さいたま地方裁判所 平成17年(行ウ)23号 判決
主文
1 浦和県税事務所長が原告に対し平成14年12月2日付けでした別紙物件目録記載7の建物に係る不動産取得税賦課決定処分のうち,2350万8300円を超える部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
1 事案の要旨
原告は,別紙物件目録1ないし6記載の各土地の共有持分7分の5(以下総称して「本件各土地」といい,個別の土地をいうときは,同目録の番号により「本件土地1」,「本件土地2」などという。)を有していたところ,これらの土地を公共事業の用に供するため,順次県ないし国に売り渡し,その後本件各土地の代替資産として別紙物件目録記載7の建物(以下「本件建物」という。)を新築にて取得した。浦和県税事務所長は,原告の本件建物取得に対し,本件土地3ないし5の譲渡については,地方税法(平成15年法律第9号改正前のもの。以下同じ。)73条の14第8項(以下「本件特例」という。)を適用したものの,本件土地1及び2の譲渡については,その譲渡した日から2年以内に本件建物が取得されていないとして,本件特例の適用を否定し,不動産取得税2418万8600円を賦課する旨の決定(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
本件は,原告が,本件賦課決定処分には,地方税法73条の14第8項の適用を誤った違法があり,本件建物の取得に係る不動産取得税は2350万8300円であると主張して,本件賦課決定処分のうち上記額を上回る部分の取消しを求めた事案である。
2 関係法令等の定め
(1) 不動産取得税及びその課税標準
不動産取得税とは,不動産の取得に対し,当該不動産所在の道府県において,当該不動産の取得者に課する税である(地方税法73条の2第1項)。
不動産取得税の課税標準は,不動産を取得した時における不動産の価格である(同73条の13第1項)。
(2) 不動産取得税の課税標準の特例
不動産取得税の課税標準の特例として,地方税法73条の14第8項は,土地若しくは家屋を収用することができる事業(以下「公共事業」という。)の用に供するため不動産を収用されて補償金を受けた者,公共事業を行う者に当該公共事業の用に供するため不動産を譲渡した者若しくは公共事業の用に供するため収用され,若しくは譲渡した土地の上に建築されていた家屋について移転補償金を受けた者等が,当該収用され,譲渡し,又は移転補償金に係る契約をした日から2年以内に,当該収用され,譲渡し,又は移転補償金を受けた不動産(以下「被収用不動産等」という。)に代わるものと道府県知事が認める不動産(以下「代替不動産」という。)を取得した場合においては,代替不動産の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については,被収用不動産等の固定資産課税台帳に登録された価格に相当する額を代替不動産の価格から控除するものとする旨規定している(本件特例)。
なお,本件特例における固定資産課税台帳に登録された価格中,同法附則11条の5第1項に規定する宅地評価土地の部分については,その価格の2分の1が控除対象となるものとされている(同法附則11条の5第3項)。
3 基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)
(1) 本件賦課決定処分に至る経緯
ア 原告は,平成10年12月28日当時,本件各土地を共有していた。
イ 原告は,被告との間で,平成10年12月28日,本件土地1及び2について代金を3288万5245円として土地売買に関する契約を締結した(乙1。以下「本件契約」という。当時,本件土地1及び2は分筆前であったため,乙1では分筆前の地番が表示されている。)。本件土地1及び2は,被告が実施する道路整備事業の用に供するため売買されたものであり,本件売買は,本件特例にいう公共事業を行う者に当該公共事業の用に供するため不動産を譲渡した場合に該当する。
原告及び被告は,本件契約の際,引渡し期日を平成11年3月31日と定めたが,所有権移転時期については定めなかった。
ウ 本件土地1及び2上には訴外株式会社a所有の建物が建築されており,同建物は株式会社bが借家していてスーパーマーケットを営業していた。そして,建物の借家人株式会社bに対する営業補償等に係る交渉は,被告が担当した。ところが,当初予定されていた引渡し期日である平成11年3月31日までに,被告と借家人等との間の交渉が合意に至りそうになかった。そこで,原告は,平成11年3月23日,被告の申し入れに基づき,被告に対し,引渡し期限の延期を依頼する旨の申出書を提出し(乙7),原告及び被告は,平成11年3月31日付けで,本件契約における本件土地1及び2の引渡し期日を平成12年3月31日に変更する旨の合意をした(甲4。以下「本件変更契約」という。)。
被告は,原告に対し,平成11年4月16日,本件土地1及び2の対価を一部支払った。そして,原告は,被告に対し,平成11年4月30日,平成10年12月28日売買を原因として,本件土地1及び2について所有権移転登記をした(甲5)。
なお,公共事業の施行者である埼玉県新都心建設事務所長作成の「公共事業用資産の買取り等の証明書」において,本件土地1及び2の買取り等の年月日は,平成10年12月28日とされている(乙2)。
エ 原告は,国との間で,平成11年1月6日を買収日として,本件土地6を代金2142万円余で売却するとの合意をした(乙3,4)。国は,原告に対し,平成11年2月15日,本件土地6の対価の一部を支払った。
また,原告は,国(契約の相手方は与野市都市開発公社)との間で,平成11年12月27日を買収日として,本件土地3ないし5の土地を代金2388万円余で売却するとの合意をした(乙5,6)。国は,原告に対し,平成12年1月28日,本件土地3ないし5の対価の一部を支払った。
オ 原告は,平成13年2月26日,本件各土地の代替資産として,本件建物を新築にて取得した(甲1)。
(2) 本件賦課決定処分
本件賦課決定処分に際し,浦和県税事務所長は,本件土地3ないし5については本件特例を適用し,地方税法附則11条の5第3項により,その登録価格の2分の1を本件建物の価格から控除し,6億0471万7000円を課税標準額とした。
6億1307万8213円(本件建物の価格)-836万0830円(本件土地3ないし5の登録価格の2分の1)=6億0471万7000円
しかしながら,本件土地1及び2については,その譲渡した日である平成10年12月28日から2年以内に本件建物が取得されていないとして,本件特例を適用しなかった。
そこで,浦和県税事務所長は,原告に対し,平成14年12月2日付けで,本件建物の取得に係る以下の内容の不動産取得税を賦課する旨の処分をした(本件賦課決定処分)(甲2,3)。
(ア) 課税標準額 6億0471万7000円
(イ) 不動産取得税額 2418万8600円((ア)×4%)
(3) 原告の不服申立て等
原告は,本件賦課決定処分を不服として,平成15年2月17日,埼玉県知事に対し,審査請求をしたが,埼玉県知事は,平成17年3月4日付けで,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲3)。
そこで,原告は,平成17年5月26日,本件訴えを提起した。
4 争点
地方税法73条の14第8項(本件特例)にいう「公共事業の用に供するため不動産を・・・譲渡し・・・た日から2年以内」の起算日はいつか。
5 争点に関する当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 本件特例は,公共事業の用に供するために,不動産を収用されて損失補償金を受けた者,あるいは,自発的に不動産を譲渡し,その譲渡代金を受けた者らが,その損失補償金又は譲渡代金の一部をもって,これに代わるべき不動産を取得した場合は,やむを得ずに代替不動産を取得したものであるため,その取得について,不動産取得税を軽減すべきであるとの趣旨により設けられている。このような本件特例の趣旨からすると,「譲渡した日」は,公共事業に協力した者に有利に解釈されるべきである。
そして,代替不動産を取得するには相応の費用が必要になるため,一般的に,代金の支払い等を受けなければ,公共事業に協力した者が代替不動産を取得する具体的な手続に取りかかることは困難である。また,本件特例において,代替不動産の取得期間が収用された日等から2年以内に限定されるのは,通常,代替不動産の取得は被収用不動産等を手放してから長期間を経過してから行われるものではなく,また,その期間をみだりに延ばすことは代替性についての判定を困難にすること等の現実的理由からである。
本件において,国は,原告から,本件土地3ないし6を買い受けているが,これらの不動産について,国は,原告に対し,その代金の一部を各々の契約締結後,1ヶ月程度で支払っている。このように支払いが契約締結後,1ヶ月程度で行われるのであれば,譲渡に係る契約締結日を「譲渡した日」と評価しても不都合はない。しかしながら,本件のように,公共事業を行う者と土地上の建物の借家人等との間の交渉が長引き,支払い時期の延期を伴う契約の変更がなされた場合には,契約の日を「譲渡した日」とすると,譲渡した者は,代金の支払いが全くない段階で代替不動産を取得する手続に取りかかることが必要になり不都合である。本件契約を締結した3ヶ月後に本件変更契約を締結している本件事情の下では,代替性の判定が困難になるような事情もなく,むしろ変更契約を締結した日を基準とすることが本件特例の趣旨に合致する。したがって,変更契約の日をもって「譲渡した日」と評価すべきである。
イ 被告は,「地方税法には,『譲渡』の定義規定がないことから,『譲渡』は民法により解釈される。民法176条は,意思表示によって物権の移転の効力が生じることを原則としているのであるから,本件特例の『譲渡した日』は,原則として売買契約日になるとし,本件においては,本件契約日である」旨主張する。
しかしながら,民法における所有権移転時期についても,取引の実情に照らし,引渡しや登記等の時期とすべきであるとする議論もあるところであるし,本件特例の「譲渡」については,被告が主張するような形式的・観念的な所有権移転時期としての契約締結日とは別に,上記アで述べたとおり,本件特例の趣旨や目的から,「譲渡」の時期として合理的な時点を決定すべきである。
また,所得税法上の譲渡所得課税では,資産の「譲渡」の時期を,原則として,資産の引き渡しのあった日とした上で,場面に応じて,契約の効力発生日や譲渡代金の決済を終了した日なども基準としている(所得税法基本通達36-12)。地方税法の解釈に当たっては,民法の一般原則よりも,同じ不動産の譲渡及び取得に関する所得税法の規律の方がより近似している。しかも,本件特例は,費用のかかる代替不動産の取得について特例を認めるものであるから,本件特例における「譲渡」の解釈に当たっても,代金決済又はこれに準ずる時点を取引通念から合理的に判断すべきである。
さらに,被告は,不動産取得税における「取得」の時期は,所有権取得の時期をいうものと解釈されるべきであり,譲渡は取得と裏腹の関係にあることから,譲渡についても所有権喪失の時期をいうべき旨主張するが,不動産所得税における取得の時期と本件特例上の譲渡の時期とを同様に解釈する理論的必然性はない。
ウ 以上のとおり,本件土地1及び2について本件特例の適用をしなかった本件賦課決定処分は,地方税法73条の14第8項の解釈を誤ったものであり,違法である。
そこで,本件土地1及び2の譲渡について本件特例を適用し,地方税法附則11条の5第3項により,その登録価格の2分の1及び本件土地3ないし5の登録価格の2分の1を本件建物の価格から控除すると課税標準額は5億8770万9000円となる。
6億1307万8213円(本件建物の価格)-836万0830円(本件土地3ないし5の登録価格の2分の1)-1700万8161円(本件土地1及び2の登録価格の2分の1)=5億8770万9000円
そして,原告が支払うべき不動産取得税は,以下のようになる。
(ア) 課税標準額 5億8770万9000円
(イ) 不動産取得税額 2350万8300円((ア)×4%)
(2) 被告の主張
ア 本件特例の趣旨については,原告主張のとおりであるとしても,法の規定以上に原告に有利となるべき解釈をする理由も必要もない。そして,本件特例の「譲渡」の意義について,地方税法は,特に定義規定を置いていないのであるから,「譲渡した日」の解釈は,法律上の一般的な文言解釈によるべきである。
そこで,本件特例の規定を検討するに,本件特例上の「収用された日」は,収用が強制的に土地所有権を取得することをいうことや土地収用法の関連規定等から,権利取得裁決の効果として起業者が土地所有権を取得した日をいうと解され,「譲渡した日」が「収用された日」と並んで規定されていることからすると,「譲渡した日」とは,土地所有者が譲渡契約に基づいて土地の所有権を移転した日をいうものと解すべきである。
ただ,本件特例には,土地収用法のように,譲渡について権利移転の時期を定めた規定はない。そこで,民法の解釈を検討すると,民法176条によれば,物権の移転は,当事者の意思表示のみによって効力を生ずるものとされ,契約において所有権移転について特別の定めをしないときは,原則として,売買契約と同時に所有権移転の効力が生ずるものとされている。したがって,本件特例の「譲渡した日」は,当事者が売買契約において,所有権移転時期について特別の定めをしない限り,売買契約を締結した日をいうものと解すべきである。
また,不動産取得税の課税物件としての不動産の取得とは,不動産の所有権を取得することとされており,取得の時期は,不動産所得税の流通税としての性格,民法176条等を勘案すると,原則として不動産所有権の移転を目的とする契約が締結された時期と解すべきである。そして,不動産の収用等は,収用等の対象となる不動産の取得と裏腹の関係にあるのであるから,譲渡の時期については,被収用不動産等の所有権を失う原因となった法律行為の時期,すなわち,譲渡契約の締結日をいうものと解すべきである。
これを本件についてみるに,本件契約には,所有権移転時期について特別の定めがなされていないので,本件土地1及び2の所有権は,売買契約の締結と同時に,売主から買主に移転したものといえる。そして,このことは,原告が,被告に対し,平成10年12月28日売買を原因として,本件土地1及び2に係る共有者全員持分登記をしていること,埼玉県新都心建設事務所長作成の「公共事業用資産の買取り等の証明書」において,本件土地1及び2の買取りの年月日が,平成10年12月28日とされていることによっても裏付けられている。
したがって,原告が本件土地1及び2を「譲渡した日」は,本件契約の締結日である平成10年12月28日と解すべきであり,本件建物の取得(平成13年2月26日)はその2年以内に行われていないのであるから,本件土地1及び2は,本件建物の取得に対する不動産取得税の控除対象とはならない。
イ 原告は,本件変更契約の締結された日である平成11年3月31日をもって,本件土地1及び2を「譲渡した日」というべきであると主張する。しかしながら,本件変更契約は,本件契約によって原告から被告に所有権が移転したという法律効果を変更するものではない。
また,原告は,民法よりも所得税法の規律を参照すべきであると主張するが,所得税法が規定する譲渡所得税における「資産の引き渡しがあった日」は,資産の譲渡による収入があったとすべき日を定める基準となるものであり,流通税であるところの不動産取得税において不動産を「譲渡した日」をいつかを判断する基準となるものではない。
ウ したがって,本件賦課決定処分には,地方税法73条の14第8項の適用を誤った違法はなく,本件賦課決定処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1 租税法規の用語については,定義規定のあるものは定義規定により,定義規定のないものについては,既存の立法制度を前提とする特別の用語や法令用語であるものは別として,当該租税法規の趣旨,目的,前後関係等に照らして,一般社会通念に従い,経済的実質をも勘案して,解釈されるべきである。
そして,本件特例における「譲渡」ないし「譲渡した日」について,地方税法に定義規定はない。
2(1) ところで,不動産取得税は,流通税の一種であり,不動産を取得する者は一般にほかにも経済的負担能力を有しているであろうという推定のうえに立って担税力を把握し課税するものであって,不動産所有権の流通移転の事実自体に着目して課せられる名目課税的性質をもつ租税であるといわれる。
しかし,本件特例は,公共事業の用に供するため不動産を譲渡した者について,譲渡した日から2年以内に代替不動産を取得した場合に,代替不動産の不動産取得税の課税標準の算定において,被収用不動産の固定資産税登録価格相当額を控除し,もって不動産取得税を軽減することとしているところ,その趣旨は,個人の有する生活の基本ともいうべき不動産が本人の意思にかかわりなく強制的に譲渡させられた場合には,通常やむなくこれに代わるべき不動産を必要とすることが多く,従前の生活保持かつ生活保障のための再投資すなわち代替不動産の取得を税制が阻害する結果となることは相当でなく,むしろこのような場合には課税を軽減する措置を講ずることによってできる限り個人の財産権の維持,保障を図ることが合理的と考えられること,及びこのような取扱いにより公共事業用地の円滑な取得を図ることにあると解される。
(2) 同様に収用等に伴う資産の譲渡に対しては国税の上でも一定の優遇措置がとられている。すなわち,租税特別措置法33条では,土地収用法等に基づく収用等によつて資産を譲渡した場合に,その譲渡代金をもって収用等のあった日から2年を経過した日までに代替資産の取得をしたときは,その限度で譲渡所得は発生しなかったものと扱うこととしている。そして,その趣旨は,不動産取得税の場合と同様と理解される。
ところで,租税特別措置法33条の運用において,代替資産の取得期限の起算日である「収用等のあった日」とは,原則として,所得税基本通達36-12(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期)に定める日によるとされている(措置法通達33-7)。そして,上記所得税基本通達36-12は,要旨「山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は,山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。」とし,注意書きとして,引渡しの有無は当該資産に係る支配の移転の事実(例えば,所有権移転登記に必要な書類の交付)に基づいて判定されるべきこと,当該収入すべき時期は,原則として譲渡代金の決済日より後にならないことに留意することとしている。
上記通達の沿革をたどるに,譲渡所得又は山林所得の総収入金額の収入すべき時期については,かつて昭和26年の基通202により,「譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は,売買,競売,公売,交換,収用,出資等により,その所有権その他の財産権の移転する時とする。ただし,その移転の時が明らかにできないものについては,その譲渡契約が効力を生じた時とする。」と定められていた。しかし,特定物売買における所有権移転の時期は,当事者間の特約がない限り,売買契約締結時に移転するという説,売買契約締結時には当然には移転せず,代金の支払,目的物の引渡し又は登記などが完了された時に初めて所有権が移転すると解する説等さまざまであり,昭和26年の通達202の取扱いが,財産権の移転の時期を課税の時期とするといっても,売買契約の締結日,代金の支払日,目的物の引渡日,登記の日などのうち,いつの時点を所有権移転の日としてとらえるのか必ずしも明確でないとの批判があった。そこで,昭和45年に改正された通達において,譲渡所得の収入すべき時期の判定は,私法上の所有権移転という法律関係によるのではなく,現実に利得を享受し,それを支配管理しているか否かという事実関係に着目して行うべきであるという考え方から,農地等以外の資産の譲渡についてその収入すべき時期は,原則として資産の引渡しの時とされた(以上につき,DHCコンメンタール所得税法3巻3167頁以下,同コンメンタール所得税法(措置法)6巻5617頁,5649頁等に記載の所得税法基本通達36-12や措置法通達33-7に関する解説参照。)。
(3) 以上によれば,租税特別措置法33条の収用等の場合の課税の特例の運用においては,「収用等のあった日」とは,譲渡契約が締結された日ではなく,代金の支払,目的物の引渡し,登記等のいずれかか行われた日が起算日とされているものといえる(以下,この基準を「引渡し基準」ということがある。)。
そして,先に述べたように,不動産取得税における本件特例は,公共事業に協力し不動産をすすんで提供し,その結果やむなくそれに代わるべき不動産を取得した者について,自らの意思で自由な立場で不動産を処分し,取得した者との間の担税力等の相違を意識した立法で,その趣旨・目的は租税特別措置法33条の税優遇措置とほぼ共通するものがあることからすると,不動産取得税の適用の場面と租税特別措置法33条の適用の場面で同じく「収用等のあった日から2年以内に代替不動産を取得した」ことが要件となっていながら,起算日が異なるというのは合理的とはいえない。
そして,租税特別措置法33条の収用等の場合の課税の特例の運用においては,「収用等のあった日」とは,譲渡契約が締結された日ではなく,代金の支払,目的物の引渡し,登記等のいずれかが行われた日を起算日とするいわゆる「引渡し基準」は,今日確立された取扱いであり,かつ「譲渡日」を当該資産について実質的な支配管理を失った日から起算しようというもので,実質的にも合理的であり,基準としての客観性,明確性も備えているというべきである。そして,不動産取得税の場合にこうした解釈をとることが不都合であるという特段の事由も見出しがたい。
(4) 以上によれば,本件特例の「公共事業の用に供するため・・・不動産を譲渡し・・・た日から2年以内」の起算日は,譲渡契約締結の日ではなく,代金支払,目的物の引渡し,登記のいずれかが行われた日と解釈するのが合理的というべきである。そして,弁論の全趣旨によれば,本件土地1及び2について代金の一部が支払われたのは平成11年4月16日,移転登記は同年4月30日,引渡しはその後と認められ,原告が本件建物を取得したのは平成13年2月26日であるから,いずれにせよ原告の場合は「公共事業の用に供するため土地を譲渡した日から2年以内に代替不動産を取得」との本件特例の適用要件を満たしているというべきである。
(5) 被告は,本件契約の所有権移転の効力発生の時期については民法が適用される旨主張するが,地方税法における本件特例の解釈を民法に基づいて行う必然性はなく,仮に,民法を前提に考えたとしても,民法における所有権の移転時期については,これを実質的に判断する様々な解釈論が展開されており,さらには,段階的所有権移転説のように,所有権を種々の権利の集合体と見る考え方も提唱されているところである。そうだとすれば,本件特例において上記のような解釈をとることは,民法上の解釈と矛盾するわけでもない。
また,本件土地1及び2についての所有権移転登記の原因が平成10年10月28日売買となっていること及び埼玉県新都心建設事務所長作成の買取り等の証明書において,本件土地1及び2の買い取り等の年月日が,平成10年12月28日とされていることは,前記判断を左右するものではない。
3 結論
以上によれば,原告の本件建物の取得に係る不動産取得税の課税標準について,本件土地1及び2の譲渡を控除の対象としなかった本件賦課決定処分には,地方税法73条の14第8項の解釈適用を誤った違法があることになる。
したがって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 富永良朗 裁判官 櫻井進)