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さいたま地方裁判所 平成20年(ワ)15号 判決

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,1807万3000円及びうち1643万円に対する平成19年2月26日から,うち164万3000円に対する平成20年1月22日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,国家公務員である執行官が別紙物件目録(省略)1ないし6記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の現況調査の際に本件不動産内で人が自殺した物件(以下「事故物件」という。)であることを発見しなかった過失があったため,又は執行裁判所が調査命令において調査事項を適切に定めなかった過失があったため,原告は事故物件ではないものとして本来の価値よりも高額で本件不動産を競落した損害が生じたとして,国家賠償法1条に基づき,損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

原告は,昭和45年8月17日に設立された株式会社であり,不動産の売買及び仲介業等を業としている。(甲1)

(2)  本件不動産の競売について

ア 本件不動産は,亡A(以下「A」という。)の所有であった。

イ 足立成和信用金庫(以下「足立成和信金」という。)は,昭和63年8月25日,本件不動産に,B,A及びCを債務者とし,極度額1億2000万円とする根抵当権を設定した。その後,極度額は2億2000万円に変更された。

ウ 足立成和信金は,上記根抵当権に基づき,本件不動産について競売を申し立て(以下「本件競売事件」という。),平成18年7月10日さいたま地方裁判所越谷支部により競売開始決定がなされた(平成18年(ケ)第271号)。

エ 原告は,本件競売事件について,2808万円で入札・落札し,平成19年2月26日代金を納付し,本件不動産の所有権を取得した。

(3)  本件競売事件の物件明細書,現況調査報告書,評価書のいずれにも,別紙物件目録6記載の建物(以下「本件建物」という。)内においてAが縊首により自殺を遂げたことや,事故死した等の記載がない。

2  争点

(1)  国家公務員である執行官に過失があるか。(争点(1))

(原告)

ア 本件建物において,前所有者であるAは縊首により自殺していた。通常人にとって,建物の前所有者が建物内で自殺したという事実は,購入やその金額の相当性を判断する上で重要な事項である。競売実務でも,特記事項に「事故死」等の記載がある場合には評価書によれば通常の評価から減価されている。したがって,買受希望者としては,「事故死」等の事実の記載があれば減価されていること,「事故死」等の事実について調査が行われていることを信頼するのが通常である。

イ 執行官は,執行裁判所に売却条件の確定や物件明細書の作成等のための判断資料を提供するとともに,一般の閲覧に供することにより不動産の買受けを希望する者に判断資料を提供するため,現況調査を行う。したがって,執行官は,執行裁判所に対する関係はもとより,買受希望者に対する関係においても,目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負う。そして,事故物件の事実が重要事項であるということ,事故物件であるかどうかの調査は容易であることから,執行官は事故物件であることを調査する義務を負っている。

ウ 本件では,執行官は,現況調査に当たり,近隣住民から事情聴取をし,Aの家族や死亡診断書・死亡検案書を作成した医師と面会し事情聴取をし,警察署に照会するなどの方法で事故物件であることの調査をすべきであったが,これを怠った過失がある。

(被告)

ア 執行官が現況調査を行うに当たり,通常行うべき調査方法を採らず,あるいは,調査の結果十分な評価,検討を怠るなど,その調査及び判断の過程が合理性を欠き,その結果,現況調査報告書の記載と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合に初めて,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背したとして,国家賠償法1条1項の違法になると解すべきである。

イ ところで,現況調査の実際に当たっては,①民事執行の迅速な処理の要請からくる時間的制約,②現況調査費用は,執行費用の一部として配当に先立って売却代金から控除されるため,過大な費用の支出を控えなければならないという経済的制約,③的確な図面が整備されていなかったり,所有者や関係人の協力が得られないなど,執行官に与えられた権限だけでは対応しきれない調査活動上の諸制約があり,また,調査方法は一律に論じることはできず個々の事案に応じて調査方法を適宜選択することになる。そうすると,執行官は,現況調査の際,原則として,不動産の形状,占有関係その他の現況等,民事執行規則29条で掲げられた事実について調査すれば足り,自殺を示唆するような事実が判明していない場合に,死因の調査をする義務はないと解すべきである。

ウ 本件で,D執行官(以下「D執行官」という。)は,平成18年7月20日,執行裁判所から現況調査命令書を受け取り,不動産登記事項証明書,公図等を精査した上,平成18年7月25日午後10時20分ころ,ライフラインの調査として電気,ガス,水道の各メーターを調査し,表札を確認し,外観の写真撮影を行い,近隣住民と面談し,平成18年7月27日午後0時50分ころ,評価人,解錠技術者,立会人を同行し,本件不動産の玄関ドアの鍵を解錠して立ち入り調査を行い,本件不動産の内部状況について現認・写真撮影し,近隣住人2名と面談を行った。このような現況調査過程において,自殺を示唆する事実は判明していない。したがって,D執行官は合理的な調査を行っているから,それ以上の死因の調査を行わなかったとしても,過失はない。

(2)  執行裁判所に過失があるか。(争点(2))

(原告)

ア 民事執行法57条1項は,執行裁判所に,「執行官に対し,不動産の形状,占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。」と現況調査を命ずべきことを義務づけている。執行裁判所は,執行官に対し,調査事項を適切に定めた上で調査を命令すべきである。そして,事故物件である事実が重要事項であること,事故物件かどうかの調査が容易であることから,執行裁判所は事故物件であるかどうか調査を命ずべき義務を負っている。

イ さらに本件では,執行裁判所は,相続財産管理人が選任されているから,債務者,担保物件提供者が死亡していることを認識している。そうであれば,事故物件である可能性があるのであるから,執行裁判所は,事故物件であるかどうかについて調査を命ずるべき義務があった。それにもかかわらず,現況調査命令において,執行裁判所は追加的調査事項に定めなかったのであるから,執行裁判所には調査命令義務違反がある。

(被告)

ア 執行裁判所は必要的記載事項の他,追加的調査事項を定める権限があるが,これは調査の目的物が土地又は建物ではなく,立木法上の立木,工場財団などの場合に,それぞれの性質に応じて調査事項を定めるべきときに指示されるものである。犯罪や事故死等の事実は,「不動産の形状,占有関係その他の現況」(民事執行法57条1項,188条)の「その他の現況」に含まれるのであり,追加的調査事項には当たらない。したがって,通常どおりの現況調査命令を発した執行裁判所に過失はない。

イ 仮に「その他の現況」をより明確にするために追加的調査を命ずる義務があったとしても,裁判所の行う職務行為が国家賠償法上違法となるのは,裁判官がした職務行為について上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特段の事情がある場合に限られるというべきである。本件では,執行裁判所の裁判官にかかる事実はない。

(3)  損害論

(原告)

ア 売主は買受け希望者に対しその説明義務を負い,それを怠れば宅建業者であれば免許取消の責任を負うものである。建物を解体して更地を売るとしても,同じく説明義務を負う。そうすると,現況のままでは売却が困難であるから,本件建物を解体せざるを得ないし,土地は減価して売却せざるを得ない。本件建物の取得費用850万円,解体費用206万円,土地の減価額587万円(以上の小計1643万円)及び弁護士費用164万3000円の合計1807万3000円が損害となる。

イ よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,1807万3000円及びうち1643万円に対する平成19年2月26日(代金納付日)から,うち164万3000円に対する平成20年1月22日(訴状送達の日の翌日)からいずれも支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告)

争う。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(国家公務員である執行官に過失があるか。)について

(1)  原告は,執行裁判所から現況調査を命ぜられた執行官が,Aの死因について,市役所,法務局,警察署などに照会し,死亡届や死亡診断書・死体検案書の提出を求めたり,現地調査の際近隣住民やAの家族から事情聴取したりして,自殺した事実を調査しなかったことに過失があると主張する。現況調査における執行官の過失について,現況調査の目的が,不動産執行又は不動産競売の目的不動産の形状,占有関係その他の現況を調査し,その結果を記載した現況調査報告書を執行裁判所に提出することにより,執行裁判所に売却条件の確定や物件明細書の作成等のための判断資料を提供するとともに,現況調査報告書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供することにより,不動産の買受けを希望する者に判断資料を提供することにあることからすると,執行官は目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負うものと解される。もっとも,現況調査は,民事執行手続の一環として迅速・経済的に行わなければならず,また,所有者等の関係人の協力を得ることが困難な場合があるなど調査を実施する上での制約も少なくないから,現況調査報告書の記載内容が目的不動産の実際の状況と異なっていても,直ちに執行官が注意義務に違反したと評価するのは相当ではない。そこで,執行官が現況調査を行うに当たり,通常行うべき調査方法を採らず,あるいは,調査結果の十分な評価,検討を怠るなど,その調査及び判断の過程が合理性を欠き,その結果,現況調査報告書と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合に,執行官に注意義務違反を認めるのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成9年7月15日判決)。

本件では,取引通念上価格に大きく影響する要素である,目的不動産の内部で自殺者がいたという事実が存するものの,その調査が行われていない。そこで,以下,目的不動産が事故物件であるか否かの調査につき,執行官に注意義務違反があるか,検討する。

(2)  前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア D執行官は,平成13年4月1日に執行官に任官し,さいたま地方裁判所越谷支部に配属され,平成20年10月1日現在まで勤務している。一般的に,D執行官は,目的物件内での自殺の噂を聞いた場合には,その真偽の調査を行うようにしており(これまで2件面談した居住者からその親族が自殺した話を聞いたことがある。),全ての案件について積極的に自殺の有無を確認することはしていない。(乙8)

イ Aは,平成17年7月14日午前5時ころ,本件建物において縊死の方法で自殺した。Aの自殺が発見された際には,本件建物に消防車1台,救急車1台が到着し,その後パトカー1台が到着し,その様子を多くの近隣住民が見ていた。死亡届(甲9)には,死因が自殺であり,一階の4段目の階段で2階の通路の欄干にナイロンの荷造り紐をかけて首を吊った旨が記載されている。Aが自殺したことは,その直後から近隣住民の多くが知っていた。(甲9,11,13ないし15)

ウ 平成18年7月10日,さいたま地方裁判所越谷支部の裁判官は,本件不動産の担保不動産競売開始決定をし,同月20日,現況調査命令及び評価命令を発した。現況調査命令には,特に本件建物での自殺の有無の調査等を指示していない。(乙1ないし3)

エ 平成18年7月25日午前10時20分から午前10時35分ころ,D執行官は,主に住宅地図や公図に基づいて物件を特定し,外観の写真を撮ることを目的として,本件不動産の1回目の現況調査を行った。D執行官は,本件不動産の現況調査に赴いた際,表札が「A」のままで,電気・ガス・水道の各メーターが停止し,郵便受けに郵便物がないなど,人が居住している気配が感じられなかったため,本件建物は空き家と判断した。そして,D執行官は,空き家と思われる場合は近隣住民から空き家であるかどうかの聞き込みを行うようにしていたため,本件不動産の西側に隣接する「E」宅へ行ったが不在であった。そのため,北側の「F」へ行き,工場内で作業中の人に聞いたところ,本件建物は1年以上空き家である旨の回答を受けた。また,本件不動産の敷地内に未登記の事務所及び便所があったため,その建築時期,建築主の調査もしようとしたが,相手が忙しそうであったので,それ以上の話は聞くことができず,外観の写真撮影をして帰った。(甲5,11,乙8)

オ 平成18年7月27日午前8時30分から午前8時40分ころ,D執行官は,さいたま地方法務局越谷支局において,別紙物件目録1ないし5記載の土地(以下「本件土地」という。)上に存在した事務所及び便所について,登記の有無を法務局で調査したところ,未登記であることが分かった。(甲5,乙8)

カ 平成18年7月27日午後0時50分ないし午後1時30分ころ,D執行官は本件不動産の2回目の現況調査を行った。D執行官は,解錠技術者を連れ,解錠して本件建物に立ち入ろうとしたが,まずは中に人がいる可能性や,近隣の人に泥棒と間違われる可能性を考慮し,大きな声で名前を呼んだところ,女性2名が近づいてきた。そこで,D執行官は,本件建物が空き家かどうかの確認を行い,未登記の事務所及び便所を建てた時期及び建築主を訪ねたところ,Aが建築したという回答を得た。さらにD執行官が「他に何かありませんか。」と質問すると,女性らは玄関脇の水瓶の中のワニガメについて危ないと指摘した。D執行官の女性2名からの事情聴取は,5分ないし10分程度であった。その後,D執行官は,本件建物を解錠し,建物内において郵便物等を確認したが,AあるいはB(代表者A)宛の書類が多数置かれているだけであったため,第三者の占有はないと判断した。現況調査を通じ,D執行官から積極的に本件建物で自殺があったか否かを調査していないが,自殺を窺わせる情報もなかった。(甲5,乙8)

キ 平成18年7月28日,D執行官は現況調査報告書(甲5。以下「本件現況調査報告書」という。)を作成し,執行裁判所に提出した。本件現況調査報告書には,本件土地について,その他の事項として土地上に物置があること,玄関横に体調(ママ)30センチのワニガメが残置されていることの記載がある。本件建物については,占有者及び占有状況として,相続財産管理人が空き家として使用していること,その他の事項として,室内には衣類,家具等の動産類が大量に残置されていることの記載があるが,事故物件であることの記載はない。関係人の陳述等の欄には,近隣住人の陳述内容として,本件建物は現在空き家で誰も住んでいないこと,庭の事務所と便所は亡Aが建築したものであることが記載されている。執行官の意見欄には,本件建物の占有状況に関して,相続財産管理人が空き家で占有しているものと思料するとの意見が記載されている。(甲5,乙8)

ク G評価人(以下「G評価人」という。)は,平成18年7月27日に現地調査し,同年9月5日ころ評価書(甲6。以下「本件評価書」という。)を執行裁判所に提出した。本件評価書には,本件土地について,物置があること,ワニガメが残置されていること,別紙物件目録5記載の土地は通路として利用されているが,草加市建築指導課によると建築基準法の道路ではないこと,本件建物について,利用状況は現況調査報告書のとおりであること,特記事項として衣類・家具等の動産類が大量に残置されていること,事務所及び便所の未登記建物が存することなどが記載されているが,事故物件であることの記載はない。本件不動産の評価に当たっても,事故物件であることは考慮されていない。(甲6)

ケ 平成18年10月18日付物件明細書(甲4。以下「本件物件明細書」という。)には,物件の占有状況等に関する特記事項として,別紙物件目録6記載の不動産は相続財産管理人が管理占有していること,その他買受けの参考となる事項として別紙物件目録5記載の不動産は通路として利用されていることが記載されているが,事故物件であることの記載はない。また,注意書きとして,本件物件明細書には関係者の間の権利関係を最終的に決める効力がないことが記載されている。(甲4)

コ Aが自殺したことを知っていたH(以下「H」という。)は,平成18年7月ころ,裁判所の者を名乗る人物と会ったが,その際には本件建物でAが自殺したことは伝えていない。(甲15)

(3)  以上認定した事実によれば,D執行官は,本件不動産を特定して2回現況調査を行い,具体的には,占有状況について外観,電気・ガス・水道の使用状況,郵便物,近隣住民からの聞き込みなどをし,未登記の建物について建築時期や建築主を調査し,その他本件不動産に何かあるか近隣住民に抽象的に質問し,ワニガメが残置されていることを確認し,本件建物の内部に立ち入って占有状況を確認するなどしているから,通常行うべき調査方法を採っているといえる。また,本件建物内にAが自殺したことを窺わせる事情がないことや,近隣住民がD執行官やその他裁判所の者に対しAが自殺したことを伝えていないこと,本件では本件建物は空き家であり詳しい事情を知る者がいなかったこと,個人情報保護の観点から,私的事項に立ち入った質問は躊躇され,質問を受ける側も進んで回答したがらないであろうことなどの事情を総合すると,D執行官が認識した事情から本件建物が事故物件であることの確認を行わなかったことに,十分な評価,検討の懈怠があったとはいえない。したがって,本件現況調査報告書と本件建物の実際の状況には,事故物件という点で相違は生じているが,D執行官の調査及び判断の過程が合理性を欠いているとはいえないから,D執行官に注意義務違反はないというべきである。

(4)  また,事故物件という事実の調査義務について見ると,本件の場合は所有者(共有持分権者)かつ抵当権設定者の代表者かつ元占有者が同一人で,その者が自殺し,以後空き家となって競売されたという事案であるが,対象不動産内で自殺する可能性のある人物は所有者,占有者本人やその家族,知人,等様々な範囲にわたる可能性があること,自殺した可能性のある時期も長期間に及びうること,事故物件か否かを近隣住民等に質問したところで,仮にその者が知っていたとしても答えない可能性が多分にあること,事故物件という事実以外にも取引価値に影響を与える事柄はあるのであり,それらの事柄を全て具体的に調査するのは時間的・経済的に現実的でないこと,競売物件の所在は判明しているのであるから,入札を考える者が自ら現地調査を行い得ることなどの事情を考慮すると,そもそも執行官が事故物件について積極的に調査すべき義務があるとはいえないというのが相当である。

さらに本件では相続財産管理人が選任されているという事情があるものの,相続財産管理人が選任されたからといって被相続人が自殺したとは限らないのであるから,これをもって調査義務の有無に影響があるとはいえない。

(5)  よって,本件事実関係の下では,執行官に過失があるとはいえないから,原告の当該主張には理由がない。

2  争点(2)(執行裁判所に過失があるか。)について

(1)  原告は,事故物件であることは容易に調査可能であったのであるから,執行裁判所が追加的調査事項(民事執行規則29条1項7号)として事故物件か否かという事実を定めるべき義務があり,それに違反した過失があると主張する。

(2)  裁判所の職務行為が違法性を有することになるのは,単に上訴等の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,その制度の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情がある場合に限られると解すべきである。本件では相続財産管理人が選任されているという事情があるものの,現況調査の目的のうち主たるものは不動産の形状や占有関係の調査であり,現況調査には時間的・経済的・その他関係人の協力が得られない等の調査活動上の諸制約があること,相続財産管理人が選任されるのは死因が自殺の場合に限らないことなどの事情を考慮すると,執行裁判所が被相続人の死因について調査すべきことを現況調査命令に特に定めなかったことが制度の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情がある場合に当たるとはいえない。

(3)  また,既述したような現況調査の目的・制約等からすれば,事故物件であることが売却不許可事由や売却許可取消事由に当たり得ることを考慮しても,本件において,そもそも執行裁判所に事故物件であることを調査するよう現況調査命令で定めるべき義務があったとはいえない。

(4)  よって,本件事実関係の下では,執行裁判所に過失があるとはいえないから,原告のかかる主張は失当である。

第4結論

以上のとおり,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 佐久間隆)

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