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さいたま地方裁判所 平成14年(わ)1606号 判決

主文

被告人を懲役3年に処する。

未決勾留日数中50日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1自転車で通行中のA(当時14歳)を自己の運転する普通乗用自動車内に連行した上,同車内で同女を強いて姦淫しようと企て,平成14年8月23日午後7時35分ころ,埼玉県a市b番地西側路上において,同女に対し,両手でその上体を突き飛ばして自転車もろとも転倒させ,その頸部をつかみ,口を塞ぐなどして同女を同所に停車中の上記普通乗用自動車の助手席に押し込むなどの暴行を加え,同車を直ちに発進させて疾走させた上,走行中の同車内において,同女の着衣等をつかみながら,「言うことを聞いたら帰してやる」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,同日午後7時40分ころ,同市c番地先路上に至り,走行中の同車内から同女が飛び降りて逃走したため,その目的を遂げず,

その間約5分間にわたり,同女が同車内から脱出することを不可能ならしめ,もって,同女を不法に逮捕監禁し,

第2同日午後7時45分ころ,同市b番地畑内において,前記A所有に係る現金約300円及び本4冊外5点在中のバッグ1個(時価合計約1万2100円相当)を窃取し

たものである。

(証拠の標目)

-省略-

なお,弁護人は,判示第1の事実につき,被告人は姦淫行為には及んでおらず,実行の着手がないから,強姦未遂罪は成立しないと主張する。

しかしながら,被告人の捜査段階の供述その他関係証拠によれば,被告人は,自転車に乗って対面して進行してくる被害者を認めて興味を抱き,同女とすれ違った後,同女に声を掛けてナンパしようと考え,脇道を右折して元来た道路に戻ったところ,同女が暗い畑の中の道を進んで行くのが見えたことから,いっそのこと同女を車の中にら致して適当な場所で強姦しようと決意し,自転車に乗った同女を追い越して公訴事実記載の埼玉県a市b番地西側路上に先回りをし,同所でエンジンを掛けたまま同女が近付いて来るのを待ち伏せた上,いきなり運転席側のドアを開けて外に出て,自転車に乗った同女の上体を両手で突き飛ばす暴行を加えて,同女を自転車もろとも路外の畑の中に転倒させ,転倒した同女の頸部をつかみ,口を押さえるなどして,止めておいた車まで連行し,両手で車体をつかみ,両足を踏ん張って車内に連れ込まれまいとする同女の抵抗を排除し,同女を運転席側ドアから助手席のシートに押し込み,直ちに車両を発進させ,疾走していることが認められる。

以上の事実を前提に検討すれば,被害者の抵抗を排除して,被害者を車内に押し込み,車両を発進させた段階において,すでに姦淫に至る具体的かつ客観的危険性が明らかに認められるのであって,その時点において強姦行為の着手があったものと解されるから,所論は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為のうち,逮捕監禁の点は包括して刑法220条に,強姦未遂の点は同法179条,177条前段に,判示第2の所為は同法235条にそれぞれ該当するが,判示第1の逮捕監禁と強姦未遂は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として重い強姦未遂罪の刑で処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中50日をその刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,自転車で通行中の被害者を強いて姦淫しようと企て,被害者を突き飛ばして転倒させるなどの暴行を加えて,自動車内に押し込んで車両を発進疾走させたが,被害者が走行中の車内から飛び降りて逃走したため,その目的を遂げなかったという逮捕監禁,強姦未遂(判示第1の事実)と,その後,被害者をら致した現場に戻り,上記暴行の際に被害者が落とした現金や本などが在中するバッグを窃取した(判示第2の事実)事案である。

被告人は,普通乗用車を運転して勤務先から帰宅する途中,たまたま自転車に乗って通り掛かった被害者を見掛けて興味を抱き,声を掛けてナンパしようと考え,同女を車で追尾するうち,同女が暗い畑地に入って行ったことから,いっそのこと同女を車の中にら致して強姦しようと企て,実行に及んだというもので,欲望の赴くまま犯行に及んでおり,犯行の動機は,安易かつ短絡的で,酌量の余地はない。

犯行の態様も,人気のない暗い畑地に入って行った被害者を追い越して先回りをし,道端でエンジンを掛けたまま被害者が近付いて来るのを待ち伏せ,自転車に乗った被害者が通り掛かったところを,いきなり突き飛ばして自転車もろとも路外の畑の中に転倒させ,被害者の口を塞ぐなどして,止めておいた車まで連行し,両手で車体をつかみ,両足を踏ん張って,必死に抵抗する被害者を強引に車内に押し込み,直ちに車両を発進させ,逃走を防ぐために片手で被害者の着衣をつかみ,その間,被害者に対して「言うことを聞いたら返してやる」などと言って脅迫し,被害者の反抗を抑圧して,姦淫行為に及ぼうとしており,卑劣で悪質である。その上被告人は,被害者に逃げられた後,現場に残した自己のサンダルを取りに引き返したものの,被害者のバッグが現場に落ちているのを見付けると,小遣い銭欲しさから何のためらいもなくこれを窃取しているのであり,悪質というほかない。被害者は,当時14歳の女子中学生であり,夏休み期間中,学習塾で勉強して帰宅する途中,自宅の近くまで来たところで,突然,見知らぬ被告人に襲われ,自動車内に押し込まれて監禁され,連れ去られようとしたもので,被害者が危険をも顧みず,走行中の車内から飛び降りたため,難を逃れることができたとはいえ,被害者の被った恐怖感は大きかったと推察され,14歳の少女に与えた肉体的,精神的苦痛は計り知れない。ところが,これまで,被害者に対しては,十分な謝罪ないし慰謝の措置は講じられていないのであって,被害者や保護者が,被告人に対して厳重な処罰を求めているのも当然である。これらの点からすると,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。

そうすると,被告人が,事実を認め,被害者に謝罪の手紙をしたためるなどして反省の態度を示していること,姦淫行為自体は未遂にとどまっていること,監禁された時間もそれほど長時間ではないこと,窃盗の被害額もそれほど高額ではなく,被害品はほぼ還付されていること,家庭には4歳を頭に幼い二人の子供を抱えていること,妻と実母が,更生に助力することを誓っていること,交通関係を除いて前科前歴がないこと,被害者に損害金として30万円を弁済供託していることなど,被告人のためしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,本件が執行猶予を相当とする事案であるとは認められず,主文掲記の科刑は免れない。

(求刑 懲役4年)

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 森浩史 裁判官 岩井佳世子)

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