大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成15年(行ウ)3号 判決

原告 甲

同訴訟代理人弁護士 難波幸一

被告 川口税務署長

鈴木信

同指定代理人 本田利美

信本努

石川利夫

内田健文

山畑正

若山政行

大庭明夫

戸前美恵子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告が平成13年6月22日付けで原告に対してした平成12年分の所得税の更正処分のうち、還付金の額に相当する税額4万2960円を零円とした部分について取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

第2  事案の概要

1  事案の要旨

原告が、被告に対し、平成12年分の所得税の確定申告を行ったところ、被告は、原告の信用金庫からの借入金には、租税特別措置法41条(以下「措置法」という。)の規定は適用されないとして、還付金は零円であり、本税として4万2900円を納付すべきとする処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。そこで、原告が、上記借入金は居住用家屋の増改築等に係る借入金か既存住宅の取得に係る借入金に当たるから、これを看過した本件処分は措置法41条の解釈適用を誤った違法な処分であるとして、本件処分の取消しを求めた事案である。

これに対し、被告は、原告の所得税の課税価額及び納付すべき所得税額並びにその算定の根拠は、別表1のとおりであり、上記借入金は措置法41条の住宅借入金等特別控除の規定に該当しないから、本件処分は適法であると主張する。

本件の争点は、上記借入金が居住用家屋の増改築等に係る借入金か既存住宅の取得に係る借入金かであり、住宅借入金等特別控除を定めた措置法41条1項の適用を受けるのかどうかである。

2  基本的事実関係

(1)  本件建物

原告の父である乙(以下「乙」という。)は、昭和57年に、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、同年5月20日付けで、所有権保存登記をした。

原告は、本件建物新築後は、原告の両親とともに本件建物に居住していたが、平成3年に、原告が結婚するに伴い、原告及び原告の妻は、本件建物から川口市Aに、平成9年に同建物から鳩ヶ谷市のB(以下「Bマンション」という。)に転居した。しかし、原告の住民票上の住所地は、昭和35年以降一貫して、本件建物の所在地である川口市とされている。

(2)  本件建物の増改築

原告及び乙は、平成12年6月14日、株式会社C(以下「C」という。)との間で、以下の約定で本件建物の改築工事に関する請負契約を締結した(以下、この契約に基づく工事を「本件改築」という。)。

工期 着手平成12年6月26日

完成平成12年8月22日

請負代金 1095万4000円

支払方法 完成引渡しの時1095万4000円

上記工事は、平成12年6月ころ着工され、同年9月末ころから10月初旬ころに完成した。

原告は、本件改築工事完了後にBマンションから本件建物に入居した。

(3)  原告の借入れ

原告は、平成12年9月7日、D信用金庫との間で、貸主D信用金庫、借主原告、連帯保証人乙として、以下の約定による金銭消費貸借契約を締結した(以下、この契約に基づく借入金を「本件借入金」という。)。

借入金 500万円

返済方法 平成12年10月7日から平成27年9月7日まで

1か月3万7229円

借入金使途 住宅リフォーム資金

(4)  所有権移転登記

原告は、平成13年3月5日付けで、本件建物の持分100分の5について、平成12年12月15日贈与を原因とする所有権一部移転登記をした。

原告は、平成13年7月6日、錯誤を原因として、上記所有権一部移転登記の抹消登記をした。

原告は、同日、本件建物の持分242分の50について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記をした。

(5)  課税処分の経緯

ア 確定申告

原告は、平成13年3月14日、被告に対し、別表2の確定申告欄記載のとおりの平成12年分の所得税の確定申告書を提出した。

イ 本件更正処分

被告は、原告に対し、平成13年6月22日付けで、別表2の更正処分欄記載のとおりの本件更正処分を行った。

ウ 異議申立て等

原告は、平成13年6月29日、本件更正処分に対し、別表2の異議申立て欄記載の内容の異議申立てをしたが、被告は、平成13年9月26日付で、上記異議申立てを棄却した。

原告は、平成13年10月19日、上記棄却決定を不服として、国税不服審判所に対し、別表2の審査請求欄記載の内容の審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成14年10月9日付で、上記審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

(6)  本訴提起

原告は、平成15年1月15日、本件更正処分の取消しを求めて、本件訴えを提起した。

3  当事者の主張

(原告の主張)

(1) 居住用家屋の増改築等の借入金

措置法41条1項、2項は、居住者が、その者の居住に供している家屋で政令で定めるものの増改築等を行い、当該増改築等に係る部分を、平成9年1月1日から平成13年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合で、その者がその増改築等に係る一定の金融機関等からの借入金等を有する場合に、一定の金額を住宅借入金等特別控除額として、所得税の額から控除できる旨定めている。

ところで、措置法通達31の3-2は、「その居住の用に供している家屋」を、「その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する」として、硬直的、限定的には規定していない。そして、上記判定の留意点として、たとえその者が転勤、転地療養等の事情により、その家屋に現実に居住していない場合でも居住しているとみなすべきことを指示しており、この指示は明らかに居住に関する宥恕規定であり、措置法41条に直接関連する措置法通達41-1でも「居住の用に供した場合」について、同様の宥恕規定を掲げている。

原告の本件改築は、2世帯住宅にするためのものであるところ、2世帯住宅の増改築に至った経緯、その目的、原告の配偶者や子供の状況、2世帯住宅の構造及び設備等を総合勘案することなく、本件改築の時に原告が居住の用に供していないと断定する本件更正処分は、措置法通達の趣旨に反するものである。

本件では、①本件建物の所在地に原告が住民票をおき、一度も変更しなかったことは、本件建物を自分の生活の本拠と考えていたこと、②原告の結婚後、両親と別居したのは、本件建物の1階部分の約3分の2が店舗であり、弟、妹が同居しており、結婚生活に支障があったこと、③原告は両親の経営する法人の役員として、法人設立後(約13年間)本件建物の店舗に勤務し、1日かなりの時間を生活と仕事の場所として過ごしてきたこと、④弟、妹がそれぞれ結婚して2階部分が空室になり、別居する理由がなくなった段階で、両親から同居を要望されたこと、⑤その要望に同意し、2世帯住宅の機能を有する本件改築をすることを合意した時点で、実質的に居住したとみなすべき状況になったこと、⑥1000万円以上を要する家屋の大改築は、新たな住宅の取得に匹敵するもので、事前の入居は事実上不可能であること、⑦工事が完了して引渡しがなされて、直ちに本件建物に入居していることを総合勘案すれば、原告の居住に至る経緯はいささかも措置法41条の趣旨に背理するものではなく、むしろこれからの高齢化社会に向けての住宅政策の有り様に合致している。

したがって、本件においては、本件改築の時点で原告が本件建物に現実に居住していなくても、「居住の用に供している」という要件に該当すると解すべきである。

(2) 既存住宅の取得に係る借入金

乙と原告は、費用を出し合って本件建物を増改築し、2世帯住宅に改造して、共に居住することを計画し、工事に要する費用計1095万円のうち原告は500万円を負担することととし、平成12年9月7日、本件工事費用として原告は、500万円をD信用金庫から借り受けたものであるが、この工事費用を負担することの対価として平成12年9月ころ、原告と乙は、改造後の家屋を原告と乙の二人の共有とすることに合意したものである。これを逆に言えば、本件工事代金を原告が負担することは本件建物共有持分取得の対価としてであって、そのための借入金はまさに「住宅の取得に係る一定の借入金又は債務の金額を有するとき」に該当する。

以上から明らかなとおり、本件建物は、居住用家屋で建築後使用されたことのある家屋であり、政令(措置法施行令26条2項)で定めるものに該当する。そして、原告はその共有持分を平成12年9月下旬から10月上旬ころ取得したものであるが、その取得は配偶者その他その者と特別の関係がある者からの取得で政令(措置法施行令26条3項)で定めるものでもないし、贈与によるものでもない。そして、原告は、遅くとも平成12年10月6日ころには本件建物に居住するようになっているので、本件は、措置法41条1項の後段の既存住宅の取得の場合の借入金に該当する。

(被告の主張)

(1) 居住用家屋の増改築等に係る借入金

措置法41条1項が増改築等の要件として規定している「その者の居住の用に供している」とは、新築等の場合の「住宅の用に供する」との規定と異なり、当該居住者が現にその居住の用に供していることをいい、増改築工事等の開始時点において、現に当該居住者の居住の用に供されていることを要するものと解される。

また、措置法41条1項に規定する増改築等とは、同条4項で当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他の政令で定める工事で当該工事に要した費用が100万円を超えるものであることその他の政令で定める要件を満たすものとされている。さらに、措置法41条4項に規定する「政令で定める工事」について、同法施行令26条19項1号が、「増築、改築、建築基準法2条14号に規定する大規模の修繕又は同条15号に規定する大規模の模様替えで、当該工事に該当するものであることにつき財務省令で定めるところにより証明がされたもの」と規定している。

したがって、措置法41条1項に該当するためには、増改築を行おうとする住宅が、増改築工事等の開始時点において、その者の所有するもので、かつ、現にその者の居住の用に供されているものであることを要する。

そして、本件では、本件改築工事が平成12年6月ころ着工されており、仮に原告の主張するとおり平成12年9月下旬ころから10月上旬ころに原告が本件建物の持分を取得したとしても、原告は、本件建物の持分を、増改築工事等の開始後に所有するに至ったというにすぎない。

また、同法施行令26条4項は、「居住者がその居住の用に供している家屋とし、これを2以上有する場合には、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする」と規定するが、原告は、本件改築工事が行われた当時、Bマンションに居住していたのであり、本件建物に居住していなかったから、本件建物は、現に居住の用に供しているものでないことは明らかである。

(2) 既存住宅の取得に係る借入金

措置法41条1項は、既存住宅の取得の場合の適用要件について、既存住宅の取得をして、当該家屋を居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得に係る一定の借入金又は債務の金額を有するときと規定しており、ここにいう借入金について、既存住宅の取得に要する資金に充てるための借入金を意味していることは明らかである。

ところが、本件借入金は、原告自身が本件工事費用として金500万を借り受けたと自認するとおり、飽くまで本件改築工事に要する資金1095万円のうちの一部に充てるために借り入れられたものであり、本件建物共有持分取得に要する資金に充てるためのものではない。そして、本件改築工事は、原告及び乙と請負業者であるCとの間で締結された平成12年6月14日付け工事請負契約書に基づき施工された。このように、本件借入金は、Cに支払うべき請負代金に充てるために借り入れられたものであるから、これを原告らと請負業者間の法律関係とは別個の原告と乙との間の共有持分譲渡についての契約に基づく債務に充てるためのものと解する余地はない。

第3  当裁判所の判断

1  居住用家屋の増改築等に係る借入金について

(1)  措置法41条1項は、居住者が、その者の居住の用に供している家屋で政令で定めるものについて増改築等を行い、当該増改築等に係る部分をその者の居住の用に供した場合において、増改築等に係る一定の金融機関等からの借入金等について一定の住宅借入金等特別控除の額を所得税の額から控除する旨規定し、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下「本件特例1」という。)を定めている。

(2)  そして、措置法41条4項は、「第1項に規定する増改築等とは当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他政令で定める工事で当該工事に要した費用額が100万円を超えるものであることその他の政令で定める要件を満たすもの」とされているから措置法41条1項に該当するためには、増改築等を行おうとする住宅が、増改築工事等の開始時点においてその者の所有するものでなければならない。しかるに、本件建物は、昭和57年に乙が新築所有したものである。そして、本件では、本件改築工事が平成12年6月ころ着工されており、仮に原告の主張するとおり平成12年9月下旬ころから10月上旬ころに原告が本件建物の持分を取得したとしても、原告は、本件建物の共有持分の一部を、増改築工事の開始後に所有するに至ったというにすぎないから、原告は本件改築工事開始の時点において本件建物を所有していなかったというほかはなく、本件改築は措置法41条1項に定める特別控除の対象となる増改築等には当たらないというべきである。

(3)ア  また、本件改築は、居住の用に供している家屋についての増改築等に当たるかどうかが問題となるが、上記「居住の用に供している」との要件は、増改築等をした者が現に居住の用に供していることを要するところ、現に居住の用に供していることに該当するかどうかは、当該家屋の所有者及びその配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して行うべきである。

そこで、本件を検討すると、本件改築を開始したのは平成12年6月ころであり、原告が本件建物に入居したのは本件改築が完了した9月末から10月初旬以降である。また、原告や原告の妻は、平成3年に結婚して本件建物から他に引っ越しており、本件改築完了後まで本件建物で居住していたことを窺わせるような事情は本件証拠上認めることはできない。

したがって、本件建物は、措置法41条1項に定める「居住の用に供している家屋」には当たらないから、この意味でも本件借入金の本件特例1の適用はない。

イ  もっとも、原告は①本件建物の所在地に原告が住民票をおき、一度も変更しなかったので、本件建物を自分の生活の本拠と考えていたこと、②原告の結婚後、両親と別居したのは、本件建物の1階部分の約3分の2が店舗であり、弟、妹が同居しており、結婚生活に支障があったこと、③原告は両親の経営する法人の役員として、法人設立後(約13年間)本件建物の店舗に勤務し、1日かなりの時間を生活と仕事の場所として過ごしてきたこと、④弟、妹がそれぞれ結婚して2階部分が空室になり、別居する理由がなくなった段階で、両親から同居を要望されたこと、⑤その要望に同意し、2世帯住宅の機能を有する本件改築をすることを合意した時点で、実質的に居住したとみなすべき状況になったこと、⑥1000万円以上を要する家屋の大改築は、新たな住宅の取得に匹敵するもので、事前の入居は事実上不可能であること、⑦工事が完了して引渡しがなされて、直ちに本件建物に入居していること等から考えれば、原告は本件建物を「居住の用に供していた」というべきであり、原告の居住に至る経緯はいささかも措置法41条の趣旨に背くものではなく、むしろこれからの高齢化社会に向けての住宅政策の有り様に合致していると主張する。しかし、措置法等租税法規の適用は、租税法律主義の原則及び課税の公平の原則並びに迅速な課税処理という徴税技術上の観点から、統一的、画一的な基準によって判断されるべきであり、上記事実が認められるとしても、前記の結論を左右するものではない。

2  既存住宅の取得に係る借入金について

(1)  措置法41条1項は、建築後使用されたことのある家屋で政令で定めるものの取得をして、当該家屋を居住の用に供した場合において、その者が当該家屋の取得に係る一定の借入金等について一定の住宅借入金等特別控除の額を所得税の額から控除する旨規定し、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特例控除(以下「本件特例2」という。)を定めるが、その場合の借入金とは、上記家屋の取得に要する資金に充てるための借入金のことである。

しかし、原告の本件借入金は、住宅リフォーム資金として借り入れたことは乙3、8より明らかであり、本件建物の持分を取得するために借り入れたものとは認められないから、本件借入金につき、本件特例2の適用はないと解するのが相当である。

(2)  本件では、原告は、本件建物の増改築等の資金を借入れにより一部負担し、その後本件建物の一部持分を取得した事実が認められるが、そのことを考慮してもその借入金を措置法41条に定める特別控除の対象となる既存住宅の取得に係る借入金に該当すると認めることはできない(他人の建物の増改築等のために借入れをし、その後当該建物の一部の持分を取得した場合に、当該借入金につき所得税の税額控除を認めるかどうかは立法政策の問題に帰する。本件に、措置法41条を類推して適用することは、租税法規の客観的性格、法的安定性の要請からして相当でない。)。

3  よって、本件には、措置法41条1項の適用はなく、その他の計算にも違算はないと認められるから、本件更正処分は適法なものというべきである。

以上から、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田建夫 裁判官 都築民枝 裁判官 松村一成)

別表1

file_2.jpgmsl] C] Pare o |% Boe w 2, 340, 000 ® a a 2, 840, 000 FARR OSHS 969, 600 @ |eeercensemee ° 2 a * 37, 000 ® |e * ® s 27, 400 |x ® te am 600 eH 2 Re °

別表2file_3.jpgAlea) sae | ae Te |» « ola o| one | meme | SRE gw mca [rs 3-14] 2ssoo00) sao ewe |13- 2.340 00 0 ° H & smaiz |ao- sar00]—Asz.e0 mesa |13- = game [1-10-10 sa. 70 mea [a4 BD) MEMDAR, RAROMIC DST SRE CH SS CERT

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例