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さいたま地方裁判所 平成12年(行ウ)9号 判決

原告

野坂実

被告

埼玉県知事 土屋義彦

同訴訟代理人弁護士

関口幸男

同指定代理人

宮下隆宏

谷戸秀昭

堀越久夫

濱田浩

渋沢繁雄

大和田有

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  甲6号証、乙6号語、18号証、19号証及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

(1)  支出項目「御祝」に係る各支出証拠書における交際について

ア  公的団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、期成同盟会、イベント実行委員会等の公的色彩を帯びた地域振興等のための任意組織が行うイベント、施設の落成の祝賀式典、周年行事及び総会等の行事に対し、知事として祝金を贈呈したものである。

イ  地域の祭りなどの行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、地域の様々な伝統行事をはじめとする祭りなどの行事につき、その実行委員会等に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ウ  社会的に貢献のあった個人の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、友人代表等が発起人となって行われた叙勲、褒賞、各種大臣賞などに係る祝賀会等の行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

エ  政界関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、政党をはじめ、現職ないし元職の国会議員、県議会議員、市町村議会議員、市町村長に係る後援会等の政治団体の行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

オ  政界関係者の行事に関する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、現職ないし元職の国会議員、県議会議員、市町村議会議員、市町村長等の政界関係者個人に係る後援会幹部、地元有力者、友人等が主催者となって行われた行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

カ  芸術文化関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、音楽などの芸術や伝統芸能などに関する芸術文化関係団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

キ  芸術文化関係の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、音楽などの芸術や伝統芸能などに関する各種の芸術文化関係の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ク  国際交流に係る団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、海外各国との各種の国際交流に係る団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ケ  国際交流に係る行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、海外各国との各種の国際交流に係る大会や会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

コ  スポーツ関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、球技、武道など各種のスポーツ関係団体の選手権や大会などの催し、又は、それらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

サ  スポーツ関係の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、球技、武道など各種のスポーツ関係の選手権や大会、又は、それらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

シ  業界関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、同業種の企業等の組織する団体、専門職業人の組織する団体等が行った総会、周年行事、イベント等の行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ス  経済関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、民間企業やその経営者などが組織する経済関係の団体等が行った総会、周年行事、イベント等の行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

セ  学術研究団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、学術研究のための学会等の学術研究団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ソ  教育関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、各種の義務教育や高等教育に関係する団体の催しやそれらに関連する会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

タ  社会貢献団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、社会に奉仕することなどを目的とした社会貢献団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

チ  福祉関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、各種の福祉関係者等で組織する福祉関係団体などの催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ツ  保健医療関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、保健医療に従事する個人や組織などに関係する団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

テ  報道出版関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、報道や出版に関係する団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ト  法曹関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記番号の支出は、法曹関係の団体の催しないし会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ナ  労働関係団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、労働組合やその連合体など労働関係の団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ニ  民間団体の行事に対する祝金

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、前記アないしナ以外の民間団体の催しやそれらに関連した会合などの行事に対して、知事として祝金を贈呈したものである。

ヌ  知事は、上記アないしニの各祝金の支出において、金額については、支出の都度、県と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定していたものであり、また、その具体的金額等の交際内容が不特定の者に知られ得る状態で支出されたものではなかった。

(2)  支出項目「御餞別」、「賛助」及び「激励費」に係る各支出証拠書における交際について

(「御餞別」〔番号略〕、「賛助」〔番号略〕、「激励費」〔番号略〕)

上記各番号の支出は、「御餞別」については、知事が、民間団体の個人の異動に際しての餞別として贈呈したものであり、「賛助」(「協賛金」、「協賛」、「賛助金」及び「寄金」を含む。)については、知事が、種々の事業活動を行っているものからの賛助等の要請に対し、儀礼的カンパとして贈呈したものであり、「激励費」については、知事が、スポーツの全国大会に出場するものに対し、激励の意を表すために贈呈したものであるところ、知事は、これらにつき、相手方の活動の趣旨等により贈呈の必要性や効果等を個別的に検討し、支出の要否及びその金額を決定していたものである。

そして、これらの贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表ないし披露されることはなく、したがって、交際の有無ないし具体的金額等の交際内容が不特定の者に知られ得る状態で支出されたものではなかった。

(3)  支出項目「新聞広告料」に係る交際について

(〔番号略〕)

ア  上記各番号の支出は、人事関係の情報を扱う企業に対し、その発行する人事録、紳士録等への掲載料として、知事が交際費を支出したものである。

これらの公刊物は、一般的にみて高額のものであり、その性質上、一般新聞等と異なり、読者層ないし需要層は限定されたものである。そして、知事は、相手方たる企業の勧誘や依頼に対して、掲載料として交際費を支出していたものであり、その掲載料は、当該企業において、一律に定められていたものではなく、また、知事においても、できるだけ低額となるよう当該企業と折衝し、その都度、個別具体的に決定されていた。

したがって、知事による掲載料の支出の事実ないしその具体的金額等が不特定の者に知られ得る状態で、上記支出がされたものではなかった。

イ  以上の事実に加え、知事は、一般的に、その著名性は高いものであるから、これらの公刊物に掲載されることの知事にとっての意味はさほどはないことからすると、上記支出は、人事関係の情報を扱う企業に対する賛助的な儀礼の側面が強いものとみることができ、したがって、知事としての立場で行われる交際の性質を有するものと認めるのが相当である。

(4)  支出項目「懇談経費」(「懇談会」、「懇談会経費」、「新年会経費」及び「囲む会経費」を含む。)に係る交際について

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、各界、各層と意見を交換するための儀礼的な懇談に対して、知事が懇談の経費として知事交際費を支出したものであり、これらの懇談は、知事が職指定となっている関係団体等の連絡会の類ではなく、その具体的金額については、知事が、県と相手方とのかかわりなどを斟酌して、支出の都度、個別具体的に決定していた。

したがって、知事がこれらの懇談会に出席してその費用を負担した事実ないしその具体的金額等の交際内容は、不特定の者に知られ得るものではなかった。

(5)  支出項目「寸志」(「酒肴料」、「懇談会寸志」を含む。)に係る交際について

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、懇談等に際し、寸志として知事交際費を支出したものであり、懇談経費と同様に、その具体的金額については、知事が、県と相手方とのかかわりなどを斟酌して、支出の都度、個別具体的に決定しており、具体的金額等の交際内容は、不特定の者に知られ得るものではなかった。

(6)  支出項目「香料」に係る交際について

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、葬儀や法要に際し、知事が弔意を表すため、香典、香料として知事交際費を支出したものであり、その具体的金額については、知事が、県と相手方とのかかわりなどを斟酌して、支出の都度、個別具体的に決定しており、また、葬儀の際一般参列者等不特定の者に、香料が贈られた事実ないし少なくともその具体的金額等の交際内容は知られ得るものではなかった。

(7)  支出項目「病気御見舞」(「病気御見舞花代」を含む。)に係る交際について

(〔番号略〕)

上記各番号の支出は、病気の相手方に御見舞として交際費を支出したものであり、それらの具体的金額については、知事が、県と相手方とのかかわりなどを斟酌した上で、支出の要否及び額を決定していたものであり、また、相手方にとっては私的な出来事というべきであるから、交際の性質、内容等からして交際内容等が不特定の者に知られ得るものではなかった。

2  以上の認定事実及び基本的事実関係を基に判断する。

(1)  本件非公開情報が、本件条例6条1項5号ないし同項1号に該当するものとして、非公開とされたことは前記のとおりである。

(2)  本件条例6条1項5号該当性について

以上の本件支出証拠書に係る知事の交際費の支出は、いずれも埼玉県知事としての立場で行われたものであるから、本件条例6条1項5号にいう行政の執行に含めて解するに妨げないところ、同号によれば、これらの事務に関する行政情報を公開しないことができるか否かは、行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じることが明らかであるか否かによることとなる。

ところで、知事の交際事務は、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものであるから、相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されるような場合等は別として、相手方を識別し得るような行政情報の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、例えば、懇談等の機会については、今後出席を回避する等の事態が生じることも考えられ、また、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、県と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、前記のような情報の公開によって、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。

そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。

さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例毎に、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても、前記のような事態が生じることを懸念して、必要な支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うこと、すなわち、公正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることは明らかであるといわなければならない。

平成11年4月以降執行された交際費支出に関し、原則的に全部公開する取扱いがされていることは前記のとおりであるが、知事は、これに先立って、基本的事実関係のとおりの事前周知の措置を行った上で、そのような取扱いをしているものであることからいっても、以上の事態は、単なる懸念にとどまるものでなく、現実的な問題であったものといえる。

以上によれば、本件非公開情報のうち、交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって上記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、本件条例6条1項5号により、公開しないことができる情報に該当するものと認めるのが相当である。

(3)  本件条例6条1項1号該当性について

本件条例6条1項1号は、個人に関する情報であって特定の個人を識別できるものは、原則として不開示とすることとした上、本来保護する必要性のない情報を除外するために、ただし書を設け、公知の情報等個人に関する不開示情報から除かれるべきものを列挙するという形式(いわゆる個人識別型)を採用することによって、判断の客観性の確保を図る趣旨の規定である。

ところで、本件支出証拠書に係る知事の交際は、それが知事としての立場でされたものであっても、私人(個人)である相手方からみた場合においては、私的な出来事であるから、相手方である特定の個人を識別し得る限り、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に当たるというべきである。

したがって、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表されることがもともと予定されているもの(これは同号ただし書ロの公表目的情報に含まれるものというべきである。)を除いては、本件条例6条1項1号本文によって、公開しないことができる情報というべきである。

そうすると、本件非公開情報のうち、私人である相手方が識別できるようなものであれば、原則として、同号により公開しないことができる情報に該当するものと認めるのが相当である。

(4)  以上の説示に照らし、本件非公開情報につき、具体的に検討する。

ア  本件非公開情報のうち、個人名、肩書、続柄については当該交際相手方の特定の私人(個人)が識別又は識別され得るものと認めることができ、また、団体名は、当然のこと、行事名、所在地のみならず、掲載事項も同一の支出証拠書に記載された団体名と結合すること等によって、当該交際相手方が識別又は識別され得るものと認められるから、本件非公開情報は、いずれにおいても、交際相手方が識別又は識別され得るものと認めることができる。

そして、本件支出証拠書に係る支出は、いずれも、具体的金額につき、知事が、支出の都度、県と相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定していたものであり、また、支出の有無ないしその具体的金額等の交際内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものではなかったことは、前記認定事実のとおりであるから、これらの知事の交際に関する情報は、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、前記(2)のおそれがあるものとは認められないものとはいえないといわざるを得ない。

そうすると、本件非公開情報は、いずれも、本件条例6条1項5号に該当するものというべきである。

イ  さらに、本件非公開情報のうち、個人名、肩書、続柄は、当該交際相手方の特定の私人(個人)が識別又は識別され得るものであるから、本件条例6条1項1号本文に該当するものというべきである。そして、それらにつき、同号本文ただし書ロに該当する事実を認めるに足りる証拠はないのみならず、かえって、これらの本件支出証拠書に係る支出については、いずれも、知事が、支出の都度、県と相手方とのかかわり等を斟酌して、具体的金額を個別に決定していたものであり、また、支出の有無ないしその具体的金額等の交際内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものではなかったことは前記のとおりであるから、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表されることがもともと予定されているもの(同号本文ただし書ロ)と認めることはできないものというべきである。

そうすると、本件非公開情報の、うち、個人の氏名及び個人を特定し得る部分である個人名、肩書、続柄については、本件条例6条1項1号によって、公開しないことができる情報に該当するというべきである。

(5)  これに対し、原告は、番号183及び別紙6につき前記のとおり主張するが、これは、被告が本件訴訟における立証として提出した〔証拠略〕(本件非公開情報一覧表)及び、〔証拠略〕(本件交際内容一覧表)記載の相手方及び行事の説明をもとにして、その交際に係る相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものである等と主張するものである。

ところで、知事の交際事務を適切に行うこと、すなわち、公正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるかどうかは、当該交際に係る具体的事情を十分に加味した上、公開決定処分時において判断される事柄というべきである。

したがって、原告の主張は、被告が本件訴訟における立証として提出した〔証拠略〕(本件非公開情報一覧表)及び〔証拠略〕(本件交際内容一覧表)記載の相手方及び行事の概要を基本的前提としている点において、既に採用することはできない。しかも、原告の主張は、当該交際に係る具体的事情に基づき、交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する情報であること、すなわち、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されていることを主張するものということもできないものである。

なお附言するに、被告が本件訴訟において行った〔証拠略〕による立証方法は、一般に、請求対象情報を開示することなく不開示処分要件を立証しなければならない立場に置かれた実施機関たる被告にとって、基本的な立証方法というべきものであるが、原告の主張は、このような被告の立証方法を事実上不可能にしかねないものであり、かつ、本件処分は、実施機関たる被告の裁量的判断において、非開示事由に該当する独立した一体的な情報を「金額」等に細分化して一部公開したものというべきところ、原告のような主張が採用されることとなれば、実施機関は、このような裁量的開示を差し控えざるを得なくなることは、容易に推測できるところである。このような観点からいっても、原告の主張は、採用することのできないものである。

3  以上によれば、原告の請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 渡邉健司)

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