大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成20年(ワ)1108号 判決

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一七〇六万三二〇八円及びこれに対する平成一九年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する平成一九年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、歩行者である原告が路地から歩道に進入したところ、歩道を走行してきた被告運転の自転車に衝突して受傷したとして、原告が、被告に対し、民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償として損害金三六〇〇万円の内金三〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成一九年六月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  前提となる事実(証拠を摘示する以外は、当事者間に争いがない。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成一九年六月二日午後四時(甲二の交通事故証明書の記載及び原告の主張)ないし午後四時四〇分(被告主張)

イ 場所 埼玉県志木市館二丁目七番六号付近の歩道(道路標識等により自転車が通行することができるとされているが、道路標識等により通行すべき部分が指定されていない。以下「本件歩道」という。)

ウ 被告車両 自転車(以下「被告車」という。)

エ 同運転者 被告

オ 態様 被告が被告車を運転して幅員約二メートルの本件歩道を北方から南方に向かい走行していたところ、歩道と直角に交差する左方(東方)の路地(以下「本件路地」という。)から原告が歩道に進入し、原告が転倒して受傷した(なお、被告車が原告と衝突したかについては争いがある。)。

(2)  原告の傷害等

原告は、本件事故により入院期間四四日及び通院期間約五か月を要する左大腿骨頚部骨折の傷害を負い、この退院後に過敏性腸炎により入院期間五日を要した(以下、原告の受けた左大腿骨頚部骨折の傷害と、入院を要した原告の過敏性腸炎とを併せて「原告の傷害等」という。なお、本件事故と原告の傷害等との間の相当因果関係の存在については争いがある。)

(3)  原告の上記(2)の入通院の状況

ア 左大腿骨頚部骨折による入通院(新座志木中央総合病院)

(ア) 平成一九年六月二日から同年七月一五日まで入院(四四日)

(イ) 上記(ア)の退院後から同年一二月一〇日(症状固定日)まで通院(約五か月)

イ 過敏性腸炎による入院(朝霞台中央総合病院)

平成一九年七月一八日から同月二二日まで入院(五日)

(4)  原告の素因等

ア 原告、既往症として過敏性腸炎があり、本件事故の数年前から通院して治療を受けていた。

イ 原告(本件事故当時三五歳、鑑定時三八歳)に対する鑑定の結果(鑑定人・A医師)によると、原告の右大腿骨頚部には明らかな骨粗鬆症が存在し、受傷時の左大腿骨頚部(受傷側)にも骨粗鬆症が存在していた可能性が高く、原告が受傷した際の左大腿骨頚部は、七〇歳から七五歳に匹敵する骨密度であった可能性が高いとされている。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  本件事故の態様並びに被告の過失の有無及び過失相殺の当否

(原告の主張)

ア 本件事故の態様及び被告の過失の存在は、次のとおりである。

被告は、自転車を運転して本件歩道を高速度で進行するに当たり、本件路地が存在することを以前から知っていた上に、相当手前で本件路地を視認していたのであるから、本件路地から歩道内に進入する歩行者等に衝突しないように、本件路地付近で減速して本件歩道の中央から車道寄りの部分を徐行し、本件路地付近を注視して歩行者等の安全を確認し、被告車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止すべき注意義務があるのに、これを怠り、本件路地から本件歩道内に進入する歩行者等はないものと軽信し、本件路地付近で減速せず漫然同速度で本件歩道の中央から車道の反対寄りの部分を進行し、本件路地を注視せず、歩行者等の有無及びその安全確認不十分のまま本件路地付近を進行し、被告車の進行が本件歩道を横断中の原告の進行を妨げることとなったにもかかわらず一時停止しなかった過失により、折から本件路地から本件歩道に進入して安全確認のため一瞬立ち止まり本件歩道上南方(左側)を一瞥した原告に気づくのが遅れ、原告に被告車の前部を衝突させ、よって、原告に傷害等を負わせたものである。

イ 上記アのとおり、被告車は本件歩道の中央から車道の反対寄りの部分を走行していたところ、道路交通法六三条の四第二項は、道路標識等により自転車が歩道を通行することができる場合において、「普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。」と規定しており、東京地判平成二二年一〇月一九日(甲一一八)は、「歩行者が自宅敷地等路外から自転車通行が許されている歩道に進入するに際し、歩道上の安全等を確認すべき注意義務を課される場合があるとしても、当該歩道の中央から車道とは反対側の部分を自転車が通行することを許されていない以上、歩道の安全を確認するため、歩道上に頭部を出したにとどまる被控訴人の行為をもって、控訴人車の安全円滑な進行を妨げたということはできない。」と判示して歩行者側の過失を否定している。本件も同様に原告には過失がなく、過失相殺は否定されるべきである。

ウ なお、原告は、本件事故前に骨折したことや、骨粗鬆症の治療を受けたこともなく、本件事故当時、骨粗鬆症に罹患しているとの認識や骨折し易い体質であることの認識はないから、この認識を前提とする被告の過失相殺の主張は、その前提を欠き、失当である。

(被告の主張)

ア 本件事故の態様は、次のとおりである。

被告は、自転車を運転し、本件歩道をごく普通の速度で北方から南方に走行していたところ、前方から男性の運転する自転車が向かってきたので、減速して本件歩道の左側に寄って、これを避けてすれ違った時に、原告が左側の本件路地から顔を南方向に向けながら急に被告車の前に飛び出してきたため、「危ない。」と叫んで、急制動をかけ、自転車を右側に寄せて停止した。この時、被告車が原告に衝突した感触は全くなかった。停止してから左側を見ると、原告が身体の左側を下にして倒れていた。

イ 上記アによれば、本件事故は、被告車にとって避けがたいものであり、被告に過失はなく、原告の一方的な過失により発生したものというべきである。また、被告車は、原告に衝突(接触)していないものである。

ウ 仮に、被告の過失が肯定されるとしても、原告は、左右の安全を確認することなく、急に本件路地から被告車の前方に飛び出してきたものであり、それだけでも大幅な過失相殺がされるべきであるが、加えて、原告は、骨折し易い骨粗鬆症であること、また、年齢に比して極めて低体重であることから極めて骨折し易い体質であることも当然分かっていたはずであることからすれば、日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められているというべきであるから、より大幅な過失相殺がされるべきである。

エ また、原告主張の道路交通法六三条の四の規定を知っているものはほとんどいないのが実情であり(被告も知らなかった。)、また、幅員の狭い歩道では、歩行者や他の自転車を回避しながら通行しようとすれば、常に歩道の中央から車道寄りの部分を通行するのは不可能に近い。したがって、上記の通行ルールを重視して過失相殺率を決定することは当を得ないものである。本件でも、被告は、上記アの事情で、歩道の中央から車道寄りの部分を通行したのであって、これを通行ルールに従っていないとして斟酌して、過失相殺率を決定することは妥当ではない。

(2)  本件事故と原告の傷害等との間に相当因果関係が肯定されるか

(原告の主張)

ア 被告車は、原告と衝突しており、本件事故と原告の傷害等の間に相当因果関係が肯定されることは明らかである。

イ 原告の身体的素因として存在していた過敏性腸炎が本件事故を原因として重篤化して入院を要することになったことについては、民法七二二条二項の過失相殺の規定の類推適用により素因減額されるべきものではあるものの、相当因果関係の存在まで否定されるものではない。原告は、入院して自己の傷害が重篤なものであることを認識するに従い、自己の将来を悲観し、精神的に極めて不安定な状態に陥った。また、本件事故による入退院に伴い生活環境が急激に変化した。かかる変化による精神的及び肉体的ストレスの結果、原告の過敏性腸炎は重篤化し、原告は、平成一九年七月一八日から同月二二日まで入院を余儀なくされた。このことは、原告の左大腿骨頚部骨折による入院期間が同年六月二日から同年七月一五日までであり、その退院した直後に入院したことから明らかである。

ウ 被告は、骨粗鬆症に係る鑑定の結果を引用して、原告が日常生活における転倒等によって、今回同様の骨折等の怪我をいつ負ってもおかしくない状態にあり、相当因果関係の基礎である事実的因果関係自体が否定される旨を主張している。しかし、鑑定の結果は、骨粗鬆症の存在を断定するものではなく、可能性を指摘するにとどまるから、骨粗鬆症の存在は真偽不明というほかなく、訴訟上は存在しないものと取り扱うほかない。また、原告は、本件事故まで骨折したことはなく、この一事からも、被告の主張は、失当である。

さらに、被告は、原告が骨粗鬆症であることから、相当因果関係における相当性を否定する主張をしているが、仮に原告に骨粗鬆症が認められるとしても、判例上、被害者の素因については、相当因果関係における特別の事情であるとの構成を採らず、過失相殺の類推適用で処理されており、被告の主張は、失当である。

(被告の主張)

ア 上記(1)のとおり、被告車は原告と衝突していないのであるから、本件事故と原告の傷害等の間には相当因果関係がない。特に、原告の私病である過敏性腸炎との間に相当因果関係がないことは、明らかである。

イ 原告の左大腿骨頚部骨折について、原告に対する鑑定の結果によれば、原告は、日常生活における転倒等によって、今回同様の骨折等の怪我をいつ負ってもおかしくない状態にあったのであるから、相当因果関係の基礎となる事実的因果関係自体が否定されるべきである。相当性の判断という視点から見れば、原告の傷害は通常生ずべき損害(民法四一六条一項)とはいえず、原告の骨粗鬆症が特別の事情に当たるとすれば、被告において予見可能性はなかった。

(3)  素因減額の当否

(被告の主張)

仮に、本件事故と原告の左大腿骨頚部骨折の傷害との間に相当因果関係が肯定されるとしても、鑑定の結果によれば、受傷の主原因は、原告の既往症である重度の骨粗鬆症であるから、過失相殺の類推適用により、九〇パーセントを超える大幅な素因減額ないし被害者に寛大な基準を参考としても七〇パーセントの素因減額がされるべきである。

判例の準則によれば、被害者の身体的変性が原則として素因減額がされない身体的特徴に当たるか、素因減額がされる疾患に当たるかは、当該身体的変性が被害者の年齢に相当する平均人の身体的特徴の範囲内であるかどうかを基準に判断されるから、疾患に当たる場合の減額割合も、当該病的状態が平均値からどれほど離れているかが重要な視点となる。そうであれば、原告に対する鑑定の結果からすると、本件における素因減額割合は相当に高くなるべきことは当然である。

(原告の主張)

仮に、原告に骨粗鬆症の存在が認められる場合でも、女性の骨粗鬆症有病率は、八〇歳代で五〇パーセント以上、七〇歳代後半で約五〇パーセント、同前半で約四〇パーセント、六〇歳代後半で約三〇パーセント、同前半で約二〇パーセント、五〇歳代後半で約一五パーセント、同前半で約五パーセントである(甲一〇七、一〇八)。これによれば、女性被害者が骨粗鬆症に罹患している可能性はかなり高いといえるのであるから、被害女性に対する加害行為と骨粗鬆症がともに原因となって損害が発生した場合、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させても、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するとはいえないから、過失相殺の類推適用は認められるべきではない。

素因減額がされるとしても、受傷の主原因は骨粗鬆症ではなく、本件事故における衝撃であるから、素因減額は、一〇パーセントを超えないというべきである。

(4)  損害の額

(原告の主張)

本件事故により原告に生じた損害は、次のとおりである(原告の最終的な損害額の整理として原告の平成二三年一〇月三日付け準備書面参照)

ア 医療費 一三一万九九二八円

(ア) 原告は、本件事故により、総額七三万〇五八三円の医療費を支払った。

(イ) 原告は、本件事故により左股関節人工骨頭置換手術を要したところ、人工骨頭の耐用年数は約一五年間であり(甲七)、原告の事故当時の平均余命が五一・五二歳であるため(甲七)、原告は、将来において三回の同手術を要することとなる。この手術費は、六五万〇五一〇円となる見込みである(甲九ないし一二)、これをライプニッツ方式により現価計算すると、五三万五八一九円となる。

(ウ) 原告は、人工骨頭の状況確認のため、年三回のレントゲンによる画像診断を要し、その診断料平均一四八四円四四銭の将来の約九五回として現価計算すると、五万三五二六円となる。

イ 入院雑費 一三万四〇四一円

(ア) 一日一五〇〇円、入院期間合計四九日で、七万三五〇〇円を要した。

(イ) 将来の入院三回の入院雑費として現価計算すると、六万〇五四一円を要することになる。

ウ 備品費 三万八〇〇〇円

エ 付添看護費 一〇〇万七五八九円

(ア) 原告の傷害等の内容から、入院期間合計四九日のうち、原告の母が四九日、原告の父が三六日、それぞれ付添看護をすることを要した。一人一日当たり六五〇〇円として合計五五万二五〇〇円となる。

(イ) 将来の入院三回の入院付添看護費として、上記合計金に基づき現価計算すると、四五万五〇八九円を要することになる。

オ 交通費 二万二四四〇円

カ 休業損害 二一九万四六三八円

原告は、簿記学校を卒業し、アルバイト等及び家事に従事しており、女子労働者の平均賃金額に等しい労働に従事したということができる。そこで、平成一八年賃金センサス女子の高専・短大卒の三五歳から三九歳の年収額四一七万二一〇〇円(甲八)を基礎収入、本件事故当日の平成一九年六月二日から症状固定日の同年一二月一〇日までの一九二日を休業期間として計算する。

キ 逸失利益 一七五六万四九九九円

原告の年収額につき、上記カの四一七万二一〇〇円、原告の後遺症による労働能力喪失率につき、原告の左大腿骨頚部骨折の傷害が人工骨頭置換まで行う必要があり、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の一〇級一一号に該当することから二七パーセントとして、症状固定日から六七歳までの就労可能期間の三一年のライプニッツ係数一五・五九三を乗じて計算する。

ク 入通院慰謝料 一七三万〇〇〇〇円

原告の入院期間合計四九日、通院期間約五か月によると上記金額が相当である。

ケ 後遺障害慰謝料 五五〇万〇〇〇〇円

コ 増額慰謝料 四三六万〇七六七円

(ア) 被告には、次のとおり、著しく不誠実な態度が存在し、かかる態度は慰謝料の増額事由に該当する。

(イ) 被告は、本件事故直後、原告を救護せず、一一〇番通報、一一九番通報をしていない。

(ウ) 被告は、原告に対し、誠実な謝罪をしておらず、被害弁償をしていない。

(エ) 被告は、責任を免れるため、本件事故について衝突した事実さえ否認するなど、不合理な弁解に終始している。

サ 損害賠償請求準備費用 四万五七八〇円

シ 弁護士費用 三三九万一八一八円

(以上合計) 三七三一万〇〇〇〇円

ス 損害の填補(既払金) 一三一万〇〇〇〇円

セ 損害額 三六〇〇万〇〇〇〇円

(被告の反論等)

ア 医療費に関し、「過敏性腸炎」及び原告において「不明(心療内科・精神科)」、「不明(内科)」と主張している額については、本件事故と因果関係がない。また、将来の手術費について本件事故後の手術費(甲九ないし一二)と同額に認定することは疑問である。なお、原告の現価の計算自体は、正しい。また、将来の画像診断料について、原告は、九通の領収書の平均値を基礎に計算するが、「処方せん料」の内容が不明である。原告の現価計算自体は、積極的に争わない。

イ 入院雑費に関し、一日一五〇〇円が相当であることは認めるが、将来分について、上記アと同様に、事故後と同じ入院日数と認定できるか疑問であるし、過敏性腸炎による入院を除く日数は四四日間である。原告の現価計算自体は、積極的に争わない。

ウ 備品費に関し、杖代以外の立証はされていない。

エ 付添看護費に関し、原告の年齢及び傷害の内容からみて、家族による付添看護の必要性は認められない。将来の付添看護費も同様である。原告の現価計算自体は、積極的に争わない。

オ 交通費に関し、原告本人の交通費は認めるが、原告の父母の交通費は、上記エと同様に必要性が認められない。

カ 休業損害に関し、原告の勤務による収入は、原告が基礎収入として主張する賃金センサスの年収額を大きく下回っている。この点、原告は、家事従業者であると主張するが、原告は主婦ではなく、家族と同居する独身者であり、原告の母が本件事故当時六〇歳であることからすれば、原告が主婦と同様の家事労働を負担していたとは推認し難いものである。

キ 逸失利益に関し、上記カのとおり、基礎収入について争う。また、原告は労働能力喪失率の二七パーセントとして計算するが、本件で逸失利益を肯定することは困難である。原告の障害(左股関節人工骨頭置換)が自動車損害賠償保障法施行令別表第二の一〇級一一号所定の障害に該当する程度の障害であることは、争わない。

ク 慰謝料に関し、金額を争う。特に、増額慰謝料については、強く争うものである。

ケ 損害賠償請求準備費用に関し、本件訴訟に必要なものに限定されるべきである。

コ 既払金及びその元本充当は、争わない。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点(1)(本件事故の態様並びに被告の過失の有無及び過失相殺の当否)について

(1)  前提となる事実に加え、証拠(甲四七、四八、五〇、一一七、乙一の一ないし三、三、五、一二、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

ア 本件の現場は、周囲に大型の団地がある南北に走る片側一車線の車道の東側に設けられた幅員約二メートルの本件歩道であり、本件歩道は、車道とは縁石及び高さ約一メートルの生垣で隔てられ、車道と反対側(東側)の敷地とは高さ約一・五メートルめ生垣で隔てられている。上記敷地上にある本件路地は、幅員約二メートルの直線状の通路であり、本件歩道に直角に交差しており、本件歩道への出入口付近の左右に上記の生垣があるため、本件路地から本件歩道に進入する際の左右の見通し及び本件歩道を北方から南方に進行する際の本件路地への見通しは、いずれも不良である。本件路地のうち本件歩道の出入口までの約一メートルの部分は、本件歩道への出入口に向けて急勾配の下り坂となっており、歩行者が本件路地から本件歩道に進入する際は、この急斜面を下ることになる。また、本件歩道の東側(本件路地側)には、商店が並んでおり、本件路地の左右の敷地上には商店が建っている。本件路地は、「○○モール」と呼ばれる商店街と本件歩道とを連絡する通路となっている。

イ 原告は、「○○モール」で買い物を終えて、本件路地を東方から西方に歩いて来て上記の急斜面を下って出入口から本件歩道内に進入し、その際に安全確認のため顔を南方(左方)に向けたところ、折から、北方(右方)から本件歩道のうち中央から車道の反対寄りの部分(本件路地側の部分)を走行してきた被告運転の被告車の前部と、原告の右側面とが突然に衝突したため、手を着くなど防御の姿勢を取る間もなく転倒して、身体の左側面を地面に強く叩き付けられ、左側面を下にして横たわった。原告は、これによって左大腿骨頚部骨折及び左肘擦過傷の傷害を負った。

一方、被告は、「○○モール」で買い物をすることもあり、本件路地の歩道の出入口付近の部分が急斜面であることを知っていたところ、本件事故の当時、本件歩道のうち中央から車道の反対寄りの部分(本件歩道の左側部分)を北方から南方に向けて被告車を運転して通常の速度で走行し、前方左側の本件路地の存在を認識しながら、徐行することなく、そのまま進行していたところ、原告が左側の生垣の間の本件路地の出入口から本件歩道内に急に出てきたと認めて、あわててブレーキをかけたが間に合わずに、被告車の前部を原告に衝突させた。

ウ なお、原告は、被告車を車道側の生垣付近に寄せて停車させて駆け寄ってきた被告に対して大丈夫であると答えた。このため、被告は、再び被告車を運転して現場を去ったが、原告が怪我を負って立ち上がれない様子を見た目撃者によって促されて現場に戻り、原告による携帯電話の連絡で駆けつけた原告の両親らとともに原告宅まで同行した。その後、原告は、救急車によって病院に搬送された。

(2)  以上の認定に反し、被告は、「自転車を運転し、本件歩道をごく普通の速度で走行していたところ、前方から男性の運転する自転車が向かってきたので、減速して本件歩道の左側に寄って、これを避けてすれ違った時に、原告が左側の本件路地から急に被告車の前に飛び出してきたため、急制動をかけたものであって、被告車は原告に衝突していない」旨を主張し、被告本人は、それに沿う供述ないし陳述記載(乙一二)をし、加えて、前方からの自転車を避ける際に人が歩く速度までに減速した旨を供述している。

しかしながら、①被告は、本件事故当日の平成一九年六月二日午後八時ころに実施された実況見分において、警察官に対し、本件事故の状況について、本件歩道の中央から車道の反対寄りの部分(本件歩道の左側部分)を北方から南方に向けて走行中の本件路地の出入口手前から約一〇メートル地点で、本件路地の出入口を認めたが、そのまま同じ方向に進行し、同出入口手前から約二・五メートル(原告との距離にして約四・四メートル)の地点で、同出入口から約〇・一メートルほど本件路地内にいる原告を発見し、ハンドルを右に切り、ブレーキを掛けて本件歩道の右側の車道の生垣付近(ブレーキを掛けた地点から約五・三メートル)に停止したところ、原告は本件歩道の本件路地側の生垣付近に転倒していた旨を指示説明し、その内容が記載された実況見分調書(乙五)が作成されており、この内容は、上記の被告の主張及び被告本人の供述ないし陳述記載の内容とは全く異なっていること、②被告は、その実況見分に同行する際に、担当の警察官から「原告の方は被告車とぶつかったと言っている。」と聞いていながら(乙一二、被告本人)、その後の同月三日、七日、八日、一一日及び一五日に原告の入院している病院に見舞いに行った際には、被告車は原告にぶつかっていないとの被告の主張に沿うことを何ら話しておらず、原告から受傷に対する金銭請求がされた後である同月二四日に初めて原告に対し、「被告車は原告にぶつかっていない。」と話したこと(甲一一七、乙一二、被告本人及び弁論の全趣旨(原告の平成二〇年七月二八日付け準備書面参照))が認められる。

以上によれば、上記の被告の主張に沿う被告本人の供述ないし陳述記載は、被告の事故当日の実況見分の際の指示説明と相反していて信用性に乏しく、かつ、不自然であるといわざるを得ない。

これに対し、「原告の身体の右前方側面に強い衝撃を受けて左後方に弾き飛ばされ、原告の身体の左側面を下にして転倒したため、被告車が原告に衝突したと判断した」とする原告本人の供述ないし陳述記載(甲一一七)は、①原告は、本件事故の当日、入院先の病院で警察官の事情聴取を受け、被告車にぶつかった旨を話しており、被告立会いの実況見分担当の警察官にもそのことが伝わっており(甲一一七、乙一二、原告本人、被告本人)、原告の救急搬送先の病院においても、歩行時に横から来た自転車とぶつかり、歩行できなくなったため、救急車にて来院した旨を初診における症状の経過として明確に述べ(乙三の七頁)、さらに、平成一九年一一月六日に原告が立ち会って実施された実況見分の際にも被告車と衝突したと指示説明している(甲五〇)など、原告の供述内容は、事故当日から一貫していること、②原告は、手を着くなど防御の姿勢を取ることができず、左肘に擦過傷(乙三の一頁)を生ずるほど身体の左側面をそのまま強く地面に叩き付けられて転倒しており、原告が何の外力も加わらないのに、このように強く地面に叩き付けられて転倒したものとは考え難いことからすると、いずれも、信用性が高く、客観的な事実にも符合するということができる。

したがって、上記の原告本人の供述ないし陳述記載及び客観的な事実に照らし、被告本人の上記の供述ないし陳述記載は、採用することができない。

他に、上記認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  以上認定の本件事故の態様を前提に、被告の過失について検討する。

道路交通法上、歩道は、もともと、歩行者の通行の用に供されるものであって(二条一項二号)、自転車の走行は原則として許されていない(一七条一項本文)。本件のように例外的に許される場合であっても、運転者は、当該歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、自転車の進行が歩行者の通行を妨げることになるときは、一時停止しなければならない(六三条の四第二項)。

この自転車の走行区分の規定の趣旨は、当該歩道の中央から車道の反対寄りの部分は、歩道に接する路外の敷地にある民家・商店等の建物や路地から歩行者が歩道内に出入りすることが多いために、その歩行者の通行の安全を確保することにあると考えられる。そして、自転車が特段の支障がないのに上記の規定に違反し、歩道の中央から車道の反対寄りの部分を走行し、かつ、徐行及び一時停止をしない場合は、二重に交通法規に違反することとなる。

上記(1)に認定の本件事故の状況によると、被告は、進行先の本件路地の存在及びその歩道の出入口付近の急斜面の状況を認識しており、かつ、本件歩道の中央から車道寄りの部分を走行するのに支障がないのにもかかわらず、中央から車道の反対寄りの部分(本件路地側の部分)を、徐行せずに通常の速度で走行していたために、本件路地から本件歩道内に進入してきた原告を認め、その通行を妨げないよう、ブレーキをかけたが一時停止することができずに、被告車を原告に衝突させ原告を転倒させた結果、原告に左大腿骨頚部骨折等の傷害を負わせたものである。

したがって、被告は、上記の交通法規が規定する自転車の歩道通行における走行区分並びに徐行及び一時停止の義務に違反しており、被告には、歩道上の歩行者の通行の安全を確保して、その身体の安全を守るべき注意義務に違反する過失があることを、明らかに肯定することができる。

(4)  次に、過失相殺の当否及び程度について検討すると、原告においても、自転車の走行が許されている本件歩道内に路外の本件路地から進入して本件歩道を通行するに当たり、自転車が本件歩道上の走行上の支障等から本件路地側の部分を走行してくる可能性を認識することができたものと認められる(弁論の全趣旨)。その場合、本件路地の両側の生垣によって、本件路地からの左右の見通し及び本件歩道を走行する自転車の運転者からの本件路地への見通しが不良であり、かつ、本件路地の出入口付近は、急勾配の下り坂であることから、本件歩道内を走行する自転車の運転者にとって、ここを下ってくる歩行者につき、本件歩道内に急に進入してきたものと認められるため、急制動が間に合わない事態も予想されるのである。したがって、原告は、そのような出入口付近に急勾配のある本件路地から本件歩道内に進入するに当たり、本件路地の出入口の前で一時停止するなどして左右の安全の確認をして本件歩道内に進入していれば、本件事故を避けることができたことが認められる。

このように、原告にも、不注意と評価し得る過失を肯定することができるものの、本件事故における責任の度合いとしては、自転車の運転者である被告による上記の交通法規違反に基礎付けられた過失の程度が格段に大きく、これと比べれば、歩行者である原告の過失の程度は相当に低いものというべきであるから、これを一〇パーセントと認めるのが相当である。

なお、被告は、原告が骨折し易い骨粗雑症であること、また、年齢に比して極めて低体重であることから極めて骨折し易い体質であることも当然分かっていたはずであるから、日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められているとして、原告の過失の割合を加重すべきである旨を主張している。しかしながら、上記説示の原告の過失割合は、本件路地から本件歩道に進入する際に出入口前で一時停止するなどして安全確認をするという、歩行者にとって慎重な行動をとるべきこととして認めたものであって、後記のとおり骨粗鬆症の素因を有すると認められる原告を含めた歩行者の全般にとって、これより慎重な行動はないのであるから、被告の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。

二  争点(2)(本件事故と原告の傷害等との問に相当因果関係が肯定されるか)及び争点(3)(素因減額の当否)について

(1)  左大腿骨頚部骨折の傷害について

ア 骨粗鬆症とは、骨が萎縮し、もろく折れやすくなる状態にあることをいうところ(弁論の全趣旨)、原告は、本件事故当時、三五歳、身長一五〇センチメートル、体重二八キログラムであり、日本人女性の平均身長及び体重は、平成一六年度から平成一八年度の経済産業省調べでは、三〇代で、一五八・五センチメートル、五一・一キログラムであり、平成一九年度の文部科学省調べでは、三〇歳から三四歳で、一五八・八三センチメートル、五一・三七キログラムであることから、原告の体重は、身長が低いことを考慮に入れても、低体重であった(当事者間に争いがない。)。

そして、日本骨代謝学会による骨密度を加味した骨粗鬆症の診断基準では、女性の場合、若年者(二〇歳から四四歳)の平均骨密度(YAM)の七〇パーセント未満を骨粗鬆症の判別の基準とされ、男性も同様に判別されているところ(甲一〇八、鑑定の結果)、鑑定の結果によれば、原告には、①低体重(原告は、本件事故当時、身長一五〇センチメートル、体重二八キログラム、BMI一二と著名な低体重を呈した。)と、それに伴う左大腿骨頚部(受傷側)の骨密度の低下が推察され、②右大腿骨頚部の骨密度はYAM値の四九パーセントであり、明らかな骨粗鬆症が存在し、受傷時の左大腿骨頚部にも骨粗鬆症が存在していた可能性が高く、③右大腿骨頚部の骨密度は、七〇歳から七五歳の標準偏差値の最低値に相当し、④大腿骨頚部・転子部骨折の発生頻度は、平成九年の調査では、人口一万人当たり、四〇歳以下の女性が〇・一三人であるのに対し、七〇歳から七九歳の女性では、四〇・八人と約三一四倍頻度が高くなり、⑤原告が受傷した際の左大腿骨頚部は、七〇歳から七五歳に匹敵する骨密度であった可能性が高いものとされている(ただし、上記の骨密度に係る検査時の原告の年齢は、三八歳である。)。また、⑥原告の左大腿骨頚部骨折の程度は、高度に転位したステージⅣに分類されるものである。

他方、原告は、脆弱性骨折の既往は無く、本件事故まで骨折した経験が無いし、骨粗鬆症の診察及び治療を受けたこともない(甲一一七、乙三、原告の診療を担当したB医師に対する証人(書面)尋問、原告本人、鑑定の結果及び弁論の全趣旨)。

イ 以上によれば、原告は、本件事故当時、左大腿骨頚部においても骨密度が低下しており、骨粗鬆症に罹患していたことを優に推認することができる。ただし、原告の罹患した骨粗鬆症は、このために日常生活における外力の程度で骨折を招来するような態様のものではなかったものと認められる。

このことに、上記(1)に認定の本件事故の態様を総合すれば、原告の重篤な左大腿骨頚部骨折の傷害は、①原告の骨粗鬆症の素因と、②本件事故により原告が被告運転の被告車に身体の右側面を突然に衝突されたため、防御の姿勢を取ることができないまま、身体の左側部を地面に強く叩き付けられたことによって左大腿骨頚部に強い外力が加わったことが、ともに原因となって発生したものと推認することができるから、本件事故と原告の左大腿骨頚部骨折の受傷との間に相当因果関係を肯定することができる。

そして、このように、被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができると解するのが相当である(最高裁平成四年六月二五日第一小法廷判決・民集四六巻四号四〇〇頁、甲六七参照)。

ウ これを本件についてみると、上記のとおり、原告の罹患していた骨粗鬆症は、左大腿骨頚部において七〇歳から七五歳に匹敵する骨密度であるものの、日常生活における外力の程度では骨折を招来するような態様のものではなく、被告車の加害行為によって原告の左大腿骨頚部に強い外力が加わったことによって同部位に重篤な骨折が生じたことが認められる。

このことに加えて、骨粗鬆症の疾患の一般についてみると、女性の骨粗鬆症の有病率は、八〇歳代後半以上で約五四パーセント、同前半で約五〇パーセント、七〇歳代後半で約四六パーセント、同前半で約三八パーセント、六〇歳代後半で約三〇パーセント、同前半で約二二パーセント、五〇歳代後半で約一四パーセント、同前半で約四パーセントであって(以上は、甲一〇七及び一〇八掲載の資料に棒グラフで示された数値を目算した概数である。)、現在の我が国の骨粗鬆症の患者率は約七八〇万人から一一〇〇万人であると推定されている。このように、骨粗鬆症は、年齢とともに有病者が増加する疾患であるが、総人口に占める六五歳以上の高齢化率をみると、年々増加し続けており、今後、高齢化率は更に加速されて、二〇一五年には二六・〇パーセント、二〇五〇年には、三五・七パーセントになると予測されており、近づきつつある超高齢化社会を前に、骨粗鬆症の予防と骨折の予防が急務の課題とされている。(甲一〇八)。さらに、最近は、骨粗鬆症が若年層にも増えてきていることが指摘されている(甲一二〇、一二一)。

以上のとおり、骨粗鬆症の疾患を一般的・全年齢(総人口)としてみれば、交通事故に遭遇する相当程度の割合の被害者、特に被害女性が骨粗鬆症に罹患しており、交通事故によって相当程度の割合の被害女性に左大腿骨頚部骨折等の骨折の受傷による入通院費用、傷害慰謝料、休業損害、逸失利益等の損害が発生し得ることが推測できるものである。

エ そこで、当裁判所は、原告の罹患している骨粗鬆症について、本件事故当時三五歳の原告の左大腿骨頚部の骨密度が七〇歳から七五歳に匹敵するものであったことを斟酌して、素因減額の対象となる疾患に当たるものとして、過失相殺の規定を類推適用することとする。

そして、その減額の割合は、以上説示した①被告の加害行為によって原告の左大腿骨頚部に強い外力が加わったために重篤な同部位の骨折が招来されたこと、②原告が罹患した骨粗鬆症という疾患の特質、態様、程度に係る諸事情を総合考慮すれば、原告に生じた損害額(後記の過敏性腸炎による入院によって生じた損害額を除く。)の二〇パーセントと定めるのが相当である。

以上のように評価するのが加害者と被害者との間で損害の公平の分担を図る損害賠償法の理念に適うものと考える。

(2)  入院を要した原告の過敏性腸炎について

ア 前提となる事実のとおり、原告は、数年前から過敏性腸炎に罹患して通院して治療を受けていたところ、証拠(甲五、七、一一七、乙三、四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、本件事故当日の平成一九年六月二日に入院して以降、左股関節人工骨頭置換手術を受け、担当医師から将来の再手術の必要性を説明されるなどして、自己の傷害が重篤なものであることを認識するに従い、自己の将来を悲観し、精神的に極めて不安定な状態に陥り、また、手術後のリハビリや杖による歩行を始めとして、本件事故による入退院及び手術後の症状の状況に伴い、生活環境が急激に変化した。

(イ) 原告は、このような重篤な左大腿骨頚部骨折の傷害の認識及び生活環境の変化による精神的及び肉体的ストレスの結果、これまで通院して投薬を受けるだけであった過敏性腸炎の疾患が重篤化したため、左大腿骨頚部骨折による入院加療を同年七月一五日に終えて退院した後に続き、救急車で搬送されて同月一八日に緊急入院し、同月二二日まで五日間の入院治療を要することになった。

イ 以上認定の事実によれば、原告の過敏性腸炎による入院は、原告の身体的素因として存在していた過敏性腸炎が本件事故を原因として重篤化したことによって必要となったことが明らかであるから、本件事故と、過敏性腸炎による入院に伴う損害の発生との間の相当因果関係は肯定され、被告の加害行為と原告の疾患がともに原因となったことを斟酌して、過失相殺の規定の類推適用により、その素因による減額をすべきであると解される。そして、その減額の割合は、原告の過敏性腸炎が入院加療を要するほど重篤化した主たる原因が本件事故であるというべきことから、過敏性腸炎による上記入院によって生じた損害額の二〇パーセントと定めるのが相当である。

三  争点(4)(損害の額)について

本件事故によって生じた損害として、以下のとおり認められる。

(1)  医療費 一三〇万九七八八円

ア 原告主張の医療費総額七三万〇五八三円のうち、証拠(甲九ないし一四、一七、二〇ないし二二、一二二ないし一二六、乙三)及び弁論の全趣旨によれば、七二万〇四四三円の医療費の支出については、本件事故との因果関係を肯定することができるが、原告がその医療費の内容として、「不明(心療内科・精神科)」及び「不明(内科)」として主張する合計一万〇一四〇円(甲一五、一六、一八、一九)の支出については、本件全証拠によっても、本件事故との間の相当因果関係を肯定することができない。

イ 原告は、本件事故により左股関節人工骨頭置換手術を要したところ(甲三、四)、人工骨頭の耐用年数は約一五年間であり(甲七)、原告の事故当時の平均余命が五一・五二歳であるため(甲七)、原告は、将来において三回の同手術を要することとなる。この手術費は、本件事故後の同手術のために要した入院費と認められる六五万〇五一〇円(甲九ないし一二及び弁論の全趣旨)と同額となることが推認される。これをライプニッツ方式により現価計算すると五三万五八一九円となる(弁論の全趣旨)。

ウ 原告は、人工骨頭の状況確認のために年三回のレントゲンによる画像診断を要し、その診断料の平均は一四八四円四四銭であると認められ(甲三、一七、二〇ないし二二、一二二ないし一二六及び弁論の全趣旨)、これを将来の約九五回として現価計算すると五万三五二六円となる(弁論の全趣旨)。

(2)  入院雑費 一二万七八六二円

ア 一日一五〇〇円、入院期間四九日、合計七万三五〇〇円とするのが相当である。

イ 将来の入院三回の入院雑費として、一回につき、一日一五〇〇円、手術のための入院期間四四日、合計六万六〇〇〇円を要すると推認することができる。これを現価計算すると五万四三六二円となる(弁論の全趣旨)。

(3)  備品費 九〇〇〇円

証拠(甲三三)及び弁論の全趣旨によると、杖代として九〇〇〇円を支出したことが認められるが、原告主張のベッド代二万九〇〇〇円は、これを認める証拠がない。

(4)  付添看護費 七八万八〇七三円

ア 証拠(甲一一七、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の傷害等の内容及び原告の当時の精神状態から、入院期間四九日のうち、原告の母が四九日、原告の父が三六日、それぞれ付添看護をすることを要したことが認められ、一人一日当たり六五〇〇円と算定するのが相当であり、合計五五万二五〇〇円となる。

イ 将来の手術のための入院三回の付添看護費としては、その手術の内容を考慮すれば、入院四四日につき父母のいずれか一人一日当たり六五〇〇円相当の二八万六〇〇〇円を要するものと推認することができる。これを現価計算すると二三万五五七三円となる(弁論の全趣旨)。

(5)  交通費 二万二四四〇円

証拠(甲一一七)及び弁論の全趣旨によれば、原告の入通院のための交通費及び駐車場料金として合計二万二四四〇円を要したことが認められる。

(6)  休業損害 一五三万六二四七円

証拠(甲一〇九、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、簿記学校を卒業しており、比較的短期間の就業を断続的に繰り返した後の平成一七年四月からアルバイトをしながら家事労働の相当部分に従事していることが認められる一方で、原告は父母と同居しており、原告の母も家事労働に一部従事していることが認められるが、その程度は明らかとはいえない。そこで、不法行為における損害額算定の原則のとおり、控えめに算定することとして、原告は、平成一八年賃金センサス女子の高専・短大卒の三五歳から三九歳の年収額四一七万二一〇〇円(甲八)の七割に当たる二九二万〇四七〇円の収入を得ていたものと認め、本件事故当日の平成一九年六月二日から症状固定日の同年一二月一〇日までの一九二日を休業期間として計算するのが相当である。

(7)  逸失利益 一二二九万五三四二円

証拠(甲三、四、七、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、左大腿骨頚部骨折による左股関節人工骨頭置換手術を受けていること、股関節の可動域の制限(他動伸展が右一五に対し左五、自動伸展が右一〇に対し、左〇、他動内転が右二〇に対し左一〇、自動内転が右二〇に対し、左五、他動内旋が右四五に対し左二〇、自動内旋が右三五に対し、左一〇等)及び左下肢の一・五センチメートルの短縮があること、左下肢が重たい、左下肢全体の違和感、左大腿部が吊りやすい等の自覚症状が残存し、疲れやすい、左下肢が浮腫みやすい等の症状を呈していること、将来にわたる人工骨頭置換手術と定期的なレントゲン撮影を要すること、人工骨頭を摩耗させないためにも歩行に際して杖の使用が必要とされていることが認められ、これらを総合すると、原告には、少なくとも原告主張の自動車損害賠償保障法施行令別表第二の一〇級一一号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する後遺障害があることは明らかであり(原告の左股関節人工骨頭置換の障害が同一〇級一一号に該当する程度の障害であることは、被告において争わない。)、この後遺障害に係る内容、程度及び諸症状を考慮すれば、原告の労働につき、相当程度の影響を及ぼすものであると認めることができる。

そこで、原告の逸失利益につき、基礎となる年収額として上記(6)の二九二万〇四七〇円、原告の上記認定の後遺障害に係る労働能力喪失率として上記一〇級一一号の二七パーセントとし、症状固定日から六七歳までの就労可能期間の三一年のライプニッツ係数一五・五九二八を乗じて計算するのが相当である。

(8)  入通院慰謝料 一七三万〇〇〇〇円

原告の入院期間計四九日、症状固定日までの通院期間約五か月、その後の定期的な診察のための通院の状況(甲二二、一二二ないし一二六、乙三)及び原告の事故後の入通院当時の精神状態を総合して考慮すれば、上記金額が相当である。

(9)  後遺障害慰謝料 五五〇万〇〇〇〇円

原告の上記認定の後遺障害を考慮すれば、少なくとも原告主張の上記金額が相当であると認められる。

(10)  増額慰謝料 〇円

前記一に認定の被告の本件事故後の行動及び原告の入院時における見舞いの状況等の本件に顕れた一切の事情も総合すれば、原告主張の慰謝料増額の諸事情を斟酌しても、本件において上記認定の慰謝料総額を増額すべき特段の事由は、認めることができない。

(11)  損害賠償請求準備費用 四万五一五〇円

証拠(甲二〇、二一、三八ないし四一、四四、四六)及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件事故による損害賠償の請求に要した文書代として、上記金額が認められ、原告主張のコピー代三〇円(甲三七、四二)、印鑑登録証明書代四〇〇円(甲四三)、住民票代二〇〇円(甲四五)は、本件事故との間の相当因果関係を肯定することができない。

以上合計 二三三六万三九〇二円

(12)  素因減額二割 一八六九万一一二一円

(13)  過失相殺一割 一六八二万二〇〇八円

(14)  損害の填補(既払金) 一三一万〇〇〇〇円

(15)  既払金控除後の額 一五五一万二〇〇八円

(16)  弁護士費用 一五五万一二〇〇円

本件事故との間に相当因果関係のある弁護士費用として、上記金額が認められる。

(17)  以上による損害額 一七〇六万三二〇八円

第四結論

よって、原告の請求は、一七〇六万三二〇八円及びこれに対する不法行為の日である平成一九年六月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本英史)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例