積層後の基板の表面に配線回路を形成する工程)の3つから構成され、通常、これら3つの工程処理が、製造する品目に応じて3回から9回繰り返して行われる。

これらの工程を経て製造されるパネル(縦400mm、横500mm)は、SR工程(プリント基板の最外層の基板表面にソルダーレジストと呼ばれる保護膜を塗布する工程)を経た後、顧客によって指定された規格(シート)に裁断され、電気検査工程及び完成検査工程を経て出荷される。

(4)  本件久喜工場における勤務体制

本件久喜工場では、昼勤(午前8時30分から午後8時30分まで)と夜勤(午後8時30分から翌日午前8時30分まで)の2つの勤務を、a班、b班及びc班の3組2交代制(4勤2休)で担当する勤務体制が採られており、各班には班長やサークル長と呼ばれる管理者が配置されていた。被告Y1社はこの体制により、本件久喜工場を24時間フル稼働させていた。

バンプ工程には、被告Y1社やa社の社員、被告Y4社の従業員、その他派遣労働者等がおおむね32名配置されていた。

(5)  バンプ工程の配置状況(書証〈省略〉)本件久喜工場のバンプ工程については、別紙〈省略〉「バンプ工程及び周辺の配置図」記載のとおり配置されており、印刷ライン1号ないし4号として、それぞれ、印刷機、貫通機及びレイアップ機等が配置され、各ラインにおいて、バンプ前工程に分類されるバンプ印刷工程並びにバンプ後工程に分類される貫通工程、レイアップ工程及びボンドフィルム工程がそれぞれ実施されていた。これらの工程間では衝立による仕切り等はなかった。

なお、印刷ライン4号は、本件久喜工場におけるプリント基板の生産数量が拡大した平成19年6月から増設されたものである。

(6)  バンプ工程での作業内容バンプ前工程(バンプ印刷工程)及びバンプ後工程(貫通工程、レイアップ工程及びボンドフィルム工程)におけるそれぞれの作業内容は、おおむね次のとおりである。

ア バンプ前工程(バンプ印刷工程)

(ア) バンプ印刷機で基板上にバンプを印刷形成する工程である。バンプ印刷には、配線回路が形成されていない層(銅箔)にバンプを形成する銅箔印刷と、配線回路を形成した後の層(コア)にバンプを形成するコア印刷とがある。

原則として、各印刷ラインに一人の作業員が付いて作業を行う。各印刷ラインは、それぞれ左右2つの印刷回流ラインで構成されており、作業員は、2つの印刷回流ラインの各作業に併行して従事する。

量産品目の場合は基本的に1ロット50枚単位で製造しており(以下の工程においても同じ。)、1ロット50枚を印刷するために2時間から2時間半を要した。

(イ) 作業内容(概要)

a 製造指示書で指定された基板を印刷機にセットする。

b 製造指示書で指定されたバンプ版(バンプ印刷機で基板上にバンプを形成(印刷)するための版であり、バンプ版に開いている3万から20万個の穴を通してペーストを基板上に塗布して基板上にバンプを形成するもの)を印刷機にセットする。

c 製造指示書で指定された印刷条件を印刷機にセットする。バンプ印刷の製造条件は、印刷回数、スキージスピード(ペーストを押し出すスキージの速度)、トータル離着量(バンプ版と基板の隙間の程度)、印刷機内の温湿度、印刷機内の仮乾燥温度、予備乾燥炉及び本乾燥炉内の温度といった主要な製造条件のほか、テンション圧、スキージ圧など全部で約20項目あり、印刷回流ごとに異なり、品質ごとにも異なる。主要な製造条件についてはサークル長によるダブルチェックが行われる。

d 製造指示書で指定されたペーストを注入し、仮印刷をした後、テスト印刷等を行い、品質上の不具合が発見された場合には、作業員の判断により設定条件の微調整を行う。

e 製造条件が確定した段階で連続運転に移る。

作業員は、印刷ラインの監視(搬送状態、基板表面状態、ペースト量の監視)を行うとともに、品質確認(顕微鏡によるバンプ形状・位置の検査、バンプ有無検査、高さ検査機によるバンプ高さ検査)を行う。品質不良が発生した場合には、印刷条件の設定等の対処作業を行う。

f 印刷終了後、ストッカーに貯まった基板を取り出し、基板運搬用の台車に移す。

イ バンプ後工程

(ア) 貫通工程

a バンプ印刷工程で形成されたバンプにプリプレグと呼ばれる絶縁シート(以下「PP」という。)を貫通機で貫通させる工程である。1ロット50枚の工程に要する時間は、1時間から1時間半程度である。

b 作業内容(概要)

(a) 製造指示書で指定された貫通条件を貫通機の操作パネルに入力する。貫通条件は、PPを加熱するプリヒート温度、基板とPPを挟む上下のホットロール温度、その上下のロールのギャップ(隙間)の3項目である。

(b) 製造指示書で指定された種類のPPをPP保管庫から取り出し、当該PPをPPストッカーにセットする。

(c) その他、貫通機の中にセットされているホットロールのラップを交換したり、間紙の束を移載機の間紙ラックに補充するなどする。

(d) 以上の準備作業が終了した段階で連続運転に移る。

まず、貫通機の投入口に基板を1枚ずつ投入する。コア印刷の場合には、基板より大きいサイズのアルミ板を敷いた上で基板を投入する。

投入した基板は移載機に向けて流れていくが、その過程で、PPストッカーにセットされたPPが基板上に乗せられる。作業員は、基板1枚ごとに、PPが基板からはみ出していないかどうか確認する。

また、各ロット1枚目の基板について、顕微鏡や自動検査機を用いて貫通状態の確認を行う。自動検査機でNGと判断された場合、作業員は品質規格に基づいて目視確認を行う。

(e)最後に、貫通後の基板の積替作業を行う。

(イ) レイアップ工程

a バンプ前工程(バンプ印刷工程)、バンプ後工程のうち貫通工程、積層工程及び回路工程を経て配線回路が形成された積層品同士を貼り合わせるための位置決めを行う工程である。1ロット50枚の工程に要する時間は1時間半程度である。

b 作業内容(概要)

(a) 製造指示書で指定されたレイアッププログラム番号を入力する(自動的に製造条件が設定される)。

(b) 貼り合わせる2つの積層品を順番に投入機に入れる。

(c) 1つめの積層品を先行して流し、貼り合わせる2つの層(6層基板の場合、1~3層化品と4~6層化品)を貼り合わせた後に2つの層の位置がずれていないことを確認し、品質規格に収まっていない場合には、適宜、修正する。

(d) 以上の準備作業が終了した段階で連続運転に移る。作業員は、基板の位置確認のため、25枚目の基板と最終の50枚目の基板について写真を撮影する。レイアップ完了後には、基板1枚ごとに仮溶着状態を確認する。

(ウ) ボンドフィルム工程

a 基板上の銅箔とPPとの密着性を高めるために銅箔の表面を粗化する工程である。1ロット50枚の工程に要する時間は20分程度である。

b 作業内容(概要)

(a) 製造指示書で指定されたボンドフィルム条件をボンドフィルム装置に設置されているパソコンで入力する。ボンドフィルム条件は、ボンドフィルム槽の液循環の量を制御するボンドフィルム槽ポンプ回転数、最終乾燥機の圧力、受取機のブロワーの吸着力の3項目である。

(b) 基板1ロット分を投入口にまとめてセットする。

(c) 受取口の間紙ストッカーに1ロット分以上の間紙があることを確認し、1ロット分以上なければ補充する。

(d) その他、付帯的業務として、液分析(ボンド液の品質チェック)、液交換(薬液を搬送して槽内の薬液を入れ替える)、設備点検を行う。

(e) 連続運転

以上の準備作業が終了した段階で連続運転に移る。作業員がボンドフィルム装置の投入スタートボタンを押すと、基板が自動的に受取口まで流れていき、受取口のラック内に基板と間紙が交互に積み重なる。

(f) ボンドフィルムが完了した基板の積替作業を行う。

(7)  本件各業務委託契約及び本件雇用契約の終了(書証〈省略〉)

ア 本件a社・Y4社業務委託契約の終了

a社及び被告Y4社は、平成21年1月31日、本件a社・Y4社業務委託契約を合意解除した。

イ 本件Y1社・a社業務委託契約の終了

被告Y1社及びa社は、同年3月31日、本件Y1社・a社業務委託契約を合意解除した。

ウ 本件雇用契約の終了

被告Y4社は、同年1月31日、原告を解雇した。

(8)  労働審判(書証〈省略〉)

原告は、本件訴訟の提起に先立ち、平成21年3月11日、さいたま地方裁判所に対し、被告Y4社を相手方として、原告が被告Y4社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めることを内容とする労働審判手続の申立て(同裁判所平成21年(労)第20号・地位確認等請求事件)をした。

原告は、上記労働審判事件が訴訟に移行した(同裁判所平成21年叩第1824号地位確認等請求事件)後の平成21年7月29日、同訴訟を取り下げた。

(9)  行政指導

ア 埼玉労働局長は、平成21年6月10日、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)48条1項に基づき、被告Y1社に対し、被告Y1社の事業所において下記のとおり改善措置を執るよう指導した(書証〈省略〉)。

(ア) 措置の必要性

「労働者派遣事業の請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」(以下「37号告示」という。)に照らし、被告Y1社が業務請負として契約を締結している内容については、労働者派遣法に違反する。

(イ) 措置の内容

a 労働者派遣に該当しないためには、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行うこと」が必要であるが、これを行っていないことは、労働者派遣法に違反する。

・被告Y1社の社員から請負事業主の社員に対し指揮命令が行われていること。

・請負事業主が業務を遂行する際に被告Y1社の作成した製造指示書に基づき処理を行っていること。また、被告Y1社の社員が請負事業主の業務を混在して援助していること。

「業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して請負事業主が処理すること」に該当せず、偽装請負と判断することができる。

b 既に違反となる業務請負については契約を終了し、実態として違反が継続していないことから、改善のための是正指導は行わないものの、今後、業務請負により処理を行う場合は、37号告示に照らし、適正なものとなるようにすること。

c 今回の指摘を踏まえ、今後、被告Y1社が適正に業務請負を行うための取組について、また、現在、契約中の請負について点検した内容、結果、改善の必要があるときはその対処について、平成21年7月17日までに、埼玉労働局長あて報告すること。

イ 埼玉労働局長は、平成21年6月10日、労働者派遣法48条1項に基づき、被告Y4社に対し、被告Y4社の事業所において下記のとおり改善措置を執るよう指導した(書証〈省略〉)。

(ア) 措置の必要性

37号告示に照らし、被告Y4社が業務請負として契約を締結している内容については、労働者派遣法に違反する。

(イ) 措置の内容

a 労働者派遣に該当しないためには、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行うこと」が必要であるが、これを行っていないことは、労働者派遣法に違反する。

・注文主の社員から請負事業主の社員に対し指揮命令が行われていること。

・請負事業主が業務を遂行する際に、注文主が作成した製造指示書に基づき処理を行っていること。また、請負事業主の社員と注文主の社員が混在し、請負事業主の業務を処理していること。

「業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して請負事業主が処理すること」に該当せず、偽装請負と判断することができる。

b 既に違反となる業務請負については契約を終了し、実態として違反が継続していないことから、改善のための是正指導は行わないものの、今後、業務の請負を行う場合は、37号告示に照らし、適正なものとなるようにすること。また、現在、請負契約が継続中のものについては、適正な請負となっているか否か点検すること。

c 今回の指摘を踏まえ、今後、被告Y4社が適正に請負を行うことに対する取組について、また、現在、契約中の請負について点検した内容、結果、改善の必要があるときはその対処について、平成21年7月3日までに、埼玉労働局長あて報告すること。

ウ 埼玉労働局長は、平成21年6月19日、労働者派遣法48条1項に基づき、a社に対し、a社の事業所において下記のとおり改善措置を執るよう指導した(書証〈省略〉)。

(ア) 措置の必要性

37号告示に照らし、a社が業務請負として契約を締結している内容については、労働者派遣法に違反する。

(イ) 措置の内容

a 労働者派遣に該当しないためには、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行うこと」が必要であるが、これを行っていないことは、労働者派遣法に違反する。

・a社の社員から注文主の社員に、また、注文主の社員からa社の社員に対し指揮命令が行われていること。

・請負事業主が業務を遂行する際に注文主が作成した製造指示書に基づき処理を行っていること。また、注文主の社員がa社の業務を混在して援助していること。

「業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して請負事業主が処理すること」に該当せず、偽装請負と判断することができる。

b 既に違反となる業務請負については契約を終了し、実態として違反が継続していないことから、改善のための是正指導は行わないものの、今後、業務の請負を行う場合は、37号告示に照らし、適正なものとなるようにすること。また、現在、請負契約が継続中のものについては、適正な請負となっているか否か点検すること。

c 今回の指摘を踏まえ、今後、a社が適正に請負を行うことに対する取組について、また、現在、契約中の請負について点検した内容、結果、改善の必要があるときはその対処について、平成21年7月17日までに、埼玉労働局長あて報告すること。

2  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約の成否

(原告の主張)

ア 本件雇用契約及び本件各業務委託契約は二重偽装請負(労働者供給契約)に当たり、無効であること

(ア) 二重偽装請負と評価される基準

職業安定法施行規則4条1項各号及び37号告示等に照らせば、以下の要件を全て満たしていなければ適法な請負とはいえず、二重偽装請負と評価され、労働者供給契約に該当することとなる。

a 事業主が作業に従事する労働者を指揮監督するものであること

(a) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと(仕事の割り付け、仕事の順序の指示、仕事の緩急の調整を事業主自ら実施していること等が必要となる。)

(b) 労働者の業務の遂行に関する評価などに係る指示その他の管理を自ら行うこと(技術的な指導等、出来高査定を事業主自らが実施すること等が必要となる。)

(c) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理をすること(業務中は注文主から直接指示を受けることがないよう書面を作成すること、同書面に基づいて事業主側の責任者を通じて具体的に指示すること、事業主自らが業務時間の実績を把握すること等が必要となる。)

(d) 労働者を時間外労働、休日労働させる場合における指示その他の管理を自ら行うこと(時間外労働や休日労働は、事業主側の責任者が業務の進捗を見て自ら決定すること、業務量の増減がある場合には、事前に注文主から連絡を受ける体制となっていること等が必要となる。)

(e) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと(勤務場所の決定、変更及び直接指揮命令する者等の決定を事業主自ら実施していること等が必要となる。)

b 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること(自己の責任と負担で準備し調達する機械、設備若しくは機材又は材料若しくは資材により業務を処理すること)

(イ) 本件雇用契約及び本件各業務委託契約が二重偽装請負(労働者供給契約)であること

a 埼玉労働局長は、平成21年に調査の上、被告Y1社、a社及び被告Y4社に対し、本件各業務委託契約が偽装請負であるとして指導票を交付した。

b 上記(ア)a(a)の要件(労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと)について

(a) 本件久喜工場の作業単位となる班には、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員等が混在し、班長やサークル長には被告Y1社の正社員が就任していたこと

本件久喜工場のバンプ工程は、同一の室内に配置され、衝立などで区切られることもなく、一連の作業が行われていた。

バンプ工程作業は、a班、b班、c班という班単位で、被告Y1社が作成した本件久喜工場全体のシフト表に従って、3組2交替制を取り、24時間フル稼働していた。a班、b班、c班の班体制は、バンプ工程作業の基本単位となっていた。

そして、この班の構成員(以下「班員」という。)には、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員等が混在しており、いずれも同じ設備を担当し、仕事内容は同じであった。

また、班の管理者である班長やサークル長には被告Y1社の正社員が就任し、班員である被告Y4社の従業員に対して指揮命令をしていた。

他方、バンプ印刷工程などの重要な工程においても、被告Y4社の従業員等が被告Y1社の正社員と共に同じ作業に従事していた。

(b) 朝礼において被告Y1社から業務遂行の指揮命令があったこと

ⅰ DTCT部門における朝礼の概要

本件久喜工場における朝礼は、原告が入社した平成17年2月4日から半年程度は、DTCT部門全体で実施されていた(以下、この朝礼を「全体朝礼」という。)。

全体朝礼の参加者は、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員等が混在した班員全員と、当時の被告Y1社のA2部長(以下「A2部長」という。)、A3課長(以下「A3課長」という。)、A4課長(以下「A4課長」という。)及びA5部長(以下「A5部長」という。)等の上級職者で、合計40名程度の人数であった。

全体朝礼の参加は義務であり、原告も必ず参加していた。

ⅱ バンプ工程における朝礼の概要

平成17年9月頃からは、工程ごとに朝礼が行われるようになった。

バンプ工程で実施されていた朝礼(以下「バンプ工程朝礼」といい、全体朝礼と併せて「本件朝礼」という。)は、被告Y1社の正社員、被告Y4社の従業員その他の派遣社員等が揃って実施されていた。全ての者が揃わないとバンプ工程朝礼は開始されず、全員の参加が義務とされていた。

ⅲ 本件朝礼の内容

本件朝礼を仕切るのはサークル長であり、前の勤務で発生した問題の報告や、その日の急ぎの生産予定の発表、伝達事項、不良品、対処方法等について説明し、作業をするに当たって必要な事項を全て伝達していた。

そして、本件朝礼の最後には、本件朝礼の参加者全員で、タッチアンドコールと呼ばれる作業中の注意事項を再確認する指差称呼を必ず行っていた。

本件朝礼の際には、被告Y1社のA6課長が、仕事をするに当たって重要な生産数値目標を示したり、被告Y1社のA7班長(以下「A7班長」という。)が工場視察予定、工場整備及び班替えの発表等をするなどしていた。また、本件朝礼には、前の勤務のサークル長も参加しており、前の勤務を踏まえての注意事項や問題点を指示した。

このように、原告は、本件朝礼においても、被告Y1社から作業遂行の指示を受けていた。

(c) 被告Y1社が仕事の割り付けをしていたこと

仕事の割り付けについては、本件朝礼において、被告Y1社のサークル長又は班長が、班員全員の名前が記載されたカラーマグネットを設備配置版に配置して、班員に対し、当日の担当設備を指示していた。

(d) 被告Y1社が製造指示書により業務遂行の指示をしていたこと。

本件久喜工場の各作業員は、被告Y1社が作成していた製造指示書に基づいて業務を行っていた。製造指示書には、基板製造の業務を行うには欠かせない「設定温度」や「ポリマラップの厚さ」等の様々な条件の指示が記載されており、作業員は、基板ごとに異なる製造指示書がなければ業務を遂行することができなかった。そして、本件朝礼で定められた各設備担当の作業員が、製造指示書どおりに業務を行い、これを終えた後、製造指示書に必要事項を記入して、次の設備担当の作業員に渡していた。

この製造指示書で引き継がれる各設備担当の作業員には、被告Y1社の正社員、被告Y1社の派遣社員及び被告Y4社の従業員等が混在していた。そして、各作業員が必要事項を記入し、作業の流れと共に回覧することにより、製品ごとの製造指示書が完成するが、この完成した製造指示書を管理しているのも、被告Y1社であり、被告Y4社は何ら関与していない。

(e) 被告Y1社が仕事の順序の指示をしていたことバンプ工程の各作業員が同工程で生産する12日分の生産予定は、被告Y1社が作成した作業予定表に基づくこととされており、被告Y4社が作業予定表を作成したことはない。

作業予定表は、週初めに、被告Y1社のサークル長が、各設備担当の作業員に対して配布していた。

作業予定表は、週の途中に度々変更されたが、その都度、被告Y1社の工程管理部が作業予定表をバージョンアップしてサークル長に交付し、その後、サークル長が各設備担当の作業員に対して配布していた。

生産が作業予定表どおりに進まないことが度々あったが、その際には、被告Y1社の班長又はサークル長から、作業予定表とは別に、具体的な指示命令があった。

(f) 被告Y4社が指揮命令することはなかったこと

原告は、夜勤や土日祝日勤務をすることがあったが、当該勤務において指揮命令をするのも被告Y1社の班長やサークル長であった。被告Y4社の現場管理者及び工程(日勤)リーダー(以下「工程リーダー」という。)は、上記勤務の際には出勤しておらず、指揮命令をすることは不可能であった。

また、被告Y4社では、原告を含む被告Y4社の従業員らが従事していた仕事の内容を把握する体制になっていなかったことから、被告Y4社の現場管理者らが、被告Y4社の従業員らを指揮命令することは不可能であっ

(g) 被告Y1社が、業務遂行に関する指示をしていたこと

原告を含む被告Y4社の従業員らは、業務時間内に、班員が全員参加するQCサークル活動と呼ばれる集まり(以下「QCサークル活動」という。)に参加し、当時、被告Y1社にとって最大のネックとなっていた「樹脂残り対策」について、被告Y1社の正社員が進行役をする中、話合いをした。

QCサークル活動においては、業務の遂行における具体的な事項を班員で検討し決定しており、被告Y1社が、QCサークル活動の議事録を作成し、管理していたものであって、被告Y4社は、何ら関与していない。

そして、班員は、QCサークル活動で決まった指示に従って業務を遂行していた。

(h) 作業をするための教育資料は被告Y1社が作成していたこと

バンプ工程の教育資料は、被告Y1社が作成しており、原告を含むバンプ工程の各作業員はこれらを全て読みサインをした。

(i) 原告の勤務開始日から業務の遂行指示は被告Y1社の正社員がしていたこと

原告は、勤務開始日である平成17年2月4日、本件久喜工場において、被告Y4社の現場管理者から、被告Y1社のA2部長とA3課長を紹介された。

その後、原告は、A3課長から、本件久喜工場内の作業内容や設備、クリーンスーツの着用方法等に関する説明を、被告Y1社の正社員から機械設備に関する説明をそれぞれ受けた。

同日午後からは、A2部長と工場内の掃除や薬品運搬を行ったが、時間が余ったため、A2部長からA7班長に、A7班長から被告Y1社のA8サークル長(以下「A8サークル長」という。)に順次引き継がれ、A8サークル長からバフ研磨工程の設備及び作業方法について説明を受けた。原告は、同日から数日間、A8サークル長から説明を受けながら、バフ研磨工程で就労した。

(j) 被告Y1社が原告を被告Y1社の派遣社員と同じに扱っていたこと

被告Y1社は、被告Y1社が作成した人員体制表において、赤色「旧DTCT」、水色「DFE直接」、オレンジ色「一次雇用」、青色「DFE間接」と区分けしているが、原告も被告Y1社の派遣社員もオレンジ色の「一次雇用」に区分けされており、被告Y1社は、被告Y4社の従業員である原告を被告Y1社の派遣社員と同じように扱い、直接指揮命令をしてい続の指示を行っていた。

c 上記(ア)a(b)の要件(労働者の業務の遂行に関する評価などに係る指示その他の管理を自ら行うこと)について

(a) 被告Y1社がバンプ工程の各作業員の評価をしていたこと

被告Y1社は、本件久喜工場の各作業員について、同じ4段階の評価方法により評価を付けており、その結果をスキル評価表としてまとめていた。

被告Y1社は、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員を同じく作業員と考え、同一基準で評価し、作業員の技術が偏らないように、班を構成していた。

(b) 出来高の把握は被告Y1社がしていたこと

バンプ工程の各作業員は、被告Y1社から、一日の作業が終了する前に、生産実績表、作業時間表、設備日報及び引継ぎ連絡シートを記載し、不良品が大量に出た時には品質異常報告書を記載するよう指示されていたところ、これらの書面は、全て被告Y1社が作成した書式によるものであった。また、作業員は、これらの書面を被告Y1社に提出し、被告Y1社が管理していた。被告Y4社の作業員は、被告Y4社からは何らの指示もされておらず、被告Y4社は従業員の出来高を把握していなかった。

(c) 被告Y1社が技術的な指導をしていたこと

原告を含む被告Y4社の作業員は、被告Y1社の正社員から、ウエストシェイプ(銅箔に筋が入る不良品)やバンプ欠け・無し等に関して技術的な指導を受けていた。

d 上記(ア)a(c)の要件(労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理をすること)について

(a) 被告Y1社が始業及び終業の指示をしていたこと

バンプ工程の各作業員の始業となる本件朝礼は、参加することが義務付けられており、全員が揃うまで開始されなかった。また、各作業員は、被告Y1社に指示された引継ぎ連絡シートを記入しなければ帰ることができなかった。

(b) 被告Y1社が休憩時間の指示をしていたこと

原告を含む被告Y4社の作業員は、1日4回(昼休み1回、15分休憩3回)の休憩について、被告Y1社の正社員と話し合った上で、サークル長等に休憩してよいかを確認していた。これに対し、サークル長等は、設備や機械の動きなどを見て、了承又は作業の継

(c) 被告Y1社が有給休暇の取得の指示をしていたこと

原告を含む被告Y4社の従業員が、有給休暇を取得する場合には、①被告Y1社のサークル長に有給休暇を取得する日時及び理由を話す、②サークル長がその場で検討し、了承が出ると、被告Y1社に有給休暇の申請書を提出する、③その後、被告Y4社に対し、別の有給休暇の申請書を提出するという流れになっていた。原告は、被告Y1社から有給休暇の取得の許可が出た場合、被告Y4社から有給休暇の変更を指示されたことはない。原告が有給休暇の取得届を被告Y1社に提出した際、他の班員の休暇と重複し人員不足になるという理由で、サークル長から有給休暇の取得を断られ、日程の変更をするよう言われたことが3回以上はある。

被告Y4社は、そもそも、生産状況や人員の配置状況を全く把握していなかったため、従業員からの有給休暇の取得を決定し得る能力を有していなかった。

e 上記(ア)a(d)の要件(労働者を時間外労働、休日労働させる場合における指示その他の管理を自ら行うこと)について

原告は、勤務中、6日間休日出勤したところ、被告Y1社から、直接、休日出勤を頼まれることがあったし、給料の向上のため、被告Y1社に対し、休日出勤を要請することもあった。休日出勤の決定権は、被告Y4社ではなく、被告Y1社にあった。休日出勤における指揮命令も被告Y1社が行っており、原告が平成19年7月29日に休日出勤した際は、被告Y1社のA4課長が作業内容の指揮命令をした。また、緊急の際には、被告Y1社の正社員の所持する携帯電話に連絡することとされていた。

f 上記(ア)a(e)の要件(労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと)について

原告の配属先は、原告の勤務開始日以前には、決定していなかったし、原告の配置転換は、必ず被告Y1社の判断及び通告により行われていた。

また、班編成について権限を有していたのは被告Y1社であり、被告Y4社やa社の管理者は全く関与していない。班編成が決定した際には、本件朝礼において、A7班長やサークル長等から発表があり、同時に、本件朝礼を実施している通路に人員体制表が貼り出された。原告は、被告Y4社から班編制について説明を受けたことは一度もない。

以上のとおり、原告の配置等の決定及び変更を行っていたのは被告Y1社であり、被告Y4社は行っていない。

g 上記(ア)bの要件(作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること)について

(a) 作業用品は被告Y1社から支給されていたこと

原告は、被告Y1社から、作業に必要な装備具であるクリーンスーツ、クリーンブーツ、マスク、ゴム手袋、安全メガネ及び厚手安全手袋等の支給を受けた。また、仕事をする上で必要なコピー用紙、コピー機及びパソコン等も被告Y1社から支給された。

(b) 被告Y1社が作業用品を管理していたこと

上記クリーンスーツ及びクリーンブーツについては、被告Y1社が管理していた。

(c) 作業設備は全て被告Y1社のものであったこと

各工程(バンプ印刷・貫通・レイアップ・ボンドフィルム)で利用する機械、設備、材料及び資材は、全て、被告Y1社の所有物であり、被告Y1社の責任と負担で準備されていた。また、材料の補充も、被告Y1社が独自に行っており、a社や被告Y4社が材料の補充をしたことは一切ない。

h まとめ

以上のとおり、前記ア(ア)の要件は、全く満たされておらず、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であったことは明らかである。したがって、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、職業安定法(以下「職安法」という。)44条及び労働基準法(以下「労基法」という。)6条に違反して違法である。

(ウ) 本件雇用契約及び本件各業務委託契約が無効であること

a 職安法や労基法が刑事罰をもって「労働者供給事業」及び「中間搾取」を禁止している(職安法64条9号、44条、労基法118条1項、6条)のは、労働者供給事業には、労働者供給事業を行う者の一方的な意思によって労働者の自由な意思を無視して労働をさせるいわゆる強制労働や、支配従属関係を利用して本来労働者に帰属すべき賃金をはねるいわゆる中間搾取の各弊害が生じるおそれがあり、労働者供給事業自体が、労働者が本来的に有する基本的人権を侵害するおそれが大きいことを理由とするものである。したがって、職安法44条及び労基法6条は、公序を形成しているというべきであり、これらの条項に違反するような形で労働者供給事業を行うことは、極めて重大な違法性を有するとともに、公序良俗に違反し、これに関する契約は無効となる。

したがって、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、上記のとおり職安法44条及び労基法6条に違反するものであるから、無効である。

b なお、仮に、職安法44条及び労基法6条に違反しても、特段の事情がない限り、労働者とその雇用主との間の雇用契約が無効になるとはいえないとの立場に立ったとしても、本件では、以下のとおり特段の事情が認められる。

本件雇用契約及び本件各業務委託契約では、被告らが組織的に労働者供給構造を作り出した上で、原告を被告Y1社の指揮命令の下、被告Y1社の正社員や派遣社員と同様に労務に従事させていた。

被告Y1社が労働力を必要としたのであれば、本来、被告Y1社自身が、従業員を直接雇う必要がある。しかし、被告らは、労働者を簡単に安く集めて、簡単に切り捨てることができ、かつ、被告らに資金が残るための構造として、上記の労働者供給構造を作り出した。さらに、被告らは、原告に隠して、原告の賃金を中間搾取し続けていた。そして、被告らは、原告の賃金をa社や被告Y4社が中間搾取することで、原告の賃金を中間搾取されない場合より低くし、労働力が不要になった途端、何の手当もなく、突然原告を切り捨てたのである。

したがって、本件は上記特段の事情が存するのであるから、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は無効である。

イ 被告Y1社と原告との間に黙示の雇用契約が成立すること

(ア) 上記のとおり、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は無効であるところ、これに加えて、原告と被告Y1社との間には、以下に述べるように、原告が被告Y1社で業務を開始した時点から、事実上の使用従属関係、労務提供関係及び実質的な賃金支払関係が認められ、かかる実態に照らせば、原告と被告Y1社との間においては、労務を提供するという意思と、これに対し報酬を与えるという意思が合致していることが客観的に推認される。

a 事実上の使用従属関係及び労務提供関係

原告と被告Y1社との間に事実上の使用従属関係及び労務提供関係が認められることは、上記ア(イ)において述べたとおりである。

b 実質的な賃金支払関係

被告Y1社は、形式的には本件Y1社・a社業務委託契約に基づいて、a社に対し請負代金を支払っていたものであるが、当該請負代金は、被告Y1社が原告の労務を受領していたことの対価として支払われたものであり、その実質は原告の賃金として交付されたものであった。

また、原告は、被告Y1社の正社員から休憩及び帰宅許可等を指示され、有給休暇の取得についても被告Y1社の社員から了解を得ていた。さらに、原告は、被告Y1社から、休日出勤や臨時出勤を直接要請されることがあり、被告Y1社の主導によって給料が上乗せされた。

さらに、実態としても、被告Y1社が本件久喜工場における残業時間の多さを労働基準監督署から指摘されたことを受けて、本件雇用契約における就業時間は8時間から9時間に変更となったし、被告Y1社が賃金を改定した際には、被告Y4社も、本件雇用契約における原告の時給を950円から1060円に改訂している。

以上によれば、本件雇用契約に基づく原告の賃金は、被告Y1社の社員の賃金と連動し、被告Y1社によって決められたものであり、原告と被告Y1社との間に、実質的な賃金支払関係があったといえる。

(イ) また、被告Y1社は、原告に対して危険な作業も指示していたのであるから、雇用主としての責任を負うべきである。

(ウ) 以上によれば、原告が被告Y1社で業務を開始した時点から、原告と被告Y1社との間には、期間の定めのない黙示の雇用契約が成立しているというべきである。

ウ 原告の被告Y1社に対する賃金請求権

被告Y1社の労働者の時給は2100円である。

原告の4年間の総労働時間は8861.5時間であり、総出勤日は795日であるから、4年間の1日平均の勤務時間は11.146時間である。したがって、4年間の平均日給は2万3406.6円である。

また、原告の4年間の1月平均の勤務日数は、16.56日であるから、4年間の平均月給は38万7613円である。そして、原告の賃金は、末日締め翌月25日払である。

そうすると、原告は、被告Y1社に対し、平成21年2月以降本判決が確定するまでの間、毎月25日限り、少なくとも38万6000円の賃金の支払を請求する権利を有するということとなる。(被告Y1社の主張)ア本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、偽装請負ではなく、無効とはいえないこと

(ア) 以下に述べるように、被告Y1社から被告Y4社の従業員に対する指揮命令の事実はなく、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は偽装請負ではない。

a 被告Y4社による従業員の雇用管理

被告Y4社は、a社から受託した業務について、現場責任者、工程リーダー及びシフトリーダー(以下、併せて「現場管理者等」という。)による3段階の管理を行っていた。

現場責任者は、被告Y4社の従業員を管理するため、本件久喜工場に常駐しており、a社からの業務の受託、納品確認、納期対応や品質・作業管理、その他の連絡調整等を行っていた。

工程リーダーは、バンプ工程、積層工程及び回路工程の各工程に1名ずつ配置されており、各工程の作業には基本的に従事せず、各工程の管理を行った。工程リーダーは、被告Y4社の新人の教育を担当したり、被告Y4社の従業員の勤怠管理をするなどしていた。

シフトリーダーは、工程リーダーがいない夜間や休日にその代わりを務めていた。

b 被告Y4社による従業員の勤怠管理

(a) 労働時間管理

被告Y4社は、被告Y4社の従業員の勤怠管理のため、本件久喜工場の被告Y4社の事務所に、タイムレコーダー、各従業員のタイムカード及び出勤札を設置していた。そして、被告Y4社は、従業員に対してタイムカードを正確に打刻するよう徹底しており、これに基づき、出勤及び労働時間の管理を行っていた。

(b) 休日出勤

被告Y4社の従業員の休日出勤を決定し、指示していたのは被告Y4社である。

(c) 有給休暇の取得

被告Y4社の従業員が有給休暇を取得する際には、まず、被告Y4社のリーダーに休暇申請書を提出し、承認印を受けることとなっており、有給休暇の取得時期の変更等についても、被告Y4社が指示していた。

被告Y4社の従業員の休暇申請書は、被告Y1社に提出されていたが、これは、被告Y1社が、被告Y4社の従業員の休暇時期について一応の把握をしておくため、その報告を受けていたにすぎず、有給休暇の取得について、被告Y1社の了承を必要とするものではなかった。被告Y1社が、被告Y4社の従業員による有給休暇の取得の許否を決定したり、休暇の取得時期の変更を指示したりすることはなかった。

c 被告Y4社の従業員に対する作業上の指揮命令

被告Y4社の従業員が従事していたバンプ後工程である貫通工程、レイアップ工程及びボンドフィルム工程は単純定型作業であり、被告Y4社の従業員は、当日の生産予定が記載された作業予定表と、生産する品目ごとの製造条件が記載された製造指示書に基づいて、一人で作業をこなしていた。

製造指示書は、被告Y4社の従業員による作業手前の時点において委託業務の具体的な内容を特定する文書にすぎないから、これをもって業務遂行に関する指示があったと評価することは誤りである。

被告Y4社の現場管理者等が被告Y4社の従業員に指示命令するのは、新人従業員を教育指導する場合を除いては、例えば、基板を感知するセンサーの調子が悪くラインが停止した場合に、そのセンサーの位置を調整したり、手の空いた従業員に対して、他の従業員の応援をするよう指示したりする程度に限られていた。

サークル長も、被告Y4社の従業員から相談があった場合には応じることがあったものの、それは、設備が故障したような場合や、貫通検査でNG(品質不良)と判定された場合に、1ロット全部を生産し直すか、あるいは良品パネルと不良品パネルに分割して進行するかについてサークル長の助言的判断を得る場合などに限られていた。

d 被告Y4社による従業員の配置を含む就業態様の決定

(a) 配置転換について

被告Y4社は、採用した従業員を本件久喜工場の生産ラインのどの部署に配置するかについて、業務上の必要に応じて自ら決定しており、その決定に被告Y1社が関与することは一切なかった。原告の配属先は、原告の就労開始日以前に決定しており、被告Y4社から原告に対して説明済みであった。

a社は、被告Y4社に対し、本件久喜工場において、プリント基板の製造・検査業務のほか、半導体製造用部品の製造・検査業務の委託もしていたが、被告Y4社は、その裁量により、これら異なる部門間で多数の従業員の配置転換を実施していた。

また、a社は、被告Y4社に対し、本件上福岡工場においても、半導体製造用部品の製造・検査業務の委託をしていたが、被告Y4社は、その裁量により、本件上福岡工場と本件久喜工場との間で、従業員の配置転換を実施していた。

上記いずれの配置転換についても、被告Y1社及びa社が関与した事実は一切存在せず、被告Y4社は、その従業員の就業態様を決定し得る地位にあった。

(b) 班編制について

被告Y4社の従業員の班編制に当たっては、被告Y1社の班長や課長も関与したが、最終的には被告Y4社の意見に基づいて決定していた。すなわち、班編制を変更する際には、まず、被告Y1社の班長が仮の編制案を作成するが、その際、被告Y4社の従業員については機械的に配置し、a社経由で被告Y4社の現場責任者に同案を提示して被告Y4社の意見を反映させて最終案を作成していた。被告Y1社の課長がこの最終案を発表していたが、被告Y4社の従業員に対しては、被告Y4社の決定事項として、その決定内容を告知していた。

e 原告のその他の主張に対する反論

(a) シフト表及び人員体制表について

被告Y1社の正社員及び被告Y4社の従業員が同じシフト表に従って勤務するのは、本件久喜工場のDTCT部門が、いずれの工程も機械化、自動化され、連続して製造が行われており、前工程及び後工程の稼働を合わせることが合理的であるからにすぎない。

また、人員体制表は、そもそも顧客の監査の時に本件久喜工場の人員を説明するための資料として作成していたものにすぎないし、被告Y1社の正社員に配置変更がない限り更新しないものであった。

(b) 本件朝礼について

被告Y1社が本件久喜工場で全体朝礼を行ったのは、平成17年3月から同年8月までの半年間だけであった。また、全体朝礼は情報共有が目的であったから、前の班の生産状況についてポイントだけごく簡潔に説明をしたり、念のために作業員の注意を促す生産情報等を伝えたりするにすぎず、被告Y1社の職制が出席者に対して作業上の指揮命令の類を行うことはなかった。

(c) 設備配置版による配置指示について

各人が担当する設備は、原則として決まっており、設備配置版は、その配置を確認するために使用されていたにすぎない。

(d) 休憩の取得状況について

本件久喜工場内で作業をしていた被告Y4社の従業員は、60分の昼休みを1回、15分の休憩を3回取っていたが、いずれの休憩についても各人の判断で取得していたものであって、サークル長が休憩の取得を指示していた事実はない。

バンプ工程については、一連の作業を被告Y1社の正社員と被告Y4社の従業員とで分担して行っていたこともあり、相互の作業が中断することがないよう、休憩を取得する際にはお互いに一言声をかけ、交替で休憩を取っていた。

(e) 品質判断について

バンプ欠け・無しについては、検査担当者が各自で判断していたものであり、原告を含む被告Y4社の従業員が、被告Y1社の正社員に報告し、指示を受けていたようなことはない。

(f) 生産実績表及び作業時間表等について

第1に、生産実績表は、ロットごとの品質履歴を残す目的で、各作業員が、業務の一環としてパソコンに入力するものであり、サークル長に提出するものではなかった。

第2に、作業時間表は、各機械の稼働率や能率のデータを収集する目的で、各作業員が担当する機械について、15分単位で稼働状況(運転、準備、停止及び休止)を、勤務終了までにパソコンの所定フォーマットに入力していたものであり、サークル長に提出するものではなかった。

第3に、品質異常報告書は、各作業員が担当する機械について、1ロット50枚当たり一定枚数以上の不良が発生した場合、サークル長が、自ら品質異常の内容、発生原因及び対策等を所定のフォームに記入するものであり、被告Y4社の従業員が記入するものではなかった。

第4に、設備日報は、各作業員が担当する装置にトラブルが発生した場合、発生時間、復旧時間、停止時間、発生部位、品目名、ロット番号及びトラブルの概要について、パソコンの所定フォーマットに入力するものであるが、バンプ後工程については装置トラブルが発生することは年に数回程度であり、装置トラブルが発生しなかった日については、「特に問題なし」等と入力するものにすぎなかった。

最後に、引継ぎ連絡シートは、前の勤務の作業員が、次の勤務の作業員に担当機械の生産進捗状況等の概要について申し送るため、勤務が終了する前にパソコンに入力するものであり、サークル長に提出するものではなかった。

(g) 教育指導について

基本的には、被告Y4社の現場責任者、工程リーダー及び経験の長い従業員が、経験のない従業員に対して、本件久喜工場の設備内容を説明したり、具体的な作業の仕方について教えるなどしていた。

本件久喜工場の稼働当初、被告Y4社の採用人数が多く、被告Y4社において指導できる人数が不足していたこともあり、被告Y1社の班長やサークル長が、被告Y4社の従業員に対して、作業の内容や流れ等を教えることはあったが、平成17年2月頃までのことであり、同年3月以降は、被告Y4社の採用人数が減ってきたため、その必要はなくなった。

原告が本件久喜工場で作業に従事するに当たっては、被告Y4社の現場管理者が、被告Y4社の事務所において、原告に対し、本件久喜工場の設備及び作業内容等について説明しているし、原告は、勤務開始後、バンプ後工程において、被告Y4社の従業員であるA9(以下「A9」という。)やA10(以下「A10」という。)から指導を受けていた。

また、サークル長が被告Y4社の従業員に対し、教育資料を閲覧させていた事実はない。

(h) スキル評価について

被告Y4社の従業員に対するスキル評価は、品質ISO活動の一環として実施したものであり、人事評価というべきものではなかった。

また、被告Y1社の正社員に対する評価の方法と、委託作業員に対する評価の方法は全く異なっていた。被告Y1社の正社員が従事していたバンプ印刷工程は、作業内容が多岐にわたっており求められるスキルも多かったほか、被告Y1社の正社員のスキル評価の結果はその処遇に直結するため、慎重かつきめ細かい評価を行っていた。他方、バンプ後工程は、単純定型作業であり求められるスキルが少なかった上、同工程に従事していたのは被告Y4社の従業員であったため、きめ細かい評価は必要なかった。

さらに、被告Y1社の正社員が被告Y4社の従業員のスキル評価を行うに当たっては、事前に被告Y4社の了解を得ていた。

(i) QCサークル活動について

DTCT部門において、被告Y4社の従業員がQCサークル活動に参加したのは、平成18年の1年間のうち、生産が大きく落ち込んでいた1月から4月までの4か月間及び11月、12月の計6か月間だけであった。

また、被告Y1社の正社員と被告Y4社の従業員は、バンプ工程という一連の作業を分担して行っていたことから、品質等に関する情報を共有し、相互にスキルアップすることが双方にとって有益であった。そのため、被告Y4社は、その従業員をQCサークル活動に参加させることとし、被告Y1社もこれを了承した。

(j) 被告Y1社の社員と被告Y4社の従業員との混在について

DTCT部門では、貫通、レイアップ及びボンドフィルムの各工程で比較的短い期間に限って被告Y1社の社員と被告Y4社の従業員との混在が生じていたにすぎないし、その間も、各作業員の担当する機械は異なり、相互の機械の間に作業内容の連続性もなかったことから、混在していることにより必然的に直接指示を行う関係もなかった。

(イ) 上記のとおり、被告Y4社自身が現場管理者等を通じて被告Y4社の従業員を指揮命令していたのであるから、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、偽装請負ではなかった。

また、仮に、本件雇用契約及び本件各業務委託契約が偽装請負と評価される余地があるとしても、偽装請負は、そもそも職安法44条にいう労働者供給には該当しないし、上記各契約におけるその法違反の程度は軽いものであるから、本件雇用契約及び本件各業務委託契約を無効とする特段の事情は認められない。

イ 原告と被告Y1社との間で、黙示の雇用契約は成立していないこと

上記アのとおり、本件雇用契約及び本件各業務委託契約が有効に存在していることに加え、注文主と労働者との間に黙示の雇用契約が成立していたと評価するためには、注文者が事業主による当該労働者の採用に関与していたこと、当該労働者が事業主から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたこと、事業主が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位になかったことが重要である。

これを本件についてみると、被告Y1社が被告Y4社による原告の採用に関与した事実は一切存在しないこと、原告の基本賃金や諸手当等は、本件雇用契約において定められたものであり、原告の給与等の額を被告Y1社が決定していた事実は一切ないこと、被告Y4社がその従業員の配置を含む就業態様を決定し得る地位にあったことが認められるのであるから、原告と被告Y1社との間で黙示の雇用契約が成立していたと評価する余地がないことは明らかである。

(2)  被告らによる共同不法行為の成否

(原告の主張)

前記(1)の原告の主張記載のとおり、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、いわゆる二重偽装請負であり、労働者供給契約に当たるところ、被告らは、労働者である原告を、被告Y4社からa社を通じて被告Y1社に供給し、これにより、原告が受け取るべき賃金(時給)から、a社が600円、被告Y4社が440~550円を中間搾取するという加害行為をした。

こうした労働者供給契約は、職安法44条及び労基法6条に違反し、強度の違法性を有しており、また、被告らは、本件が二重偽装請負であり、違法な行為であることを十分に認識していたのであるから、被告らの行為は、原告に対する共同不法行為を構成する。

(被告Y1社、被告Y2及び被告Y3の主張)

被告らによる共同不法行為は成立しない。

本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、職安法44条及び労基法6条には違反せず、共同不法行為に該当するような違反行為は一切存在しない。

(被告Y4社及び被告Y5の主張)

被告らによる共同不法行為は成立しない。

ア 被告Y4社は、その従業員との間において、雇用契約の締結、配属先の決定、業務に関する指揮命令及び労働時間の管理等を行っており、被告Y4社と原告との間では有効な雇用契約が成立しているし、被告Y4社とa社との間では有効な請負契約が成立していた。

イ 原告が主張するように職安法等の違反があったからといって、原告の権利や利益の侵害があったことにはならず、原告の主張は失当である。

(3)  被告Y2、被告Y3及び被告Y5による任務け怠等の有無

(原告の主張)

ア 被告Y2について

(ア) 被告Y2は、被告Y1社の代表取締役を務める一方で、a社の取締役も務めていた。

被告Y2は、安価で解雇が容易な社外労働者を利用して、あえて二重偽装を行うことにより、職安法44条、労基法6条、労働者派遣法40条の2、42条違反などの多数の違反行為を被告Y1社及びa社に行わせた。

(イ) 被告Y2は、経営者であり、偽装請負に関する一連の報道からして、遅くとも平成18年7月から平成19年当初にかけて、一般的に偽装請負が違法行為であり是正しなければならないことや、本件久喜工場内においても違法な偽装請負が行われており、是正しなければならないことを認識していた。

イ 被告Y3について

(ア) 被告Y3は、a社の代表取締役を務める一方で、被告Y1社の取締役も務めていた。

被告Y3は、a社による原告の労務管理などを一切行うことなく完全な中間搾取により不当に利益を上げるために、被告Y1社とともに偽装請負を行い、a社及び被告Y1社に職安法44条、労基法6条違反などの多数の違法行為を行わせた。

(イ) 被告Y3は、経営者であり、偽装請負に関する一連の報道からして、遅くとも平成18年7月から平成19年当初にかけて、一般的に偽装請負が違法行為であり是正しなければならないことや、本件久喜工場内においても違法な偽装請負が行われており、是正しなければならないことを認識していた。

ウ 被告Y5について

(ア) 被告Y5は、被告Y1社及びa社からの二重派遣の指示を拒否せず、被告Y1社及びa社の中間搾取に協力して、偽装請負を行い、被告Y4社に職安法44条及び労基法6条違反などの多数の違法行為を行わせた。

(イ) 被告Y5は、経営者であり、偽装請負に関する一連の報道からして、遅くとも平成18年7月から平成19年当初にかけて、一般的に偽装請負が違法行為であり是正しなければならないことや、本件久喜工場内においても違法な偽装請負が行われており、是正しなければならないことを認識していた。

(被告Y2及び被告Y3の主張)

否認又は争う。

被告Y2は、被告Y1社の日常業務については、2名の製造本部長に任せ、重要事項について報告を受けていたにすぎないし、また、a社の業務についても把握していなかった。

被告Y3は、a社の日常業務については、各部長に任せていたものであり、また、被告Y1社の業務についても把握していなかった。

(被告Y5の主張)

否認又は争う。

(4)  原告の損害の有無及び内容

(原告の主張)

原告は、被告らの共同不法行為、又は被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠により、次のとおり合計1286万1500円の損害を負った。

ア 中間搾取された賃金額886万1500円

被告らの違法行為によって、原告は、本来被告Y1社から得られるべき賃金額から、a社及び被告Y4社が中間に介在して取得した金額を差し引いた給与しか得ることができなかった。

具体的には、被告Y1社がa社に支払った金額は時給2100円であったところ、a社が被告Y4社に支払った金額は1600円であり、被告Y4社から原告が受け取っていた賃金額は時給950円~1060円であった。

そうすると、原告は、被告Y1社から時給2100円を受け取るべきところ、950円~1060円の時給しか得られなかったのであるから、少なくとも時給の上記差額として1000円が原告の損害となる。

原告の総労働時間数は、8861.5時間であるから、中間搾取された賃金額は合計で886万1500円となる。

イ 慰謝料400万円

原告は、偽装請負で働かされているとは全く知らない中、違法な状態の下で働かされ、その結果、低賃金かつ不安定な雇用に押し込まれた上、一方的に本件雇用契約を解除されて仕事を失ったものであり、その精神的苦痛を金銭に換算すれば、400万円を下らないというべきである。

(被告Y1社、被告Y2及び被告Y3の主張)

いずれも否認又は争う。

(被告Y4社及び被告Y5の主張)

いずれも否認又は争う。

本件における損害は、いわゆる偽装請負があった場合となかった場合の利益状態の差ということとなるが、偽装請負があった場合となかった場合とでは、被告らが採るべき手続に差はあっても、原告が得られる利益に差はなく、損害は生じ得ない。

第3  当裁判所の判断

1  前記前提となる事実に、証拠〈省略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  本件Y1社・a社業務委託契約の経緯

ア 取引基本契約の締結被告Y1社及びa社は、平成10年10月1日付けで取引基本契約を締結し、被告Y1社がa社に発注する目的物(無体物及び役務等を含む。)の取引に関する基本事項を定めた。

イ 本件Y1社・a社業務委託契約の締結に至る経緯

(ア)被告Y1社は、平成16年1月頃、府中工場においてプリント基板製造業務を行っていたが、当時、1年後には受注数量が2倍以上に急増することが見込まれていたため、同業務を府中工場から他の工場に移転することを検討していた。

被告Y1社は、平成16年6月頃、プリント基板製造業務を生産スペースやクリーンルーム等のインフラが整っていた本件久喜工場に移転することを正式に決定し、同工場における生産開始時期を平成17年1月と決定した。

被告Y1社は、本件久喜工場では、生産数量の増大等に対応するため、3組2交替のフル稼働体制(3組編成で、各組の勤務サイクルを6日サイクルとし、昼勤2日→夜勤2日→休務日2日の順にシフトする。)を採る必要があり、そのためには約80名の作業員が必要となると試算した。

そこで、被告Y1社のA2部長が、a社のA11部長(以下「A11部長」という。)に対し、本件久喜工場における人員補充のため、製造付帯業務や検査業務を委託したい旨申し入れた。A2部長は、A11部長に対し、委託業務全体で30名から40名の作業員が必要であること、3組2交替のフル稼働体制とすることなどを説明した。

その後、A11部長は、A2部長に対し、上記業務委託を受ける旨回答し、その際、外注業者への再委託を考えていることも伝えた。

(イ)被告Y1社及びa社は、平成16年9月1日付けで、被告Y1社がa社に対し、本件久喜工場におけるプリント基板製造業務を含む複数の業務を委託し、a社がこれを受託する旨の業務委託契約(本件Y1社・a社業務委託契約)を締結するとともに、同日付けの同委託契約に付随する覚書により、基板製造業務の委託単価を、作業時間(1時間)当たり1800円と定めた。

(ウ)被告Y1社は、本件Y1社・a社業務委託契約を締結する際、a社の再委託先が被告Y4社であることを認識していた。

ウ 本件Y1社・a社業務委託契約のその後の経緯

(ア)被告Y1社及びa社は、平成16年10月頃、本件久喜工場におけるプリント基板製造業務の委託単価を、作業時間(1時間)当たり1850円に引き上げた。

(イ)被告Y1社及びa社は、平成17年4月1日付けで、本件Y1社・a社業務委託契約と一部を除きおおむね同内容の業務委託契約(以下、同契約も含めて「本件Y1社・a社業務委託契約」という。)を締結するとともに、同日付けの同委託契約に付随する覚書により、基板製造業務の委託単価を、作業時間(1時間)当たり1900円と定めた。

被告Y1社は、本件久喜工場における生産品質が安定せず、当初予定よりも生産数量が増え、その分、負荷が増えたことから、a社の要請を受けて委託単価を作業時間(1時間)当たり50円増額することとしたものである。

(ウ)被告Y1社及びa社は、平成19年6月1日付けで、本件Y1社・a社業務委託契約と一部を除きおおむね同内容(委託業務に基板AOI検査業務が加わった。)の業務委託契約(以下、同契約も含めて「本件Y1社・a社業務委託契約」という。)を締結するとともに、同日付けの同委託契約に付随する覚書により、基板製造業務の委託単価を、作業時間(1時間)当たり2100円、基板AOI検査業務の委託単価を、作業時間(1時間)当たり1550円と定めた。

被告Y1社は、当時、通常の品目よりも製造負荷が2倍以上かかる部品内蔵品の生産数量が急激に伸びており、以後も3倍から4倍の増産を計画していたこと、被告Y1社のプリント基板製造部門が平成19年度上半期において初めて黒字化を達成したことから、上記のとおり委託単価を増額したものである。

(エ)被告Y1社及びa社は、平成20年10月1日付けで、本件Y1社・a社業務委託契約と一部を除きおおむね同内容の業務委託契約(以下、同契約も含めて「本件Y1社・a社業務委託契約」という。)を締結するとともに、同日付けの同委託契約に付随する覚書を締結したが、基板製造業務及び基板AOI業務の各委託単価に変更はなかった。

エ 本件Y1社・a社業務委託契約の終了

(ア) 平成20年秋に発生したいわゆるリーマンショックを契機として、被告Y1社の顧客からの受注数量が急激に落ち込み、リーマンショック前の生産数量は月平均で65万パネルあったところ、同年11月には35万パネルを切り、同年12月には20万パネルを切るところまで落ち込んだ。さらに、上記生産数量は、平成21年1月には15万パネル、同年2月には13万パネルまで落ち込んだ。

被告Y1社は、平成20年11月の時点で、平成21年3月までの受注数量の急激な落ち込みが明らかとなっており、同年4月以降の生産数量の回復の目処も全く立っていなかったことから、a社に対し、同年1月末までに本件久喜工場のDTCT部門における全ての業務委託を解消し、同部門における業務を全て被告Y1社の社員において対応することなどを説明し、本件Y1社・a社業務委託契約を解除することとした。

(イ) 被告Y1社は、平成21年3月末をもって、a社との間で、本件Y1社・a社業務委託契約を合意解除した。

(2)  被告Y4社の設立及び本件a社・Y4社業務委託契約の経緯

ア 被告Y4社の設立

A12(以下「A12」という。)は、業務請負のための会社を立ち上げようと考え、被告Y5から出資を受けて、平成15年5月6日、被告Y4社を設立した。被告Y4社の代表取締役には被告Y5が就任し、A12は取締役に就任した。

イ 本件a社・Y4社業務委託契約の締結に至る経緯

(ア)A12は、被告Y4社の設立前である平成15年4月頃から、埼玉県久喜市中央のgビル2階を被告Y4社の事業所として借り、被告Y4社の営業活動を開始した。同事業所の前には、本件久喜工場に向かうb社の専用社バスの乗り場があった。

A12は、被告Y4社の設立後、A12が過去に勤めていた日本アンク株式会社の取引先であった花王株式会社、株式会社リコーなどに営業活動を行ったが、受注には至らなかった。

その後、A12が、日本アンク株式会社時代の知己であったa社のA11部長に対して営業活動をしたところ、被告Y4社は、平成15年6月頃、a社から、a社が被告Y1社から受託していた本件久喜工場のCE部門におけるリードフレームの外観検査業務(3台分)の再委託を受けられることとなった。

(イ)a社及び被告Y4社は、平成15年6月10日、a社から被告Y4社に対し発注される目的物(無体物、役務等を含む。)の取引に関する基本的事項を定めた取引基本契約及びその付随契約を締結した。

(ウ)そして、被告Y4社は、a社から、平成15年7月頃には、a社が被告Y1社から受託していた本件上福岡工場のPM部門の外観検査業務の再委託を、同年12月頃には、a社が被告Y1社から受託していた本件上福岡工場のCE部門の製造付帯業務の再委託を、平成16年8月頃までには、本件久喜工場のCE部門におけるリードフレームの外観検査業務全て(顕微鏡28台分)の再委託をそれぞれ受けた。

(エ)平成16年8月頃、a社が被告Y1社から本件久喜工場におけるプリント基板製造業務等を受託することが決まった段階で、A11部長は、A12に対し、a社が被告Y1社から請け負う予定の基板製造業務や検査業務の一部について受注したい旨申し入れた。この際、A11部長は、A12に対し、30人から40人の作業員が必要になる旨説明した。

A12は、A11部長の申入れを受けて、被告Y4社の従業員であったA13(以下「A13」という。)に被告Y1社の府中工場を見学させた上で、上記各業務を受注可能と判断し、a社から上記各業務を請け負うこととした。

被告Y4社は、平成16年8月頃、被告Y4社の売上規模や経費等を考慮した上、a社との間で、上記各業務の委託単価につき、パネル全種類について、1パネル当たり85円とすることを合意した。

(オ)被告Y4社及びa社は、平成16年9月末頃、上記各業務に関する業務委託契約(本件a社・Y4社業務委託契約)を締結した。

ウ 本件a社・Y4社業務委託契約のその後の経緯

(ア)a社は、平成17年1月頃、被告Y4社から、1パネル当たり85円の委託単価では採算割れとなる旨の申入れを受けて、被告Y4社との間で、委託単価について、基板製造業務(検査以外の全ての業務)については作業時間(1時間)当たり1380円、検査(AOI検査業務)については作業時間(1時間)当たり1270円とすることを合意した。

もっとも、a社が被告Y4社に対して交付する発注書は、上記合意による委託代金をそのまま反映させる内容のものではなかった。すなわち、a社は、被告Y4社のa社に対する委託代金を、上記合意のとおり、稼働時間を基準とした委託単価に、被告Y4社が毎月25日の締日に確定させている被告Y4社の従業員の総就労時間を乗じることにより算出していたが、発注書を作成するに際しては、あえて、上記により算出した委託代金を、1パネル当たり85円の数量単価で割り戻し、当該割り戻した数量分のパネルを発注したかのような外観にしていた。

なお、被告Y4社は、上記合意をする際、本件Y1社・a社業務委託契約における委託単価の内容について認識していなかった。

(イ)その後、a社は、被告Y4社に対し、平成18年12月頃、被告Y1社からの受託業務のうち積層工程のPP穴開け工程業務を、平成19年6月頃には、被告Y1社からの受託業務のうち完成検査業務をそれぞれ再委託した。

(ウ)被告Y4社及びa社は、平成19年10月頃、基板製造業務の委託単価を作業時間(1時間)当たり1380円から1500円に、AOI検査業務及び完成検査業務の委託単価を作業時間(1時間)当たり1270円から1370円にそれぞれ引き上げた。

(エ)被告Y4社の設立当時の取引先はa社のみであり、その後も、a社からの売上げが大部分を占める状況であった。

エ 本件a社・Y4社業務委託契約の終了

(ア)a社は、上記(1)エのとおり、被告Y1社との間で本件Y1社・a社業務委託契約を解除することとなったことを受けて、平成20年11月頃、被告Y4社に対し、本件a社・Y4社業務委託契約の解消を通告した。

(イ)a社と被告Y4社は、平成21年1月末、本件a社・Y4社業務委託契約を合意解除した。

(3)  本件雇用契約の経緯

ア 被告Y4社による従業員の募集被告Y4社は、a社から本件久喜工場におけるプリント基板製造業務を受託した平成16年9月末頃以降、同業務に従事するオープニングスタッフの募集を開始した。

イ 本件雇用契約の締結

(ア)面接・採用

原告は、被告Y4社の上記募集を見て、被告Y4社に応募し、平成17年2月3日、久喜市にある被告Y4社の埼玉営業所において、被告Y4社の採用担当であったA13と面接した。

A13は、面接の際、原告に対し、作業所案内(勤務地、作業時間等)や給与関係が記載された入社案内を示したほか、本件久喜工場内の写真数枚やプリント基板を見せて説明した。

この面接の結果、原告は被告Y4社に採用され(本件雇用契約)、翌4日から本件久喜工場において勤務することとなった。

この採用手続には、被告Y1社の社員は関与していなかった。

(イ)本件雇用契約の内容

本件雇用契約では、就業場所は本件久喜工場構内、仕事内容は電子部品製造に伴う付帯作業、勤務形態は交替勤務(4勤2休。①午前8時30分~午後8時30分、②午後8時30分~翌午前8時30分(午後10時~翌午前5時は深夜手当てを支給))、休日はシフト制、賃金は時給950円(日給6000円)等と定められた。

ウ 本件雇用契約のその後の経緯等

(ア)被告Y4社は、平成18年頃、所定内労働時間を8時間から9時間に変更したことや周辺地域における労働条件等に照らし、従業員の給与のベースアップを行うこととした。

(イ)これを受けて、原告及び被告Y4社は、平成18年頃、本件雇用契約を更新した。同更新後の本件雇用契約では、契約期間は、平成18年9月26日から平成19年3月25日まで、勤務形態は、昼勤が午前8時30分から午後6時30分まで(定時9時間。休憩60分。残業あり。)、夜勤が午後8時30分から翌午前6時30分まで(午後10時~翌午前5時の勤務については深夜手当を支給)と変更されたほか、賃金については、時給1060円(日給9540円)となり、時給が110円上がった。

(ウ)また、上記(ア)を受けて、被告Y4社は、平成18年10月26日、原告以外の契約社員との間でも契約の更新を行い、一律に時給を50円上げた。

(エ)原告及び被告Y4社は、平成19年4月26日、本件雇用契約を更新した。同更新後の雇用契約では、契約期間は、同日から同年10月25日までとされた。原告及び被告Y4社は、その後も、平成19年10月26日から平成20年4月25日までを雇用期間とする契約更新(契約内容はいずれも従来どおり)を、平成20年4月26日から同年10月25日までを雇用期間とする契約更新(契約内容はいずれも従来どおり)をそれぞれ行った。

(オ)被告Y4社は、平成20年6月以降、原告に対し、基本給に加えて、リーダー手当として毎月5000円を支給した。

また、被告Y4社は、出勤率や士気の向上のため、被告Y4社独自の措置として、年に2回、出勤率や勤続年数を基に算出した慰労金を支給しており、原告も平成20年に当該慰労金の支給を受けた。

エ 本件雇用契約の終了

(ア)被告Y4社の現場責任者であったA14は、上記(1)エ及び(2)エのとおり本件各業務委託契約が終了することを受けて、平成20年12月17日、原告に対し、本件雇用契約を平成21年1月末日をもって終了させたい旨説明したが、原告はこれに応じなかった。

(イ)被告Y4社は、平成21年1月31日、本件a社・Y4社業務委託契約が解消となることを受けて、原告を整理解雇した。

(4)  原告の勤務実態

ア 原告の勤務開始当初の説明及び教育

(ア)原告は、平成17年2月4日、本件久喜工場における業務に従事するに先立ち、被告Y4社の社員であるA15(以下「A15」という。)から、福利厚生に関する事項、本件久喜工場内の被告Y4社の事務所及びタイムレコーダーの設置場所等について説明を受けた。その後、原告を始めとする同日勤務開始の被告Y4社の従業員は、当時被告Y4社の現場管理者であったA13から、被告Y1社のA2部長及びA3課長を紹介された。A13やA15は、この紹介が終わるとその場を去った。

原告らは、A3課長から、本件久喜工場内の共有施設(トイレ、休憩所及び食堂等)、本件久喜工場の概要、作業の流れの概要及びクリーンルーム入室時の注意事項について説明を受けた。

同日午後、原告は、A2部長と共に本件久喜工場内の清掃及び薬品の運搬を行った後、A2部長から被告Y1社の社員であり当時班長であったA7班長に、A7班長から被告Y1社の社員であり当時サークル長であったA8サークル長に順次引き継がれた後、A8サークル長からバフ研磨機の操作や稼働前チェック等について説明を受けた。

(イ)原告は、翌5日、本件久喜工場内において、バフ研磨機の生産に従事した。

原告は、その後、A7班長から、「明日からバンプだよ。」と言われ、遅くとも、平成17年2月7日には、バンプ工程の貫通作業に従事していた。

原告は、バンプ工程に配属された後、A7班長ら被告Y1社の正社員から、貫通2号機を担当するよう指示されるとともに、貫通2号機の作業方法や作業内容の説明を受けた。原告は、被告Y4社の従業員であったA13やA9からは、貫通2号機の作業内容等の説明を受けていない。

イ バンプ工程の勤務体制等

本件久喜工場ではa班、b班、c班の3組2交代制(4勤2休)が採られていたが、その具体的な勤務体制は、被告Y1社が作成した本件久喜工場全体のシフト表によって定められていた。

被告Y1社は、その正社員の中から、各班の班長を選任するとともに、工程ごとに、生産進捗状況を管理するために、被告Y1社の正社員の中からサークル長と呼ばれる管理者を配置していた。

被告Y1社は、基本的には、バンプ印刷工程のように、製造条件が完全に標準化されていない作業や、目視による微細な品質判定が要求される作業などを「コア業務」とし、当該業務については被告Y1社の社員に実施させることとしていた。他方、バンプ後工程は、作業内容が標準化された比較的単純定型作業であり、コア業務以外の業務(製造付帯業務)として、被告Y1社は、a社や被告Y4社の従業員に実施させていた。

もっとも、被告Y1社は、被告Y4社の従業員であるA16を平成20年6月から同年12月までバンプ印刷ライン3号のバンプ印刷工程に従事させたり、被告Y1社の正社員をバンプ後工程(貫通工程、レイアップ工程及びボンドフィルム工程)に従事させるなどしたこともあった。

ウ 原告の所属する班の構成

(ア)平成17年3月31日時点では、原告はb班のバンプ工程に配属されていた。b班のバンプ工程は7名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA17が就任し、被告Y1社の正社員1名及び派遣社員がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員3名が貫通を、被告Y1社の正社員1名がボンドフィルムを、同正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(イ)平成17年5月31日時点では、原告はa班の回路工程に配属されていた。a班の回路工程は11名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA18が就任し、被告Y1社の正社員5名及び派遣社員1名が回路形成(ラミネート、露光、エッチング)を、被告Y1社の正社員2名、原告を含む被告Y4社の従業員2名及び被告Y1社の派遣社員1名が回路検査(AOI)をそれぞれ担当していた。

(ウ)平成17年9月13日時点では、原告はb班のバンプ工程に配属されていた。b班の班長には被告Y1社の正社員であるA8サークル長及びA19が就任していた。b班のバンプ工程は10名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA20が就任し、被告Y1社の正社員3名がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員5名が貫通を、被告Y1社の正社員1名がボンドフィルムを、同正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(エ)平成17年10月3日時点では、原告はa班のバンプ工程に配属されていた。a班の班長には被告Y1社の正社員であるA21(以下「A21」という。)が就任していた。a班のバンプ工程は10名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA22が就任し、被告Y1社の正社員4名がバンプ印刷工程を、被告Y4社の従業員4名が貫通を、原告がボンドフィルムを、被告Y1社の正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(オ)平成18年11月15日時点では、原告はc班のバンプ工程に配属されていた。c班のバンプ工程は7名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA23(以下「A23」という。)が就任し、被告Y1社の正社員3名がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員2名が貫通を、被告Y1社の正社員1名がボンドフィルムを、同正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(カ)平成19年4月12日時点では、原告はc班のバンプ工程に配属されていた。c班のバンプ工程は10名で構成され、サークル長にはA23が就任し、被告Y1社の正社員5名がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員3名が貫通を、被告Y4社の従業員1名がボンドフィルムを、被告Y1社の正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(キ)平成19年7月5日時点では、原告はc班のバンプ工程に配属されていた。c班のバンプ工程は8名で構成され、サークル長にはA23が就任し、被告Y1社の正社員4名がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員2名が貫通を、被告Y4社の従業員1名がボンドフィルムを、被告Y1社の正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(ク)平成19年9月18日時点では、原告はc班のバンプ工程に配属されていた。c班の班長にはA7班長が就任していた。c班のバンプ工程は10名で構成され、被告Y1社の正社員4名及び派遣社員1名がバンプ印刷工程を、原告を含む被告Y4社の従業員3名が貫通を、被告Y4社の従業員1名がボンドフィルムを、被告Y1社の正社員1名がレイアップをそれぞれ担当していた。

(ケ)貫通工程及びレイアップ工程では、少なくとも平成20年7月頃から同年12月頃までの間、ボンドフィルム工程では、少なくとも同年7月頃から同年11月頃までの間、被告Y1社の正社員と被告Y4社の従業員が同じ設備を担当することがあり、相互に引継ぎを行っていた。

(コ)原告は、平成20年12月11日時点では、同月15日から、b班のバンプ工程に配属される予定になっていた。

(サ)平成21年1月9日時点では、原告はa班のバンプ工程に配属されていた。a班の班長にはA7班長及びA21が就任していた。a班のバンプ工程は、10名で構成され、サークル長には被告Y1社の正社員であるA24が、副サークル長には被告Y1社の正社員であるA25がそれぞれ就任し、その他の班員は、被告Y1社の正社員が5名、被告Y4社の従業員が原告を含む2名であった。

エ 班編制

本件久喜工場のDTCT部門においては、生産数量に合わせて生産体制の変更をする必要が生じ、班編制を変更する場合があったが、その際は、被告Y1社の課長や班長が、被告Y4社の従業員を含めて、誰をa班、b班又はc班に配属させるかについての編制案を作成し、これをa社経由で被告Y4社の現場責任者に示し、その意見を聴取した上で、被告Y1社の課長において、最終の班編制を決定し、発表していた。

オ 作業設備等

本件久喜工場のバンプ工程で利用する設備や機材は、b社か被告Y1社が所有するものであった。

また、被告Y1社は、クリーンスーツやクリーンブーツ等の管理をしており、原告を含む被告Y4社の従業員に対しても、クリーンスーツ、クリーンブーツ、マスク、ゴム手袋、安全メガネ、安全手袋及びコピー用紙等を無償で貸与するなどしていた。

もっとも、原告を含む被告Y4社の従業員は、平成19年頃から、被告Y4社の指示により被告Y4社独自のネームプレート(タテ7~8cm、ヨコ10cmくらいの社名と氏名が記入されたもの)をクリーンスーツの肩にクリップで留めるようになった。

カ 被告Y4社の従業員の勤務の流れ

本件久喜工場のバンプ工程における原告を含む被告Y4社の従業員の勤務(昼勤)の流れは、おおむね以下のとおりであった(なお、夜勤は、勤務時間を除き、その流れは昼勤とおおむね同じである。)。

(ア)タイムカードへの打刻

被告Y4社の従業員は、本件久喜工場に出勤すると、h棟1階の被告Y4社の事務所に設置されているタイムレコーダーでタイムカードに打刻することとされていた。被告Y1社の社員の勤怠を管理するカードリーダーは、これとは異なる場所に設置されており、また、被告Y1社は、被告Y4社の従業員の勤務時間については管理していなかった。

(イ)着替え等の準備

被告Y4社の従業員は、本件久喜工場内のロッカー室で私服から被告Y4社の指定する作業着(被告Y1社の社員の作業着とは異なる。)に着替え、同じく本件久喜工場内の被告Y4社用のクリーンルーム前室でクリーンスーツに着替えてから、エアシャワーゾーンを通ってクリーンルーム内に入室していた。

他方、被告Y1社の社員は、被告Y1社の社員用のクリーンルーム前室(被告Y4社用のクリーンルーム前室とは異なる。)でクリーンスーツに着替えてから、エアシャワーゾーン(被告Y4社が使用するエアシャワーゾーンとは異なる。)を通ってクリーンルーム内に入室していた。もっとも、回路工程のうち回路形成工程に従事する被告Y1社の社員は、被告Y4社用のクリーンルーム前室やエアシャワーゾーンを使用していた。

(ウ)本件朝礼への参加

a 平成17年3月頃から同年8月頃までの半年間は、本件久喜工場のDTCT部門全体での朝礼(全体朝礼)を実施していた。全体朝礼は、クリーンルーム前室や休憩室の前の廊下において、勤務の切替時間(午前8時30分又は午後8時30分)の前の時間帯に、被告Y1社の製造部長以下全正社員が集まって実施され、a社や被告Y4社の従業員等も参加することが義務付けられていた。全体朝礼の参加者の合計は約40名であり、各工程の生産進捗状況や全工程に共通して関係する品質及び設備に関する基本的留意点の共有等が行われたほか、前の班のサークル長が、前の班の生産状況について簡単な説明を行った。A4課長は、全体朝礼の最後に、被告Y4社の従業員を含む作業員全員で作業中に注意することを再確認する指差唱和(「タッチアンドコール」と呼ばれていた。)を行っていた。

b 平成17年9月頃以降は、全体朝礼に代わり、工程(バンプ、回路、プレス等)別の朝礼を実施していた。このうち、バンプ工程朝礼は、バンプ中央通路で、勤務の切替時間の前の時間帯に実施され、被告Y1社の正社員だけではなく、a社や被告Y4社の従業員も参加することが義務付けられていた。バンプ工程朝礼を仕切るのは、被告Y1社のサークル長であり、前の班のサークル長から前の班の生産状況についての説明があるなど、前の班の生産進捗状況、品質及び設備に関する留意点について情報共有が行われた。また、その日の急ぎの生産予定の発表、不良品の話や対処方法等作業するに当たって必要な事項について伝達がされた。

c 本件朝礼とは別に、勤務の切替時間の前の時間帯に、被告Y4社による朝礼も実施されていた。

(エ)設備配置版の確認被告Y1社は、本件久喜工場のバンプ工程中央通路の掲示板に設備配置版を設置していた。

設備配置版は、設備レイアウト図の設備の位置に、作業員名を記載した丸いカラーマグネットを配置したものである。

サークル長が、本件朝礼が終了するまでの間に、作業員名の記載されたカラーマグネットをそれぞれ担当する設備の位置に設置し、原告ら作業員は、本件朝礼の終了後に設備配置版を見て当日の配置を確認していた。

欠勤者や遅刻者がいたり、生産予定に変更がある場合には、班員の担当設備が変更されることがあるが、その際には、班長やサークル長がカラーマグネットの配置を変更することによって、原告ら被告Y4社の従業員に対しても、配置変更を指示していた。

(オ)作業員間における引継ぎ

バンプ工程では、被告Y1社の指示により、各作業員は、勤務終了直前にバンプ工程引継ぎ連絡シートに申し送り事項を記載して次の班の作業員に申し送りを行うこととされていた。

次の班の作業員は、朝礼が終わると、まず前の班からのバンプ工程引継ぎ連絡シートを読了した上で、同シートの確認者欄にサインをした上で作業に入る。

バンプ工程では、同一の設備について、前の班では被告Y1社の正社員が担当し、次の班では被告Y4社の従業員が担当するということもあり、その際には、被告Y1社の正社員と被告Y4社の従業員との間で上記の引継ぎが行われていた。

(カ)作業予定表に基づく作業

バンプ工程の各作業員は、引継ぎが終わると、担当装置のその日の生産予定を作業予定表で確認し、担当設備の点検を行った上で、作業予定表に基づいて生産を行う。

作業予定表とは、バンプ工程の印刷ラインごとに12日分の生産予定が記載されたものであり、各日ごとに、複数の品目やロット番号が記載されており、上に記載されている品目から順に生産をしていくこととされている。

作業予定表は、被告Y1社の工程管理部が1週間ごとに毎週月曜日に更新して各製造工程に配布しており、バンプ工程では、工程管理部から各班のサークル長に配布され、サークル長は、各工程の作業机の上に置くほか、バンプ工程中央通路に設置されていた掲示板にも掲示して全作業員に周知していた。

バンプ工程の生産予定は作業予定表において確定するため、基本的に週の途中で生産予定が変更されることはないが、例えば、生産数量が極端に増大した時期にたまたま新しい品種の生産が重なって生産が安定せず予定どおりいかなかった場合には、サークル長が作業予定表に記載された予定の変更を指示したり、被告Y1社の工程管理部が作業予定表を新しくバージョンアップしたりすることがあった。作業予定表がバージョンアップされたときには、被告Y1社の工程管理部の正社員が当該作業予定表をサークル長に渡し、その後サークル長から各設備を担当する作業員に配られた。

(キ)製造指示書に基づく作業

バンプ工程の各作業員は、被告Y1社の工程管理部が作成する製造指示書に基づいて作業を行っていた。

製造指示書は、基板ごとの製造条件を記載したものであり、例えば、バンプ貫通に関しては、PPロット、プリヒート温度、ロール温度、ロールスピード、エア圧力、ギャップ及びポリマラップ厚等の各欄が設けられ、それぞれについて具体的な数値が設定されていた。

そして、各作業員は、製造指示書どおりに作業を行った上で、製造指示書に必要事項を記入して、次の工程の作業員に渡していくこととされていた。こうして製品ごとに製造指示書が完成することとなるが、完成した製造指示書は、被告Y1社が管理していた。

(ク)生産実績表等の提出

a バンプ工程の各作業員は、被告Y1社の指示により、1日の作業が終了する前の勤務時間内に、生産実績表、作業時間表、設備日報及び引継ぎ連絡シートを作成し、大量に不良品が出たときにはサークル長において品質異常報告書を書くこととされていた。

b 生産実績表は、各作業員が担当する機械で生産した製品について、ロットごとに、作業日、作業員名、品目、生産枚数、不良枚数、不良内容及び製造条件等を記載するものであり、ロットごとの品質履歴を残す目的で作成していた。

また、作業時間表は、各作業員が担当する機械について、15分単位で稼働状況(運転、準備、停止、休止)を記載するものであり、生産性の改善について検討するために、各機械の稼働率や能率のデータを収集する目的で作成していた。

さらに、設備日報は、各作業員が担当する機械について、機械トラブルにより30分以上機械が停止した場合に、発生時間、復旧時間、停止時間、発生部位、品目名、ロット番号及びトラブルの概要を記載するものであり、各機械の稼働率や能率のデータを収集する目的で作成していた。

これらの生産実績表、作業時間表及び設備日報の書式を作成したのは被告Y1社であり、当初は、各作業員が手書きで作成し、被告Y1社のサークル長に提出していたが、その後、被告Y1社の指示により、被告Y4社の従業員も含めて被告Y1社のパソコンにこれらのデータを入力する方法に変更された。なお、これらのデータを管理しているのは被告Y1社であった。

c 品質異常報告書は、各作業員が担当する機械について、1ロット50枚当たり一定枚数以上の不良品が発生した場合、被告Y4社の従業員が担当していた機械も含めて、サークル長が、自ら品質異常の内容、発生原因及び対策等を所定のフォームに記載するものである。

なお、バンプ後工程では、1ロット50枚当たり2枚以上の不良品が発生した場合だけが品質異常報告書の作成の対象とされていた。

(ケ)休憩について

被告Y4社の従業員は、所定休憩時間は、昼勤は午後0時から午後1時までの1時間、夜勤は午前0時から午前1時までの1時間とされ、このほかに15分休憩を3回取ることが認められていた。

バンプ前工程(バンプ印刷工程)は、原則として装置を連続稼働させていたため、1時間休憩については、サークル長を含めた4名の作業員が、2名ずつのペアに分かれて交互に取得しており、15分休憩については、各作業員が作業の流れを見ながら交替で取得し、作業員が休憩中の印刷ラインについては、残った作業員やサークル長がカバーしていた。

バンプ後工程のうちボンドフィルム工程は、間けつ生産で対応できたため、作業員は、適宜、装置を停止して休憩を取得していた。

バンプ後工程のうち貫通工程では、コア貫通の生産のみを行っている場合と銅箔貫通の生産を行っている場合とで異なっていた。すなわち、コア貫通の生産のみを行っている場合、繁忙期を除いては、装置を停止して、所定の休憩時間帯に一斉に1時間休憩を取得していたが、銅箔貫通の生産を行っている場合は、バンプ印刷工程と貫通工程がインラインで繋がっている関係上、装置を停止することができなかったため、1時間休憩については、バンプ工程の作業員同士で2名ずつのペアに分かれて交互に取得し、15分休憩については、ロットの切れ目のタイミングで取得したり、各作業員が作業の流れを見ながら交替で取得し、作業員が休憩中の貫通装置については、残った作業員がカバーしていた。

(コ)サークル長からの作業上の指示

被告Y4社の従業員が基本的に担当していたバンプ後工程は、比較的単純定型作業であったため、被告Y1社の作成する作業予定表及び製造指示書以外に作業するに当たって逐一指示を要するものではなかったが、同従業員は、担当する設備が故障したり不具合が発生したりした場合には、サークル長に報告し、その指示に従って作業をしていた。また、被告Y4社の従業員は、貫通検査の結果、NG(品質不良)と判定された場合にも、その旨サークル長に連絡し、連絡を受けたサークル長が、自ら品質状態を確認した上で、1ロット全部生産し直すか、良品パネルと不良品パネルに分割して進行するかを判断して、その結果を被告Y4社の従業員に伝えていた。

キ 被告Y1社によるスキル評価

サークル長は、毎月、原告ら被告Y4社の従業員を含むバンプ工程の作業員全員について、スキル評価表によるスキル評価を行っていた。

このスキル評価の対象は、工程ごとに分かれており、「銅箔印刷」、「コア印刷」、「♯4ライン」、「高さ検査♯1、2」、「高さ検査♯3」、「有無検査」、「貫通」、「レイアップ」、「ボンドフィルム」及び「版測定」の項目が設定されていた。

また、各人の保有スキルレベルは、0点(従事したことがない)、25点(指導を受けながらできる)、50点(一人で任せられる)、75点(指導できる)、100点(品質・設備のトラブルに対応できる(製造にて対応できるレベルとする))の5段階で評価されていた。

被告Y1社は、毎年4月及び10月に、各人の半期のスキル到達目標を設定しており、目標の設定は、現在従事している工程(作業)のうち100点に達していないものを対象とし、原則として1ランク上(25点伸ばす)で設定していた。

被告Y1社の正社員に関しては、毎月のスキル評価の結果が半期人事考課の材料として活用されていた。

ク QCサークル活動

被告Y4社の従業員は、平成18年の1年間のうち、生産が大きく落ち込んでいた1月から4月までの4か月間及び11月、12月の計6か月間、QCサークル活動に参加した。

バンプ工程のQCサークル活動は、被告Y1社が主催し、本件朝礼終了後の1時間ないし1時間半の時間帯で実施され、被告Y1社からは班長及びサークル長の外、当該作業に従事している社員全員が参加し、上記時期には被告Y4社の従業員も全員参加して行っていた。QCサークル活動の目的は、品質等に関する情報を共有し品質意識を向上させるところにあり、当時の主たるテーマは「樹脂残り対策」であった。

QCサークル活動では、被告Y1社の指示により、議事録を作成することとされており、被告Y1社において同議事録を管理していた。

QCサークル活動においては、例えば、貫通工程で問題が発生した場合の対応が各人各様であったことから、その対応を再検討し、再度徹底するために、被告Y1社の正社員において手順書を作成することが課題として定められたり、樹脂残り対策として作業中に黒指サックを使用することが定められるなどしていた。

ケ 人員体制表

被告Y1社は、本件久喜工場において、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員等を含めた作業員が、それぞれどの班に所属し、どの工程を担当しているかが記載された人員体制表を作成し、作業員がお互いに連絡するツールとしてクリーンルームの中央通路に掲示していた。人員体制表は、もともとは、被告Y1社において顧客による監査の際に本件久喜工場の人員を説明するために作成していたものである。

人員体制表は、被告Y1社の課長が、被告Y1社の社員の配置に変更があったときに作成するが、その際に被告Y4社の従業員の配置も変更されていた場合には、当該箇所も変更していた。

コ 有給休暇の取得

(ア)原告ら被告Y4社の従業員が有給休暇を申請する場合、被告Y1社所定の休暇申請書に必要事項を記載した上で、サークル長に提出し、サークル長、班長、被告Y1社の係長及び課長の決裁を得ることとなっていた。

当該申請書は、被告Y1社の正社員が申請する場合も、被告Y4社の従業員が申請する場合も同じ書式であり、所属、工程、氏名、申請日及び申請理由を記載することとなっており、当該申請書の決裁欄には、サークル長印、班長印、係長印及び課長印の各欄が設けられていた。

(イ)また、原告ら被告Y4社の従業員が有給休暇を申請する場合、被告Y1社に対する休暇申請とは別に、被告Y4社所定の有休取得申請書に必要事項を記載した上で、被告Y4社の現場管理者に提出し、被告Y4社の管理担当者及び所長の決裁を得ることになっていた。

当該申請書には、申請者、作業署名、所属部署、申請日、休暇日、理由及び有休残日数を記載することとなっており、当該申請書の決裁欄には、所長及び管理担当の欄が設けられていた。

(ウ)その後、遅くとも、平成21年1月15日には、被告Y1社所定の休暇申請書が改訂され、決裁欄のうちサークル長印の前に「Y4社長印」の欄が加わるとともに、被告Y4社の社員が休暇を申請する際の申請ルートとして、「Y4社長→サークル長→班長→係長→課長(保管)」と明記されるに至った。このように休暇申請書の書式が変更されてからは、原告ら被告Y4社の従業員は、被告Y4社の現場管理者の決裁を得た上で、当該休暇申請書をサークル長に提出していた。

サ 休日出勤における指示

原告が平成19年7月29日に休日出勤した際、A4課長が業務内容等を含めた実施要綱を作成し、原告ら作業員は、同要綱に基づいて当日の作業を行った。また、当日の責任者は、被告Y1社の正社員で班長のA26とされ、急きょ休む場合などには、同人に連絡することとされた。

シ 被告Y4社の管理体制

(ア)現場管理者

被告Y4社は、本件久喜工場内の被告Y4社の事務所に現場管理者を配置していた。

現場管理者は、本件久喜工場内の被告Y4社の事務所にタイムレコーダーとタイムカードを設置し、被告Y4社の従業員に打刻させ、被告Y4社の従業員の出勤日、休日、休日出勤及び残業等の日数や時間を把握していた。また、現場責任者は、同事務所において、被告Y4社の従業員のタイムカードを基に出勤簿を作成し、被告Y4社の埼玉事業所の経理担当者に送っていた。そして、経理担当者は、当該出勤簿を基に、基本給、残業代、休日出勤代、欠勤日数、有給休暇日数、遅刻及び早退の情報を確認した上で、給与支給額を決定し、所得税源泉徴収簿兼賃金台帳等の関係書類を作成していた。

なお、現場管理者は、夜勤時間帯及び土日祝日には出勤していなかった。

(イ)工程リーダー

被告Y4社は、平成18年頃、バンプ工程、積層工程及び回路工程の各工程に一人ずつ工程リーダーを配置した。工程リーダーは、それまでに現場管理者が行っていた現場巡回のほか、被告Y4社の従業員の不定期のスキル評価、ワンポイントレッスン、欠員が生じた場合の補充や新人教育などを担当していた。

また、工程リーダーは、被告Y4社の従業員からの急な欠勤や遅刻に関する連絡を受けていた。

なお、工程リーダーは、平日の朝から夜勤がスタートする午後8時30分過ぎまでの時間帯に出勤しており、夜勤時間帯及び土日祝日には出勤していなかった。

(ウ)シフトリーダー

被告Y4社は、平成18年頃から、各工程の班に一人ずつシフトリーダーを配置した。シフトリーダーは、班員のケアや班内での問題解決、工程リーダーとの情報交換を行っていた。

原告も、事実上、これらのシフトリーダーとしての職務に従事しており、平成20年6月以降、被告Y4社から、リーダー手当として毎月5000円の支給を受けていた。

ス 被告Y4社の社員教育

被告Y4社では、工程内でミスや異常が発覚した場合、これが発覚した班のシフトリーダーや工程リーダーが中心となって異常の原因や対策について検討し、品質異常報告書を作成して、現場管理者に提出していた。

また、被告Y4社では、品質異常の原因が作業手順等にもあると考えられる場合には、再発防止のため、手順の変更を検討し、変更後の手順についてワンポイントレッスンを作成し、これを基に工程リーダーにおいて従業員に対する教育を行った。

さらに、被告Y4社は、工程リーダーにおいて、有期契約期間に一回の頻度で被告Y4社の従業員のスキル評価を実施していた。評価の判断レベルは、AからDまでの4段階であり、スキル評価表においては、Aを指導できるレベル、Bを一人でできるレベル、Cを研修予期レベル、Dをまだできないレベルとして表示していた。

セ 被告Y4社による配置転換

被告Y4社は、本件久喜工場のDTCT部門において生産数が減って人員過多になった場合には、a社との間で生産数の回復見込みの有無について協議した上で、その見込みがない場合には、従業員への影響が最も少ない同じ本件久喜工場内のCE部門への配置転換を検討し、同部門に欠員がない場合には、本件久喜工場と同じ敷地内にある印刷製本部門への配置転換を検討し、同部門にも欠員がない場合、最終的には本件上福岡工場への配置転換を検討するなどしていた。これらの配置転換対象者は、現場管理者と工程リーダーとの間で協議した上で決めており、現場管理者において、配置転換対象者に対し、事情を説明し、配転命令を出していた。

2  争点(1)(原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約の成否)について

(1)  判断枠組みについて

原告は、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であり、職安法44条及び労基法6条、ひいては公序良俗に違反し、いずれも無効であると主張している。

そこで、争点(1)を判断する上で、原告が指摘する本件雇用契約及び本件各業務委託契約の効力を判断する必要性があるかにつき検討すると、本件雇用契約等が無効であるということ自体が、原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約の成立を認めるための不可欠の前提条件であるとまでは解されないものの、本件雇用契約等が無効であれば、原告が労働に従事していた事業所の経営主体である被告Y1社と原告との間で、黙示の雇用契約を締結する意思の合致があったとされる蓋然性が高まることとなる。

そうすると、本件雇用契約等が無効であるか否かは、原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約の成否を判断するに当たって重要な要素になると解される。

そこで、以下においては、まず、原告の上記主張から検討を加えることとする。

(2)  本件雇用契約及び本件各業務委託契約の有効性について

ア 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられている。したがって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職安法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである(最高裁平成21年12月8日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁参照)。

これに対し、注文者、元請負人、下請負人、下請負人の雇用する労働者の4者の関係において、下請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ注文者と元請負人との間で請負契約という法形式が採られ、かつ、元請負人と下請負人との間で下請契約という法形式が採られていたとしても、これらを請負契約と評価することはできず、この場合において、注文者と労働者との間及び元請負人と労働者との間にそれぞれ雇用契約が締結されていないのであれば、元請負人は、自己が雇用していない下請負人の雇用する労働者をさらに業として注文者に派遣していることとなるというべきであり、そうすると、上記4者間の関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当せず、職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして、職安法44条に違反することとなり、当該労働者が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものと解される。

イ これを本件についてみると、前記前提となる事実及び前記1で認定した事実によれば、①原告ら被告Y4社の従業員は、被告Y1社の正社員が班長やサークル長を務める班体制において、被告Y1社の正社員らとともに、被告Y1社の作成したシフト表に従って、一連のバンプ工程作業に従事しており、その際には、被告Y4社の従業員と被告Y1社の正社員が同一の設備を担当することも相互に引継ぎを行う場合もあるなど、混在した状況において業務を行っていたこと(前記1(4)イ、ウ、カ(オ)、②原告ら被告Y4社の従業員は、本件朝礼への参加が義務付けられ、本件朝礼において業務上の指示を受けていたばかりか、基本的には被告Y1社が作成・配布する作業予定表や製造指示書に基づいて作業を行っており、設備の故障等のトラブルが生じたり、生産予定が変更になったり、担当設備が変更になるなどした際には、被告Y1社のサークル長等から指示を受けていたほか、一時期ではあるが、被告Y1社の主催するQCサークル活動に参加すこととされ、同活動においても作業上の指示がされることがあったなど、種々の場面において被告Y1社から業務上の指示を受けていたこと(前記1(4)カ(ウ)、(エ)、(キ)、(コ)、ク、③原告の勤務開始当初において機械の操作方法等を説明したのは、被告Y1社の正社員であるほか、その後も、被告Y1社のサークル長が原告ら被告Y4社の従業員も含めて作業員全員のスキル評価をするなど、被告Y1社が被告Y4社の従業員のスキルを相当程度把握していたこと(前記1(4)ア、キ)、④原告が休日出勤した際に作業内容の指示等を行っていたのは被告Y1社の正社員であったこと(前記1(サ)、⑤被告Y1社又はその親会社であるb社が必要な設備、機材及び作業員のクリーンスーツ等を準備し提供していたほか、被告Y1社が、原告ら被告Y4社の従業員を含む作業員に対し、引継ぎ連絡シート、生産実績表、作業時間表及び設備日報の作成を指示し、引継ぎ連絡シートにより次の班の作業員に対する引継ぎを行わせ、生産実績表、作業時間表及び設備日報を被告Y1社に提出させることにより生産状況等を把握するなどしており(前記1(4)オ、カ(オ)、(ク))、被告Y1社が被告Y4社の従業員による生産過程や生産結果について相当程度管理していたことが認められ、これらの事実を総合すると、被告Y1社は原告に対して作業上の具体的な指揮命令をしていたものと認めるのが相当である。

ウ これに対し、被告Y1社は、被告Y1社が原告ら被告Y4社の従業員に対して具体的な指揮命令をしていた事実はないとるる主張することから、以下に検討する。

(ア)第1に、被告Y1社は、被告Y4社の現場管理者等が、被告Y4社の従業員の雇用管理や勤怠管理をしていたほか、配置を含む就業態様を決定していた旨主張するところ、いずれも一定の限度で認められることは前記1で認定したとおりである。

しかし、上記認定を超えて、被告Y4社の現場管理者等が、被告Y4社の従業員に対し、作業現場における具体的な指揮命令をしていたかという観点からみると、本件久喜工場における勤務は、被告Y4社の従業員も含めて3班2交代制の24時間体制であったところ、被告Y4社の現場管理者や工程リーダーは、夜勤時間帯や土日祝日には本件久喜工場に出勤しておらず、少なくともこれらの時間帯等に具体的な作業上の指揮命令をすることは不可能であったことが認められる。そうすると、このような勤務体制が採られている以上、前記1で認定したとおり、被告Y4社の工程リーダーが、被告Y4社の従業員に対し、ワンポイントレッスンをしたり、スキル評価を実施するなどしていたことや、シフトリーダーが、班員のケア等の一定の役割を担っていたことなどを考慮しても、これらの者が被告Y4社の従業員に対し作業現場における具体的な指揮命令をしていたとまでは認め難い。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(イ)第2に、被告Y1社は、被告Y4社の従業員は、作業予定表及び製造指示書に基づいて作業をしていたから、被告Y4社の現場管理者等が指揮命令する場面は限られていたし、被告Y1社のサークル長が相談に応じるケースも限られていたこと、製造指示書は、委託業務の具体的な内容を特定する文書にすぎないから、これに基づいて処理していることをもって被告Y1社による指揮命令と捉えることは誤りであることをそれぞれ主張する。

しかし、前記1で認定したとおり、作業予定表及び製造指示書は、被告Y1社の工程管理部が作成して作業員に配布するものであるから、そもそも被告Y4社の従業員が作業予定表及び製造指示書に基づいて作業をするということ自体が、被告Y1社による原告ら被告Y4社の従業員に対する指揮命令があったことを裏付ける事実と言うほかはない。被告Y1社は、製造指示書は、委託業務の具体的な内容を特定する文書にすぎない旨主張するが、前記1で認定したとおり、製造指示書は、これに基づいて作業することが要求されているにとどまるものではなく、作業を行った場合には必要事項を記載した上で、次の工程の作業員に渡すことが求められ、最終的には、被告Y1社が製品ごとに完成した製造指示書を管理することが予定されていたものであるから、委託業務の特定文書にすぎないものとは到底認められない。

また、被告Y1社のサークル長が被告Y4社の従業員からの相談に応じるケースが限られていたのは、前記1で認定したとおり、原告ら被告Y4社の従業員の担当する業務が、基本的に単純定型作業であったため、生産予定表及び製造指示書による指示以外に特段の指揮命令を要しなかったからであるにすぎず、設備の故障等のトラブルが発生するなど具体的な指揮命令を要する場面においては、被告Y4社の従業員はサークル長に相談するなどしていたのであるから、相談する場面が限られていたからといって、被告Y1社から被告Y4社の従業員に対する具体的な指揮命令がなかったということはできない。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(ウ)第3に、被告Y1社は、本件久喜工場で全体朝礼が行われていたのは平成17年3月から同年8月までの半年間であったこと、本件朝礼では情報共有が行われるだけで指揮命令の類が行われたことはなかったことをそれぞれ主張する。

しかし、前記1で認定したとおり、全体朝礼が行われたのは平成17年8月までであったものの、その後も工程別の朝礼が実施されており、本件朝礼は、被告Y4社の従業員も参加が義務付けられ、前の班の生産進捗状況や品質及び設備に関する留意点についての情報共有が行われ、特に工程別の朝礼においては、急ぎの生産予定の発表や不良品の対処方法等について伝達がされることもあったのであるから、本件朝礼において作業上の指揮命令がされていたものと認められる。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(エ)第4に、被告Y1社は、生産実績表、作業時間表及び引継ぎ連絡シートは、いずれもサークル長に提出するものではなく、また、品質異常報告書は被告Y4社の従業員が記入するものではなかったこと、設備日報も、年に数回トラブルが発生したときを除き、「特に問題なし」等と記入するものにすぎなかったことをそれぞれ主張する。

しかし、前記1で認定したとおり、そもそも原告ら被告Y4社の従業員が生産実績表、作業時間表、引継ぎ連絡シート及び設備日報を作成していたのは、被告Y1社の指示によるものであるし、このうち生産実績表、作業時間表及び設備日報は、当初はサークル長に提出し、その後、被告Y1社の管理するパソコンに入力することとされ、被告Y1社が管理していたものであるから、いずれも被告Y1社から原告ら被告Y4社の従業員に対する指揮命令があったことを裏付ける事情というべきである。また、品質異常報告書については、確かに、被告Y4社の従業員が記入するものではなかったものの、そのことをもって直ちに、被告Y1社から原告ら被告Y4社の従業員に対する指揮命令があったことを否定することはできない。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(オ)第5に、被告Y1社は、原告は、バンプ後工程において、被告Y4社の社員であるA9やA10から指導を受けていた旨主張する。

しかし、原告が被告Y4社の従業員ではなく被告Y1社の正社員から指導を受けていたことは前記1で認定したとおりである。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(カ)第6に、被告Y1社は、被告Y4社の従業員に対するスキル評価は、本件久喜工場においてISO9001を取得するために行ったものであること、バンプ印刷工程に従事する被告Y1社の正社員に対する評価方法とバンプ後工程に従事する被告Y4社の従業員に対する評価方法では異なるものであったこと、被告Y1社は、被告Y4社の了解を得た上で、被告Y4社の従業員のスキル評価を行っていたことをそれぞれ主張する。

そこで検討すると、証拠(書証〈省略〉)によれば、本件久喜工場は平成19年5月にISO9001を取得しているところ、ISO9001の要求事項においては、製品の製造に関わる全作業員について、必要とするスキルを明確化し、スキル保有状況を評価し、スキルが不足している場合は教育訓練を行う必要があることが認められ、この事実に照らせば、被告Y1社による被告Y4社の従業員に対する評価が、このISO9001の取得の一環として行われたことは否定できない。

しかし、前記1で認定したとおり、被告Y1社が、本件久喜工場における班編制を変更する際、被告Y4社の従業員の配置を含めて変更後の班編制の第一案を作成していたことに照らすと、被告Y1社は、被告Y4社の従業員のスキル評価を業務に活用していたことがうかがわれるのであり、単にISO9001を取得することのみを目的として被告Y4社の従業員のスキルを評価していたものとは認められない。なお、被告Y1社は、班編制の第一案を作成するに当たって被告Y4社の従業員の配置は機械的に定めていた旨主張し、A4はこれに沿う証言ないし陳述(書証〈省略〉)をするが、真に機械的に定めていたのであれば、その配置自体被告Y4社に委ねれば足り、被告Y1社が被告Y4社の従業員の配置を含めて第一案を作成する必然性はなかったこととなるのであって、上記証言等はたやすく信用することができず、他に被告Y1社の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

また、前記1で認定したとおり、被告Y1社の社員が主として担当するバンプ印刷工程は標準化されていないコア業務であり、被告Y4社の従業員が主として担当するバンプ後工程が比較的単純定型作業であったことや、被告Y1社がその正社員のスキル評価を人事評価に用いていたことに照らすと、被告Y1社の正社員に対する評価の仕方と被告Y4社の従業員に対する評価の仕方とで多少の差異が生じ得ることは否定できないものの、評価基準が具体的に異なることを認めるに足りる証拠はなく、評価方法がどの程度具体的に異なっていたかは判然としないと言わざるを得ない。

さらに、被告Y1社が、被告Y4社の了解を得た上で、被告Y4社の従業員のスキル評価を行っていたとしても、そのことから直ちに、被告Y1社から原告ら被告Y4社の従業員に対する指揮命令があったことを否定することはできない。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

(キ)第7に、被告Y1社は、被告Y1社の正社員と被告Y4社の従業員が混在していたことに関し、本件久喜工場のDTCT部門では、貫通、レイアップ及びボンドフィルムの各工程で比較的短い期間に限って混在が生じていたにすぎないし、その間も、各人の担当する機械は異なり、相互の機械の間に作業内容の連続性もなく、混在していることにより必然的に直接指示をする関係もなかった旨主張する。

しかし、前記前提となる事実記載の作業内容によれば、少なくともバンプ工程は、基本的には基板1ロット50枚単位で作業が進行し、前の工程における作業が終了しない限り次の工程における作業を実施することができず、全工程を終えて始めて一つの成果物が完成する仕組みになっており、その作業は一連のものであると認められるところ、前記1で認定した事実によれば、各班のうちバンプ工程を担当する作業員には、被告Y1社の正社員や被告Y4社の従業員が混在しており、各作業員の取り扱う機械自体は異なるものの、上記のとおりその作業は一連のものであって、作業スペースも物理的に区分されていなかったのであるから、混在していることを原因として、必然的に直接指示する関係があったものと認めるのが相当である。

したがって、被告Y1社の上記主張は採用することができない。

エ 以上によれば、注文者である被告Y1社、元請負人であるa社、下請負人である被告Y4社、下請負人の雇用する労働者である原告の4者の関係において、被告Y1社がその事業所内において原告に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせていたということができることから、本件各業務委託契約を請負契約と評価することはできず、a社は、自己が雇用していない被告Y4社の雇用する原告をさらに業として被告Y1社に派遣していたこととなるというべきであり、そうすると、上記4者間の関係は、職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして、職安法44条に違反することとなり、原告が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものというべきである。

オ しかし、職安法44条及び労基法6条の趣旨並びにその取締法規としての性質、さらには労働者を保護する必要性等に鑑みれば、職安法44条及び労基法6条に違反する行為がされた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって本件雇用契約が無効になることはないと解するのが相当である。

この点、原告は、本件は、被告Y1社、a社及び被告Y4社が組織的に労働者供給構造を作り出した上で、原告を被告Y1社の労働者と同じように使用し、原告の賃金を中間搾取し続け、労働力が不要となった途端、原告を切り捨てたという事案であるから、上記特段の事情が認められる旨主張する。

しかし、本件雇用契約及び本件各業務委託契約が、二重偽装請負であり、職安法44条及び労基法6条に違反するとしても、本件においては、それを超えて、上記特段の事情の存在を肯定し得るだけの主張立証はないと言わざるを得ない。

したがって、平成17年2月4日から平成21年1月31日までの間、本件雇用契約は有効に存在していたものと解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。

(3)  原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約の成否

ア 本件雇用契約が無効であるとは認められないとしても、前記説示のとおり、本件雇用契約が無効であることが原告と被告Y1社との間の黙示の雇用契約を認めるための必要条件であるとまでは解されないため、進んで、原告と被告Y1社との間の黙示の合意により雇用契約が成立したと認められる余地があるかにつき検討すると、黙示の合意による雇用契約の成否については、当該労務供給形態の具体的態様により両者間に事実上の使用従属関係、労務提供関係及び賃金支払関係があるか否か、この関係から両者間に雇用契約を成立させる黙示の意思の合致があるか否かによって判断するのが相当である。

イ これを本件についてみると、被告Y1社が原告ら被告Y4社の従業員に対し、作業上の指揮命令をしていたことは、上記(2)において説示したとおりである。

しかし、前記前提となる事実及び前記1で認定した事実によれば、被告Y4社は、本件久喜工場のDTCT部門における作業員の募集から原告の採用に至るまでの業務を全て単独で行っており、いずれの過程においても被告Y1社は関与していないこと(前記1(3)ア、イ)、被告Y4社の現場管理者や工程リーダーが、タイムカードや従業員からの電話連絡、有給休暇申請等により、被告Y4社の従業員の出勤、欠勤、早退及び遅刻等を管理しており、被告Y4社の従業員の勤怠管理は専ら被告Y4社が行っていたこと(前記1(4)カ(ア)、コ、シ)、被告Y4社の現場責任者が、本件久喜工場のDTCT部門から同CE部門や同印刷製本部門への配置転換、本件久喜工場から本件上福岡工場への配置転換等を命じる権限を有していたほか、本件久喜工場のDTCT部門における班編制に際しても一定の権限を有していたこと(前記1(4)エ、セ)が認められる。

また、前記1で認定した事実によれば、被告Y4社が、原告ら被告Y4社の従業員の賃金について、それぞれ雇用契約で定めるとともに、リーダー手当や慰労金等の独自の制度に基づき、賃金を支給していたことが認められる(前記1(3))一方、被告Y1社が原告ら被告Y4社の従業員の賃金を決定していたなどと認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、原告と被告Y4社との間で本件雇用契約が有効に成立していたばかりか、原告と被告Y1社との間に事実上の使用従属関係及び賃金支払関係があったと認めることも困難であることに照らせば、原告と被告Y1社との間で黙示的に雇用契約が成立していたものと認めることはできないと言うほかはない。

ウ これに対し、原告は、原告ら被告Y4社の従業員の勤怠管理は被告Y1社が行っていたこと、原告と被告Y1社との間には実質的な賃金支払関係があったこと、被告Y1社が原告に対して危険な作業を指示しているから雇用主としての責任を負うべきであることなどをそれぞれ主張するので、以下に検討する。

(ア)勤怠管理について

a 原告は、被告Y1社が始業及び終業の指示をしていた旨主張する。

しかし、前記前提となる事実及び前記1で認定した事実によれば、原告の勤務時間(始業及び終業の時間)は、本件雇用契約において定められており、所属班と被告Y1社の作成するシフト表によって日勤又は夜勤の別があるにすぎず、この定められた勤務時間が遵守されているかについては、被告Y4社の現場管理者がタイムカードにより管理していたものであるし、本件朝礼への参加や引継ぎ連絡シートの作成が義務付けられていたという事実は、被告Y1社から勤務時間前の準備作業ないし勤務時間中の業務内容に関する指示があったことを裏付けるものにすぎず、被告Y1社が始業及び終業の指示をしていたことと必ずしも結びつくものではない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

b また、原告は、被告Y1社のサークル長が休憩時間の指示をしていた旨主張する。

そこで検討すると、前記1で認定した事実のとおり、バンプ後工程の貫通工程においても、銅箔貫通を行っている場合には装置を停止することができず、従業員間で交互に休憩を取得していたところ、このように交互に休憩を取得する際には、休憩に入る前にサークル長を含む他の従業員に声かけをしたり、交代要員が不足しているような場合には、サークル長が交代要員の調整を行ったりすることがあったことはうかがわれるものの、その限度にとどまり、これを超えて、サークル長が被告Y4社の従業員の休憩取得について逐一指示したり、休憩時間について指定をするなどしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、サークル長が被告Y4社の従業員の休憩時間について指示をしていたとまで認めることはできない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

c さらに、原告は、被告Y1社が有給休暇の取得の指示をしていた旨主張する。

原告ら被告Y4社の従業員が、有給休暇を取得するに際し、被告Y4社に対してのみならず、被告Y1社に対しても有給休暇の取得申請書を提出しその決裁を得ていたことは前記1で認定したとおりであり、この限度において、被告Y1社も原告ら被告Y4社の従業員に対し、有給休暇の取得の指示をしていたものと認められる。

この点、原告は、原告が有給休暇を取得する際には、まずは被告Y1社のサークル長の了承を得てから、被告Y4社に対して有給休暇の申請をしており、被告Y4社には有給休暇の取得に関する決定権はなかった旨主張し、これに沿う供述をするが、反対趣旨の証拠(人証〈省略〉)に照らすとたやすく信用することができず、他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

結局、被告Y1社は、上記の限度において、被告Y4社の従業員に対し、有給休暇の取得に関する指示をしていたこととなるが、原告ら被告Y4社の従業員が、これとは別に被告Y4社に対しても有給休暇申請書を提出し、その決裁を受けていたことに照らすと、被告Y1社による上記指示があったことをもって、被告Y4社ではなく被告Y1社が被告Y4社の従業員の勤怠管理を行っていたとまでは直ちには認められない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

d 加えて、原告は、休日出勤の決定権が被告Y4社ではなく被告Y1社にあった旨主張し、これに沿う供述をするが、反対趣旨の証拠(人証〈省略〉)に照らすとたやすく信用することができず、他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

(イ) 実質的な賃金支払関係

原告は、被告Y1社は、原告の労働に対する対価として1時間当たり2100円をa社に支払っており、ここから中間搾取額を引いた額が原告の賃金であったから、原告と被告Y1社との間には、実質的な賃金支払関係があった旨主張する。

そこで検討すると、前記前提となる事実及び前記1で認定した事実によれば、本件各業務委託契約における委託単価は、本件a社・Y4社業務委託契約においてごく初期の頃に1パネル当たり85円と定められていたほかは、いずれも作業時間(1時間)当たりの金額で定められていたところ、本件雇用契約における賃金も作業時間(1時間)当たりの単価で定められていたから、被告Y1社がa社に支払う委託代金から一定額を除いた金額が原告の賃金となっていたという関係もうかがわれないではない。

しかし、前記1で認定したとおり、被告Y4社は、周辺地域における労働条件等を考慮して従業員に対する賃金額を決定していた上、従業員の役割に応じて追加手当を支給したり、出勤率や勤続年数を基に慰労金を追加支給するなどしており、独自の方針に基づいて、賃金額を決定し従業員に支給していたことが認められる。

また、被告Y4社は、平成18年9月26日に原告の賃金を上げ、同年10月26日に原告以外の被告Y4社の従業員の賃金を上げたところ、本件Y1社・a社業務委託契約における委託単価が増額されたのは、平成16年10月頃、平成17年4月1日及び平成19年6月1日であり、本件a社・Y4社業務委託契約における委託単価が増額されたのは平成19年10月頃のことであって、本件各業務委託契約の委託単価の増額の時期や順序に照らし、当該委託単価と被告Y4社の従業員の賃金との間には、前者が増額すると後者も上がるという形での関連性を見い出すこともできない。

以上によれば、原告と被告Y1社との間に、実質的な賃金支払関係があったと認めるのは困難であり、原告の上記主張は採用することができない。

(ウ) 原告は、被告Y1社が原告に対して危険な作業を指示しているから雇用主としての責任を負うべきである旨主張する。

そこで検討すると、前記前提となる事実に、証拠〈省略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告Y1社は、ボンド液の使用量削減を図るため、ボンド液を一回に限り再利用することを検討したことがあったこと、そのため、被告Y1社は、ボンドフィルム作業員に対し、それまで行っていた電動ポンプの吸込み口をケミカルドラム缶に入れる作業に加えて、ボンド液の再利用のため、電動ポンプの吸込み口をボンド槽に入れ、使用後のポンド液をボンド槽からケミカルドラム缶に自動移送する作業を指示したこと、ボンド液は人体に有害な薬品が含まれており、作業員は、ゴーグル眼鏡や長手袋等の保護具を着用してこれらの作業を行っていたこと、平成17年6月に本件久喜工場に増設された貫通3号機は、ホットロールとPPストッカーの間に設置されている扉が開くと、扉が開いた状態であることを知らせるブザーが鳴るとともに、装置が停止する仕組みになっていたが、被告Y1社は、このブザー音によりその他の装置のアラーム音が聞こえなくなる弊害があることを考慮して、この装置を撤去したことが認められる。

上記認定事実によれば、これらの作業指示ないし装置の撤去は、作業員に対し、一定の危険を及ぼすものであることは否定できないものの、ボンドフィルムの作業を行うに際しては一定の保護具の着用が予定されていたし、ブザー音等の装置の撤去に関しては他のアラーム音が聞こえなくなる弊害に配慮したものであることに照らせば、これらの作業指示等の危険性の高さをもって、黙示の雇用契約が成立したとまで認めることは困難と言わざるを得ない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

3  争点(4)(原告の損害の有無及び内容)について

(1)争点(2) (被告らによる共同不法行為の成否)及び争点(3)(被告Y2、被告Y3及び被告Y5による任務け怠等の有無)に先立ち、争点(4)(原告の損害の有無及び内容)について判断する。

原告は、被告らの職安法44条及び労基法6条に違反する共同不法行為や被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠により、本来2100円の時給を受け取るべきところ、950円から1060円の時給しか得られなかったため、少なくとも時給の差額として1000円の損害を被った旨主張する。

そこで検討すると、前記1で認定した事実によれば、被告Y1社が本件Y1社・a社業務委託契約に基づきa社に対して支払っていた委託単価は、平成19年6月1日以降は、基板製造業務につき、作業時間(1時間)当たり2100円であったところ、a社が本件a社・Y4社業務委託契約に基づき被告Y4社に対して支払っていた委託単価は、平成19年10月頃以降は、基板製造業務につき、作業時間(1時間)当たり1500円であり、被告Y4社が本件雇用契約に基づき原告に対して支払っていた賃金は、平成18年9月26日以降は、時給1060円であったため、a社や被告Y4社は、原告の就業に介入することにより一定額の利益を得ていたものと認められる。

しかし、原告が適正な労働対価として本来的に受け取るべき賃金額について検討すると、被告Y1社がa社に対して支払っていた委託単価2100円は、a社における人員募集や雇用管理等の経費も含めての金額であったことは容易に推認されるところであり、また、a社が被告Y4社に対して支払っていた委託単価1500円についても同様の事実が認められることから、これらの委託単価をもって直ちに原告の適正な労働対価であったと認めることは困難と言わざるを得ない。

この点、原告は、被告Y1社の社員と原告の業務内容は同一であり、被告Y1社の正社員の年収は約600万円であって、時給換算で約2100円であるから、原告の適正な労働対価も時給2100円である旨主張するが、前記1で認定したとおり、被告Y1社の社員と原告ら被告Y4社の従業員が混在して作業していた事実は認められるものの、被告Y1社の社員は、主として、「コア業務」であるバンプ前工程を担当し、原告ら被告Y4社の従業員は、主として、比較的単純定型作業であるバンプ後工程を担当していたものであって、少なくともこの点において業務内容が同一であるとはいえない以上、賃金が異なることは当然であり、原告の上記主張は採用することができない。

また、原告は、本件久喜工場のDTCT部門で勤務していたi株式会社からの派遣労働者であるA27(以下「A27」という。)の時給が1250円であったことから、被告らによる原告の就業への介入がなければ、原告には、少なくとも時給1250円程度が支払われていた蓋然性が高い旨主張するが、A27の業務内容が原告と同一のものであったかは判然としない(A27は、バンプ前工程を担当していたことがあった。(書証〈省略〉)上、i株式会社がいかなる事情を考慮してA27の時給を1250円と設定したかも明らかではないから、A27の時給をもって、原告の適正な賃金額を推認することは困難であり、原告の上記主張は採用することができない。

さらに、原告は、本件上福岡工場での電子部品製造補助業務に従事するa社のアルバイト社員の時給が1000円から1500円であったことから、被告らによる原告の就業への介入がなければ、原告には時給1500円程度が支払われていた蓋然性が高いとも主張するが、当該アルバイト社員の具体的な時給や勤務内容が明らかではないほか、勤務場所も原告とは異なることなどに照らすと、上記アルバイト社員の時給から原告の適正な賃金額を推認することは困難であり、原告の上記主張も採用することができない。

そして、そもそも、本件において、二重偽装請負がなかったとした場合、被告Y1社が、原告を時給1060円を超える賃金額で直接雇用した蓋然性が高かったなどと認めるに足りる証拠はなく、そうであれば、原告には損害が発生したものと認めることはできない。のみならず、この点をひとまず措くとしても、上記の諸点に、賃金額を含め本件雇用契約の締結の過程で強制的要素があったことを認めるに足りる証拠はないこと、適正な賃金額は、賃料相場を含め様々な条件の下で定まるものであるところ、この点について十分な立証がされていない一方、前記1で認定したとおり、被告Y4社が周辺地域における労働条件等を考慮して賃金額を決定していたことなどを併せ考慮すると、結局のところ、原告の適正な賃金額が、原告が実際に受け取っていた時給1060円を上回るものであったとも直ちには認められない。

したがって、仮に、被告らの職安法44条及び労基法6条に違反する共同不法行為や被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠が認められるとしても、これらの行為により、原告が上記時給の差額相当額の損害を被ったとは認められない。

(2)  また、原告は、被告らの職安法44条及び労基法6条に違反する共同不法行為や被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠により、原告の賃金が低額に抑えられ、かつ、不安定雇用を強いられ、挙げ句の果てには解雇されることにより、経済的・精神的苦痛を被った旨主張する。

しかし、上記各行為により、原告の賃金が本来受けるべき金額より低額に抑えられたと直ちには認められないことは、上記(1)において説示したとおりである。

また、前記前提となる事実及び前記1で認定した事実によれば、原告は、被告Y4社との間で本件雇用契約を締結していたところ、被告Y4社は被告Y1社やa社とは別個の会社であり、被告Y1社やa社に対する労働力を提供するために設立された会社であるとは認められないことから、本件雇用契約がそれ自体不安定なものであったということはできない。また、被告Y4社が、本件各業務委託契約の解消を理由として原告を整理解雇したことは、その当否はともかく、被告Y4社独自の人事に関する判断であったことは明らかであるから、この結果のみをもって、本件雇用契約がそもそも不安定なものであったと認めることも困難と言わざるを得ないし、被告らの職安法44条及び労基法6条に違反する共同不法行為や被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠により解雇されるに至ったとも認められない。その他、本件においては、慰謝料の発生を肯定し得るほどの事実関係を認めるに足りる証拠はない。

したがって、仮に、被告らの職安法44条及び労基法6条に違反する共同不法行為や被告Y2、被告Y3及び被告Y5の任務け怠が認められるとしても、これらの行為により、原告が上記損害を被ったとはいうことはできない。

以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。

第4  結論

以上の次第であり、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 志田原信三 髙橋幸大 鈴木拓児)

別紙

〈省略〉

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