大判例

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さいたま地方裁判所 平成14年(わ)1323号 判決

主文

被告人を死刑に処する。

理由

(犯行に至る経緯等)

1  被告人の身上・経歴等

被告人は,大正13年8月17日埼玉県a村で出生し,地元の尋常小学校卒業後奉公に出され,その後鉄工所などで働いていたが,やがて召集を受け,終戦後はとび職や土建工などとして稼働し,昭和30年代に知人と砂利採取会社を設立して取締役に就任し,昭和41年ころ同社の取締役を辞めてからは生活費に窮して借金を重ねるようになり,そのため,当時内縁関係にあった女性と不仲となり,同女との別れ話や金銭関係のもつれから,昭和43年1月16日同女を殺害した上,死体もろとも同女方を焼損する事件を起こし,昭和44年8月1日,b地方裁判所c支部で懲役20年に処せられ,その後同判決の確定に伴い,d刑務所で服役するに至った。

昭和59年6月14日,仮出獄を許された被告人は,実の兄弟に引き取り手がいなかったため,身柄引受人となってくれた義姉のD方に身を寄せて近所の鉄工所に勤めるなどしていたが,同年11月ころ,知人の紹介でEが経営するE養鶏場で稼働するようになり,まじめな働きぶりから,次第に同人の信頼を得るようになった。

2  B及びCの身上・経歴等

Bは,昭和11年3月7日埼玉県e町で出生し,地元の尋常小学校卒業後,家事手伝いをしていたが,昭和四二,三年ころから,同県f市内のF養鶏場に住み込みで働くようになり,また,Cは,昭和15年11月25日埼玉県e市で出生し,中学校卒業後,奉公に出されたり,会社勤めをするなどした後,昭和四二,三年ころから,上記F養鶏場で働くようになり,両名は,同養鶏場の経営者の勧めにより,昭和44年11月結婚し,夫婦で,同養鶏場に住み込んで働いていたが,昭和60年10月ころ,同養鶏場が廃業したことから,福祉事務所の紹介で,同月14日から,E養鶏場に住み込みで働くようになり,同県c市(番地略)所在の通称g鶏舎の近くにプレハブ住宅をあてがわれて居住していた。BとCは,E養鶏場に勤め始めたころ,精神薄弱(精神遅滞)の認定を受け,昭和61年2月から国民年金障害基礎年金(一人当たり年62万円余り),同年3月からc市重度心身障害者手当(一人当たり年6万円)をそれぞれ受給していた。

3  犯行に至る経緯等

Eは,地元の中学校を卒業後,自宅で農業を手伝っていたが,昭和35年ころから,農業の傍ら養鶏の仕事を始め,昭和50年ころから,「E養鶏場」の名称で本格的に養鶏業を営むようになり,当初は経営も比較的順調で,前記のとおり,昭和59年11月ころ,被告人を雇用し,さらに,昭和60年10月B夫婦を雇用したが,当時,従業員は,被告人とB夫婦のほかには,男性従業員1名と女性のパート数名しかおらず,その中で,Eは,よく働く被告人に信頼を寄せ,被告人を自己の右腕として養鶏場の経営の相談をするなどしていた。

ところで,昭和61年ころまで,鶏卵価格は比較的高値で安定して推移していたので,Eは,鶏の飼育数や鶏舎数を増やすとともに,自動給餌機を導入したり,育雛室を設置するなどして事業規模を拡大していたが,昭和62年に入ると,鶏卵価格が暴落し,養鶏業界全体が深刻な不況に陥ったため,これまで積極経営によりかさんだ借金を抱えて,経営の先行きに強い不安を感じたEは,生産コストを削減するために新たに高床式の鶏舎の導入などを考えたものの,その建設費用を調達することもできず,経営状態は次第に悪化するようになった。

そして,昭和63年に入っても,鶏卵価格は安値で推移したため,E養鶏場の経営状態は益々悪化し,鶏の飼料の納入業者に対する買掛金の額も膨らむ一方で,納入業者からはEの自宅を担保に入れるように求められたものの,Eが,自宅を担保に入れることをかたくなに拒んだため,窮状を見かねた納入業者の協力を得て,金融機関から借入を起こして何とか当座の支払を済ませたが,その後も収益は上向かず,平成元年に入ると,買掛金債務が株式会社G商店に対して500万円余り,有限会社H商店に対しては1800万円余りにも達し,厳しい督促を受けるようになっていた。

ところで,Eは,B夫婦に対して,両名合わせて月額10万円の給料を支給していたが,B夫婦を雇用するに際し,同人らの親族に対して,生涯生活の面倒をみると言って約束し,B夫婦の障害者手当が振り込まれる銀行口座を自分が管理することを了承させており,さらに,不況のあおりを受け始めた昭和62年6月ころには,Bの実姉やCの実兄らに対して,B夫婦が生きているうちに年金を使いたいなどと申し入れて,B夫婦の障害基礎年金の受給口座を自分が管理する同人らの口座に変更させて,B夫婦に支給される障害者手当や障害基礎年金を養鶏場の経費に流用するなどしていた。

一方,Eは,昭和57年ころから,養鶏場の従業員に対して,死亡・後遺障害保険金額580万円のI保険株式会社の傷害保険を掛け,毎年これを更新していたが,E養鶏場の経営がひっ迫するようになった後の昭和62年10月19日,これに加えて,J保険相互会社との間で,Bに死亡・後遺傷害保険金額2000万円,Cに保険金額1500万円とする家族傷害保険契約を締結し,併せてB夫婦の住んでいる建物と家財道具にも,保険金額をそれぞれ200万円とする火災保険契約を締結し,昭和63年10月10日,上記各保険契約を1年間更新し,その際,B夫婦が死亡した場合の保険金受取人を自己に指定するなどしていた。

こうして,Eは,養鶏業界の不況から,収益が低迷して経営が悪化し,飼料の納入業者から買掛金の支払を毎月厳しく請求され,B夫婦に支給される障害者手当や障害基礎年金を流用するなどしてやりくりしていたが,それだけでは到底間に合わず,このままでは自宅をも失うことになりかねないほど経営がひっ迫したことから,この状況を打開するためには,B夫婦とその居宅に掛けていた保険金を手に入れるほかはないと考えるようになり,保険金を入手するため,B方の住居に放火して同人らを殺害しようと決意するに至った。

被告人は,平成元年3月下旬ころ,上記のような経緯で,B方住居に放火して保険金殺人を企図したEから,「Bの家にガソリンをまいて火をつけてくれ。ガソリンは,おれが用意するから。Bたちは昼間仕事で疲れてるから,一杯飲ませれば,すぐに寝るから。

家の外と玄関にガソリンをまいて火をつけてくれ」「家の中にいる二人は逃げられない。

そうすれば,二人は完全に死ぬ」などと言われ,B方に放火して,B夫婦を殺害することを依頼された。依頼を受けた被告人は,仮釈放が取り消されることをおそれて,「執行猶予中だからできません」などと答えていったんは断ったが,Eから「刑務所に行ってきた奴なんかを使うところはない。おれだからお前を面倒見ているんだ」などと恩着せがましく言われるとともに,「一生面倒を見てやる。家も建ててやる」などと報酬を約束され,さらに,「とにかくやってくれないとおれが困るんだ。なんでかんでやってくれ。どうしても金が必要なんだ」などと必死になって頭を下げて頼み込まれたため,刑務所帰りの自分を他の従業員に比べて高給で雇ってもらっていることなどから,Eに対して恩義を感じており,Eの頼みを断って養鶏場を辞めさせられたりすれば,他に雇ってくれるところもなく,当時,身を寄せていた義姉からは仮釈放期間が過ぎたら早く家から出て行くように言われていたこともあったため,路頭に迷うことになるなどと考え,この際,Eの依頼を引き受けようと思い直すとともに,Eが,B夫婦に掛けてある保険金を手に入れる目的で,B方に放火して同人らを殺害するという重大な犯罪を犯そうとしているのだと考えて,このような犯行に加担するのであれば,家を建ててもらう以外にもまとまった金も欲しいと考え,Eに対し,「いくら出せるんですか」と言って報酬としていくら払うか尋ねたところ,Eから,目の前で片手を広げて見せられ,「これだけ出す」「今はない。後で払う」と言われ,後払いで500万円の報酬を支払う旨の返事をされ,さらに,「とにかく早くやってほしいんだ」などと言われて,早急に実行するように依頼されたため,被告人は「分かりました」と言って承諾し,ここに,被告人は,Eとの間で,B夫婦の住む住居に放火して,B夫婦を殺害する共謀を遂げた。

その後,同年4月初旬ころ,被告人は,Eから「ガソリンをBの家の近くに持って行って置いてあるから」と言われ,B方の周囲を探したところ,Eから言われたとおりポリタンクが置いてあるのを見つけ,中にガソリンのようなものが入っていることを確認して,ポリタンクのふたを針金で封をして鶏舎付近の空き地に隠匿し,犯行の機会をうかがっていた。被告人は,Eから言われていたとおり,酒を飲ませてB夫婦を眠らせた後,同人方にガソリンをまいて火を付けようと考えていたが,Eの言うように家の外にガソリンをまいて火を付けたのでは,すぐに発見されて消し止められたり,自分がやけどをするのではないかと心配になり,家の中にガソリンをまいて火を付けることにして,同月5日に実行することにした。

同月5日,被告人は,仕事を終えた後,酒やつまみを携えてB方を訪れ,B夫婦に酒を勧めてしばらく一緒に飲んでいたが,やがて,BとCが眠そうな様子をみせたことから,同人らが寝入るのを待ち,頃合いを見計らって,鶏舎の近くに隠しておいた上記ポリタンクを取りに向かった。

(罪となるべき事実)

被告人は,以上のような経緯で,Eが,同人が経営する養鶏場の従業員B(当時53歳)及びC(死亡当時48歳)に掛けられていた死亡保険金並びに同人らの居住する家屋等に掛けられていた火災保険金等を入手する目的で,同家屋に放火して同家屋もろとも上記両名を殺害しようと企図していることを知りながら,報酬等を得る目的で,Eと共謀の上,平成元年4月5日午後9時過ぎころ,埼玉県c市(番地略)所在の上記B方(鉄骨平屋建てプレハブ住宅,建坪約19.83平方メートル)において,被告人において,戸外から室内の様子をうかがい,8畳和室で毛布を掛けて寝入っているBとCの様子を確認すると,玄関口付近や台所,8畳和室,浴室等に,順次,前記ポリタンクからガソリンを含む鉱物油類をまき,その途中,Bが目を覚ましたのに気付いて「寝てろ」などと言って,更に上記鉱物油類をまいた上,マッチで点火して火を放ち,よって,現に同人らが住居に使用している上記家屋を全焼させるとともに,そのころ,就寝中のCを焼死させて殺害したが,Bは火事に気が付いて戸外に逃げ出したため,同人に対し全治まで約4箇月間を要する右手背部及び左下肢踵部等に深達性火傷の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかったものである。

(事実認定の補足説明)

被告人は,本件公訴事実について,B方にガソリンをまいて火を付けて同人夫婦を殺害することをEから依頼されたことは認めるものの,B方にガソリンなどの油をまいたことも火を付けたこともないと述べて弁解し,弁護人も,被告人の弁解供述に依拠して,被告人が本件実行行為に及んだことを認めるに足りる証拠はないから,被告人は無罪であると主張するので,以下,当裁判所が,判示事実を認定した理由を補足して説明する。

第1犯行に至る経緯及び犯行前後の状況について

1  関係証拠によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被告人及び被害者両名の身上経歴並びに被告人とEとの関係等は,先に認定したとおりであるが,本件当時,E養鶏場の経営状態は相当に悪化しており,これを打開する手だてもないまま,Eは飼料業者から買掛金の支払を強く迫られており,それ以前から,Eは,BとCに支給される障害者手当と年金を自己の管理する口座に振り込ませて,養鶏場の経費に流用していたこと,Eは,BとCの住んでいる居宅等に火災保険を掛けるとともに,同人らにも高額の死亡保険を掛け,保険金の受取人を自己に指定していたこと。

(2) 平成元年4月5日午後9時20分ころ,B夫婦が就寝中に同人方で火災が発生し,通報を受けて臨場した消防隊が消火活動にあたったが,建物は全焼し,Cは,8畳和室で一酸化炭素中毒,気道内への媒片吸引,気道熱傷等が総合した広義の火傷死によって死亡し,Bは,右手背部及び左下肢踵部等に深達性火傷を負い,付近の用水路にしゃがみ込んで震えているところを消防隊員に発見され,救急車でc外科病院に搬送され,同年8月12日まで130日間入院治療を受けたこと,火災が発生した同年4月5日,被告人は,E養鶏場での仕事を終えた後,B方を訪れ,本件火災が発生するまで同人方付近にいたこと。

(3) 翌4月6日,火災現場の検証が行われたが,本件居宅の台所から灯油ようの油臭がしたことから,床板に水をまいたところ,油紋が浮かび上がり,8畳和室の床板にも水をまいたところ,円形に水をはじくところが散在し,さらに,Cの着衣からガソリン及び灯油の付着が認められたこと,本件居宅内のガステーブルや風呂釜などはいずれも点火状態にはなく,居室内にあった石油ストーブにも異常燃焼の形跡はなく,本件火災の原因として失火の痕跡は全く認められなかったこと。

(4) 本件火災の後,Eは,罹災証明書の交付を申請するなどして必要書類を整え,I保険株式会社やJ保険相互会社等に保険金の支払を請求し,Cが加入していたK保険相互会社からの生命保険金を含め,同年11月までに,保険会社各社から,Cの死亡保険金,Bの傷害保険金等のほか,本件居宅の火災保険金等合計2773万円余りを取得したこと。

(5) 一方,被告人は,同年4月26日に仮出獄期間が満了したことから,それまで居住していた義姉方を出て,E養鶏場の作業所に居住するようになったが,Eは,退院したBを被告人と一緒に住まわせた後,本件居宅の跡地に新しい家屋を建ててBにあてがい,火災前と同様にE養鶏場で働かせていたこと,被告人は,同年8月ころから自宅を新築する準備をし,大工をしていた甥のLに総額415万円で自宅の建築を請け負わせ,同年12月にEから内金として現金100万円がLに交付され,平成2年6月までに被告人から残代金が支払われ,また,平成2年2月ころ,Eは,業者に,被告人の自宅の建築予定地に井戸の掘削を依頼し,同年4月ころ,代金として約46万円を業者に支払ったこと,同年6月ころ,被告人の自宅が完成したが,その後,平成3年11月7日,Eから被告人に対して現金300万円が交付されたこと,Eが記載していた金銭出納帳には,「(6日)Aと話合い」「(7日)Aへ300万やる(Mと2人行く)」とのメモが残されていたこと。

2  以上の事実が認められるところ,本件火災現場の客観的状況に照らしてみると,本件火災の原因が失火であるとは認められず,本件火災は,何者かが,B方居宅内にガソリン等の油類をまいて放火した結果発生したものであることが明らかである。そして,Eが,厳しい経営状況であったにもかかわらず,自ら保険料を負担し,十分な給料で処遇しているとはいえないBやCに高額な生命保険等を掛け,また,さして財産的価値があるとは思われない本件居宅等に火災保険を掛けるなどしていたという事実に徴すると,Eの契約した保険契約は不自然というほかなく,Eに不正な意図があったことを強く推認することができる。また,本件火災後,Eは保険会社各社に対して執ように保険金の支払を請求し,一方,被告人は,本件火災後しばらくして,自宅の新築を始め,代金の内金がEから施工業者に支払われており,また,その後,Eから被告人に対して趣旨の明らかでない300万円もの現金が交付されている事実が認められるのであり,こうした事実は,Eと被告人が,本件火災に深く関わっていることを強く推認させる事情といえる。

そこで,次に関係者の供述について検討する。

第2Bの公判供述について

1  Bは,本件火災に遭った際の状況について,当公判廷において,要旨,以下のとおり供述している。

すなわち,本件当日,仕事を終えて帰宅すると,被告人が訪ねて来た,自分とCと被告人の3人で1時間くらい何かを飲んだり食べたりした,その後,電気を付けたまま自分とCが畳の部屋で寝ていると,ピシャピシャという何かをまいているような音がして,掛けていた布団か毛布が湿っているような感じがして目を覚まし,上体を起こして部屋の入口辺りをみると,被告人が,腰を曲げ,両手に持った四角く白っぽいポリタンクを斜めに傾けたりしていた,この時,部屋の電気は付いていた,入れ物の形からまいているのは油かと思った,はっきり覚えていないが,いくらかにおいもしていたと思う,被告人から「寝てろ」と言われたので,そのまま横になっていた,その後,周りから一瞬にして部屋の中が燃えてきた,被告人が火を付けるのは見ていない,Cが「何すんだい」と言ったような気がするが,よく分からない,怖くなって玄関から外に出ると,被告人が表に立っており,被告人は,自分の背中や胸や腕をさすっていたが,そのうちに,「Cちゃんを助けろ」と言いながら自分の背中を押して,燃えている家の中に入れようとした,自分は,火の中に入れられると思って逃げ出し,家の北の方にある堀の中に入ってしゃがみ,服に付いた火を消していると,消防士のような人が助けてくれた。Bの公判供述の要旨は以上のとおりである。

2  そこで,Bの上記供述の信用性について検討する。

(1) 同人の供述は,事件から13年以上が経過していることから,記憶が明確でないところもみられ,同人の知的水準が通常人に比してやや劣っている境界線知能にあることや,これまでの生活環境から,表現方法は稚拙ではあるが,自己の体験した事実をとつとつと語り,自己の記憶している事実を懸命に明らかにしようとする真しな供述態度が見られ,また,供述内容も,真実体験した者でなければ語り得ない臨場感のある,迫真性に富んだ具体性のあるものであり,火災現場やCの着衣からガソリンや灯油が検出されたという客観的事実や,Bを発見して救助した消防隊員の供述等第三者の供述とも符合している。また,関係証拠によれば,Bは,事件直後,消防隊員の問いかけに対して,「おじちゃんに火をつけられた」と答え,また,その後の警察官の事情聴取に対しても,ポリタンクを持った被告人を見た旨,公判供述と同様の供述をしていたことが認められ,その後,後述するとおり,ガスコンロによる失火であったかのような虚偽の供述をするに至ったものの,事件から約13年経過した平成14年2月に,改めて警察官から事情聴取を受けた際にも,初めはガスコンロによる失火であると供述していたが,その後,引き続き事情聴取を受ける中で,被告人が,ポリタンクを持って油をまいていた旨の,当初の供述及び公判供述と同様の内容の供述を一貫してしており,公判廷での弁護人の反対尋問に対しても,供述の核心部分は全く動揺していない。

(2) 捜査段階でBの知的能力等を診断した証人Nの当公判廷における供述並びに同人作成の中間回答書(証拠番号略)及び意見書2通(証拠番号略)によれば,Bの知的能力は境界線知能の水準にあるが,日常生活上での認識能力や判断能力には問題はないとされている上,境界線知能の水準であっても,いわゆる長期記憶の保持能力に劣るところはなく,強い情動体験は記憶として強く保持されるとされ,Bにとっても,自宅が火災になったことや燃えている家の中に押し戻されそうになったことなどの体験は極めて衝撃的な出来事であって,情動体験として記憶されて然るべきであり,また,被告人がポリタンクを持って腰をかがめている様子を見たということも日常経験しない異常な事態であって,非常に強い体験となっているはずであるとの指摘がされ,さらに,Bは,自ら体験した事実と,その事実から推測した事実を区別し,確実に記憶していることと記憶があいまいなこと,記憶していないことを区別する能力は有していると指摘されていることが認められるところ,同人の公判廷における供述態度や,捜査段階における供述内容をみても,同人は,被告人が火を付けたところは見ていないと一貫して述べるなど,質問者に対して迎合的な態度を取ることもなく,体験した事実と推測した事実との区別や,確実に記憶している事実とそうでないことの区別をしながら供述していることが認められる。

弁護人は,この点に関し,ポリタンクを持っていたのがだれであるかあいまいであったにもかかわらず,Bは,その直後に屋外にいた被告人から燃えている家の中に入れられようとしたという情動体験を経たことにより,屋内で目撃した記憶を変容させて供述している疑いがあると主張するが,先にみた証人Nの公判供述及び同人作成の意見書(証拠番号略)によれば,B自身の体験として,腰をかがめて油をまいていた人物が被告人であるということを十分確認していたとされているところ,Bの公判供述を通覧してみても,実際に油をまいている人物を認識していなかったにもかかわらず,その後,被告人から,燃えている家の中に入れられようとしたという体験をしたことから,屋内で目撃した記憶を変容させて供述しているとは考えられないから,所論は理由がない。

(3) また,Bは,本件火災に遭った年の6月になって,事情聴取した警察官に対して,突然,本件火災の原因が客観的状況と矛盾するガスコンロによる失火であると供述し,当初の供述を翻すに至っているところ,Bは,当公判廷において,火災の原因につき,当初の供述を翻した理由について,入院中の病室で,Eから,被告人が戻ってきて前と同じようにE養鶏場で働いていると聞かされたので,本当のことを言っていると仕事ができなくなると心配になり,さらに,Eから,火事のことはガスの不始末にしておけなどと言われ,その後,被告人からも同様のことを言われたからであると供述している。Bが,当初の供述を翻した理由として説明するところは,病院から退院した後はE養鶏場に戻って働くしかないと考えていた同人が,Eや被告人を恐れて,Eらの元に戻って,以前と同じような生活を続けるためには,Eらに指示されたとおりの供述をしなければならないと考えて,あえて,虚偽の供述をして,当初の供述を翻したというのであって,先にみた証人Nの公判供述に照らしてみても,Bの供述変遷の理由の説明は,十分合理的であって,首肯できるものである。

(4) 弁護人は,Bの供述内容について,被告人がポリタンクを傾けて油をまいていると気付きながら,被告人から「寝てろ」と言われて素直にそれに従い,Cを起こしたりすることもなかったというのは,極めて不自然であり,到底信用できないと主張する。しかしながら,Bの公判供述によれば,同人は,以前から,仕事のことなどで,被告人に怒られることがあり,たたかれたり,蹴られたりしたことがあって,そのため,被告人に対しては,逆らわないようにしていたというのであるから,こうした被告人との関係に照らしてみると,当時,事態を十分に把握できないまま,被告人の言いなりになったとみられるBの行動が不自然であるとはいえない。むしろ,Bが,日ごろ恐れている被告人に対して,不利になるような虚偽の供述をすることはほとんど考えられないというべきである。

以上検討したところによれば,Bの当公判廷における供述は十分信用することができる。

第3被告人の捜査段階における自白について

1  被告人は,捜査段階の当初は,自己が実行行為に及んだことを否認し,その後,供述の変遷を重ねながらも,B方居宅内にガソリンをまき,玄関先でマッチをすって火を放った旨,被告人自身がB方居宅に放火したことを認め,その状況を具体的かつ詳細に供述し,c警察署内に作られたB方居宅の模擬現場において,犯行状況を再現して説明するに至っている。

ところが,これに対して,被告人は,当公判廷においては,取調警察官から,ガソリンをまいたことを認めれば証拠を見せてやると言われてだまされたため,自白したと主張している。

しかしながら,被告人の取調べを担当した警察官O及び検察官Pは,取調状況ないし経過について,当公判廷において,ほぼ同様の供述をしているところ,その要旨は,以下のようなものである。すなわち,当初,被告人は,Eから犯行を依頼されたが,本件犯行を自ら実行したことは否認し,Eからの依頼を受けて知人の某に犯行を依頼したなどとあいまいな供述をしていたので,供述の矛盾等を追及したところ,平成14年7月20日夕刻になって,O警察官の取調べに対して黙り込み,夕食後のP検察官の取調べにおいて,初めて自分がガソリンをまいて火をつけたことを自白するに至った,ところが,同月23日ころ,またしても自己が実行行為に及んだことを否認し,火事になった後本件居宅から逃げていくEを見たとか,実行犯はEとは別人だとか場当たり的な弁解を繰り返すようになったが,同月29日から再び態度が変わり,その後,再度自白するに至り,犯行状況を再現して説明することを承諾し,同月31日,c警察署内で,被告人の指示説明により,犯行再現の実況見分が実施され,その後,両取調官に対して,犯行状況を詳細に供述するに至った,というのである。両証人の供述は,被告人の供述調書からうかがわれる供述状況ないし供述経過と合致し,十分信用できるところ,O警察官は,被告人に自白をすれば証拠を見せるなどと述べたことはない旨明確に供述しているのであり,捜査機関の収集した証拠を見たいために,本件のような重大事犯についてあえて虚偽の自白をするなどということはおよそ考え難いといわざるを得ないから,被告人の上記弁解供述は信用できない。加えて,調書の署名指印等その作成に関する被告人の弁解供述も,客観的な供述経過に照らして明らかに矛盾しており,到底信用できない。なお,犯行再現実況見分を担当した警察官Qは,当公判廷で,再現内容を捜査官が被告人に指示したり,示唆したことはなく,被告人は自発的に説明していたと供述しているところ,犯行再現の実況見分が行われた後の取調べにおいて,被告人が,ガソリンをまいた具体的状況や,ポリタンクを遺留した場所,また,放火した具体的な場所等について,従前の供述内容と異なる,より詳細で具体的な供述をするに至っており,こうした供述の変遷の理由も同時に述べられているのであるから,捜査段階における被告人の自白の任意性に疑いを差し挟む余地はない。

2  以上検討してきたとおり,被告人の捜査段階における供述は変遷が甚だしいものの,自白を内容とする供述は,ガソリンをまいた具体的な状況をはじめ,犯行の際に被告人の行った一つ一つの行動について具体的で詳細な説明がされており,また,本件犯行の一連の経過についても,Eから犯行を依頼され,報酬を約束された状況をはじめ,Eが用意したポリタンクに入ったガソリンを確認した状況,B方を訪れて酒を勧め,BとCが寝込むのを待って,居宅内にガソリンをまいてマッチで点火して放火した状況,犯行後,Eに自宅の建築費用を負担してもらい,約束した報酬を何度も要求して,500万円の約束であったものを300万円に値切られて,現金で受け取った状況等について具体的に語られており,とりわけ,犯行の実行状況に関する供述は,実際に居宅内にガソリンをまいて火を付けた者でなければ,到底語り得ない迫真性のある供述であって,先にみた信用できるBの公判供述とも合致し,現場の検証結果等,客観的な状況とも矛盾しておらず,被告人の自白を内容とする捜査段階の供述は十分信用できる。

これに対し,弁護人は,被告人の自白について,①保険金入手目的が欠如している,②ガソリンをまいた状況の説明は,ガソリンの付着した遺留品などの客観的状況と矛盾する,③ガソリンをまいた後ポリタンクを遺留した場所に関する供述は変遷しており,変遷後の供述は客観的証拠に反する,④Eから受け取ったとされる報酬についての供述は変遷していると主張する。しかしながら,①の保険金入手目的の欠如の点については,Eが保険金を手に入れるために犯行を依頼してきたことは推察できた旨の供述部分もみられるところ,そもそも,被告人が本件犯行に及んだ直接の動機はEから報酬が支払われることにあったと認められるのであって,被告人が,Eが契約した保険契約の内容等を具体的に認識していなかったとしても不自然であるとはいえない。また,②の点に関し,確かに,敷布団からはガソリン成分は検出されていないが,その鑑定が行われた時期や揮発性の高いガソリンの性質などを考えれば,ガソリンが検出されなかったとしても,あながち不自然であるとはいえない。③の点に関しても,ポリタンクを遺留した場所に関する供述に変遷があったとしても,これが,その余の部分の供述の信用性まで失わしめるとは考え難い上,本件火災による家屋の燃焼状況に照らしてみると,居宅内に捨てられたポリタンクが焼失してしまった可能性も否定できないから,ポリタンクの残滓が存在しないからといって,被告人の供述の信用性が左右されるとはいえない。④の点についてみると,確かに,Eから受け取ったとされる報酬に関する被告人の供述は,捜査段階及び公判を通じて変遷していることは否定できないが,被告人がEから相当多額の報酬を受け取ったことはEの作成した金銭出納帳の記載や証人Lの公判供述により明らかであるから,報酬に関する供述に変遷があるからといって,被告人の供述が全体として信用性を欠くとはいえない。

以上のとおり,所論に照らして被告人の自白を検討してみても,被告人が被害者方居宅内でガソリンをまいて火を付けたという供述の核心部分の信用性は動かない。

最後に,被告人の当公判廷における弁解供述について検討するに,公判廷における弁解供述は,捜査段階で被告人が自白をするに至った経緯や犯行再現の実況見分を行った状況に関する弁解を含めて,いずれも,客観的な証拠と矛盾し,合理的な理由なく変遷し,場当たり的な弁解を重ねているというほかないもので,内容自体も不自然,不合理であって,到底信用できない。

第4以上検討したところによれば,養鶏場の経営に行き詰まり,飼料業者から買掛金の支払を強く迫られていたEが,BやCに掛けていた生命保険金等を手に入れるために,Bらの居住する家屋に放火して同人らを殺害することを企て,その実行を被告人に依頼し,被告人は,いったんはこれを断ったものの,Eから執ように依頼された結果,同人に対する恩義や同人から相応の報酬が得られることを期待してこれを承諾し,Eと共謀して,B方居宅内にガソリン等の鉱物油類をまいて火を放ち,B方居宅を全焼させるとともに,Cを焼死させ,Bに全治まで約4箇月間を要する右手背部,左下肢踵部等に深達性火傷の傷害を負わせ,犯行後,約束どおり,Eから自宅の建築資金を負担してもらったほか,報酬として現金300万円を受領した一連の事実を認めることができるから,本件公訴事実について犯罪の証明は十分であり,弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち,現住建造物等放火の点は平成7年法律第91号附則2条1項本文により同法による改正前の刑法60条,108条に,殺人の点は同法60条,199条に,殺人未遂の点は同法60条,203条,199条にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により犯情の最も重い殺人罪の刑で処断することとし,所定刑中死刑を選択して被告人を死刑に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,養鶏場を経営していた共犯者Eが,住み込みで稼働していた被害者B,C夫婦及びその居住家屋等に掛けていた保険金をだまし取る目的で,居宅に放火して被害者夫婦を殺害しようと企て,従業員であった被告人にその実行を依頼し,報酬を約束された被告人においてこれを承諾し,Eと共謀して,被害者方居宅内にガソリンなどの油類をまいて放火し,建物を全焼させるとともにCを焼死させて殺害し,Bに対しては全治まで約4箇月間を要する深達性火傷等の傷害を負わせたが殺害の目的を遂げなかったという現住建造物等放火,殺人,同未遂の事案である。

Eは,自己が経営する養鶏場の経営に行き詰まり,従業員である被害者夫婦の居宅に放火して同人らを殺害し,被害者夫婦とその居住家屋等に掛けていた保険金を手に入れようと企て,その実行役を被告人に持ち掛けたものであるが,被告人は,こうしたEの意図を察知して,前刑の仮出獄期間中の身であったことからいったんは断ったものの,刑務所帰りでだれも雇ってくれる者がいない自分を雇用してくれているEに恩義を感じていたことや,これを断った場合には,養鶏場を解雇されるのではないかという不安もあり,更にEから家を建ててやるなどと甘言を用いられ,この機会に自らも利益を得ようと考えてEに報酬として現金を要求してEにこれを約束させ,犯行に及んだというもので,被告人は,被害者夫婦とは同じ養鶏場で働く同僚であったにもかかわらず,現在の仕事を失いたくないという自己保身や,家を建ててやるというEの甘言,更には現金で報酬がもらえるという利欲に駆られて犯行を決意したというのであって,そこには人の生命に対する畏敬の念はみじんもうかがわれず,利欲と打算に基づいた冷酷で非情な犯行の動機に酌量の余地は一片もない。

犯行の態様についてみると,被告人は,Eからガソリンの入ったポリタンクを準備したことを知らされると,中にガソリンが入っていることを確認して被害者方居宅の付近の空き地にふたに針金で封をするなどして隠匿した上,犯行当日,被害者方を訪れて,B,C夫婦に酒を勧めるなどしてともに飲酒し,同人らが眠そうな様子を見せたことから,いったん被害者方を後にして被害者夫婦が寝入るのを待ち,被害者夫婦が就寝しているのを確かめると,隠しておいた上記ポリタンクを持ち出してきて,Eからは家の周囲にガソリンをまいて火を付けるように言われていたものの,すぐに火災が発見されて消火されたり,自分がやけどをする危険があると考えて,家屋全体に火が燃え広がり,確実に家屋を焼損させるとともに,被害者夫婦に逃げられないよう確実に殺害するために,玄関口から台所を経て居室内の押入の隅やテーブルの下,また,割れた窓ガラスから外の空気が入り込んで火の勢いが強くなるように,窓の下の壁際などに丹念にガソリンを含む鉱物油類をまき,途中,Bが目を覚ましたのに気付くと,「寝てろ」などと言って,更に上記鉱物油類をまき続けるなどして放火の準備をし,最後に上記鉱物油類を部屋の中から風呂場,更に玄関口へとつながるようにまいて,油が畳などに染みわたったころを見計らって,家の外から,マッチをすって玄関口へ手を差し入れて点火して上記鉱物油類に引火させ,一瞬のうちに家屋を燃え上がらせ,就寝していたCを焼死させるとともに,火災に気付いて玄関から逃げ出してきたBを認めるや,「Cちゃんを助けろ」などと言って,火の海と化した家の中に押し戻そうとしているのであって,本件は,周到綿密に準備された,計画的で,冷酷大胆,残虐非道な犯行というほかはない。

被害者であるB,C夫婦は,いずれも知的障害というハンディを背負いながらも,Eの経営する養鶏場に住み込みで働き,待遇に不満を漏らすことも,Eや被告人に逆らうこともなく,黙々と仕事に励み,つましい生活を送っていたもので,被告人とEの利欲のために,一命をねらわれ,被告人の意図を全く知らずに,勧められるまま飲酒して就寝したところ,室内に前記鉱物油類をまかれて放火され,Cは,何が起こったのかも分からないまま,激しい炎に包まれて身動きもできずに焼死しており,その驚愕や苦痛,無念の思いは察するに余りある。Bは,着衣に火を付けたまま,火の海から必死で逃げ出し,幸い一命を取り留めることができたものの,同人の被った驚愕や恐怖は甚大で,傷害の程度も重く,永年連れ添ってきた妻を助け出すこともできずに失っており,その心痛悲嘆は計り知れない。犯行の結果は余りにも重大である。Bは,本件被害に遭った後,約13年間にわたり,雇い主であるEや被告人のもとで生活を送ることを余儀なくされ,この間,火災の原因について真実を語ることを許されず,沈黙を強いられていたもので,このような苛酷な歳月を過ごしてきたBの胸中は筆舌に尽くし難い。犯行後,13年を経ても,被害者夫婦に対して全く慰謝の措置は講じられておらず,今後,その見込みもない。Bが,公判廷で,言葉は少ないながらも,とつとつとその心情を吐露し,被告人に対して極刑を望んでいるのも,当然である。

本件犯行を企画し,計画したのはEであるが,被告人は,約束された報酬を手に入れるために,確実に被害者夫婦を殺害する方法を自ら考え,Eが準備したポリタンクに入った前記鉱物油類を使用して,自らの判断で,実行行為に及んだ者であって,その刑事責任はEと比べて決して軽いとはいえない。

犯行後の行動をみても,被告人は,自己の犯行を全く省みることなく,多額の保険金を手にしたEに対して,自宅の建築資金を負担させ,新築された住居で平然と生活しており,さらに,執ように報酬の支払を要求して,現実に300万円を入手したばかりか,Eが,病院から退院してきたBを再び養鶏場に住み込ませて支配下に置き,意に反する行動をとることをできなくさせると,被告人も,Bに対して,「ガスコンロの不始末にしとけば世話ねえに。俺が火をつけたとおまえが警察に言ったから捕まったんだ」などと脅し,口止めを行っている。

本件は,知的障害のある,社会的弱者である被害者夫婦をねらって,同人らに掛けられていた保険金目当てに敢行された現住建造物等放火,殺人,同未遂という他に例をみない凶悪な犯行である上,事件発生から約13年を経て,ようやく犯人逮捕に至ったという捜査経緯から,広く世間の耳目を集め,地元住民はもとより社会一般にも衝撃を与えた事案であって,その影響も軽視できない。

被告人は,本件犯行の実行行為者であるにもかかわらず,公判廷において,荒唐むけいな弁解を繰り返し,自己の刑責を免れようとしており,こうした被告人の態度からは,一片の良心もうかがうことができず,反省の情はみじんもない。加えて,被告人には,殺人,非現住建造物等放火,死体損壊罪により懲役20年に処せられ,長期間服役した同種前科があり,その仮出獄期間中であったにもかかわらず,またしても,同種犯行に及んでいる。こうした事情を併せ考えると,被告人の犯罪性向,反規範的人格態度は著しく,もはや矯正困難であるといわざるを得ない。

以上の情状,すなわち,本件犯行の罪質,犯行の目的ないし動機,犯行に至る経緯,犯行状況及び態様,殊に放火殺人の手段方法の計画性や残虐性,一人の生命を奪い,もう一人の生命をも奪おうとしたという結果の重大性,被害者の峻烈な被害感情,犯行がもたらした社会的影響,犯行後の被告人の行動や態度,そして,被告人の前科関係,とりわけ,本件が同種事犯による前刑の仮出獄期間中の犯行であること,被告人の犯罪性向の根深さや反規範的人格態度などを総合考慮すると,犯情は極めて悪質であり,被告人の刑事責任は誠に重大である。

そうすると,他方において,本件は共犯者が企て,計画した犯行であること,Bの殺害は未遂にとどまっていること,被告人が,捜査段階においては事実を認めて反省し,いったんは自己の罪責と向き合い,処罰を受けようとする態度を示したことがあったこと,現在78歳と高齢であることなど,被告人のためにしん酌し得る一切の事情を最大限に考慮し,併せて,死刑が,人間存在の根元である生命そのものを奪う最も峻厳な刑罰であり,真にやむを得ない場合における究極の刑であって,その適用は慎重にされなければならないことを十分に勘案してみても,被告人に対し,極刑をもって臨むことはやむを得ない。(求刑 死刑)

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 森浩史 裁判官 片岡理知)

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