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さいたま地方裁判所 平成13年(わ)694号 判決

主文

被告人を懲役5年に処する。

未決勾留日数中200日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1平成9年1月5日ころ,埼玉県a市(以下略)の当時の被告人方において,V(1985年b月c日生,当時11歳)が13歳未満であることを知りながら,強いて同女を姦淫しようと企て,就寝中の同女に対し,俯せにしてその背後から覆い被さるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫し,

第2結婚その他正当な理由がないのに,平成13年3月9日午前1時ころ,同市(以下略)の被告人方において,前記V(当時15歳)が18歳に満たない青少年であることを知りながら,同女と性交し,もって,青少年に対し,みだらな性行為をし

たものである。

(証拠の標目) 省略

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は刑法177条に,判示第2の所為は埼玉県青少年健全育成条例28条2号,19条1項にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,当時11歳であった妻の連れ子を強姦し(判示第1の事実),さらに,15歳となった同女と正当な理由なく性交をした埼玉県青少年健全育成条例違反(判示第2の事実)の事案である。

被告人は,幼い少女に性的興味を抱き,当時9歳の妻の連れ子をフィリピンから引き取って養育し始めて間もないころから,同女に対して性的ないたずらをするようになり,やがてそれだけでは満足できなくなって,本件一連の犯行に及んでいるのであり,犯行の動機に酌量すべき余地はない。

判示第1の犯行は,被告人が,被害者を姦淫するために,妻である被害者の母親がフィリピンに一時帰国することになった機会を利用し,被害者を連れて帰国しようとした妻を言葉巧みに説得して被害者を被告人の手元に残させた上,妻が出国した晩に,無理やり姦淫行為に及んでいるのであり,父親として被害者を保護すべき立場にありながら,自己の立場を省みることなく,妻が留守であることをよいことに,幼い被害者を弄んだものであって,卑劣で悪質である。被害者は,当時11歳で,小学校4年生の少女であり,自らが被った被害の意味も十分理解できないまま,実母にも相談できずに小さな心を痛めていたのであって,本件犯行が幼い被害者の心神に与えた悪影響は計り知れない。ところが,それにもかかわらず,被告人は,幼い被害者の心情や心神への悪影響を全く考えることなく,犯行後も妻の目を盗んでは日常的に被害者に対する性的いたずらを繰り返していたばかりか,その後,被害者を認知して戸籍上は実子としての外観を作り出した後においても,同様の行為を続けていたのであるから,犯行後の情状も悪質である。

判示第2の犯行は,被害者と上記のような関係を続けてきた被告人が,妻らに気兼ねすることなく被害者と性的関係をもつために,妻に内緒でアパートの1室を借り受けた上,そこで犯行に及んだというもので,自己の性的欲望を満足させることのみを目的とした犯行であって,悪質である。

一方,被害者は,捜査段階においては,被告人に対して厳重な処罰を求めると述べていたものの,公判廷においては,被告人を宥恕すると述べるに至っており,被害者の母親も,いったんは被告人と離婚して告訴し,被告人に対して厳重な処罰を求めていたものの,その後,被告人を許し,復縁を望むと供述するに至っている。しかしながら,被害者の供述の変化は,2人の妹たちのためには父親が必要であるという姉としての優しい心情によるものであって,被告人から被害を受け続けてきたことについて自責の念すらうかがわれるのであり,被害者が,いまだ本件犯行による心理的後遺症から脱しておらず,深刻な被害が続いていることを示しているものともいえるのである。

被告人は,公判廷において,「被害者と一緒に暮らしたい」とか,「私が身を引けば被害者が家族と暮らせることは分かるが,その判断は被害者に任せる」などと,およそ被害者の心情や被害の深刻さを自覚しているとは思われない供述をしており,十分な反省の態度はうかがわれない。

そうすると,被告人が,事実を認め,被告人なりの反省の言葉を述べていること,これまで正業に就いて,家族のために真面目に働き,2人の実の娘にとっては良き父親であったこと,被害者が,公判廷で,被告人を宥恕すると述べ,被害者の母親も同様の意向を表していること,家庭には帰りを待つ離婚した元の妻と幼い2人の娘がいること,前科がないことなど,被告人のためにしん酌し得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。(求刑 懲役6年)

(裁判長裁判官 川上拓一 裁判官 根本渉 裁判官 片岡理知)

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