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さいたま地方裁判所 平成11年(行ウ)8号 判決

主文

1  原告の請求のうち,平成10年9月8日までにされたとする公金支出に基づく損害賠償請求に係る訴えを却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の申立て

1  請求の趣旨

(1)  被告は,越谷市に対し,金400万円及びこれに対する平成11年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は,被告の負担とする。

(3)  (1)について,仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  本案前の答弁

本件訴えを却下する。

(2)  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は,原告の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  埼玉県越谷市長は,同市の情報公開条例案策定に当たり,市民,学識経験者の意見を反映させる目的をもって,市の内部規律である設置要綱に基づき,市民,学識経験者を委員とする越谷市情報公開懇話会(以下「本件懇話会」という。)を設置し,これを運営するとともに,その委員に対し役務提供の対価として報償費(謝礼)を支払う等の公金支出行為をした。

(2)  原告は,本件懇話会が,地方自治法(以下「法」という。)138条の4第3項(ただし,平成11年法律87号による改正前のもの,以下,同項につき同じ。)所定の附属機関に該当するものであるから,条例に基づいて設置されなければならないにもかかわらず,内部規律にすぎない要綱に基づいて設置されたことは違法である,したがって,その委員に対し報酬を支払うことは法204条の2等に反し,また,本件懇話会の運営に伴う事務費等も違法な公金支出であって,これら本件懇話会に関する費用推計647万5946円は,越谷市長の職にある被告の不法行為によって支出されたものであり,これによって,越谷市に同額の損害が生じた,と主張して,法242条の2第1項4号前段に基づき,越谷市に代位して,被告に対し,その内金400万円及びこれに対する不法行為の後である本訴状送達の日(平成11年6月12日)から支払済みまで年5分の割合に基づく遅延損害金の支払を請求した。

(3)  これに対し,被告は,(1)原告は,適法な監査請求を前置していない,(2)本件懇話会は,法138条の4第3項所定の附属機関に該当せず,これに対する支出が違法とされることはない,(3)仮に,本件懇話会が付属機関に該当するとしても,本件懇話会は,条例に基づいて設置された附属機関と同質の活動を行ったから,越谷市に損害は生じていない,(4)仮に,越谷市に損害が生じたとしても,被告には過失はない,等主張して争う。

これらの論点が本件の争点である。

2  基本的事実関係(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

(1)  当事者等

ア 原告は,埼玉県越谷市に居住する住民であり,被告は,平成9年11月から越谷市長の職にある者である。

イ また,越谷市情報公開懇話会(本件懇話会)は,「越谷市における情報公開の制度化に向けて,市民参加による制度づくりを推進するために」(越谷市情報公開懇談会設置要綱〔以下「本件要綱」という。〕1条),越谷市長により決裁された内部規律である本件要綱に基づき設置されたものである。

(2)  本件懇話会設立に至る経緯等

ア 越谷市は,従来,情報公開条例を制定していなかったところ,平成7年には,3名の市議会議員が,平成8年には,6名の議員が,市議会において,それぞれ情報公開について一般質問をし,同市においても情報公開制度を設けるべきであるとの動きが高まっていた(乙3号証)。

これに応じて,越谷市長(ただし,当時は被告の前職であるA)は,平成9年3月の定例市議会における一般質問に対する市長答弁において,情報公開の制度化に向けての課題として,制度の具体的内容,担当組織の整備等につき全庁レベルで検討整理を行う必要があること,広く市民の意見を聴く機会を設定して,その提言等を参考にした条例案づくりに取り組む旨回答し,更に,同年6月の定例市議会においては,平成11年度中には制度が整備できるよう準備を進める旨答弁した。

そして,A市長は,平成9年7月31日,越谷市における情報公開の制度化について必要な事項を調査研究するため,越谷市情報公開制度検討委員会(以下「本件委員会」という。)を置く旨等を定めた同委員会設置要綱を定めた(同年8月1日施行,甲2号証)。

イ 本件委員会は,情報公開制度に関する調査研究,情報公開制度のあり方に関する報告書の作成等を所掌事項とし,その委員長には越谷市総務部長を,副委員長には総務部次長を,その他の委員には企画部企画課長等の職員をそれぞれ充てた。

また,本件委員会は,その所掌事項について基礎的な調査研究をさせるための小委員会を設け,その座長には総務部庶務課長を,その他の委員には秘書室秘書担当主査等の職員を充てた。

ウ 本件委員会は,平成9年8月27日の第1回から平成10年2月26日最終回まで,延べ11回の会議を重ね,その検討結果を同年3月付け「情報公開制度に関する報告書」(以下「本件報告書」という。)に取りまとめ,同年3月26日,越谷市長(具体的には被告,以下同じ)に提出した(甲4号証の1,2,乙3号証)。

エ 本件報告書は,情報公開制度を導入する背景,情報公開制度の定義,目的,制度化に向けての基本原則,立法形式等について,基本的な考え方を述べた上,実施機関,対象情報,請求権者,非公開情報,部分公開と時限公開,非公開事項と守秘義務,請求及び公開の方法,救済制度等の具体的な内容を報告したほか,制度化への取組み方法として,市民参加による制度づくりが必要であるとして,制度の検討過程において学識経験者や市民等により組織される懇話会を設置し,制度のあり方等についての提言を受け,それを尊重し制度化することが必要である旨指摘した。

オ 越谷市長は,本件報告書を受け,平成10年4月3日,越谷市における情報公開の制度化に向けて,市民参加による制度づくりを推進するため,越谷市情報公開懇話会(本件懇話会)を設置する旨等を定めた同懇話会設置要綱(以下「本件要綱」という。)を制定した(甲5号証,乙3号証)。

本件要綱の内容は,別紙1「越谷市情報公開懇話会設置要綱」のとおりであって,情報公開につき検討を行い,その結果を市長に提言することを所掌事項とし,市民の代表者及び学識経験者から市長が委嘱する委員により組織され(その任期は,市長に提言が行われた日まで),その庶務は,総務部庶務課において処理するものと定められた。

カ そして,越谷市の広報誌「広報こしがや」平成10年4月15日号において本件懇話会委員を募集する旨の記事が掲載された。

キ 越谷市長は,合計13名の本件懇話会委員(住民公募選出委員4名のほか,大学法学部教授,弁護士,市連合婦人会長等)を選考し,平成10年6月11日,これらの者に委嘱状を交付した(甲6号証,乙3号証)。

(3)  本件懇話会の活動等

ア 本件懇話会は,平成10年6月11日から同年10月31日まで,6回の会議及び1回の「越谷市情報公開制度について意見を聞く会」(以下「意見を聞く会」という。)を開催した。その開催状況の概要は,別紙2越谷市情報公開懇話会開催状況記載のとおりである。

なお,「広報こしがや」平成10年8月15日号及び同年9月1日号に意見を聞く会を開催する旨の記事が各掲載された。

本件懇話会が上記のように活動中,被告(越谷市長)は,後記のとおり,原告がした本件監査請求1に基づく平成10年9月9日付け監査結果(本件監査結果1)において,本件懇話会は,法138条の4第3項所定の附属機関に該当するから,法の趣旨,規定に抵触しているとの指摘を受けた。

イ 被告(越谷市長)は,本件懇話会は附属機関と位置づけられるべきものではないから,上記監査結果には疑義があるとの見解であったが,市民から疑念を抱かれないよう適正な事務処理を行うようにとの監査結果の要望を尊重し,本件懇話会と附属機関との区別を明確にするとの趣旨で,本件懇話会設置要綱の文言等を見直すこととした。

その結果,本件懇話会要綱は,「検討」を「意見交換」に(2条),「会長」・「副会長」を「座長」・「副座長」に,「会議を総理する」を「会合を進行する」に(4条),また,会合の招集権者を会長から市長にする(5条)等とそれぞれ改められ,この改正は,平成10年9月22日から施行された(改正後の本件懇話会設置要綱は,別紙3「越谷市情報公開懇話会設置要綱(改正後)」のとおり)。

ウ その後,本件懇話会は,平成10年9月28日の第5回会議,10月3日の意見を聞く会を経た後,10月31日第6回懇話会において,それまでの情報公開制度の基本的なあり方,内容等についての意見交換を取りまとめたものとして「越谷市の情報公開に向けて」と題する提言(以下「本件提言」という。)を決定した上,越谷市長(被告)に提出し,同年6月11日の第1回会議から約4か月半にわたる活動を終了した(甲8号証の1,2,乙3号証)。

(4)  情報公開条例の制定

その後,越谷市部長職を構成員とする情報公開推進委員会は,本件提言を受け,情報公開条例案大綱を取りまとめ,同大綱をもとに条例案が作成された。

そして,前記条例案は,平成11年3月の定例市議会に提出され,全議員の賛成により「越谷市情報公開条例(平成11年3月31日条例10号)」(以下「本件公開条例」という。)として可決成立し,本件公開条例は,同年10月1日から施行された。

(5)  監査請求等

ア 原告は,本件懇話会の会議等が進行中の平成10年7月13日付けで,越谷市監査委員に対し,本件懇話会に関する越谷市長の公金支出行為につき,本件懇話会は法138条の4第3項所定の附属機関に該当するにもかかわらず,条例が制定されていないことを理由として,「本件懇話会の会の運営などの費用負担はすべて越谷市が支出する公金によるもので」,法2条15項,16項(ただし,平成11年法律87号による改正前のもの,以下,同2項につき同じ)の定めに違背する等として監査請求をした(以下「本件監査請求1」という。)。

これに対し,同監査委員は,平成10年9月9日付けで,本件懇話会は法138条の4第3項所定の附属機関に該当するから,法の規定に抵触しているとしつつも,平成10年9月8日現在の支出分(報償費,学識経験者委員推薦謝礼,市職員に対する給料等の支出等)については,越谷市において財務会計上の損害が生じていないという理由により,本件監査請求1を棄却する旨の監査結果(本件監査結果1)をし,間もなく原告に通知した。

イ さらに,原告は,平成10年12月4日付けで,越谷市監査委員に対し,被告(越谷市長)は,本件監査結果1での上記指摘にも拘わらず,その後も引き続き本件懇話会を続行し,その運営のため違法に公金支出(委員報酬費,市職の給与等費用,会議録・提言作成費用等)を継続しているとして,再度監査請求をした(以下「本件監査請求2」という。)。

これに対し,同監査委員は,平成11年1月14日付けで,本件監査請求2の対象は本件監査請求1の対象と同一であるとし,同一人からの同一内容による再度の監査請求であることを理由に,本件監査請求2を不適法として却下し(以下「本件監査結果2」という。),間もなく原告に通知した。

ウ 原告は,平成11年2月10日,本訴を提起した。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(本訴における監査請求の前置)について

ア 被告

(ア) 原告は,本件監査請求2により,本件監査請求1と同一事項について同一内容の監査請求をしたものである。

ところで,同一人により,同一事件に関する再度の監査請求をすることは不適法というべきであるから,本訴の出訴期間(法242条の2第2項1号)は,本件監査請求1に対する本件監査結果1が通知された日(平成10年9月9日)から起算すべきである。

そうすると,本訴は,前記時点から法定の30日を経過した後の平成11年2月10日に提起されたものであるから,明らかに出訴期間を徒過したものであって,不適法というべきである。

(イ) 仮に,本件監査請求2が本件監査請求1と異なる財務会計行為を対象としたものとしても,原告は,本件監査結果1がされたにもかかわらず,これに基づく住民訴訟を提起することなく法定の出訴期間を徒過したものである。

本件監査結果1においては,平成10年9月8日までの公金の支出について監査がされていたのであるから,本件監査請求2に基づく本訴において対象としうる公金支出は,平成10年9月9日以後のものに限られるものというべきである。

そうすると,本件訴えが適法とされる余地があるとしても,それは,平成10年9月9日以降の公金支出に係る部分に限られるものというべきであって,同月8日以前の公金支出に係る部分については不適法な訴えというべきである。

イ 原告

被告の主張は,争う。

(ア) 原告は,本件監査結果1が出されてもなお,被告(越谷市長)が本件懇話会について何ら改善をすることなく続行し,引き続き公金を支出したことについて,本件監査請求2により,特に平成10年9月9日以後の財務会計行為を対象として監査請求をしたものであるから,本件監査請求2は,本件監査請求1と同一の行為を対象としたものではなく,適法な監査請求というべきである。

したがって,本件監査請求2を却下した本件監査結果2は誤りであって,本訴は,適法な本件監査請求2に基づき提起されたものである。

(イ) 本件監査結果1は,本件監査請求1を理由がないとしつつも,本件懇話会の設置が法に違反したものであることを指摘したうえ,今後住民の誤解を受けないようにする旨を越谷市長宛勧告したものであるから,法242条3項所定の勧告に該当するものであり,したがって,本件監査請求1に基づく訴えの出訴期間は,法242条の2第2項2号により,当該措置に係る監査委員の通知があった日から30日以内である(最一判昭和58年9月8日裁判集民事139号471頁参照)。

ところで,原告は,未だに越谷市長が行った措置に係る監査委員の通知を受けていないのであるから,本訴が出訴期間を徒過したものとすることはできない。

(2)  争点2(本件懇話会の附属機関該当性)について

ア 原告

法138条の4第3項は,地方公共団体の執行機関がその行政執行に当たって,「審査,諮問又は調査」等のために,条例により附属機関を設けることを認めているが,執行機関が内部規律にすぎない要綱等の規定に基づいて,任意に附属機関を設置することを容認していないのであって,そのような要綱限りで設置することが許されるのは,執行機関の補助部局内部におけるものに限られる。

ところで,本件懇話会は,市職員を含まず,全て外部の人間によって構成され,前記のような所掌事項を有するものであるから,上記にいう附属機関に該当するものというべきであるところ,条例によらず本件要綱によって設置されたことは前記のとおりである。

そうすると,被告(越谷市長)が,本件懇話会を本件要綱によって設置したことは,違法というべきである。

イ 被告

(ア) 法138条の4第3項所定の附属機関については,「法律又は条例」によりこれを設置しなければならないが,その趣旨は,附属機関といえども,行政組織の一部として執行機関の有する権限の一部を行使するものである以上,「法律又は条例」に基づき設置することによって,その権限等を明確にすることにある。

ところで,本件懇話会は,情報公開の基本的なあり方等につき,越谷市長に対し,提言を行うために設置されたにすぎないのであり,同項所定の調停や審査等を行うものではなく,越谷市長の行政執行を何らかの意味において羈束するものとしての行政組織の一部とは位置付けられてはいない。

そうすると,本件懇話会は,行政組織の一部ではない以上,上記の附属機関には該当しないものというべきである。

(イ) また,一定事項について提言を出すまでの臨時的・一時的な住民参加会議組織は,常設の機関とは異なり,附属機関とみる必要はなく,条例によらずに要綱によって設置できるものというべきである。

そして,本件懇話会は,市民,学識経験者の意見を反映させる目的をもって,これらの者を委員とし,情報公開の在り方について提言をするまでのものとして,臨時的・一時的に組織されたものである。

そうすると,本件懇話会は,この意味においても上記の附属機関には該当せず,要綱によって適法に設置されたものというべきである。

(3)  争点3(越谷市の被った損害)について

ア 原告

(ア) 本件懇話会に関連して支出された公金の額は,別紙4公金支出目録記載のとおり合計647万5946円と推計概算されるところ,本件懇話会の設置が違法なものであることは前記のとおりであるから,これらの支出は,法204条の2に違反し,また,法令上の根拠を欠くものであって,法242条1項所定の「違法な公金の支出」に該当する。

(イ) 原告は,被告に対し,その内金400万円を越谷市に支払うよう求める。

(ウ) 損益相殺について

本件懇話会による本件提言等その調査,諮問の活動結果は,本件公開条例の制定に生かされておらず,単に本件公開条例制定に当たっての一種の権威付けに利用されたにすぎないものであって,前記公金支出は全く無用に消費されたというほかない。

また,本件公開条例自体についても,例えば,国の情報公開制度である「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が,その施行前情報を当然に公開の対象とするのに対し,本件公開条例は,適用日前に作成し,又は取得した公文書であって,その目録等の作成が終了したものについて適用する(本件公開条例附則2(2))等,国の制度より劣ったものである等の不合理があり,総じて,越谷市には前記公金支出に相当する利益が生じていないというべきである。

イ 被告

原告の主張は争う。

(ア) 本件懇話会に関連して支出された公金について

a 本件懇話会委員報償費・費用弁済

ⅰ 本件懇話会委員に対しては,役務提供の対価として報償費(以下「本件報償費」という。)が支払われた。

その額は,越谷市長が,越谷市非常勤特別職のうち審議会等の委員に支払う報酬及び費用弁償の額(報酬日額5000円,費用弁償1日当たり2500円)を参考にして,1日1人当たり7500円と決定した。

なお,本件報償費については,法施行令161条1項7号に基づき,第1回懇話会分から第4回懇話会分が資金前渡され(前渡金精算済み),また,第5回懇話会分,意見を聞く会分及び第6回懇話会分は,同施行令165条の2に基づき,口座振替の方法により支出された。

ⅱ 具体的には,以下のとおり,合計金51万7500円である。

第1回懇話会(出席委員11名)  8万2500円

第2回懇話会(出席委員12名)  9万0000円

第3回懇話会(出席委員11名)  8万2500円

第4回懇話会(出席委員 9名)  6万7500円

第5回懇話会(出席委員 9名)  6万7500円

意見を聞く会(出席委員 8名)  6万0000円

第6回懇話会(出席委員 9名)  6万7500円

b 本件懇話会出席職員賃金等

これら職員に対しては,越谷市職員の給与に関する条例に基づき適法に処理されたものであり,給与条例主義の原則からして,違法とされるいわれはない。

c 本件懇話会文書等制作費,本件提言作成費用

越谷市総務部庶務課文書係は,「文書の編さん及び整理保存に関すること」を通常業務の一つとしているが,原告主張の懇話会文書等制作費については,同係の業務のために計上された予算の中から支弁され,本件懇話会のために特に支出措置が講じられたものではないから,本件懇話会についての支出というものは想定できず,したがって,住民訴訟の対象となる公金支出に該当しない。のみならず,その金額の特定をすることもできない。

資料収集,本件懇話会委員資料の編製配布等は,越谷市においてしたものであって,特段の公費は支出していない。

本件提言は,400部作成されたが,越谷市職員が作成したものであるから,特段の公費は支出していない。

d 本件懇話会広報費用

越谷市企画部広報広聴課は,広報誌の作成を通常業務とし,また,同総務部庶務課文書係は「文書類の配送委託業務に関すること」を通常業務としているところ,原告主張の本件懇話会広報費用については,こららの業務のために計上された予算の中から支弁されたものであって,本件懇話会のために特に支出措置が講じられたものではないから,本件懇話会についての支出というものを想定できず,したがって,住民訴訟の対象となる公金支出に該当しない。のみならず,その金額の特定をすることもできない。

なお,これらの支出は,業者との契約に基づきされたものであるから,この見地からも違法とされるいわれはない。

e その他の費用

原告が主張する通信費その他の事務費用は,越谷市総務部庶務課文書係の業務のために計上された予算の中から支弁されたものであって,本件懇話会のために特に支出措置が講じられたものではないから,本件懇話会についての支出を想定できず,したがって,住民訴訟の対象となる公金支出に該当しない。のみならず,その金額の特定をすることもできない。

なお,これらの支出は,事務執行上当然の経費であり,違法とされるいわれはない。

(イ) 損益相殺について

本件報償費等は,本件懇話会委員が越谷市に対して役務を提供したことに対する対価として支払われたものであり,越谷市は,本件懇話会による本件提言を受けたものであるから,損益相殺の法理により,越谷市に損害は生じていないものというべきである。

(4)  争点4(被告の過失の有無)について

ア 被告

(ア) 本件懇話会と同様の性格を有する情報公開懇話会を条例によることなく,内部規律である要綱によって設置した自治体は,現に,埼玉県内においても,埼玉県,川越市,所沢市,和光市等多数存在しているところであるから,被告において,要綱に基づいて本件懇話会を設置したことに過失はないものというべきである。

(イ) また,本件報償費については,越谷市庶務課長が支出負担行為及び支出命令を専決してなしたものであり,本件懇話会出席職員賃金等については,同職員課長が支出負担行為及び支出命令を専決してなしたものであり,懇話会文書等制作費,本件懇話会広報費用及びその他についていえば,被告は何ら関与してないのであるから,これらの意味においても,被告に過失はない。

イ 原告

(ア) 本件懇話会と同様の性格を有する情報公開懇話会を要綱によって設置した自治体が,越谷市のほかにも存することは,本件懇話会の附属機関非該当性を示すものではないし,被告の無過失を基礎付けるものでもない。

(イ) また,行政庁内部の事務処理方式として専決制度があり,行政主体としての意思決定は,事実として市長の補助機関である者が行うこととなっているが,市長は,補助機関の行為について,組織上の責任を当然に負うものであり,具体的には,補助職員の指揮監督上の責任を負うものというべきである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本訴における監査請求の前置)について

(1)  本件監査請求1・2及び本件監査結果1・2が対象とした公金支出の範囲

ア 甲7号証,8号証の1,2,11号証(本件監査請求1に係る措置請求書),12号証(本件監査結果1に係る通知),13号証(本件監査請求2に係る措置請求書),14号証(本件監査結果2に係る通知),28号証及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が明らかである。

(ア) 本件監査請求1に係る措置請求書には,本件懇話会が法138条の4第3項所定の附属機関に該当すること,本件懇話会につき設置条例が存在しないことを指摘しつつ,「会の運営などの費用負担は,すべて越谷市が支出する公金による。」,「会は無効であり,これに対する甲(越谷市長の職にある被告を指す)の公金支出行為は,法第2条15項,同16項の定めるところに違背する行為であって無効である。」と各記載されている。

(イ) これを受けてされた本件監査結果1は,次のとおりの内容であった。

a 本件懇話会は法138条の4第3項所定の附属機関に該当する。

b 懇話会に関する支出としては,市長から委嘱を受けた委員の役務の提供に対し1人日額7500円の報償費が支給され,平成10年9月8日現在,懇話会4回開催分として合計32万2500円,学識経験者の推薦に係る謝礼として4710円のほか,懇話会開催等において,総務部庶務課職員が会議録作成等の庶務に係る事務処理を行ったことによる諸支出がある。

c これらの諸支出につき,委員の役務に対する支出32万2500円については,各委員は,適法に設置された附属機関の委員と実質上同様の役務の提供をしたものであって,実質的に越谷市の損害はない。

懇話会学識経験者委員の推薦に伴う謝礼4710円及び懇話会開催等の庶務に係る事務処理を行った職員に対する給料等の支出については,この懇話会の設置の主旨から判断し,越谷市にとって有益で,必要な業務であると認められる。

d 本件監査請求1については,懇話会の設置に関し,法の趣旨,規定に抵触していることは認められるものの,懇話会に関する財務会計上の被った損害はないので,補填について措置の必要はなく,理由がない。

e 越谷市長に対しては,今後,法の趣旨,規定に基づき,適正な事務処理を行うよう要望する。

(ウ) 本件監査請求2に係る措置請求書には,本件監査結果1において,本件懇話会が法138条の4第3項所定の附属機関に該当すると判断されたことを指摘しつつ,本件懇話会の運営に要した委員報償費等概算56万円以上の費用並びに事務処理に関わった市職員らの給与等費用及び会議録,提言書作成費用等一切は市公金支出によるものである,平成10年9月9日以降も何ら法の趣旨,規定に基づき,適正な事務処理を行うことなく,同年9月25日,10月3日,10月31日と引き続き会議等を続行して市の公金を支出した,被告の行為はその公金支出自体によって市に損害を与えたものである,との趣旨が記載されている。

(エ) 本件監査結果2は,本件監査請求2につき,本件監査請求1において監査の対象とした懇話会の設置,懇話会委員への支出及びその他懇話会に関する支出と実質的に原因となる行為及びそれに付随する財務会計上の行為が同一であるとした上で,同一人からの同一内容による再度の措置請求であるから不適法であると判断し,これを却下した。

イ 以上の事実に原告が本訴において主張している公金支出の費目を総合的に対比して検討すると,原告は,終始一貫して,本件懇話会運営に基づく全ての公金支出の違法を指摘しているものと推認するのが相当であるから,本件監査請求1及び2においても,本訴における主張費目と同様の公金支出をもって,その対象としたものであり,本件監査結果1及び2もこれと同様の範囲の公金支出を対象として判断を加えたものと認定するのが相当である。

ウ ところで,本件監査請求1及び2における各公金支出について,時間的限定がされているのかについて,検討すると,前記の事実関係を総合的かつ合理的に評価するならば,本件監査請求1は,これに対する監査が行われる時点までの前記の公金の支出を対象としたものであり,本件監査請求2は,本件監査結果1がされた後に生じた前記公金支出を対象としたものと認めるのが相当というべきである。

(2)  本件監査請求1との関係における本訴の適法性

ア 以上の認定事実に照らせば,本件監査結果1は,平成10年9月8日時点までにおける前記公金支出につき監査を行ったものとみることができるから,原告は,本件監査請求1に係る公金支出については,本件監査結果1の通知がされた日(平成10年9月9日の後間もなくと推認される。)から30日の出訴期間内に住民訴訟を提起し得たものというべきである(法242条の2第2項1号)。

しかるに,原告が本訴を提起したのは,上記出訴期間を経過した後であることが明らかな平成11年2月10日であるから,原告の請求のうち,本件監査請求1の対象範囲である平成10年9月8日までにされたとする前記公金支出に基づく損害賠償請求に係る訴えは,法定の出訴期間を経過した後にされたものとして不適法というべきであって,却下を免れないものである。

イ なお,原告は,本件監査結果1が法242条3項所定の勧告に該当するものであるとした上,原告は未だに越谷市長が行った措置に係る監査委員の通知を受けていないから,本訴は出訴期間を経過してされたものではないとの主張をしている。

しかしながら,本件監査結果1の監査内容等は,前記認定のとおりであって,越谷市監査委員は,本件監査請求1に理由がないものと認め,本件監査結果1に係る通知(甲12号証)をもって,その旨を原告に通知したものであることが明らかである(法242条3項前段)。

したがって,本件監査請求1に基づく住民訴訟の出訴期間は,前記のとおり,本件監査結果1に係る通知(甲12号証)があった日から30日以内であるから,本訴がその出訴期間を徒過してされたことは明らかである。

原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用できない。

(3)  本件監査請求2との関係における本訴の適法性

ア 被告は,原告が本件監査請求2によって同1と同一事項について,同一内容の監査請求をしたものであるから,適法な監査請求を前置したことにはならず,本訴は不適法であると主張し,本件監査結果2もこれと同一の判断をしたことは前記のとおりである。

イ 法242条1項の規定による住民監査請求に対し,同条3項の規定による監査委員の監査の結果が請求人に通知された場合において,監査の結果に不服がある請求人は,法定の期間内に訴えを提起すべきものであり,同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の監査請求をすることは許されていない(最二判昭和62年2月20日民集41巻1号122頁参照)。

しかしながら,先の監査請求の対象たる財務会計上の行為と後の監査請求の対象たるそれが,同一の契約に基づく数個の支出のように同一の原因に基づく財務会計行為であっても,それぞれが別個のものであれば,それらを同一の財務会計行為とはいえないし,また,違法とされる原因が共通するとしても,財務会計行為として別個である以上,同一の財務会計行為ということはできないから,これらの事由を対象としてされた監査請求は,同一の財務会計上の行為等を対象として再度の監査請求をしたことにはならないものというべきである。

ウ ところで,本件監査請求1は,平成10年9月8日時点までの本件懇話会に関する前記公金の支出を対象としたものであり,本件監査請求2は,本件監査結果1がされた後である平成10年9月9日以降に生じた前記公金の支出を対象としてされたものと認めることのできることは前記認定のとおりであるから,これらの支出が違法とされる原因が共通であるとしても,財務会計上の行為としては別個のものというべきである。

そうすると,原告が,本件監査請求2において,本件監査請求1の対象とした公金の支出と同一の公金の支出を対象とする再度の監査請求を行ったということはできないから,本件監査請求2は,平成10年9月9日以降に生じた前記公金の支出を対象とするものとして適法な監査請求とみるのが相当である。

したがって,本件監査結果2がこれを不適法としたのは相当でないが,このような場合においては,本件は上記の限度においては,出訴期間を遵守した適法な訴えと認めることができるものというべきである。被告の主張は,上記説示の限度で採用することができない。

2  争点2(本件懇話会の附属機関該当性)について

(1)  前記基本的事実関係のほか,甲2号証ないし8号証の1,2,10号証,12号証,19号証の1,2,28号証,乙3号証,14号証の1ないし3に弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

ア 本件懇話会の委員の構成

本件懇話会委員には,被告(越谷市長)の委嘱を受けて,住民からの公募選出委員4名のほか,越谷市連合婦人会会長,(社)越谷青年会議所監事,越谷市民情報センター「アクセス」運営委員,越谷ボランティア連絡会会長,越谷自治連合会会長,越谷商工会理事など各種団体選出委員6名,獨協大学法学部教授,弁護士,(財)埼玉県高齢者生きがい振興財団常務理事兼事務局長(元埼玉県総務部公文書センター所長)など学識経験委員3名(合計13名)が就任した。

このように,本件懇話会の委員は,全て市職員以外の者であった。

イ 委員の任期

委員の任期は,委嘱時から市長に対する提言が行われるまでとされており,具体的終期は定められていない(第1回会議において,事務局から6回の会議において検討をし,平成10年10月中には提言としてとりまとめて欲しいとの説明がされ,事務局目標の10月下旬に向けて会議を重ねて行く,会議の回数については,会議を重ねつつ,日程が足りないのであれば,その時点で増やしていく,との決定がされている。)。

ウ 所掌事項

本件懇話会は,情報公開の制度化に向けて,市民参加による制度づくりを推進するため設置され,情報公開制度の基本的なあり方,内容及びその他制度化に伴い必要となる事項について検討(改正後は「意見交換」とされている。)を行い,その結果を市長に提言することとされている(本件要綱1条,2条)。

エ 本件懇話会による検討経過

(ア) 甲28号証及び弁論の全趣旨によると,本件懇話会の各会議等の出席委員数及びその所要時間については,原告主張のとおり(別紙4の該当欄参照)と認めることができる。

(イ) 本件懇話会第1回会議

会議日程,開催曜日・時間帯,会議の公開,会議録の公開等懇話会の運営方法につき,事務局の意見を踏まえながら協議の上決定することとされ,本件報告書をたたき台とし,本件懇話会としての意見をまとめ,越谷市長に提言することが確認された。

(ウ) 第2回会議

情報公開制度の目的につき,「知る権利」を条例中に明記するかどうかをめぐり,他の地方公共団体の条例や同概念の意義等につき検討を行い,また,情報公開の実施機関の範囲等についても検討した。

(エ) 第3回会議

情報公開請求権者の範囲について「何人」とするかどうか,個人に関する情報につき,どのような非公開規定を定めるか等につき,他の地方公共団体の条例や運用による対応を踏まえて検討を行った。

(オ) 第4回会議

引き続き,法人等に関する情報,意思決定過程に関する情報,国等との協力関係等に関する情報などの非公開情報の範囲について,他の地方公共団体の条例や裁判例等を踏まえて検討した。

(カ) 第5回会議

部分公開と時限公開,請求の方法,公開決定までの期間,公開の方法,費用負担,第三者への意見聴取,救済制度などにつき,他の地方公共団体の条例や運用を踏まえて検討を行った。

(キ) 意見を聞く会

応募者7名から各種の意見を聴取した。

(ク) 第6回会議

これまでの検討をまとめて作成された提言等を一部修正の上確定し,これを本件提言とすることについて,各委員が確認した。

オ 本件提言の内容

(ア) 公文書の範囲につき,本件報告書では,決裁,供覧等の手続が終了し,実施機関が管理している段階にあるものとしていたのに対し,職員が職務上作成し,又は取得し実施機関が保有しているものとした。

(イ) 情報公開請求権者の範囲として,本件報告書では,(1)市内に住所を有する者,市内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体,(2)市内に通勤,通学する者,(3)市に利害関係を有するもの(ただし,利害関係事項に限定)としていたのに対し,本件提言では,最終的な意見として,「何人」とすべきであるとした。

(ウ) 個人情報の保護については,本件報告書では,個人に関する情報であって,特定の個人が識別できるものを非公開情報と定め,その上で非公開とする必要のないものは例外として公開することとするとしたのに対し,特定の個人が識別され得る情報のうち,通常他人に知られたくないと認められる情報を公開しないことができるとすべきであるとした。

(エ) 請求の方法に関しては,本件報告書では公開請求書に請求目的の記載を求めていたのに対し,不要とされ,さらに,費用負担についても,本件報告書では,情報の公開に係る事務に要する費用を考慮し,請求者に相応の負担を求めることは適当であるとされていたが,閲覧手数料は無料とすべきであり,郵送・複写等の経費については実費相当額を徴収することが適当であるとした。

(オ) 以上の諸点など,本件提言は,本件報告書を踏まえながらも一部これと異なる考え方を示した。

(2)  法138条の4第3項は,「普通地方公共団体は,法律又は条例の定めるところにより,執行機関の附属機関として自治紛争調停委員,審査会,審議会,調査会その他の調停,審査,諮問又は調査のための機関を置くことができる。」と規定している。

この規定にいう「附属機関」とは,執行機関の要請により,行政執行のために必要な資料の提供等行政執行の前提として必要な審査,諮問,調査等を行うことを職務とする機関を総称するものであって,その名称は問わないものであり,また,そこにいう「審査」とは,特定の事項について判定ないし結論を導き出すために内容を調べること,「諮問」とは,特定の事項について意見を求めることを指す比較的広い外延を有する概念である。

更に,この規定は,附属機関は法律又は条例の定めるところにより設置することを要し,地方公共団体の長のそれより下位の行政の内部規律,例えば決裁により制定される要綱などで設置することを許さない趣旨を含むものと解される。附属機関の設置は,法令に特別の定めがない限り,各執行機関において規則,規程その他の内部規律に基づいて任意に行うことができるものとされていた従来の取扱いを改め,今後は,行政組織の一環をなす附属機関の設置は,すべて条例に定めなければならないこととする趣旨で本条が新設された経緯(昭和27年8月法律第306号)からみても,このように解するのが相当である。

(3)  以上の趣旨のもとに本件懇話会についてみると,本件懇話会は,被告(越谷市長)の委嘱による各種団体からの選出委員6名,一般公募選出委員4名及び学識経験者3名の合計13名の任期が確定していない委員(全て市職員以外の者)によって組織された会議であって,その庶務は総務部庶務課において処理するものとされていること,その所掌事項としては,近時地方公共団体において重要な行政事務の一つとされる情報公開制度の基本的な在り方,同制度の基本的内容,その他制度化に伴い必要となる事項について検討を行い,その結果を市長に提言することとされていること,本件懇話会の作成した本件提言は,庁内職員によって組織された本件委員会による本件報告書を基として,協議の末まとめられたものであって,これを基礎として更に条例案が作成されるという行政過程が予定されていたこと,現実に実施された本件懇話会も,前後4か月半にわたる6回の会議及び1回の意見を聞く会において,上記のとおり詳細な検討が遂げられ,その結果を本件懇話会自体の結論である本件提言として結実させたものであること等の前記事実関係のもとにおいては,前記の認定に照らし,本件懇話会は,法138条の4第3項にいうところの「審査」ないし「諮問」を行うための附属機関に該当する組織体と認めるのが相当である。

なお,本件監査結果1を受けて本件要綱に文言上の修正が加えられたことは前記のとおりであるが,前記の事実関係のもとにおいては,上記修正が本件懇話会の組織の実質的な変容をもたらしたものと認めることはできないから,本件要綱修正後においても,上記結論は左右されない。

そうすると,本件懇話会が条例に基づかず,越谷市の内部規律にすぎない本件要綱によって設置,運営されたことは,前記規定に違反したものというべきである。

(4)  被告は,前記のとおり主張して,本件懇話会が前記の附属機関に該当しないと主張するが,本件懇話会が審査ないし諮問を目的とする行政組織として評価するに値する実体を備えていることは前記のとおりであり(附属機関の提示する結論が行政組織の長である越谷市長の行政執行を何らかの意味において羈束する効果を有する必要はない。),法138条の4第3項には,審査ないし諮問の目的や機関の存続期間についても何の限定もされていない以上,一定の事項についての提言をするまでの臨時的,一時的な住民参加型会議組織であるからといって,本件懇話会が附属機関に当たると解する妨げとはならないものというべきであるから,被告の主張は採用の限りではない。

なお,このように附属機関の意義を解することについては,行政に対しては,随時,専門的,科学的あるいは民主的意見を反映させることが必要であり,そのためには,弾力的に行政を運用することができなければならないとする近時の要請に適合しないとする非難が予想される。このような社会的要請にそれなりの合理性があることは否定できないけれども(もっとも,前記の事実関係のもとにおいては,本件懇話会の設置条例を制定する時間的いとまがなかったとは想定しにくい。),法138条の4第3項の規定の制度趣旨は前記のとおりであり,これに合理性が肯定できる以上,上記の社会的要請も,この法の趣旨に反しない程度で実現されるほかないものというべきである。例えば,その調和点として,予想される附属機関の目的や類型,存続期間等を定めておき,所定の条件を満たす附属機関については,市長等執行機関が行政執行上の必要に応じて随時設置することを認める旨のいわゆる委任条例を制定しておくことなどは,法の許容するところと解される。

3  争点3(越谷市の被った損害)について

(1)  各費目に係る支出額

原告は,本件懇話会に関連して支出された公金の額は,別紙4公金支出目録記載のとおり,合計647万5946円であると主張し,その内訳として,費目の特定はあるものの,本件において判断を要する平成10年9月9日以降の支出分を区分しての主張はない。

そこで,前記事実関係のほか証拠及び弁論の全趣旨に基づき,同日以降の各費目につき,次のとおり認定判断する。

ア 本件懇話会委員報償費・費用弁済

被告(越谷市長)は,本件懇話会委員に対する報償費・費用弁済として,越谷市非常勤特別職のうち審議会等の委員に支払う報酬及び費用弁償の額(報酬日額5000円,費用弁償1日当たり2500円)を参考にして,1日1人当たり7500円と決定し,第1回会議分から第4回会議分までを平成10年9月8日以前に支出したほか,同月9日以降の分として,次の(ア)ないし(ウ)の合計額19万5000円を,平成11年1月26日,法施行令165条の2所定の口座振替の方法により支出した。

(ア) 第5回会議(9月25日)分(出席委員 9名)

6万7500円

(イ) 意見を聞く会(10月3日)分(出席委員 8名)

6万0000円

(ウ) 第6回会議(10月31日)分(出席委員 9名)

6万7500円

イ 本件懇話会出席職員賃金等

(ア) 甲28号証及び弁論の全趣旨によれば,平成10年9月9日以降に開かれた本件懇話会の5回及び6回会議並びに意見を聞く会1回において,本件懇話会の事務担当局等として出席した越谷市職員は,総務部長,総務部次長,庶務課長,庶務課長補佐,文書係長,主任主事及び主事の合計7名であることを認めることができる。

(イ) そして,これらの職員が前記の本件懇話会の会議(2回)及び意見を聞く会(1回)の出席準備のために要した時間を厳格に認定することは,本件証拠関係のもとにおいては困難というほかないが,とりあえず,前記認定の全体の所要時間(約2.25日)の約2倍に相当する4.5日間を,全体の会議等の回数(合計7回)と平成10年9月9日以降の回数(合計3回)で案分した約2日間と認定することとする。

(ウ) また,前記職員の1日当たりの賃金相当額を認定することも,同様に困難であるが,これも,とりあえず原告主張事実(57日間で285万円)を前提に算定することとして,1日当たり5万円と認定することとする。

(エ) 以上によると,第5回会議,意見を聞く会及び第6回会議に関与した前記職員7名の賃金に係る公金の支出は,せいぜい10万円と認定できるにとどまるものというべきである。

この点,原告は,本件懇話会の準備等業務時間を,職員の職位に応じて,出席時間の5倍,3倍ないし2倍と主張するが,そのように推認すべき証拠はなく,上記認定を左右する証拠はない。

ウ 本件懇話会広報費用

原告は,本件懇話会に関する記事が「広報こしがや」に掲載された費用として合計100万円が違法に支出されたと主張するところ,この本件懇話会に関する記事が掲載された「広報こしがや」は,平成10年4月15日号,同年8月15日号及び9月1日号(合計3回)であって,いずれも平成10年9月8日以前に発刊されたものであることは,前記基本的事実関係において認定したとおりである。

そうすると,これにつきされた公金の支出を観念するとしても,それは既に不適法却下の対象とされた訴えに係る請求部分に属するものであって,他に本件懇話会にかかわる平成10年9月9日以降の公金の支出に該当すべき広報費用を認定するに足りる証拠はない。

エ 原告主張のその余の費目に係る費用について

(ア) 原告は,以上のほか,a 本件懇話会文書等制作費(60万円),b 本件提言作成費用(9万円),c その他の通信費等の事務費用(10万円)が本件懇話会に関連して支出された公金であると主張する。

(イ) これらをもって,法242条1項所定の公金の支出に関する主張に該当すると評価すべきか疑問はあるが,とりあえずこれを肯定することとし,これらも厳格な認定は不可能であるので,前記の場合と同様原告主張額を基礎として,上記a及びcの費用のうち平成10年9月9日以降の分(本件懇話会の回数で案分した7分の3相当)及びbの費用(これはその費目自体から同日以降の支出分といえる。)をもって,各支出分と認定することとする。

(2)  各支出と越谷市の損害との関係

ア 本件懇話会の委員に対しては,前記認定のとおり報償費が支給されているところ,報償費とは,一般的に,役務の提供(例えば,講演会,研修会,研究会等の講師等としての出席)などによって受けた利益に対する対価として支出されるものである。

ところで,本件懇話会は,法138条の4第3項所定の「附属機関」に該当すると解すべきことは前記のとおりであるから,その委員に対する報酬等は,いわゆる給与条例主義の原則に照らし,その名目を問わず,条例に基づいて支給されることを要するというべきである。そうすると,本件懇話会委員に対する報酬等を給与条例に基づくことなく,これと異なる報償費として支出したことは,違法な公金の支出に当たるとの評価を受けることを否定することはできない(法138条の4第3項,202条の3第2項,203条,204条の2,242条1項)。

イ また,前記認定の本件懇話会出席職員賃金等及びその余の費目(本件懇話会文書等制作費,本件提言作成費用,その他の通信費等の事務費用)に係る支出も違法に設置された附属機関運営のために支出されたものとして違法な公金の支出とされることも同様である。

(3)  しかしながら,本訴は,越谷市の住民である原告が越谷市に代位して行う損害賠償請求訴訟であるから,違法な公金の支出があれば,ただちに,越谷市にその全額が損害として生じるものと即断することはできない。一定の公金の支出が違法であったとしても,そのような違法状態のない適法な状態においても同種の公金の支出を免れなかったとすれば,現実の支出額とそれに要すべき支出額との差額のみが損害となり,その差額が認定できなければ,越谷市に損害は生じていないものと解すべきである。

(4)  ところで,前記の認定事実に基づいて本件懇話会発足当時の情勢をみるに,当時,情報公開制度の策定は越谷市における懸案事項であって,早晩一般住民及び学識経験者等の意見を踏まえた上で条例を制定する作業を具体化する必要があり,そのため附属機関としての審議会の設置に関する条例制定の提言があれば,市議会はこれに応じていたであろうことは高度の蓋然性をもって推認することができるものというべきである。

そして,その場合における条例の内容は,本件要綱の内容に格別不合理な点が見当たらないことからして,これと大差ないものとされたことも同様に推認できる。

更に,本件懇話会の現実の活動については,前記認定のとおりであって,本件懇話会の委員は,事実上,適法に設置された附属機関の委員と同様の活動をしたものと評価することができ,また,本件懇話会委員に支出された報償費についても,越谷市非常勤特別職のうち審議会等の委員に支払う報酬及び費用弁償の額と同額(1日1人当たり7500円)であって,適法に設置された附属機関の委員と同額であることが明らかである。

そうすると,適法に設置された附属機関たる審議会委員に対して支出されたと推認される報酬等の額は,本件懇話会の委員に対して支出された報償費等と同額であったと推認することができるものというべきであるから,前記の説示に照らし,前記認定の報償費に相当する支出については,越谷市に損害は生じていないものというべきである。

また,前記認定の本件懇話会出席職員賃金等についても,本件懇話会の委員が,適法に設置された附属機関としての委員と同様の活動をしたことを前提として検討すると,市職員が,その事務局ないし市当局として,当該機関に対し,自治体行政の実情,知識等を提供するために,本件懇話会の会議に出席し,あるいはそのための準備をする等の行為を行い,そのため前記認定の程度の支出がされることは,適法に設置された附属機関としての審議会に対しても同程度に行われるべきものと推認できるから,これらの支出についても,越谷市に損害は生じていないものというべきである。そして,このことは,原告が主張するその余の費用(本件懇話会文書等制作費,本件提言作成費用,その他の通信費等の事務費用)についても同様というべきである。

以上の次第で,前記認定の報償費等の支出については,越谷市に損害が生じたと認めることはできないものというべきである。

(5)  これに対し,原告は,本件懇話会の活動が本件条例制定に生かされていないなどと主張するが,本件提言と本件公開条例(甲19号証の1,2)を対比すれば,原告の主張は前提を欠き,その他の主張については,本件全証拠関係に照らし,認めることができない。

4  原告の平成11年11月15日付け文書提出命令申立て(当裁判所平成11年(行ク)第25号)については,当裁判所は,これと同趣旨の原告申立てに係る平成11年12月15日付け文書送付嘱託を既に採用したものであって,発令の必要性がないので却下することとする。

5  結論

以上の次第で,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求のうち,平成10年9月8日までにされたとする公金支出に基づく損害賠償請求に係る訴えは,不適法なものであるから,却下することとし,その余の請求は,理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 裁判官 渡邉健司)

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